優雅なりんごの日



<オープニング>


●優雅なりんごの日
 緩くなり始めた気温。
 目に眩しい陽光に照らされ、艶やかに春の訪れを喜ぶように光る赤いりんご。
 もえぎ野に実る赤いりんごは甘さの中にも程よい酸っぱさがあり、美味である。
 その今が旬のりんごはやがて姿を変える。
 淡く琥珀色がかった甘酸っぱい液体は豊かな春の風のように芳醇で、春の息吹を吹き込まれ、飲む者を心地よく酔わせる。
 毎年、春の晴れた良い日和を選び、彼女はりんごの収穫をしていた。彼女はその日を『りんごの日』と呼び、毎年毎年楽しみにし、また村の人々も彼女の作るりんご酒を楽しみにしていた。
 だが、今年の『りんごの日』は少し危険な影がみえる……

●もんしろちょう
「冒険者の皆様にお願いしたい事がございますの……」
 ブレントと向かい合わせに座ったドリアッドの女性は、春の野と同じ若葉色をしたパンジーの花の咲く髪を揺らし言った。
「皆様にりんごを収穫して頂きたいのですの」
 本当は自分で収穫したいのですけど、蝶々が邪魔をしてしまって……と付け加えた女性、アリエスは少し眉を下げ、困ったような微笑を浮かべた。
「蝶々ねぇ……紋白蝶かな?」
 失礼、と言い、依頼者の手に重ねていた右手を引っ込めたブレントは頭を掻いた。
「ただ林檎の木の周りを飛んでる……だけじゃないみたいだなぁ」
 ブレントが霊査で見たのは白い赤ん坊の掌くらいの大きさの蝶が、木の枝に止まっていた小鳥に張り付き、口から伸びるストロー状の口吻を突き刺し体液を吸っている姿だった。
「カラカラに干からびた小鳥さんの亡骸を埋める事も出来ず、ただただ見ているだけ……りんごの日も近くて、困っておりますの」
 悲しげに睫毛を伏せたアリエスは目を上げ、ブレントの顔を見、そして集まっていた冒険者たちを見た。
「お願い致します。蝶々さんを退治して、りんごを収穫して来て下さりませんか? お礼に、私の作ったりんご酒を差し上げますから」
「ま〜そんな訳でお仕事頑張れ。りんご酒の為にも」
 りんご酒の為にも、とへらりとだらしない顔で言ったブレントの横で真面目な顔でアリエスもりんご酒の為にと頷く。
 何にしても冒険者達は美味しいりんごとりんご酒の為に一仕事しなければならなかった。

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参加者
牙商人・イワン(a07102)
物語の終末・シャノン(a32103)
ハロー・エヴリィ(a32715)
蒼穹に閃く刃・ジギィ(a34507)
虚笑・ガリアス(a43834)
陰陽拳士・ルナード(a45764)
星薙ギノ剣・ミズチ(a46091)
断章紡ぎ・メルキュロット(a47085)


