≪北の砦エルドール≫聖域への道



<オープニング>


 円卓の護衛士団再編決議によって、モンスター地域東方への移動・再編となったエルドール護衛士団だったが。

「移動先は、まだ未解放地域なのよね……」
 護衛士達を集めたエルドールの霊査士・アリス(a90066)は、「まず踏み込まなくちゃ仕方ないわ」と呟いた。
 神鉄のグリモアがあるとされるのは、黄金霊廟から東へ数日行ったところになる。
 カディス護衛士団の報告によれば、彼らの活動もあり東方のモンスター数は減少傾向だという。
「神鉄のグリモア付近にいた『「何かを奪おうとする者」と「リザードマン」に対してのみ攻撃を行う性質のモンスター』も、今は減っているらしいわ。加えて、聖域の探索が行われたのは一昨年の夏。戦闘経験を重ねてきた方なら、その頃よりも冒険者としての腕を上げているでしょう? 状況は大分違うと思うけれど……」
 そこは変わらず未解放地域であり、黄金霊廟から向かって、減ったとはいえ、モンスターやアンデッドと遭遇する危険が無くなったのではない。
「私達が護らなければならない聖域を確保するのが先決ね。それで、自ずと拠点も決まるわ」

 深い、森のその奥に……。
 今は語り伝えられるばかりの都市と、グリモアは眠る。

 アリスは、先遣の探索部隊を組むことを伝える。
「聖域への道は、足場が良いに越したことは無いけれど、それに拘らず選定して進んで構わないわ。道を整備するのも、後々の私達の仕事になるでしょう」
 モンスターが確認された小径と、入り組んだ獣道と、どちらかを選ばなければならないとなったら、後者を選択するように。――アリスはそう注意した。
「よろしくお願いね」

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参加者
アイギスの赤壁・バルモルト(a00290)
在散漂夢・レイク(a00873)
雪舞小笑・エレアノーラ(a01907)
朽澄楔・ティキ(a02763)
赤烏・ソルティーク(a10158)
赫髪の・ゼイム(a11790)
北落師門・ラト(a14693)
星をみる瞳・カリナ(a18025)
龍騎艦隊・イマージナ(a18339)
貪欲ナル闇・ショウ(a27215)
NPC:護りの黒狼・ライナス(a90050)



<リプレイ>

●聖域への道
 新緑の森の向こう、さいはて山脈の際に漂う雲は薄明かりを纏う。
 ――夜明けが近い。
 そろそろ皆を起こすか……と、朽澄楔・ティキ(a02763)が身じろぎした気配に、貪欲ナル闇・ショウ(a27215)は顔を上げた。
 決して口数は多くないが、一緒に見張りをしていた間で、交わした言葉は数えるほど。ショウが夜露を集めようと仕掛けの準備をした時と、軽く獣を追い払った時ぐらいだ。
「あんた等、肩こらねぇ……?」
 傍から見ていた赫髪の・ゼイム(a11790)は、「はぁ」と息を吐く。吐息は、僅かに白く煙ってから消えた。
 花冷えの中、火を使わない方が良いと提案した星をみる瞳・カリナ(a18025)を含め、他の皆は淡い光の中で眠りに就いている。皆が揃いも揃って薄汚れたように見えるのは、土や草汁で臭い消し等をしているからだ。不吉の月・ラト(a14693)らの意見で、召喚獣は通常状態では連れ歩いていない。
「別に?」
「野郎ばかりでつまらなかったがな」
 2人の返しに、さらに脱力しながら、ゼイムは見上げた森の木々に鳥の姿を探した。朝を迎え、小鳥の声が聞こえている。
『向こうに大きい岩はないか? 輝いているところとかさぁ?♪』
 建物跡と聖域を、ゼイムはそう表現した。話しかけられた小鳥達は、首を捻ったように見える。
『1番おっきいやつ?』
『それなら向こう。ずっと向こう』
『光ってる場所は知らないよ』
「ちゃんと城塞跡には向かっている……ようだねぇ」
「……間違えないように進んでいますからね」
 ティキに起こされた赤烏・ソルティーク(a10158)は、ひとつ欠伸を噛み殺し、描きかけの地図を広げた。
「カリナさんの目印の情報は……?」
 同時に地図を作成している剣振夢現・レイク(a00873)は、ソルティークのものと、記録を付けているアイギスの赤壁・バルモルト(a00290)の情報を付き合わせながら、来た道の確認をする。
「付けている」
「大丈夫ですよ」
「アンデッドは倒して来たけど、避けた敵の位置も忘れないでよね?」
 道具を揃えて来た2人に地図作成を任せ、専ら、目印を置くことと情報管理に回ったカリナは、覗き込んだソルティークの地図に漏れを発見した。
「ここだ。……移動していなければの話だが」
 一緒に見ていたラトは、地図の上、モンスターの居た位置を正確にピッと指差す。
「しかし……人が住んでいる気配は、やはり無いな」
 バルモルトは残念そうに言う。
 集落の跡らしいものは1つあったが、草木に埋もれた廃墟と化していた。現在地は、解放戦当時に、大きな街の跡も確認されていた地域に入るかという所だが、モンスターによって破壊され、惨殺された住人達のアンデッドが徘徊していたことを考えれば……期待は出来ないだろう。
 そして、目指す神鉄の聖域はこの先、さいはて山脈の麓になる。
「ほな、皆はゆっくり朝食とっててな。ちょっと、ライナス達と偵察に出ますし」
 龍騎艦隊・イマージナ(a18339)は、食事の用意をする悼みの微笑媛・エレアノーラ(a01907)にそう声をかけて、護りの黒狼・ライナス(a90050)とサンタナを呼んだ。
 日中のみ進むというショウの提案は、ほぼ皆が同意したものの、そうすると、偵察は、まだ薄暗い夜明けに1度済ませなければならないのだ。
 イマージナ達は、それぞれショウとレイクからランタンを借りる。

