マンモスファイヤー〜団子より花〜



<オープニング>


 春だ。花見の季節だ。
 旅団【動く雑貨屋・アーティファクト】では、旅団を上げての大々的なお花見を行おうと、画策していた。
 どうせやるなら、近場で済ませず、ど派手に思いっきり騒いだ方が良い。どこか、いいか良いところは、無いだろうか? ……あった。遙か海の南、常夏の大地には、満開の桜で視界全てが桜色に染まる森があるという。
 あれよあれよという間に、花見会場は、ワイルドファイアに決定した。
「よし、それでは行きましょうか」
 道具を調え、着替えを済ませ、すっかり旅行の準備を整えた、蒼穹に閃く刃・ジギィ(a34507)は、そう言うと、ニッコリと笑った。

 というわけで、やってきたのは常夏の大陸ワイルドファイア。
 まだ肌寒いランドアースとはうってかわり、陽炎が立ち上るほど、暑い。ついでに地面は熱い。
 そんな灼熱の大地を、テクテク進む冒険者達。道中、巨大野菜を収穫したり、巨大な獣をゲットしたり、それなりに賑やかな道を踏破し、ついに一行の前に、それは姿を表した。
「うわああ!」
 誰ともなく歓声が上がる。見渡す限り、桜色に染まるその森の姿に。
 次の瞬間、もう一度声が挙がる。今度のは歓声ではない。むしろ悲鳴。
「ワアァッ! なんだ、あれは!?」
 そこでは、一本の桜の木が、ウネウネと根を伸ばし、ザワザワと枝を振り、明らかにこちらに攻撃の意図を見せていた。
 しかし、そんなことで花見を断念する冒険者達ではない。
「いくぞっ!」
 桜の一つや二つ、屈服させずして、何が花見か。
 
 ここに、盛大な花見の幕が開いた。ただし、花を見る前に花を静かにさせないといけないのだが。

マスターからのコメントを見る

参加者
舞桜・サスケ(a04123)
踊る蒲公英・イーシア(a11866)
想いを届けるキューピッド・クリム(a18492)
雷獣・テルル(a24625)
星夜の翼・リィム(a24691)
駆け昇る流星・フレア(a26738)
蒼穹に閃く刃・ジギィ(a34507)
凛然たる氷凰・レイナート(a34578)


<リプレイ>

●桜林に桜怪獣
 藍白賢者・レイナート(a34578)は、呆然と目の前の光景に見入っていた。
 視界一面に広がる桜の木々。見渡す限りの桜色。花霞に空気さえ、淡く色づいて見える。
 まるでこちらに迫ってくるような、迫力だ。……ていうか、実際迫ってきている。
「うななっ、桜の木が動いてるなのっ」
「わわっ、桜が動いたよう!?」
 想いを届けるキューピッド・クリム(a18492)と、踊る蒲公英・イーシア(a11866)が相次いで驚きの声を上げる。
「さ、最近の桜は動くのが流行なのか?」
 微妙にどもりながら、雷獣・テルル(a24625)は腰から長剣を引き抜き、構えた。
 まあ、あまり流行って嬉しいものではない。
 とはいえ、このままではせっかくの花見も台無しだ。
「来ますよっ!」
 鋭い声を飛ばしながら、蒼穹に閃く刃・ジギィ(a34507)は、目の端に妹―イーシアを捉え、気を配る。
 複数の根っこをウネウネと動かしながら、迫り来る桜。
「ほら、油断するんじゃねぇぞ」
「ありがとう御座います」
 星夜の翼・リィム(a24691)が、演ずる仮面・サスケ(a04123)の纏う蒼い鎖帷子に「鎧聖降臨」を付与し、テルルが自分の長剣を「ウェポン・オーバーロード」で強化した頃、桜怪獣は、接近を果たした。
「ちゃちゃっと退場願っちゃうよっ!」
 先陣を切り、駆け昇る流星・フレア(a26738)が紅水晶の刀身を持つ太刀を振るい、衝撃波を放った。

●桜、散らせる
「このっ、さっさと叩き潰す!」
「合わせるよ、テルル!」
 迫り来る桜怪獣の根っこを、テルルが電撃纏う斬撃で切り飛ばし、間髪入れずにフレアの太刀が、流麗な軌跡を描き、連撃をくらわせる。流石に息のあったコンビネーションだ。
「他の桜と同じように、静かに楽しませてもらいたいものですねっ」
 攻撃に意識を傾けるテルルとフレアをフォローするように、割り込んできたジギィは、二人を襲う木の根の鞭打を、十字盾で受け止めた。
(「イーシアは? よし、大丈夫」)
 仲間のフォローに周りながらも、常に視界の端に愛する妹を捉え、その無事を確認している。微笑ましいと言うべきか、過保護が過ぎると言うべきか。
「援護するよ、はっ」
 さらに後方から、レイナートが手に持つ金属杖で中空に光の紋章を描き出し、そこから光弾を撃ち放つ。
 そんな、派手な戦闘を横目に、サスケは一人木陰に身を隠し、気配を周囲に溶け込ませ、完全にその存在を隠していた。
 後は、好機を見えて桜怪獣の急所に、二本の短剣を突き立てるのみ。
「……」
 サスケは息を殺し、その時を待った。