<リプレイ>

●晴れたりんごの日
 穏やかな晴れ日の中、依頼を受けた冒険者達はピクニック気分で目的の場所へと向かって歩いていた。
「迷惑な虫だなぁ……なんで虫なんて……」
 ぶつくさとぼやきながら歩く時廻の紅録者・シャノン(a32103)の気持ちは他の冒険者たちと同じで牙商人・イワン(a07102)も晴れた空を見上げ苦虫を噛み潰したような顔をした。
「や、蝶が蜜とか吸うのは知ってますが……こうなると蚊よりも嫌な感じの虫だなぁ」
 今イワンの頭の中にはブレントから聞いた紋白蝶が小鳥に群がり体液を啜る画が浮かんでいるのだろう。
「いいさ……紋白蝶なんてとっとと退治して美味しい林檎を持って帰ってやるさ……役立たずかもだけどね」
 怪我がまだ完治していない体を擦り、言ったシャノンの言葉に空腹な天使のように・メルキュロット(a47085)はスキップしながら元気に手を振り上げた。
「蝶々クン達を全滅させて美味しいりんごを頂くのです〜」
 そう。全ては美味しいりんごとりんご酒の為。
「りんごをもいだら食べほうだ〜い♪ ウキウキだけど蝶々のことは……じゅるり……忘れてないよ、じゅる……大丈夫!」
 りんごの事を考えると止まらないよだれを必死に手の甲で拭うオッスおら・エヴリィ(a32715)にくすり、と蒼穹に閃く刃・ジギィ(a34507)は微笑み言う。
「そうですね。早く蝶を倒して林檎を持って帰りましょうね」
「上手くいったらりんご酒かぁ。楽しみだね〜♪」
 口を笑みの形に曲げ言う虚笑・ガリアス(a43834)は水の入ったバケツを片手に提げながらゆったりとした歩調で進む。
 だが、中には手放しで今の状況を楽しめない者もいる。
「林檎酒か……蝶の退治とりんごの収穫は頑張るけどまぁ未成年なんで酒は飲めないんだけどね」
「俺も未成年だからなぁ……成人になるまで取っておけないだろうし……」
 陰陽拳士・ルナード(a45764)と星薙ぎ・ミズチ(a46091)の未成年二人はアリエスから貰える事になっているのがりんご酒じゃなかったらなぁ、と心中呟くが、同じく未成年であるはずのメルキュロットは、りんご酒よりも貰えるりんごでパイを作る事を考え心が浮き立っているようだ。
「ともあれ、まずは紋白蝶退治ですね」
「そうだな。まぁ、頑張ろ……」
 歩くイワンの少し後ろで呟いたミズチは片手に提げた愛剣へと目を落とすと、空の上で輝く太陽の光を受け刀身が、まるで自分を応援でもしているようにキラリと光を反射した。
 やがて若草色に萌える大地を進む冒険者達の視界の緑が高くなりはじめた。

●輝く赤と萌える緑。そして白。
 陽光に照らされた艶やかな赤と濃い緑。そして、周囲を優雅に舞う淡い白。その光景は春の喜びを謳っているようでさえある。
「……へぇ、見る分には綺麗だね。あんま興味もないけどさ」
 巻いていたバンダナを外したガリアスは遠目に見える光景に、何の感慨もなさそうに声を出した。
「あれがお邪魔虫な蝶々だかー!?」
 ファイティングポーズを取りやる気満々のエヴリィ。まだまだ遠い紋白蝶へ、このお邪魔虫めーと叫ぶ彼女の横で遠眼鏡をかざし、りんごの木の配置と紋白蝶の数などを確認したイワンは仲間達を振り返った。
「りんごの木と木の感覚は広いですが、その分枝が下がり気味に広がっているから戦うならりんごの木の外へ誘き寄せてからの方がいいでしょうね」
「そうですか。では、ひとまず俺が蝶を出来るだけこちらに集めますので、皆さんは俺の近くで戦闘準備お願いしますね」
 ジギィの言葉に冒険者達は頷き、りんごの木へと向かい再び歩き出した。
「この依頼が終わったら貰ったりんごでパイでも焼きましょうかね〜♪」
「アップルパイ! 最高だな」
 弾む声で言ったメルキュロットにミズチも声を上げ、思わず唇を舐めた。
 木から少し離れた所で足を止めたジギィは仲間達へ視線を向け始める事を告げると一歩前へと進み出て、頭部から激しい光を放つ。
 ジギィのスーパースポットライトに優雅に飛んでいた蝶々が、ふわりと動きを変えジギィへと集まり始め、時にヒラリヒラリと麻痺して落ちる蝶もいる。
「エヴリィさん、背中は預けましたよ」
「よーし、ジギィさんの背中は任されたー!」
 ジギィの隣に立つエヴリィは元気に腕を振り上げ答える。
「来た来た。あぁ……気持ち悪いなぁ。虫は花の周りに集まっていればいいのに……」
 舞い飛び近づいてくる紋白蝶の群れに顔を顰め、シャノンもよっこらしょと重たく感じる腕で斧を構えた。
「お邪魔虫な蝶々は動けなくしていちもうだじんだー!」
 前に突き出したエヴリィの両手から作り出された蜘蛛の糸は舞う蝶々へと絡み付くが何匹かは上手く糸を避け、ひらりとそのスピードを増し冒険者達へ襲い掛かる。
「よっし。んじゃ次は俺だぜ!」
 蝶々に向かい間合いを縮めたミズチは、大きく息を吸い込み紅蓮の咆哮を放つ。
「麻痺しやがれぇぇぇっ!」
 力ある咆哮に飛ぶ力を奪われた蝶々がふわりひらりと地へと落ちる。
「一撃で仕留めてやるから安心して落ちてきな」
 まだ重力に抗い、低空する蝶へルナードの高く上がった足が叩きこまれ、白い羽は儚く散った。
 アビリティの反動で痺れたミズチの体はメルキュロットが毒消しの風で癒す。
「治りましたですよ〜だからもう一回行ってらっしゃい〜♪」
「よーっしゃ!」
 元気になり駆け出したミズチの背に手を振り、メルキュロットも宝珠を構えた。
「しかし、飛んで火にいるなんとやらって、まんまだね」
 笑い、ブラックフレイムで地面に落ちた蝶を撃ったガリアスにイワンも離れた場所に飛んでいた蝶へホーミングアローを放ち苦笑を浮かべた。
「これならすぐに片が付きますね」
 その言葉通り、さしてスピードがあるわけでもない紋白蝶の退治はそれほど時間を要さなかった。