 同盟にとっては未開放地域だが、彼らの行路には、使われなくなって久しいような小径がいくつかある。張り出した枝や倒木に邪魔されながら、イマージナ達は先へ進む。
 注意して足元を見ると、カンテラの灯りの中、動物などの足跡も見つけられた。
 骨が草葉の陰に埋もれているのに気付き、イマージナはライナス達を制した。
「これ、人骨なん?」
 埋もれた骨の上にかかる砂を、イマージナは指先で除ける。
「……そう言われればそうだし」
 そうでない気もする。偵察仲間の誰も、そこまで動物に詳しくなかった。
 原型が分からないのは、動物が元の場所から一部を運んできたからだろう。――それぐらいは、イマージナも経験上で分かったが。
「どこから運ばれてきたんやろ……」
「少し、見て回るか?」
 頷きを返して2人は小径の両側に別れて進み、その場には仲間1人に残ってもらう。
 要所で気配を消したイマージナは、そうして周囲を窺ってみるが、特に異常は無いようだ。
「少し先でそっちに合流しそうな道と、骨が少しあるな……」
 反対側から、報告する声に振り返り、小径へ戻ろうとした。
「引き返しますし。怪しいなら、少しこっちに避けて通りましょうな。触らぬ神に祟りなし、やし」
 了解の返事より先に、1本の木が動いたような気がする。
「何かあったん?」
 よく見えない。そう言って、仲間に確認を求め、イマージナは眉を寄せる。すぐ後で、ライナスが持っていたはずのカンテラの灯りが見えなくなる。
「……っ!」
 木々に紛れたその向こう、絡みつく蔦までが生き物のようにしなり、彼を打ち据えたのだ。
 すぐライナスの気配が消える。完全に入ったと思われる攻撃は2本。それで死んだのでなければ、ハイドインシャドウを使ったのだろう。
「退く」
 内心の動揺を抑えながら、強いて厳しい口調で言うと、イマージナは来た道を戻る。モンスターの注意を逸らすにも、彼女のアビリティでは助けにならないのだ。