 一進一退の攻防が続く中、突然桜怪獣の枝が、強風に煽られたように激しく揺れる。
 前線で闘っているテルル達が、避ける間もなく舞い散る桜吹雪は、冒険者達を包み込んだ。
「くっ!」
「あっ?」
「わっ?」
 前線で剣を交えていたテルル、フレア、ジギィの三名が、花霞に視界を奪われる。
 三人には突如、周り中全ての桜の木が、桜怪獣になったように感じられた。
「大丈夫、2,3回に一回は当たるんだ!」
 そんな中、フレアは幻惑された事実にも動じず、そのまま戦闘を続行する。実に男前な決断だが、周りの桜の木に、無視できない被害が出ている。
「そっちの桜は折っちゃダメだよう!」
 慌ててイーシアが、長剣を振るい、幻惑される三人に、清涼なる風を送り込んだ。
 正しい視界を取り戻したテルル達が、構えるより一瞬早く、桜怪獣の根が、横薙ぎに三人をまとめて吹き飛ばす。
「アグッ!」
「ハッ」
「クッ」
 フレアはとっさにバックステップを踏み、その一撃を避けたが、テルルとジギィは強かに胴を打たれた。
「うなっ、テルルおにーさん、ジギィおにーさん、しっかりなの!」
 クリムの杖から暖かな波動が広がり、負傷はすぐに癒される。
 負傷の癒えたテルルとジギィはすぐさま体制を立て直し、前線に復帰する。
 戦闘は一進一退の攻防が続いていた。
 おそらく、桜怪獣には随分なダメージを与えているのだろうが、なにせ全く痛そうな顔をしないので、どれくらい弱っているか分かりづらい。
 しかし、冒険者達の刃は着実に、桜怪獣の枝を祓い、根を断ち、幹に傷を付けていった。
「これでっ、どうだっ!」
 動きの鈍った桜怪獣の幹に、テルルが眩い電撃を纏った居合い斬りを放つ。
 気合い一閃、長剣は見事幹を深々と切り裂いた。桜怪獣の動きがピタリと止まる。
 やったか、僅かに戦場の空気が弛緩したその時、
「クッ!」
 最後の力振り絞り、桜怪獣はテルルに左右から二振りの、強烈な鞭打を放った。避けられるタイミングではない。
 テルルの背筋にゾクリと悪寒が走る。
「テルル!」
「させません」
 しかし、二振りの鞭打がテルルに届くことはなかった。フレアの太刀と、ジギィの十字盾が、左右からテルルを護る。
 一枚の絵のように、三人と桜怪獣の動きが止まった次の瞬間、全く無音のまま、桜怪獣の幹に二振りの短剣が突き刺さる。
「往生際が悪い」
 狙いすましたサスケの一撃により、桜怪獣はついに、その動きを完全に止められたのだった。

●桜の下、花見の一席
 無事、危険な桜を排除した後は、楽しい花見の始まりである。
「わぁい、こんなに沢山の桜見たの初めてなの〜♪」
 桜林の下、クリムが仔犬のように楽しげにかけずり回っている。そのまま木の根に足を取られ、「うなっ!?」と転んだりもしているが、まあ何とも微笑ましい。
 食事の取り方は皆それぞれ、バラバラだった。サスケのようにパンだけ持ってきて、道中手に入れたフルーツなどを挟んでサンドウィッチにしているものもいれば、しっかりとお弁当を持ってきている者もいる。
 問題なのは、リィムだ。おそらく、料理を作っているのだと思われるが、異臭漂うその鍋の中身を、「食べ物」とは正直呼びたくない。
 クリムもリィムの側までやってきているが、命の危機を感じているのか、それ以上近づいてこない。
「んっとね、実は来る前におネェにお願いしてお弁当を作ってもらったなの♪ リィムおねーさんも一緒に食べようなの〜」
 ちょっと離れたところからかけられた、弟分の声に、幸いにもリィムは料理を中断するという英断に出た。
「ん、分かった。ちょい貰うかな」
 手を止めたリィムにクリムは嬉しそうに微笑み、
「はい、あ〜んなの♪」
 フォークに刺したソーセージを差し出した。

