花は霞に 桜は器に



<オープニング>


●花は霞に
 明るく透き通る春の空は柔らかな青に染まる。
 優しい空色を背に咲き誇るのは、どこまでも淡くほのかな薄桃色を宿す桜の花。
 樹々を、風を、空までをも包み込むように咲き乱れ、辺りを夢のような霞の中に抱く。
 花の霞は大地の吐息。
 雪解け水で潤い春陽と春風の祝福を受け、幸せの中に微睡む大地が喜びに満ちた吐息を洩らす。

 ――だからこそ花霞はこれほど淡く、そして優しく甘いんだ――

 花の中で聞いた言葉。
 穏やかに吹く風が花を揺らせば、彼方を流れるせせらぎにも似た音がさざめいた。
 葉ずれの音よりも軽い、花揺れの音。
 記憶を手繰ればこんなにも鮮やかに甦る。
 かの人を恋して愛した日々は、幸せの内に終焉を迎えた。
 きっと自分はいつかまた、誰かを恋して愛するのだろう。
 けれど重ねてきた思い出は星となり、魂の奥底で煌いて――胸の内に、優しく息づいている。

●桜は器に
 淡く透き通った萌黄色の煎茶が、毬のような丸い白磁の湯呑みを満たす。
 湯呑みの底には小さな子亀が描かれて、静かに茶を揺らしてみれば、まるで子亀が泳いでいるかのように見えた。
 子亀の遊泳を楽しみ、桜を模った練りきり菓子を食べて煎茶を飲む。菓子の甘い後味が煎茶ですっきりと流されていく感覚を堪能し、湖畔のマダム・アデイラは目を閉じて陶然と息をついた。
「ああ……めっちゃ幸せなんよ〜。テフィンちゃん、お茶のお代わりお願いしてもええかなぁ……?」
「勿論ですの。早速淹れて来……あぁっ!」
 湯呑みを受け取ろうとした藍深き霊査士・テフィンがうっかり手を滑らせる。宙に投げ出される形となった湯呑みはそのまま落下して行き、高い音を響かせ床の上で割れた。
「も……申し訳ありませんの! こんなに素敵な湯呑みですのに……!!」
 声を震わせ涙目で頭を下げるテフィン。食を愛する彼女はその延長で食器の類にも愛が深い。それもあってか「大切な湯呑みを割ってしまった」ことにひときわ申し訳なさが募るらしい。アデイラはテフィンの肩にそっと触れ、気にせんでええんよと微笑んだ。
「いつかは壊れてしまう物なんやもの、それがたまたま今やっただけ……。それに、いつか失ってしまうからこそ……愛おしく思うんやから」
 アデイラは床の破片をひとつひとつ丁寧に集めだす。慌ててテフィンがそれに倣うと、自分の分の茶を淹れてきたらしいハニーハンター・ボギーがやってきた。
「ふわ、湯呑み割れちゃったですか。なかなかない感じのいい湯呑みだったのに、寂しいですね〜」
「あは、ありがとう〜。実はあれ、あたしが自分で絵付けしたんよ」
「なるほど〜。そう言えばボギーの知り合いで山に窯を構えてる陶工さんがいるのです。そこで小皿や湯呑みとかに絵付けをさせてくれるのですけど、良かったら新しい湯呑みを作り……って言うか描きに行きませんか?」
 アデイラは目を瞬かせ、是非行きたいと頷いた。
 凄いんですよ〜と笑みを浮かべ、ボギーは話を続ける。
「その山は桜でいっぱいで、今とっても花が綺麗なのです。桜の下に緋毛氈敷いてその上で絵付けって風流ですよね〜」
 それを聞いてがばっと顔を上げたのはテフィンだった。
「私も行きますの! お詫びに私がお酒と料理を手配させて頂きますから、のんびり桜と絵付けと料理を楽しんでくださいまし!」
 湯呑みの破片を全て集め厚い布に包み、アデイラは瑠璃の瞳を細めて笑う。
「ありがとう、嬉しいんよ〜。楽しみにさしてもらうなぁ……v」

 咲き誇る桜の下で、新たな器に絵をつける。
 きっと自分は、そうして作った湯呑みを――とても愛おしく思うのだろう。

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参加者
NPC:湖畔のマダム・アデイラ(a90274)