 待機組が干し肉などで食事を終えた頃。ふと、ラトは道の先へ視線をやった。
「……何?」
「いや……」
 カリナが気付いて聞くと、ラトは曖昧に返す。
 ――何か聞こえた気がした。
「……」
 無言で、アスタリスクに手をかけたショウが立ち上がる。彼は、エレアノーラやゼイムを庇えるよう位置取りするレイクと、夜明けの空とを一瞥し、先へ目を向けた。
「戻って来ますね……多分、2人です」
 エレアノーラは言い、眩しそうに目を細めた。森の中とはいえ、エルフの夜目で見るのも限界の時刻だ。
「もう1人は?」
 訝しげなカリナの問いに応えたのは、現れたイマージナの声。
「待ち伏せ型のモンスターがいましたし。ライナスは……多分、生きてはる……」
「『多分』って何だよ。確認もせずに退いちまったのか?」
「そんな……」
 思わず非難を口走ったゼイムとカリナを、バルモルトとレイクが制する。
「無茶を言うな」
「イマージナさんは、偵察だけに特化できるようにしていたからな」
 仲間を置き去りにするなど、彼女自身が望んでいないのは当然だ。
「焦ったら駄目です。味方は助ける、戦闘は極力しない……で、出来ることを考えよう? 進みながら、ね」
 そう言って、皆を促したエレアノーラは、懸念を告げる。
 ハイドインシャドウを使いながら、足場の悪い森の中、モンスターの視覚外へ逃げてくるのは難しいかもしれない……と。
「要は、ライナスが逃げられれば、モンスターを迂回しても問題ないということだな。……敵の気を逸らせばいいか」
「それなら策はありますね」
 紋章術士のレイクとソルティークは、揃って、出来るだろうと言った。
「策があるんだな。なら、急ごうぜ」
 ゼイムの言葉に頷く代わり、膝丈の草を掻き分ける足と草ずれの音が早くなる。

「そこ、右に逸れたところ!」
 モンスターの位置は、小径自体からは10数メートルだ。あまり進んでは彼ら自身も見つかる。
 イマージナの声で止まったショウと、前衛に上がったバルモルトが固める後ろ、レイクと中衛に加わったソルティークは、揃ってクリスタルインセクトを召喚する。
 森の中へ10メートルほど、そこから東へ20メートルほど進んだソルティークのクリスタルインセクトは、やはり襲われた。
 視覚を借りていたソルティークは、野営に使われそうな草木の少ない小さく開けた場所と、『何かいるような気がする』位置を見つけていた。ライナスだろう。そして、彼が全く動けなかった理由も。
 所々の土に姿を見せる木の根に、モンスターの足ともいえるものが混じっているのだ。それらはボコリ……と蠢く。
 木が動いたと見えたが、やがて、膝上の半身は巨大な木偶人形のように変じた。――こちらが本来の姿のようだ。
「インセクトを向こうへ」
 攻撃されてしまったクリスタルインセクトは、攻撃形態になり動かせない。倒されるのを待ち、レイクが召喚したものを迂回させて、後から注意をひくようにした。

 その最中、後方、斜め左後ろになる辺りに、別の群れを見つけたのはラトだ。
「……アンデッドだ。道の確保をするには、放っておくのは拙いか?」
「倒しておくか」
「だねぇ」
 サラリと言い、遠距離勝負で焔の矢をつがえるティキに、ゼイムも同意した。彼やカリナ達の元へ、ミレナリィドールが現れる。エレアノーラと手分けをし、カリナがティキ達の後衛についた。
「僕はこっちに回るね」
「6……いや、7体だ。万一、撃ち漏らしたらよろしく」
 カリナへ勝手な軽口を叩くゼイムだったが、勿論、そんな事態にするつもりはない。
 焔が飛び、魔炎に炙られてなお進むアンデッド達に、ラトの呪いの鎖が放たれる。それで歩み続けられる者はもう居ない。指先や足を蠢かせるのみとなった1〜2体に、ゼイムとカリナは衝撃波で最期を迎えさせた。

「行けるか?」
 バルモルトが振り返り、始末を終えたティキ達に確認する。
 クリスタルインセクトの囮が効いているうちに、道を迂回してすり抜けようと言うのだ。
「うん、僕たちの方は大丈夫。そっちも……逃がしてあげられたんだよね?」
 カリナの問いに、顎をしゃくって見せるバルモルト。木々に紛れてハッキリしないが、その先には、確かに人影が見えた。
「じゃあ、行こう」
 言ってから、カリナは「あっ」と声を上げる。忘れてはならないと、小径の傍に目印を作り、迂回路の方向を分かるように示した。
 完全に不意打ちされたライナスの怪我は、エレアノーラのヒーリングウェーブでは治すことが出来ず、彼女は溜息をつくことになった。


