<リプレイ>
●春が薫る丘へ 澄み切った、青い空が広がる春の日のこと。 ピクニックに出かけるというノエルと共に、40人ほどの冒険者達が、丘を目指して歩いていた。 「花見など、街に来てから初めてじゃなぁ……」 一団の中でも前の方に位置しながら、笑みをこぼすのは蒼き瞳の双剣士・アオ(a47200)。一体どんな場所なのだろうかと、歩く彼の足取りは軽い。 「そろそろなのですよ〜」 街道を外れ、緩やかな坂道を進むうち、周囲には花々が広がり始め……楽しげに歩くノエルを先頭に、やがて一行は丘の上に辿り着く。 「ここかぁ……。ねえ、どれが夢見草なの?」 辺りを見回した白翠狼の牙・ルド(a43380)は、首を傾げながら問いを発する。植物については詳しい方だと思っていたけれど、ルドにとって、夢見草とは初めて耳にした植物だった。 「あそこに咲いているのが夢見草なのです〜」 それを聞き、ノエルが指差した先には、白い花をつけた小さな花が、春の風に吹かれながら揺れている。 「これが夢見草かぁ〜♪」 風迷舞散光・カルル(a02775)は、指差された先を見ながら瞳をキラキラと輝かせると、早速そこに駆けて行く。 ほのかに届く夢見草の香りは、どこか優しげな甘い香り。強すぎずも、弱すぎずも無いそれを、カルルは目を閉じながら感じる。 「結構咲いてるね」 カルルに続いてやって来た、ヒトの吟遊詩人・サキラ(a47412)は、辺りに咲く夢見草を軽く見回して呟く。これだけあるなら、自分が一輪摘んで帰る事くらい、十分に可能だろう。 「お花綺麗だね〜」 一方、夢見草の他にも丘に咲く花々は数多く……。それらを楽しげに眺めていた、惑星少女・ルナ(a32958)は、ふと何かを思い皆を振り返る。 「お腹すいちゃった……お弁当、食べない?」 ――太陽はすっかり空の上。確かにそろそろ時刻はお昼。少し気が早いかもしれないが、ここまで歩いて来た体には、その位で丁度良いのかもしれない。 「皆さんどうぞです〜」 ふと見れば、うっかり医師・フィー(a05298)がバスケットから取り出した、メロンパンとシュークリームを周囲の者達に配り始めている。 「甘くて美味しいので、歩いてきた疲れも吹き飛ぶこと間違いなしですよ〜♪」 「はい、どうぞ」 隣では、フィーの誘いで一緒にメロンパン作りに挑戦した、エルルもそれを配っている。 「カーディスさんも、はい」 「へぇ、これをエルルが?」 朱い城塞・カーディス(a26625)は、ありがとうと言いながら早速メロンパンに齧りつく。 丁寧に形が整えられたそれは、味の方もなかなか。エルルの料理の腕は、以前に比べて上達しているように思えた。 「わたしのほうは、楓華風のお弁当なの……」 エルル達のすぐ近くに腰を下ろした、想い紡ぐ者・ティー(a35847)は、湯葉巻きや煮つけ、炊き込みご飯などが入った重箱を広げると、メロンパンのお返しにと、おかずを少しお裾分けする。 「こんな風に過ごすのも、楽しいですわね……」 蒼桜雪の斎女・オウカ(a05357)も、春野菜とハムのサンドイッチに桜茶、そして桜餅を広げると、咲く花々を見つめながら微笑む。 「あ」 サンドイッチと紅茶を広げ、キーゼルをお昼に誘った、瘋詠緋骨・ズュースカイト(a19010)は、ふと思いついた様子で葉を取ると、草笛にして吹いてみる。 「キーゼルさんもどうですか?」 「そうだね。たまには、こういうのも悪くないかも」 ピクニックらしいと言えばらしいと、真似をするように草笛を吹くキーゼルと、ズュースカイトは一緒に草笛を鳴らしながら、のんびりと昼食を取る。 「ああ、いたいた」 そこにやって来た鍛冶屋の重騎士・ノリス(a42975)は、良ければ鑑定試合をしないかとキーゼルを誘う。互いに品を出し、どちらがより価値があるかを周囲の者達に決めて貰おう! という提案だったのだが……。 「鑑定、ねぇ」 キーゼルの持ち物といえば、がらくたばかり。勝ちを競う以前に、そもそも勝負になるかどうか……。 「……君の勝ちかなぁ」 ノリスが取り出した品を見て、戦う前に勝ちを譲るキーゼルだった。