●りんご狩り
 春の陽光の木漏れ日に透けて輝く葉の緑に、葉の影に色を濃くする赤いりんご。微かに漂う甘いりんごの蜜の香りにゴクリとエヴリィは喉を鳴らした。
「むはー! んまそうなのが一杯だべー♪ じゅるり」
 口の端から溢れる涎を手の甲で拭い、手近なりんごをもいだ。
「おいしそうなりんごですね〜♪」
 両手で包み込んだりんごの匂いを胸いっぱいに吸い込んだメルキュロットは微笑みを浮かべ、籠へと静かに入れた。
 りんご狩りを始めた仲間達と少しはなれた場所で、イワンとシャノンが柔らかな草の大地を掘っていた。
「鳥、可哀想な事になってるな」
 目を細め、干乾びて本来あるべき姿の半分以下の細さになってしまった小鳥を見るシャノン。
 掘り終えた穴に小鳥の死骸と蝶々の死骸を入れ、イワンは土をかけた。
「せめて土に還りなさい」
 シャノンも土を被せ、立ち上がった。
「労働は得意だから任せてくれよ。ちょうど長い棒があるからこれでうまくりんごを収穫してやるぜ」
 長い棒を構えたミズチは高いところにあるりんごへ棒を伸ばし、枝へと繋がっている所狙い、軽く突付いた。揺れたりんごはぽとりとミズチの手の中へと落ちる。
 ルナードはその横で地道に手でりんごの採取を行なっていた。
「調子に乗って収穫にアビリティ使ったりして、りんごが粉々にでもなったら嫌だしな……」
 そう口の中で呟き、手にしたりんごを籠へと入れたルナードの手と入れ違いに籠の中からひとつ、赤いりんごを取ったガリアスは持参したバケツの水でりんごを洗い一口食んだ。
「ん、美味い。水の使い道があって良かったよ」
 ガリアスはブラックフレイムやスキュラフレイムの飛び火でりんごの木が燃えた時の消火用に水を持って来ていたが、アビリティは普通の炎ではない為僅かに焦げ付く事はあるが大きく燃え上がる事はなく、取り越し苦労に終わった。
 しゃくり、と頬張りバケツの中で揺れる水面を見てガリアスは苦笑を浮かべた。
 りんごの木に登ったジギィは地面に居ては手の届かないりんごを取り、下で待つエヴリィに渡す。
「林檎にはですね、蜜入り林檎と言って、とっても甘い蜜の入ったものが……」
 そう説明しながら丁寧にもいだりんごを渡すジギィだが、受取るエヴリィの耳には右から左の様子。腕一杯に抱えたりんごをじっと見つめては唾を飲み込み、自分でも手の届く範囲のりんごをドンドン取っていく。
「焦らなくても後でアリエスさんが林檎のお菓子を作ってくれますよ」
 苦笑し言ったジギィにメルキュロットは楽しそうな声を出した。
「早く美味しいお菓子食べたいですね〜♪」
「わたしは今たーべーたーいー」
 あうあうと止まらない涎を啜り言ったエヴリィにジギィだけでなくメルキュロットも苦笑を浮かべ、そして笑った。