●神鉄の聖域
 その先も、敵の回避と戦闘は散発的に続いた。アンデッドや獣の類いが増え、単体ならショウのひと薙ぎで片を付けられるが、複数にはラトやゼイムら術師達が加勢する。
 少しずつ削られていくアビリティ残量と、残る距離とを睨みながらの行程だ。
 小径や獣道を選んで進んだ護衛士達の行く手は、やがて高台への登りになる。森の木立の密度が下がり、視界が開け始めようという頃。
『すぐそこよ♪』
 ゼイムに応える鳥達がそう告げた……。

 森の先に現れたのは、城塞都市。崩れた城壁跡を境にした、これまでと違う造りの街だった。
 石の城壁の内側には、破壊と風化で廃墟となった街が静かに佇み、さいはて山脈を背にした中央に砦跡がある。
「やはり、住民はいないのか……」
 確認するように声に出したバルモルトは、辺りを見回す。
 規模はカリナの推測ほど大きくはなかった。城壁と街並みを利用した壁の2重構造で、施設の類いは見ただけではハッキリしないが……規模から見て、首都機能は別の場所に移されていたのかもしれない。
 廃墟にいるのは、少数のアンデッドと獣の類い。それらを駆逐しつつ、護衛士達は砦跡へと進む。
 近付くにつれ、崩れた壁が露になり、砦自体の被害の大きさを物語っていた。
「グリモアはこの中だろうが……。確認して行くか?」
 円卓の決議に従えば、今、そうするのが適当だろう。レイクはそう言うと、ゼイムやカリナが同意する。
 怪我をしたライナスを残し、イマージナ、ここでも霊視材料を探しておきたいエレアノーラの2人が付いておくことにした。

 砦は1段高い岩棚にあり、外見上、2階部分は周囲に櫓と見張りの回廊を擁した小さい造りだ。
 入ってすぐは先へは進めない……はずだったが、壁は崩れ、先の部屋と通路へ抜けられる。
 先行させたクリスタルインセクトの視覚を借りたレイクとソルティークには、所々の壁や天井の崩れから差し込む陽が、今は探索の手助けとなる。
 2つ目の廊下の両脇には部屋が並び、誰とも知れぬ冒険者の遺品も、そこかしこに転がっている。見回したカリナは、小さな装飾品の欠片や石を拾ってポケットにしまっていく。砂埃に隠れたどす黒い汚れは……戦いの跡。
 聖域を護る列強種族の冒険者達に、撤退の先は無いのだ。
 グリモアは、その奥。
 さらに厚い壁に護られた部屋に眠っていた……。

 儀式というほどのこともない。クリスタルインセクトに続いて部屋に入った護衛士達が、頭を垂れて祈るだけ……。
 昔を伝える戦の傷跡に比べて、あっけないものでしかない。寂寥感を否めないのは、護衛士達の主観だろうか。

 かつての神鉄の聖域の護衛士達が、同胞の援軍を待ちながら陥落したことは、後のエルドールの霊査士・アリス(a90066)の霊視で知られることになる。おそらくは、黒桔梗の森で確認されていた多くのモンスターは、その『援軍』であったのだろうと……。

 ほとんどのモンスターが、移動しながら『敵』を討ち果たす性質ではなかった為、アンデッドも減らした後の復路では、往きほどの苦労は無かった。
 必要になれば、地図を元にモンスターを掃討してゆくことになるだろうが、それは後の仕事だ。
 帰り道に懸念があるとすれば、食料と水。それには、エレアノーラとゼイムが幸せの運び手を使い、ショウ達が夜露を集めたのが功を奏した。……蛇足だが、ゼイムの披露した歌は微妙に不評。
 再び数日をかけて帰還した彼らが、神鉄の聖域への往復で作成した地図を元に、エルドール護衛士団の移転も進められることになる。


マスター:北原みなみ 紹介ページ
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作成日:2006/04/18
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