マンモスファイヤー 〜大追跡! 巨大手乗らないインコから荷物を取り戻せ!〜



<オープニング>


 その日のワイルドファイアもとにかく暑かった。
 太陽は燦燦と照り輝き、じっとしていても汗が滲み出す。南南西から吹く風は容赦の無い熱風。次第に湿気を帯びてくるそれに、有り余る体力も削り取られて。
「あづ(暑)いよー…… ライカ、マン森ってまだ先?」
「ううん。もうそろそろ着くハズですわよ?」
 今にも溶けてしまいそうなジーニアスの言葉に、大荷物を背負いなおしたライカが遠く視線を巡らせる。大陸では見られない、巨大な熱帯の森林――。そこには、遠近法を無視したかのような巨大なマンモー達、通称『キングマンモー』が生息している筈なのだ。
「着く前に、戦闘不能になっちゃうよー」
「しょうがないですわねぇ。じゃあ、あそこで休憩しましょ」
「やった!」
 やっと見つけた木陰に逃げ込んで、ヘナヘナとへたり込む。水筒の水で喉を潤し、風の渡る音を聞いていると、少しだけ汗も引いていくようで。
 ――と、どこからか、小鳥が鳴く可愛らしい声が聞こえた。
 周囲を見回し声の主を探して見ると、とても綺麗な羽色をしたインコが藪の隙間からこちらを伺っている。
「うっわー、可愛い♪ 餌あげよ、餌♪」
 ライカがパンを千切って撒くと、インコはチョコチョコと飛び跳ねるように近づいてきた。
 どんどんどんどん距離は縮まり……大きさは約一メートルに。
「でか!」
「うーん、さすがワイルドファイア。インコまで大きいのか」
 仲間が感心している間にも、巨大インコはパンを突っつきまわし、あっという間に食べ終えた。
 ――もっと。
 そう言いたげに、クリクリと輝く瞳でじっとライカを見つめてくる。
「えーっと、もうおしまい。ほら、ね?」
 両手をひらひらさせパンは無いとジェスチャーすると、首を傾げたインコの視線が――ライカのリュックに止まった。
 ――あの中に、美味しいものが入ってる。
 と思った定かではないが、突如インコはリュックを鷲掴みにして大空へと飛び立ってしまったのだ。
「きゃー! 返して、その中には大切な物が入ってるのよっ!!」
 悲鳴を上げて追い掛けようとしたライカにジーニアスが一言。
「大切な物? 乙女の操とか?」
 スパーン!
「そんなもん最初から持っとらんわっ! って、言ってる間に見失ったじゃないのっ!」
 思わずハリセンでツッコンでる間に、巨大インコを見失ってしまった。狼狽するライカに冷静な声が掛けられる。
「急げば追いつけると思います。ライカさんのリュックが尋常でなく大きかったせいか、飛ぶ速度は遅かったし、それに……」
 ルディの視線の先にはこぼれ落ちた荷物が点々と続いており、その先にマン森が広がっていた。

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参加者
朽葉の八咫狐・ルディ(a00300)
黒狗・ミスト(a00792)
蠱惑の妖狐・ライカ(a00857)
焔銅の凶剣・シン(a02227)
銀翼に咲く幸福・ジーニアス(a02228)
閼伽栗鼠・シュリ(a04615)
八叉銀尾の・ヒエン(a05183)
刻歌鶏守・タンドリー(a33590)


<リプレイ>


 マン森―― ここは熱帯の森林、神秘のジャングル。
 強く香る草の香、肌に纏わり付く熱気と湿気。天高く聳える木々は見事な樹齢を誇る大樹ばかりだ。微かに差し込む木漏れ日が濃い緑に反射し、風に梢が揺れる度煌いて濃淡を変える。緑の色は奥に進むほど深くどこまでも鮮やかで。視線を低くすれば大きな葉を広げる植物に混在する原色の花々。聞こえるのは不思議な動物の鳴き声と熱風にそよぐ梢のざわめき。
 草木をかき分け泥棒鳥を追い掛ける五鏡銀尾の・ヒエン(a05183)らは、森の奥へ奥へと導かれていた。
「鳥に置き引きされる日が来ようとは……世界は広う御座いますなぁ」
「それにしても、泥棒する相手が悪いですよ。怖い目に遭いたくなかったら、素直に返したほうがいいのに」
 しみじみと言うヒエンに魅惑の金冠・タンドリー(a33590)が同情を隠せない口調で答えた。焼き鳥とか、鳥鍋とか、不穏なことを囁き合っていた面々を思い浮かべているのだろうか。
「鳥さん、よっぽどお腹が空いていたんじゃないかな」
 道々拾い集めている荷を両手に抱えた閼伽栗鼠・シュリ(a04615)もインコの窃盗を好意的に捉えている。とは言え、蠱惑の妖狐・ライカ(a00857)の大切な物は取り返してあげたい。手からこぼれ落ちそうな品々を抱えなおして、次の荷物を注意深く探していく。彼らは確実に泥棒鳥に近づいていた。