<リプレイ>

●舞桜
 青く透きとおる空は春の盛りを祝福するかのような光を孕んでいた。
 淡く色づく儚い花弁を重ねて咲いた数多の桜花は青い空と若草の地を抱き、世界に満ちる柔らかな光に透けて穏やかな霞を成す。緩やかな風が霞を撫でれば花々は華やぐようなさざめきと共に身を震わせ、淡くあえかな霞のかけらを散らした。
 空に風に舞う儚い花弁は辺りの景色を彩って、樹下に広げられた目にも彩な緋毛氈に舞い降りる。儚い花弁を緋よりも鮮やかな紅の盃で受け、ミリュウは桜揺れる酒をくいと呑んだ。これも粋だわねぇと薄青の流線を描いた香酒盃に筆を滑らせ桜の花弁を散らす。弾むような声で名を呼ばれ顔を上げれば、子犬のように瞳を輝かせたサガラが駆けて来た。ちゃっかり隣に腰を下ろしたサガラは終始笑みを絶やさず大き目の湯呑みに絵をつけていく。花の形に整えられた桜御飯と筍の木の芽和えをつつくことも忘れない。
 絵桜を金彩で縁取るツバメの傍らには桜酒を満たした銀の盃。風に舞う花は盃にも黒く艶めく羽毛にも等しく降り、気づかぬ内に自らを飾っていた桜にツバメは瞳を瞬かせた。その様にセレは口元を綻ばせ、桜とツバメさんの色は映えるのですねと光に溶けるような囁きを零す。舞い降りた花を取り、この前のお返しどすと彼の髪に桜を挿しつつツバメは笑んで、セレは頬を撫でた羽毛の感触に擽ったそうに瞳を細めた。
 桜塩を振って焼き上げた甘鯛を肴に酒杯を傾け、構想を練ってみるようとマリアはさざめく花霞を見上げて目を凝らす。空になった杯にはアデイラがマリアちゃん熱心やねと桜酒を注ぎ。桜酒の瓶が脇に置かれるのを見計らい、アデイラさんが描いたのが欲しいなぁ〜んとニノンが湯呑みを差し出した。ほなニノンちゃんみたいな桜を描くんよと微笑む彼女にふわりと抱きしめられ、桃色の尾がぱたりと揺れる。ニノンの肩越しに知己の姿を認めたアデイラが「あ、フェイトちゃん」と呟けば、傍らで絵筆を握っていたレーダの犬尻尾がぴくりと跳ねた。期待に満ちた眼差しを向けられたフェイトはどこか遠くを見つめつつ、鎧進化でヒラヒラ衣装の王子様スタイルへ姿を変える。その鮮やかな変身にシアはおにぃたまカッコいい〜と惜しみない賛辞を贈り、リューシャはとってもお似合いですと笑いを堪え肩を震わせた。フェイトちゃん素敵なんよと頬を紅潮させたアデイラはシアに請われて筆を取り、興味深げに覗き込むレーダとリューシャに笑みを零しつつ、大きい筆でも細かい絵は描けるんよと薔薇を描いてみせた。こくりと頷いたレーダは真剣な表情で再び絵筆を握ったが、フェイトは俺は筆より剣を握る方が性に合っているようだなと軽く笑って筆を置く。リューシャとシアはそれこそ桜が揺れるような笑みを交わし、舞い散る花弁に瞳を向けた。
 目が合ったアデイラに軽く会釈し、アレキスとホオズキは緋毛氈の花弁を丁寧に寄せ並んで腰を下ろした。早速作品の構想に入ったらしく筆の柄を顎にやりつつ考え込む彼を微笑ましく見遣り、ホオズキは温かな色を選び丹念に小皿へ絵をつける。悩んだ末に片口と御猪口に鮮やかな鬼灯を描いたアレキスは、二十歳の誕生日にこれで雪見酒をしようと彼女に揃いで差し出して、ホオズキはほなこれで一緒にお食事をと彼の手に小皿を乗せた。楽しげに絵を見せ合う二人の様子に目元を和ませ、ガルスタは辺り一面を染める桜に目を移して湯呑みの花の色を落としていく。焼き上がりはどうなるのだろうと思えば自然と笑みが零れた。
 新茶の前に茶碗が欲しかったのじゃ、とドリアンはアデイラの選んだ赤い顔料で桜を描いていく。白の釉をかければきっと桜色になるぞぃと瞳を細め、盃を満たす香り高い米酒をぐいと乾した。テンユウはその様を横目で見つつ、初夏には俺も二十歳だがその頃には桜はないからな、とぐい飲みの中に桜の花弁を一枚描く。どんな季節にも、花と共に酒を楽しむことができるよう。

