如月・愛理

<アリストライアングル 侵攻開始!>


 宮崎県の上空に浮かぶ、「マヨイガ」。
 その下部に位置する「大広間の間」には、大勢の能力者達が集まっていた。
 数か月前の「マヨイガの戦い」で銀誓館学園に制圧された、この広大な板敷の広間には、4つの扉が存在している。
 1つは能力者達が通って来た、銀誓館学園のプールの地下へと繋がる扉。
 残る3つの扉は、「マヨイガの教育」の成果によって、それぞれ京都府の大江山、岩手県の遠野市、石川県の能登半島へと繋がっている。
 もうすぐ能力者達は、この扉を通って戦場を行き来することとなるのだ。
 吸血鬼株式会社を率いる聖女アリスの作戦を覆すための重要な役割を果たしているマヨイガは、それ自体が巨大な一つのメガリスであるという。銀誓館学園の能力者達が知るメガリスの中でも、間違いなく強力なものの一つであろう。

 そして大広間の間に集った能力者達の前に、マヨイガと繋がった銀誓館学園のプール地下を通って老神を模した船首像が運ばれて来る。
 幽霊船事件を経て、銀誓館学園の能力者達が手に入れたメガリス「海神の船首像」。
 このメガリスこそが、「生命賛歌」発動のために使われるのだ。
「いい? それじゃ、メガリスに力を集中して!」
 如月・愛理(発響ベーシスト・b36373)の呼びかけに従い、能力者達の力が海神の船首像へと集中した。
 一瞬の後に像は砕け散り、欠片までが光となって消滅していく。
 光を受けた能力者達の体の中から、温かく、そして強い生命の力が溢れ出した。
 銀誓館学園のメガリス破壊効果、「生命賛歌」が発動したのだ。
 「生命賛歌」の発動と共に、3つの扉が開かれる。
「侵攻開始!」
 その号令一下、能力者達は扉の向こう、彼らを待ち受ける敵の元へと駆け出して行った。

「銀誓館学園の能力者達が、突然出現した……?」
 吸血鬼株式会社の指揮を執る聖女アリスは、敵出現の報告に首を傾げていた。
「……まさか、マヨイガ」
 その事実に思い至った瞬間、アリスの顔が青ざめた。
 銀誓館学園がマヨイガの制御に成功していたとなると、全ての前提が覆って来る。
 地域間の移動が「生命賛歌」の効果時間の浪費に結びつかないのであれば、吸血鬼株式会社が3地域に戦力を配置したことは、ただの戦力の分散に過ぎない。
 逆に銀誓館学園の側は、マヨイガを利用して戦力の集中・分散を自由に行うことが出来るのだ。
 自らの思惑を銀誓館学園が上回って来たという事実に、アリスは奥歯を噛む。
 だが、それも僅かの間だった。平静な表情を取り繕い、アリスは淡々と指示を下す。
「ですが、始めてしまったものは仕方がありませんね。各個に防衛を。イニシエの地縛霊が、彼らの戦力を削いでくれることに期待しましょう」
 そういうと、アリスはヤセの断崖に設けられた儀式場を振り返る。
 最強の原初の吸血鬼『伯爵』をシルバーレインが降り注ぐ日本へと召喚するための儀式……その完成に向け、彼の従属種ヴァンパイアであるアリスは意識を集中させていった。