 一方、荷物の持ち主は。誘き寄せ用の餌探しにも身が入らず、深い溜息をついている。
「おねーさま大丈夫かしら……心配だわ」
「一緒に行けば良かったじゃないか」
「行きたかったですわよ! でも、追跡どころじゃなくなるからっ! 絶対にっ!!」
「…………」
 何がどうなって追跡どころじゃなくなるのか、怖くて聞けない黒狗・ミスト(a00792)は、何も言わずに作業に戻った。
「おい、インコって何食ったっけか? こんなモンでもいいか?」
 首を捻りながらやって来た焔銅の凶剣・シン(a02227)の背には南国フルーツ満載の籠が背負われている。ひとつに纏めた髪に白いタオルを巻いて、武道着をラフに着崩した彼はいつもより大分寛いでいるようだ。
「味見をしましょうか?」と言ったライカを「遠慮しとく」の一言と爽やか笑顔で退けて――何故なら先程採ってきた分をライカが全て平らげてしまったからだが――籠を置くと、まじまじとこちらを見ている相棒と視線が合った。
「何だ?」
「いえ、禁断症状が出ていないか確認を」
「禁酒中だものね〜♪ 初めて見ましたわ、酒抜きのシンちゃん」
「お前らなぁ……」
 珍獣を見る目の仲間に何か言い返してやろうと口を開いて、ふと気付いた視線―― 何気ない動作で腰に下げた剣を引き抜くと一閃させた。
 爆音が森を揺るがした後には、彼らを襲おうとしていた大蛇の死骸が転がっている。
「危ねぇ、危ねぇ。何があるかワカラン森だよなー」
 纏った紫暗のマントを影に帰し、のんびりと言うシン。
「蛇は食わねーよな、インコ」
「まあ、止めておきましょう」
 重々しく言った朽葉の八咫狐・ルディ(a00300)が「それはボク達の食事になりますし……」と付け加えたのをシンは聞かなかった事にした。

 ――トンツクテンツク、ぴーひゃらら
 かき集めた餌を担いで先行したヒエンらの後を追っていると、前方から聞こえてくる異様な音を聞いた。
「セイヤ! なぁ〜ん。トイヤ! なぁ〜ん」
 音の合間にはそんな掛け声も聞こえる。
「何かしら? 現地住民?」
「いや、アレはほら、聞き覚えがある声じゃねーか?」
 ははは、と微妙なひきつり笑いを浮かべるシン。目印になるとは、こういう事だったのか。
「……ジーンさん」
 『マン森独り祭り』を開催していたぴよぴよ・ジーニアス(a02228)は脱力感に襲われているルディの気も知らず元気に笑って手を振っている。
「みんな、お帰りー♪ シュリたちはあっちに……ほえ?」
 南国フルーツを差し出したルディは断固とした口調で勧告した。
「それを食べて、黙っていて下さい」
「えっ、ダメ? これなら森の動物に襲われないでしょ? 良いアイディアだと思ったのになー」
「異様すぎるんです」
 キッパリと言下に断言したルディだった。


