<マヨイガの戦い 侵攻開始!>
鹿児島県と宮崎県の県境に位置する高千穂峰(たかちほのみね)。
美しい稜線を持つこの峰は、宮崎県内の高千穂町と共に、日本神話に記された『天孫降臨』の舞台となった説を持つ場所の一つである。
『天孫降臨』の中で、アマテラスの孫であるニニギノミコトは、高千穂の地に降り立ったとされる。そして降臨したニニギノミコトは、その後、葦原中つ国を平定するのだ。
高千穂峰は古代より山岳信仰の対象となっており、山頂には現在でも、青銅製の『天之逆鉾』のレプリカが突き刺さっている。
天に浮かぶマヨイガ、そして太陽のエアライダーが持つメガリス破壊効果『天陽の道』の存在からも、『天孫降臨』の神話には現代には伝わらない真実が隠されているのかも知れなかった。
その高千穂峰に集結した銀誓館学園の能力者達と巡礼士は、宮崎県内から集まった太陽のエアライダー達の出迎えを受けていた。
「歓迎するぜ、銀誓館学園。で、そっちのおっさん達が巡礼士、か?」
「おっさん……」
「ええと、巡礼士のランドルフさんです」
コマンダーの辻村・崇(蒼氷の牙を持つ幼き騎士・b63628)が、ランドルフをはじめとした巡礼士を太陽のエアライダー達に紹介する。
世界結界を構築した者達の末裔であることやメダリオンを用いて見えざる狂気を免れていること、銀誓館学園と協力関係にあること等を聞き、太陽のエアライダーのリーダーは力強く頷いた。
「意味は分からんが、味方という事だな。よろしく頼む」
「……ああ、こちらこそ、よろしく頼む」
(「説明した意味あったのかな……?」)
崇が密かな疑いを抱いていると、太陽のエアライダー達からの声がかかった。
「シオンの兄貴、こっちの準備はOKだぜ!」
「おう分かった! 今行く!」
声に応じて歩いていくリーダーの背を見て、能力者とランドルフは顔を見合わせた。
「「シオン……?」」
「時任・シオン。俺の名だ」
リーダーは自分を親指で示しながら言った。
「こいつが俺達が発見したメガリス『天之波波矢(あめのははや)』だ」
言いながら、シオンは箱に納められた古ぼけた矢を直接触れないようにしながら、能力者達に見せた。矢は全体として赤く、そして尾羽には鳥の羽がついている。
「『メガリスを破壊する時、天陽の道がマヨイガに繋がる』。先代から受け継いだ言い伝えだ」
「知らないメガリスですね……これ、私達のと交換したら、私達強くなれるんでしょうか」
「……おお、そうなのか? まあ、とりあえず交換してみれば分かるだろ」
言って、シオンは崇に箱ごと天之波波矢を渡す。だが、
「……ダメみたいですね」
これまでに学園がメガリスを得た時のような、力の高まりは感じられなかった。
どうやら、単純にメガリスを受け取るだけでは、組織のレベルは上がらないようだった。
聖杯やおしゃべりカラスのように他の組織から受け取ったメガリスは幾つもあるが、どれもかなりの苦労を経た後で譲り受けるか、所有組織がメガリスと共に銀誓館学園に合流するかしている。
そうした点に、違いがあるのかも知れなかった。
「まあ、それなら仕方がないな。ともあれ、急ぐ必要があるんだ。壊すとするぜ」
言うが早いが、リーダーは太陽のエアライダー達を振り向き、声を張り上げた。
「行くぞ、てめぇら!! 鎌倉と海外から援軍が来てくれてんだ、負けんじゃねぇぞ!!」
『オウ!!』
太陽のエアライダー達の気合いの叫びと共に、メガリスが砕け散った。
同時に爆発的な光が生じ、螺旋状の弧を描きながら天へと昇っていく。
「これが、『天陽の道』……!!」
「マヨイガにだけ通じる光の道だ。俺達も見るのは初めてだがな。さあ、行くぜ!」
エアシューズの響きも勇ましく、エアライダー達が光の道を走り始める。
「私達も、負けてはいられませんね。やりましょう!」
崇の呼びかけと共に銀誓館学園の能力者達の力が結集し、メガリス『イカロスの翼』を破壊する。
生命賛歌の発動を確認すると共に、能力者達がイグニッションカードを、巡礼士達がメダリオンを、各々の手に掲げた。
「イグニッション!」
「リベレイション!」
一斉の叫びと共に詠唱兵器を手にし、彼らはマヨイガへ続く光の道を昇り始めた。
「あのクソガキども、あんな裏技を!!」
マヨイガの攻略を進めていた赤と黒の淑女オクタンスは、聖女アリスから銀誓館学園接近の報告を受け、忌々しげに呟いた。
「その光の道を、壊すことは出来ないの?」
「あれは地元組織のメガリス破壊効果のようです。弱小組織とはいえ、メガリス破壊効果である以上、易々と破壊は出来ないでしょう。その上、接続されたのは制圧に未着手の区域です」
「……急ぐ必要があるわね」
アリスの説明に忌々しげに舌打ちしたオクタンスは、考えを切り替えると言った。
「吸血鬼株式会社に対して契約の履行を求めるわ。私達を援護しなさい」
「かしこまりました。我ら一同、原初の吸血鬼の意志のままに」
オクタンスに頭を下げながらも、畳へと向けられたアリスの目は、怒りに燃えるオクタンスとは裏腹に冷ややかだった。
| |