●浮桜
 澄んだ出汁の中には天辺に桜の塩漬けを飾った雁もどき。崩した豆腐に春の山菜を加えて揚げられたそれにティーはうわぁと声を上げ、食べるのが楽しみなのと笑みつつ湯呑みに花を咲かせていく。桜だけでなく鮮やかな黄色の蒲公英や福寿草も描き込まれ。眩い色に瞳を瞬かせながらテティスは自身のカフェオレボウルに淡い色で桜を乗せ、こっち使ってみる? とアデイラが差し出した顔料に筆を浸した。この絵を描いて欲しいとノリスが花の挿絵の載った見聞録を開けば、アデイラは絵より本物見て描いたらええよ彼の背後を指し示す。振り返ればそこにはほのかな若草色を宿した桜が咲いていた。彼らの様子を眺めていたユーは『えつけ』って『餌付け』じゃなかったのなぁ〜んと呟いて、大きなどんぶり椀を抱え込み故郷で幸運を招くとされている蛙を描いてみる。緑色のそれは不思議な物体になったが、何だかとても楽しかった。
 香ばしく炙られた鹿肉には僅かに練り梅を足し桜色に染まった白味噌が薄らと塗られていた。微かな酸味に引き立てられた旨味に舌鼓を打ち、イーチェンはクララと代価を出し合って手に入れた小皿に絵をつけていく。クララさんも描くですかと手を差し出せば、勢いをつけすぎたのか筆と顔料が飛んでいき。頬杖をつきつつぼんやり向かいで眺めていたクララはそれらを器用に避けて、キャーと声を上げるイーチェンの姿に微笑んだ。
 膝に猫を抱き、向かいに座らせた仔犬に向かって何故か「にゃあ」と語りかけるタツキの髪に桜が降る。淡い色合いの赤毛にかかった花弁に瞳を細め、タツキのイメージはやはり赤かとヒサギはマグカップに艶やかな緋寒桜を描き入れた。視線を感じたらしいタツキはヒサギは今日もいい男だなと笑い、じゃれついてきたペット達の足に色を乗せ、蒼の花弁を描いたマグカップへ足跡をつけてみる。
 一片ずつ丁寧に剥いた百合根は赤蕪の汁で淡桃色に染められて、三つ葉を添えた澄まし汁の中に桜の花弁の如く浮かぶ。カイネは椀の中の桜を目にし、今年は花見に行ってなかったなと頭上に咲き誇る本物の桜を見上げた。風のやんでいる間にも桜の天蓋からはゆるゆると花弁が降り、緋毛氈に積もる花弁に目を留めたカムロはよし、と楽しげに筆を取る。やっぱり狐か仮面なんかとシュイが覗き込んでみれば案の定、小皿には花弁の中に眠る子狐が描かれていた。レティシアの手にしたマグカップにはぷるんと震えそうなプリンが次々と描かれ、リラ(a33777)が握ったカップにはゆっくりと赤いつやつやのさくらんぼが描かれていく。二人は同時に「できたーっ♪」と明るい声を上げて笑いあい、その様が微笑ましかったのか、セレスティアも傍らのシュイと視線を交わして瞳を細めた。今までは辛い記憶に繋がる桜を落ち着いて見ることはできなかったけれど、貴方の隣でなら綺麗だと感じられると風に紛らせ囁けば、シュイは微かに頬を紅潮させ、持っていた筆を一本妻へと手渡した。蓮糸と共に舞う桜、蓮の花の内に紅桜をそれぞれ描く二人の手元を覗き込み、レティシアとリラがわぁとはしゃいた声を上げる。何やら笑顔で視線を向けてくるカイネやカムロにも気づき、夫婦は揃って手元の香炉を隠した。
 いかにも新婚然とした初々しい雰囲気の二人を眺め、アルトゥールは想いを通じ合わせたばかりの少女の姿を想い浮かべて湯呑みに色を乗せていく。しなやかに強く可憐な彼女を山桜になぞらえて。
 瀧の如く咲き零れる白い桜に隠れるようにして互いに身を寄り添わせたミイルとシュンが陶然と息をつく。緩やかにたなびく花霞の中に包まれて、ミイルははにかみながら共に過ごせるのが幸せだと囁いた。お猪口を互いに贈りあおうと神妙な顔つきで絵筆を握り、風に流れゆく桜に瞳を細めたシュンは今度は二人きりで来ようかと言葉を紡ぐ。
 花に包まれた世界は、何もかもが祝福に満ちていた。

