毛利・煌

<源平合戦 侵攻開始!>


 兵庫県神戸市。
 兵庫県の県庁所在地であるこの市において、かつて銀誓館学園の能力者達は来訪者組織人狼との最初の戦争、『人工島の戦い』を経験した。
 それから数年を経て、人狼との敵対関係は終わり……代わって人狼を操っていた『異形』達が復活させた忘却期の能力者集団「平家」との戦いを、能力者達はこの街で迎えることとなっていた。

 忘却期の日本において、鎌倉に拠点を置いた能力者集団「源氏」と争い、滅び去った平家。
 彼らの源氏に対する恨みの念は、過去に鎌倉を脅かした妖獣兵器『大いなる災い』のことだけを考えても凄まじい。
 平家の魔都『福原京』は「平家にあらずんば人にあらず」の言葉通り、平家に認められた者以外を拒む結界を以て、北部山中からこの神戸を侵食しつつある。この都が完全に復活することは、日本に忘れられた時代の一端が蘇ることを意味している。
 魔都復活が完全なものとなれば、この地の世界結界は大きく揺らぐこととなるだろう。

 その『福原京』復活をもたらした存在が神戸港の上空を飛翔するのを、神戸市に来た能力者達は目撃していた。
 神戸港上空を、旋回する金色の巨大な鳥。
 現代の日本人がその姿を見れば、おそらくは聖天子の出現を待ってこの世に現れるといわれる瑞鳥、『鳳凰』の名で呼んだであろう。
 だが、『大いなる災い』と同様、その実態が異なるものであることを、神戸市に入らんとする能力者達は知っていた。
 あの金色の存在こそ、『不滅』をもたらす妖獣兵器、『不滅の災い』なのだ。

 世界結界の作用は能力者ならぬ人々が常識外の存在に触れぬよう促し、神戸市内は静まり返っている。市内に蠢くのはただ、抗体ゴーストと化して現世に蘇った平家の武士と、それに味方する者達ばかり。
 今年3月のヨーロッパでの戦い以来、数多くの抗体ゴーストと戦って来た銀誓館学園の能力者達にとっても、これ程大規模な抗体ゴーストの集団と戦うのは初めての経験だ。

 だが敵がいかに強くとも、なお戦わねばならない事を、能力者達は十分に理解している。
「よし……行こう!」
 毛利・煌(昏きを照らす金猫・b81110)の言葉と共に、メガリス『闘神の独鈷杵』に銀誓館学園の力が集中する。
 一瞬の後に破壊されたメガリスから溢れ出すのは、『生命賛歌』の輝きだ。
 能力者達の身に宿った輝きが、彼らに戦争を戦い抜くための力をもたらす。
「攻撃開始!」
 三宮駅、そしてひよどり越えが、コマンダーの定めた最初の攻撃目標だ。
 2つの攻撃地点に向け、能力者達は進軍を開始する。

●神戸空港展望フロア
「あ、来たんだ? それじゃ、平家の人達にも教えてあげてよ。敵が来るってさ」
 無血宰相トビアスの命令を受け、鳥の翼を頭から生やした女性獣人が去っていく。それに背を向けたトビアスは、下階の空港売店で買った白いチーズロールに取り掛かった。
「うん、これも美味しいな〜。神戸のスイーツは本場ヨーロッパにも負けてないね」
 感嘆するように言ってフォークを置くと、トビアスは神戸市上空を飛ぶ『不滅の災い』に顔を向ける。
「さてさて、改めて見せてもらうよ『生命使い』。『生命』の力は、『不滅』に勝てるかな?」
 愉しげに呟き、異形の少女は十字架型のメガリスを軽く放り投げた。