「冬だ、宿だ、温泉だぁ〜!」 露天風呂に向かい、スクール水着の庵が叫ぶ。 「おーんーせーんーやーっ!」 その横を駆ける尋兎がすり抜け、湯船へと飛び込んだ。 極彩色のクマ頭を被った一が豪快な水柱へと手を叩き、歓喜の声を上げた。 「大勢で入るのはやっぱ楽しいッスね!」 肩口に振り返る。 「とても良い雰囲気ですわ」 残念ながら視線の先、同意を求めたプルミナは温泉の雰囲気を堪能している真っ最中だった。 「私ハ温泉ヨリ、サウナ、ナンダナー」 プルミナの横をいそいそとサウナに向かうサラが通り過ぎる。 不意に脱衣所の引き戸が開いた。 「失礼しまーす」 ツバサは向けられる視線にたじろいだ。知らぬ顔はない。 ないが――彼は視線をさまよわせた後、何かを呟き、顔を赤くしたまま足早に隅へ移動してしまった。 「……皆楽しそうだね」 引き戸を閉めたレオンが頬を緩める。 ぐるりと見渡せば、各々が楽しそうにしていた。 流石の熱さにクマ頭を取った一が憂鬱なオーラを漂わせ、春遥が心配するという、楽しそうとは掛け離れた二人がいるのだが、それすら微笑ましい光景だ。 「平和だ」 呟き、レオンは尋兎の勧め通り、肩までゆっくりと湯船に浸かることにした。 「いいお湯ー」 女湯では、千里が大きく伸びをしていた。 「うむ、温泉は良いものじゃ」 器用にも仰向けで湯に浮かぶ鏡が頷く。 「お?」 鏡の頭がこつりと羽散にぶつかった。 「かがみんってば、沈めて欲しそうですね。分かりました」 にんまりと笑った羽散が、楽しそうに鏡の脇腹を数回突っついた。 「カオスの予感……です」 近くにいるリリンには容易くその後の光景が想像出来た。 そして想像通り、反射的に身をよじった鏡は体勢を崩し、湯に沈んでしまう。 「くぼぁぁぼぼぼ」 「やっぱり……」 丁度その時、混浴から「男湯の方から女の子の声が……」と花恋の声が聞こえた。 まったりと湯に浸かる千里が「まさかー」と笑いながら返事をする瞬間、勢い良く引き戸が開く。 「ま、間違えたー!」 碎花が真っ赤な顔を鼻先までタオルに埋めて現れる。 何があったのかを誰かが問い掛けた。生き恥とばかりに、手で顔を覆う碎花が答える。 女湯の面々は明るく笑い話にすることでそんな彼女を慰めるのだった。
「このラリーはいつまで続くんでしょうね〜」 フルーツ牛乳を片手に、清音が言った。 真新しい卓球台で行われる秀都と清己の試合は白熱を極め、周囲には人垣が出来ている。 露天風呂に向かう筈のシズクやソフィーも、のぼせた庵を運ぶ太司も足を止めるほどだ。 「い、今の回転は卑怯だ!」 秀都が声を上げた。体勢を立て直し、構える。 「戦略、だッ」 清己は同じ回転をかけて打ち返した。 激しい攻防。盛り上がる観客。歓声と落胆の声。 二人の試合は、賭けられたコーヒー牛乳がすっかり温くなる頃、ようやく決着がついたとか。 こうして平和に、夜は更けて行ったのであった。
【マスター候補生:雅姫】
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