●花桜
 雅やかな香り漂う桜餡の花見団子を頬張りながら、アリアは手にしたマグカップを眺め思案する。満開の桜がさざめき風が薄桃の花弁を吹き流す様を見て、桜色のフワリンを描こうと思い立ち。やはり桜色に染まった筆で何やら描きつけていたアッシュは完成と共に顔料をいっぱいつけた顔を綻ばせ、できましたーと嬉しそうにツバキに桜色の絵を見せてみた。豚っぽいけど実はノソリンだったりするその絵を見たツバキは瞳を緩め、自分も絵はあまり得意ではないなと自身のマグカップを見遣り肩を落とす。だが黒に赤の縁取りで先手必勝と書かれたその柄は、通りすがりに覗いたボギーにかっこいいのですと大いに受けた。
 優しい霞を作り出す満開の桜に心が浮き立つのを感じつつ、リラ(a27466)は自身と同じく髪に桜を咲かせた大切な人への想いを胸に抱き、たどたどしい筆致で色を乗せていく。仕上げた花瓶をそっと陶工に手渡しお茶を淹れますねと皆に声をかければ、蜂蜜ミルクのゼリーと桜のムースがあるのですよぉ〜とアスティナが花降る中にボギーを手招いて。「なぁ〜ん、なぁ〜ん♪」と歌うようにして皿に幾頭ものノソリンを描いたジェドはボギーに何を描いたのか訊ね、桜色のクマを描いた湯呑みを見せられた。じゃあティナは桜色の兎と花びらを描くですよぉ〜、と茶で一息ついたアスティナが席を立つ。入れ替わるようにやって来たクローは煎茶を受け取って、薄桃色の羽二重で鶯餡を包んだ菓子を手に取った。見遣れば菓子の色合いの如く桜の合間に明るい色の葉が萌えている。花は散っても若葉が樹を彩り、時は流れてまた花は咲くのだと静かに目を伏せた。
 日々使う食器に自ら絵をつけたらより愛着が湧きそうですわ、とイングリドは選り抜いたマグカップに花を乗せていく。硝子杯に注がれた酒に桜と言うには色が濃いと首を傾げたが、更にミルクを注がれた杯が淡くほのかな桜に色を変えていく様に瞳を瞬かせ。ほんのり漂う桜酒の香と瞳に映る桜の繚乱に幸福を感じつつ、ファオは桜を描いた湯呑みに優しい色のポピーを描き足した。昨春作ったポピーの押し花を傍らに置き、あたたかな思い出を重ねていく至福にしばし心を委ねてみる。
 桜の霞と吹雪に瞳を細め、メビウスは綺麗ですねと霊査士と笑み交わしながら料理を味わっていた。花も然ることながら、若葉色の芹と紅い海老を筍で挟み桜塩で賞味するこの挟み揚げも実に美しい。桜がくるくると風に舞う様に興が乗ったのか、絵筆を置いたマーハシュリーが踊らないかと霊査士に手を差し伸べた。得意ではないけれど踊るのは好きですのと微笑む彼女を丁寧にリードして、花霞に抱かれるようにして緩やかに踊る。鶏と海老芋にじっくり火を通した炊きあわせを添えられた木の芽と共に口に運びつつ、アズフェルは天蓋と風を彩る淡く華やかな桜花に深い息をつく。舞を終えて頬を紅潮させている霊査士に「薄桃色の景色はテフィンの頬にもあったな」と笑って酒杯を手渡せば、杯に揺れる花に瞳を瞬かせた霊査士は自身の頬についた花弁を取り顔を綻ばせた。
 春の息吹を衣に閉じ込めた山菜の天ぷらをやはり桜塩で食べながら、桜酒の杯を傾けたエポシャーナは嬉しいなぁ〜んと白い尾を揺らす。幸せそうな彼女の表情に瞳を緩めたポダルゲーは白いノソリンを描き入れたタンブラーを手渡して、私はエポさんを描いたからエポさんは私を描いてくれと微笑んだ。慣れぬ手つきながらもエポシャーナは懸命に筆を動かし赤茶の鳥を描いていき、器の中では白ノソと赤茶鳥、ずっと一緒なぁ〜んねと感慨深げに呟いた。一緒だな、とポダルゲーも静かに頷きを返す。
 色を重ね、想いを形に残して。