 ジーニアスの案内で無事に合流を果たした場所は、森の一部に広がる湿地帯だった。深さは腰の高さ、向こう岸まで最短100メートルといったところか。目算したミストは周囲に響き渡る蛙の大音声に眉を顰める。
「物凄く居そうだな……蛙」
「鳥に似た食感で大変に美味しいらしいです」
 ルディの呟く今夜の献立予定はやっぱり聞かなかったことにして。
「それで、鳥は?」
「うん、それがね……」
 ミストの問い掛けに困惑の表情を浮かべ、シュリは遠眼鏡を手渡す。
「あそこなの……向こう岸に大きな幹があるでしょう? その手前の木」
 覗き込んだ視界に、確かに枝に止まって休む泥棒インコがいた。未だにライカのリュックを掴んでいるが、ほぼ空っぽの状態に見える。
「ここを越えないと、鳥さんは捕まえられませんよね。でも……途中で遭遇した動物に聞いたところ、ここは巨大蛙の繁殖地らしいんですよ〜」
 説明を引き継いだタンドリーによると、湿地帯踏破の足掛かりは点在する朽木と岩だが、岩に見えるその中には巨大蛙が混じっているそうなのだ。間違って踏んだりしたら、どうなることやら。
「そこで私に考えがあるんですが……♪」
 ごにょごにょごにょ。タンドリーを中心に秘密会議を暫し。やがてライカがビシリと指を立てて決議する。
「それで行きましょ! おねーさま、ライカ頑張りますわね♪」
「期待しておりますよ」
 しっぽをパタパタ振って懐くライカにヒエンは優しい微笑みで応えてくれた。
「タンドリーさん、準備はいいですか」
「いつでもどうぞ!」
 金の尾羽をピンと立てたタンドリーが位置に付いたのを確認して、ルディは前方に視線を定めた。響き渡る子守唄――眠りの歌奥義。静かな旋律が流れる中、タンドリーの体から柔らかな光が溢れ出し、周囲に向けて解き放たれる……と。
「岩が……消えた!」
「成功ですわね♪」
 アビリティの効果が巨大蛙のみを消し、残ったのが本物の岩だ。ウィンクひとつ、軽々と跳躍したライカは滑りやすい岩肌に危なげなく立つと、拾っておいた枝を脇に立て目印にする。先ずは5メートル、突破。ルディとタンドリーが後に続き、同じ手順で次々と目印を付けていく。
 これで効果が切れても岩と蛙の判別は容易になった。他の面々も遅れまいと続く中、何故か黒いドレス姿のミストさん、当然裾をからませて――落ちた。
 ドボーン
 ケロケロケロ、ケロケロケロ、ケロケ〜ロ♪
「んな! 冷たっ、ぬめるっ、気持ち悪っ!」
 たちまちコガエルに群がられて悲鳴を上げるはめに。それを見て、ルディまっしぐら。何をするかと思えば蛙まみれになったミストから一匹ずつ引き剥がしている。
「ルディ、助けてくれるのか……」
「……やはり、餌がいいといい物が捕れますね」
 ――いいやつ、と思った俺の純情を返してくれ。
 コガエル獲りに夢中なルディに呪詛は届かない。その様子を対岸に渡りきったシンが見て「さすがだ、サスケ」といい笑顔で親指を立てる。生暖かく見守るだけのつもりのようです。
「くっ、サスケさんたら恐ろしい子!」
 笑いの神様に愛されている(?)ミストにジーニアスの嫉妬が燃え上がります。ぼうぼう。
 ――もしここで滑って落ちれば爆笑の渦!? 笑いが取れるのか!? オイシイ、オイシすぎる誘惑…… ああでも、どうする僕! どうすんのよー!?
「あーれー」
 ざぶーん
 ケロケロケロ、ケロケロケロ、ケロケ〜ロ♪
 悩んでいるうちに、落ちました。しかも顔面から。
「いだ! みどりっ、みどりが大量にー……がぼがぼ」
 ジーン機、沈黙!