●林檎で優雅なティータイム
「アリエスさーん、こんなに採れたよー!」
 腕いっぱいにりんごを抱え、駆けて来たエヴリィにアリエスは美しい花が綻んだような笑みを浮かべ冒険者達を迎えた。
「まぁ、皆さんたくさん採って来てくださったのですね! 嬉しいですわ。では、早速お菓子を作りますね」 
「あ、あたしも作っていいですか〜? パイを焼きたいのです〜♪」
「あら、いいですわねぇ。皆さんはどうぞしばらく寛いでお待ち下さいませね」
 メルキュロットと並んで家の台所へと消えたアリエスを見送り、冒険者達は待つ事にした。
「お菓子ーお菓子ー」
 ウキウキそわそわと落ち着かないエヴリィの目は台所の入り口から離れない。
「りんご〜♪ ところで、りんご酒って未成年も飲んでいいのか?」
「いや、ダメでしょう」
 苦笑を浮かべるイワンに疑問を口にしたシャノンはそうだよな、と頭を掻いた。
「んまあ、りんご酒飲めなくても美味しい菓子食べて諦めるけどね……」
「酒の代わりにリンゴジュースかアップルパイがほしいな、俺」
 愛剣を撫でながら言ったミズチ。イワンは仲間達の顔を見渡し苦笑した。
 談笑しながら体を休める彼らの鼻にやがて香ばしい生地の焼ける匂いや甘い香りが届くと、大きくエヴリィの腹の虫が鳴った。
 
「皆さん、お待たせいたしましたわ」
「わーい!!」
 トレイを運んできたアリエスとメルキュロットに歓声をあげ駆け寄ったエヴリィは一気にテンションが上がる。
 トレイ一杯に並んだりんごの菓子。アップルパイにりんごのタルト、りんごのコンポートにリンゴチップスなどなど。
「採れたてのりんごで出来たてのお菓子、かなり贅沢ですねー」
 にこにこと並ぶ菓子を見ていたジギィはそういえば、とアリエスへ顔を向けた。
「りんご酒は未成年でも飲んで大丈夫なのですか?」
「未成年の方は飲めませんわ。あら、未成年の方が多いのですね」
 冒険者達の顔を見渡し言ったアリエスは柔らかい笑みを浮かべた。
「では、お酒を飲める年の方にはりんご酒を。まだお酒の飲めない年の方には林檎ジュースをプレゼントさせて頂きますわね」
「やった!」
「さぁ、どうぞお座りになって。今、アップルティをお淹れしますわ」
 ほのかなりんごの香りが湯気と共に部屋中に満ちる。
 美味しいりんごのティータイムと楽しい時間はこれから始まる。

 甘い幸せ、たんと召し上がれ――


マスター:桧垣友 紹介ページ
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作成日:2006/04/28
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