●夢桜
 まるでせせらぎの代わりのように清かな音を連れ、吹き渡る風に乗って辺りを覆うほどの花弁が流れていく。紺青の髪に淡い桜が降り積もっていくのにも気づかず、リュートリアはマグカップに色を乗せる作業に熱中していた。花弁を乗せたまま色を乗せ、型抜きのようにして絵を描いていく。やはり息をつめるようにして、ピルルは筆先を震わせつつお猪口に桜を一輪描いた。ふうと息をついて出来上がりを眺めてみれば、ほんの少しよれている。けどそれもまた味わい深い感じがするから、きっと贈り相手も喜んでくれるだろう。風に連れられ空を流れる花を仰ぎ、素晴らしい色じゃと上機嫌でエンマは背の翼を揺らす。滑らかな筆捌きで桜を描けば実に不思議な絵に仕上がったが、本人は至って満足気に瞳を細めていた。
 柔らかに透きとおる空に、優しい色の花が咲く。
 この風景のように一片の曇りもない幸福に包まれて、アモウはかつてなかった程穏やかな心地で息をついた。傍らでは時が止まってしまえばいいのにとでも言いたげにサナが微笑んで。まだ婚約したばかりだけどいいかと二人は夫婦の湯呑みを取り替えて、互いの湯呑みを淡く色づけ桜の花弁を描いていく。花は二人を包むようにふわりと舞い降りて、静かに幾重にも降り積もっていき。
 これが使いやすいんよとアデイラが選んだ筆を取り、シュシュは湯呑みの内側に揺らめくような桜を描く。次いで小さな盃を手に取って、湖に降った星が睡蓮になったという話を思い出しちゃいましたと白い睡蓮を描いて差し出した。
 アデイラが嬉しそうに盃を眺めていると、花の香を連れた風が吹き再び花弁が空に舞う。花を愛でているとつい筆を止めてしまいそうで困るねとクラウディアは微笑んで、けど長く眺めたらそれだけ素敵な絵が描けるんよと言われて破顔する。傍らのシヤクは彩度を抑えた色を選んで湯呑みに藤を描いていた。淡い色がかえって潔い感じやねとの言葉に、菫のも作ってみたかったけどと口元に笑みを刷く。シヤクと己の湯呑みを眺め何やら連想したらしいクラウディアは瞳を瞬かせ、二人のそういう所が好きなんよとアデイラは彼らを纏めて抱きしめた。
 儚くも華やかな桜を抱いて渡る風に瞳を和ませ、マイトは皿に桜樹を描いていく。かの地ではこれ程鮮やかに春は感じられないだろうから、と何れ彼方の地より戻る友の為にこの地の春を丁寧に写しとり。何を描こうかと悩んでいたミヤクサは花のさざめきの中に鳥のさえずりを聴きとって、小鳥さんの絵にしましょうと手を打ち楽しげに絵筆を取った。彼女の独り言にアスティアは笑みを零し、自身のティーポットにツバメを描き入れてみた。鳥達の周りには無論咲き誇る桜達。優しい命を写し幸福な息をつく。枝に止まったメジロを見上げ、アデイラが可愛いんよ〜と声を上げた。彼女の傍らに腰を下ろしたユージンは、酒杯を片手に目を伏せ花のさざめきと鳥のさえずりに耳を傾ける。待ち続けることに疲弊した心を煌くような命の歌に浸していると、薄紗に包まれるようにアデイラに抱きしめられた。

 幸せな日々にも終わりは来るけど、辛い日々にも終わりは来るんよ。
 空も花も時も巡って行って、いつか必ず幸せを迎えるんやから。
 
 花降る音に紛れ――囁きが、届いた。


マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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作成日:2006/04/23
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