「力仕事なら手伝うぜ」
 その言葉通り、テルルは、石を積んで即席の竈を作ったり、桜怪獣の残骸を刻んで薪にしたりしていた。
 その竈でフレアが茶を点て、ジギィとレイナートが料理をしたりと活躍している。最も、料理の出番は夕食で、今はその下ごしらえの段階のようだが。
 皆がお弁当を広げ始めると、夕食の下ごしらえを終えたレイナートが、みんなの弁当をチェックに回る。まあ、健康チェックという奴だ。
 60点、55点、80点などと、適当に見ている中で、思わずレイナートが足を止める素晴らしいお弁当が。
「みんなにもお裾分けだよう」
 嬉しそうにそう言って広げる、イーシアのお弁当の中身は、お花見団子にフワフワ綿飴、後はケーキにクッキーに……。美味しそうなお菓子の数々。ご飯もおかずも見あたらない。
「そんな事だろうと思って……はい」
 苦笑しながら、隣に座るジギィが余分に作って置いたお弁当を、妹の前に広げた。
「それは食後にみんなで食べましょうね」
「うん、分かったよう」
 兄妹は仲良く、兄の作ったお弁当を食べ始めた。

 一方こちらにも、微笑ましいカップルが一組。
「テルル……食べてくれる?」
 恥ずかしそうにフレアが差し出した、ピンク犬のお弁当箱を、テルルは笑顔で受け取った。
 自分が作ったお弁当を食べる恋人にフレアは恐る恐る、訊ねる。
「どう?」
「うん、美味しいよ」
 テルルは笑顔で答える。ここで、素直に「卵焼きがしょっぱい」とか「サラダが水っぽい」とか、答える奴がいたらそいつは、生涯嘘をつかないことを誓った聖者か、真性のいじめっ子に違いない。
 そんな微笑ましい光景を、ちょっと離れた所でサスケが、サンドウィッチを片手に楽しげに眺めていた。

●夜桜の下で
 星空の下、キャンプファイヤーが赤々と燃える。
「これでも料理はできるほうなんですよ」
 そんな言葉通り、手慣れた手つきでジギィは夕食の準備を整える。
 夕食はバーベキューだ。道中取ってきた肉や野菜を串に刺して、火に炙ればいい。
 下ごしらえは昼間の内に終えているので、後は簡単なものである。
 ついでにレイナートは、テルルが作った竈を借りて、簡単な野菜炒めも作っていた。
 フレアも、桜の葉を入れた「桜茶」を皆に振る舞っている。
 賑やかな夕食の中、リィムはキョロキョロと何かを探していた。
 そんなリィムに笑顔でジギィが、
「駄目ですよ、未成年さん♪」
 リィムがこっそり持参していた酒瓶の蓋を開け、トプトプと桜の木の根元に、中身を全部空ける。
「あ、あああ〜!?」
「ほら、桜も酔っぱらっているようですよ。ほんのりと花びらが薄紅色に染まっています」
「そりゃ、元からだろ! ああ、もったいねぇ」
 リィムはがっくりと肩を落とした。

 夕食の賑わいも一段落し、それぞれが思い思いの時間を過ごす中、イーシアは兄を散歩に誘った。
 夜桜の下、しっかりと手を繋いだ兄と妹がゆっくりと歩く。手を繋げる距離にお互いがいる幸せを噛み締めながら。
 やがて、兄妹は子供の頃の想い出話に花を咲かせる。
「イーシアは小さい頃からボウッとしてるとこが……」
 と、兄が言えば、
「ジギ兄さんものんびりしたところがあるから……」
 と妹が言い返す。静かに、穏やかに流れる暖かな時間。
「ね、来年の桜も一緒に見ようね?」
 上目遣いにそう言う妹の頭を撫で、兄は笑う。
「だったら、もうブラブラとどこにも行かないで下さいよ」
 妹は、その言葉に応えるように繋いだ手をギュッと握りしめた。

 楽しげに、寄り添うカップル。まだ騒がしくはしゃいでいる仲間達。そんなみんなを見て回りながら、レイナートは一人、静かに夜桜を見上げていた。
 静寂の中、こうして夜桜を見ていると、止めどなく感傷が沸き上がる。
 先の大戦のソルレオンのこと、去っていったパートナーのこと。思い出すと、胸が痛くなる別離。
「……辛いよ……」
 レイナートの呟きは、夜桜だけが聞いていた。


マスター:赤津詩乃 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:8人
作成日:2006/04/26
得票数:恋愛3  ほのぼの9 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
 
雷獣・テルル(a24625)  2009年09月12日 14時  通報
西方壊滅直後の話だったんだよな。
レイナートさん、いろいろゴメン(何)