 ケロケロケロ、ケロケロケロ、ケロケ〜ロ♪ ゲロリ♪
 コガエルの大合唱は、ミストとジーニアスが助け出されるまで続いたそうな。


 ふわふわと漂ってくる香気に巨大インコが首を捻って視界をめぐらせる。離れた場所にいつの間にか南国フルーツの山が出来ていた。
 ――チチチチチ
 綺麗な声で鳴いて、羽ばたくインコ。持っているリュックの事など既に忘却の彼方である。舞い降りた目の前にはご馳走の山。ひとつ突いたその時、眩い閃光が迸ったかと思うと、インコはコロリと転がった。すかさずフルーツの山に隠れていたライカが飛び出し押さえ込み、一本!
「捕まえましたわよー!」
「ちょっ、待て!」
「危のう御座います!」
 時、既に遅し。ミストとヒエンが粘り蜘蛛糸を放った先では、ライカが巨大インコと運命共同体に。
「おやまあ、ライカ様……申し訳ありませぬ」
 慌てて駆け寄るヒエンとは対照的に、ミストは冷静に聞いた。
「……鳥と一緒に絡まって、楽しいか?」
「楽しいワケないでしょう!」
 ぐるるるる。唸るライカ。作戦を忘れていたのはまあ、置いておくのです。すっかり準備をしていたジーニアスは拍子抜けだ。……試しに聞いてみようかな。
「緑の束縛、してもいい?」
「絶対ダメ! ……おねーさまぁぁ」
 がうがうがう。ジーニアスに威嚇するのとは反比例してヒエンに助けを求める。そんなライカさんが救助されるまで、あと10日……
「ちょっと!!」
 じゃなくて、10分です。しばらくお待ち下さい。

 こうしてリュックは無事、手元に戻った。ほとんど空だが、それはちゃんとシュリが回収済みである。捕まった巨大インコにはタンドリーがみっちりお説教をした。
 ――どんなにお腹が空いていても、人の物を盗ってはいけないんですよ? でないと、こんな風に怖い目に遭いますからね?
 通訳するとこんな感じですが。幸いタンドリー以外誰も『獣達の歌』は使えない。
「……インコさんも反省されていますので、許してあげてくれませんか?」
 巨大インコが身に沁みた所で、次は仲間の説得に移った。これには心強い味方もいる。
「巣材に使うために洗濯物を盗む鳥の話を牧場で聞いた事があるから……セルフィナさんも喜んでくれると思うの」
「ん、逃がそう」
 シュリの言葉に含まれた単語に反応してシンは即答である。ライカも「しょうがないですわねぇ」と渋々ながら了承した。
「食材ならもうたくさん獲れましたし」
 ルディのコワイ発言を最後にして、巨大インコの拘束は解かれた。
 解き放たれた虹色の翼を広げ羽ばたいた鳥は空へ戻っていく……かと思うと、頭上を旋回し始めた。
 ――ぱぉ〜ん
「!?」
 マン森に響き渡るのびのびとした咆哮。と同時に降り注いだ水飛沫が光を反射して、細かな虹がいくつもいくつも、湿地帯に橋をかける。
 声の主にヒエンが気付いた。ずっとここにあった、巨大な幹……だと思っていたもの。
「マンモーの脚でしたか!」
「うわーい♪ キングマンモーだぁ!」
 ジーニアスは大喜びで歓声を上げている。
 ――ぱぉ〜ん、ぱぉ〜ん
 巨大インコが旋回を続ける度に上がる咆哮と、降り続ける虹を生む雨……それはマンモーが高く掲げた鼻から噴き上げているのだ。
「もしかして、インコさんとマンモーさんは、お友達なのかも知れませんね」
 タンドリーが満面の笑顔で手を振ると、インコは三度旋回して応える。
「……お礼のつもり、かしら?」
 十重二十重と重なり合う虹の幻想曲――。悪くないですわね、と呟いて……小さくクシャミをしたライカだった。


 夜になればキャンプの炎がマン森に灯る。ルディの調理した食材には目を瞑って……それは本当に美味だったのだが。
 宴も酣になれば、さてお立会い。妖狐と銀弧の大道芸……とくと御覧あれ。
 ヒエンとライカの間を飛び交う南国のフルーツが4つ、8つ、16と増え、最後に忽然と手に出現した剣で突き刺せば、拍手喝采が沸き起こる。
 ――大切なもの? 目の前にいる人たちの笑顔より大切なものなんてありませんわ。
 そう心に刻んで隣の愛しい人を見れば、拍手に応えていた彼女は心得てると云うように……深く艶やかに、微笑んだ。ライカは暫し見惚れて……にっこりと微笑み返す。
 ――だから机の上に「アレ」を忘れてきてた事は黙っていよう。
 決意したライカの視線の先では……ワイルドファイア風ダンス(?)で、篝火――イケニエっぽい黒いものも見えるが気のせいだ――の周りを回る、ルディとジーニアスの楽しそうな姿があるのだった。

 うんばばうんばば、めらっさめらっさ
 マン森の夜は賑やかに更けていく。

■END■


マスター:有馬悠 紹介ページ
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作成日:2006/04/21
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