≪つつじ荘≫【 語らいのリビングへ ようこそ 】
 深呼吸ひとつ。
 高橋・姫は意を決して、ドアからひょっこりと顔をのぞかせた。
「こ、こんにちはー……あっ! 桃宮さん!」
 元気なその声に桃宮・紅綺は手にした編み針を動かすのを止め、柔らかな視線をドアに向けた。
 窓から差し込む陽光が、机の上のカモミールがいけてある牛乳瓶に反射してチカリと光る。それも含めて、空間自体が妙に懐かしい。やや丈長の紅色の背広に黒いスラックスという、どこかレトロなここの主の装いのせいかもしれなかった。
「こんにちは姫さん。ご訪問ありがとうございます」
「お邪魔します……あらら?」
 姫は一瞬遅れて先客に気がついた。
 奥の座席に、まるで俳優のように隙なく座り、コーヒーカップを傾けている風見・玲樹がいた。
「初めまして。卒業生だけど、よく学校に来ているよ。よろしくね」
「こちらこそよろしくお願いしますね!」
 自己紹介しあう2人を見て、紅綺は嬉しくなる。

 ……ここ『つつじ荘』のキッチンにはドリンクバーが備えつけられてある。友好結社の団員なら、誰でもお茶を飲みつつ好きにくつろぐことができるようにしてあった。

「おっ、何か盛り上がってんな〜」
「あっ陸さん!」
 姫がぶんぶんと手を振る先には青柳・陸の姿があった。彼もここの常連だ。
 姫に手を振り返し、陸は紅綺の前の席に腰を下ろした。紅綺はそっとメロンソーダを差し出す。それをぐいと一気飲みして、陸は大きく息を吐いた。
「最近さー、ちょっと実感することあってさー」 
 どうやら悩みの相談らしい。
「俺役に立たないでしょ? 努力しようとするんだけど、ついね、別の事に熱中しちゃうんだよね……」
「役に立たないなんて事絶対ありませんよ」
 紅綺は驚いて、心底からの言葉をかさねた。
「別の事に熱中されるのも、素敵です。何か収穫があるはずです」
 しばらくの沈黙。
「はわわ……お前……本当にいい奴なー! 好きだー!」
「わあっ」
 なんとか陸のハグをはずし、紅綺はふんわり微笑む。
「一緒に強くなりましょう」

「こんにちはー……はじめましてのとこはきんちょーするのね!」
「ルナさん!」
 姫咲・ルナの訪問に、紅綺は手編みを中断し、空いている席の椅子を引いた。
「ご訪問ありがとうございます」
「こーきくんこんにちはっ……あっ玲樹くんだ! おひさびさなのね」
「ルナちゃんおひさしぶり。色々なところで会うね」
「わあっピンクの髪可愛いなー。玲樹とルナちゃんは知り合い?」
 会話の輪に入って、紅綺はゆっくり紅茶をすすった。

 この時間が好きだ。玲樹に悩みを口にしてしまったり、姫に励まされたり、陸の悩みに耳を傾けたり、ルナをまぶしく眺めたりするこの時間が、この場所が好きだ。

「えっと……ここが『つつじ荘』ですね。おじゃまいたします〜!」
「あっようこそ心愛さん! ずっとお待ちしていました!」
 水谷・心愛の挨拶に、紅綺のはずんだ出迎えの声が重なる。
 今日も、新たな輪が広がっていく。
【マスター候補生:コブシ

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