五十鈴・尚人

<ヨーロッパ人狼戦線3 侵攻開始!>


 ポーランドとベラルーシの国境にまたがる広大な森林地帯、ビャウォヴィエジャの森。
 この広大な森林地帯は、現代に残された神秘を内に秘めている。
 森の奥深くに本拠地を置くのは、ヨーロッパ最大級の来訪者組織、『人狼騎士団』だ。

 現在、このビャウォヴィエジャの森には、ヨーロッパを舞台に大戦争を引き起こすべく、人狼騎士団のほぼ全てが集結している。
 同盟者たる『処刑人』、『ヤドリギ使い』という2組織を加え、決戦兵器たるフェンリルを加えた戦力は堂々たるものだ。
 だが、集結した人狼騎士達の全てが自分達の行いを理解しているかといえばそうではない。
 彼らが進軍を開始し、ヨーロッパの広域を蹂躙すれば、世界結界に甚大な影響が出ることは疑いようも無い。だが、その蹂躙の目的も、世界結界への影響についても、人狼十騎士に潜みし『異形』、清廉騎士カリストが所有するメガリス『ニーベルングの指輪』による洗脳は意識させないようにしているのだ。
 作戦に協力する処刑人やヤドリギ使いに関しても、主要人物に対する洗脳によって、同様の効果を得られているはずであった。
 だが、人狼達は、そして計画を指揮する『異形』達は処刑人やヤドリギ使い達が、既に自分達と相反する道を選んでいるという事実に気付いていない。
 銀誓館学園による情報封鎖作戦は、功を奏する形となっていた。

 銀誓館学園の能力者達は、迅速に夜のビャウォヴィエジャの森を移動していた。
 この森の住人であるヤドリギ使いの誘導があるお蔭で、人狼騎士達に見つかる事も無い。偵察を担当するサーチャーを先頭に、イグニッションした能力者達は二手に分かれ、目的とする地点へと辿り着く。

「日本では、そろそろ午前9時ってとこか……」
 五十鈴・尚人が、ポーランドの現地時刻に合わせた時計を見ながら呟く。
 時差ボケを感じた者もいたようだが、ひとたびイグニッションしてしまえば肉体的な影響は皆無だ。
 人狼勢力を洗脳から完全に解放するための待ち望まれた戦いだ。能力者達が全力で戦う態勢は既に整っている。
 人狼に随行している処刑人やヤドリギ使いに加え、銀誓館学園の同盟組織である巡礼士もまた、この森を訪れている。人狼騎士団と戦うため、おそらくはこれが最大のチャンスであろうことは疑いようもない。
「よし、始めるとするか!」
 銀誓館学園の能力者達の意志と力が結集し、メガリス『プラトン立体』が破壊される。
 叡智を収集する八面体が砕け散るのと時を同じくして、能力者達の頭上で溢れた力が渦を巻いた。
 やがて渦を巻いた力が限界まで高まると同時、眩い閃光が迸る。
 その眩さに能力者達が目を閉じた瞬間、彼らの体の内から、偉大なる生命の賛歌が湧き上がる。  『生命賛歌』の発動が、能力者達の中から『生命』の力を呼び起こしたのだ。
 目を開き、尚人が叫ぶ。
「行くぞ!」
 生命賛歌の発動に気付いたのだろう。
 敵意を示すようにざわめき始める森へと能力者達は詠唱兵器を手に走り込んでいく。
 大森林の静寂を破り、決戦の火蓋は切って落とされた。