●そよ風に揺れる夢見草 「はい、リーンちゃん。あーん」 彼らから少し離れた場所では、蒼の奏剣・セレネ(a35779)が謳わぬ偽花・リーン(a35793)に、スプーンですくったプリンを食べさせてあげようとしていた。 「じゃあセレネちゃんもお返……あっ」 同じようにスプーンを手にしたリーンだったが、ふと向こうに誰かの姿を見つけると、さささっとセレネの影に隠れてしまう。 「……ああ」 何事かと思ったセレネだが、そっちを見て何となく納得する。そこには、シナト・ジオ(a25821)と蒼剣の薬師・カレン(a17645)がいた。 「はい。暖かい紅茶もありますからね」 そうカレンが差し出したサンドイッチを受け取ると、それをおいしそうに食べたジオは、自分もと持参したパンプキンパイを取り出す。 「自分で作ったものじゃないけどなぁ〜ん」 貰ってばかりじゃ悪いから、と切り分けて。二人はそれらを食べながら、花を眺めて過ごす。……それを見つめる視線には気付かず。 「こんな過ごし方は久々かもな」 その脇の小道を通りながら呟くのは、未知なるものを求めて・スフィア(a20010)。 同居鳥のクロガネに手を伸ばし、お前も心地良いかと尋ねながら、スフィアは夢見草が良く見える辺りに腰を落ち着ける。 「ちょっと休憩しませんか? お弁当作ってきたんですよ」 午睡誘い詠う歌・ツバキ(a36964)は、サンドイッチを白華遊夜・アッシュ(a41845)に差し出す。 夢見草を渡したい人がいるのだというアッシュの為に、何が出来るかと考えたツバキは、お腹が空いては動けなくなるだろうからと、昼食を用意しておいたのだ。 「ツバキに一緒に来て貰えて、本当に有難いのです〜」 そう心から言いながら食事を終えると、アッシュはツバキに花の扱いを尋ねつつ、夢見草を摘む。 「……綺麗。良かったね、ベアトリーチェ」 夢見草を編んで、花冠を作った白骨夢譚・クララ(a08850)は、それを少女の名を持つ白き頭へと載せると、どこか影のある微笑みを、ベアトリーチェへと向ける。 「これが夢見草か……へぇ、何か……んー、何て言えば良いのかな?」 ストライダーの忍び・アリーナ(a46846)は、夢見草を前にそう呟く。面白そうだからと、ヒトの武道家・バリー(a45990)にくっついて来てみたが、こうしてみると言葉が思いつかない。 「きれい……だな」 そう呟いたバリーの言葉に、しっくり来たというように頷くアリーナ。 一方バリーは、花をしばし見つめた後、何もせずに踵を返す。 (「そのままにしておこう……」) もし、夢で再び、あいつに逢えたとしても。一体何を言えば良いのだろう? 空しさが残るくらいなら……そう、首を軽く振って、バリーは夢見草の元を去る。 (「こんなにもたくさんの命が芽吹き、今この時を一生懸命生きているんですね……」) 丘に咲く花々、それらに集う虫たち……それらを見つめながら、護りの蒼き風・アスティア(a24175)は歩くと、やがて夢見草の側に寝転んだ。 夢見草は摘まず、ただ瞳を閉ざして。どんな夢を見られるだろうかとアスティアは思う。 「素敵な植物、ね……ロマンチックで……」 そう微笑むのは、栗鼠を愛した櫻・アティ(a32376)。彼女の隣では、アティの美味しいお弁当を食べ終え、自分は幸せ者だと噛み締めている、櫻を愛する栗鼠・ガルスタ(a32308)がいる。 「香りも良いしな……」 アティの言葉に頷くと、香りとこの陽気に包まれていては、つい眠ってしまいそうだと笑みを漏らすガルスタ。だが、たまには昼寝なんてのも、良いかもしれない。 「ここが良いでしょうか……」 ゆっくりと丘を歩いていた、旅人の篝火・マイト(a12506)は、そう呟きながら目を細めると、弓弦を調整する。 この咲き誇る夢見草の中で、ひととき舞うために。 弦を鳴らし、風のようにしずしずと。そして、次の弦の音の後には、激しく。 その動きと共に、甘く優しげな香りもまた、ふわりと揺れる。 「ん……」 聖なる樫の護り手・ガイ(a42066)は、久遠の時を想う者・レラ(a40515)が欠伸を噛み殺したのに気付くと、少し眠れと告げる。 「この間のようなことはしない。心配するな」 折角花を見に来たのに。それに、前のような事をされても……と見つめるレラに、苦笑を浮かべつつガイが告げても、レラはしばらく頑張っていたが、それでもやがて眠ってしまう。 「いい夢を――」 しばらく、その寝顔を見つめていたガイは、ふと、その額に軽く唇で触れると、そう囁いた。
●あたたかい、ひだまりで 「……クロコさん、味はいかがでしょうか?」 蒼月を抱きしめる涼風・アンジェリカ(a22292)は、恐竜殿下・クロコ(a22625)にお手製サンドイッチを渡すと、その反応を見つめる。 「ああ、美味いよ」 勿論といった顔で頷くクロコ。しばらく、のんびり昼食を取った二人は、やがてまた散策をと歩き出す。……控えめに裾を掴んだアンジェリカの指先を、クロコがしっかりと握りながら。 「ね、ね、押し花の作り方、ちょこっと教えて欲しいのーっ」 一方では食事を終えた何人かが、ノエルと一緒に夢見草を押し花にしている。 「こんなふうに紙に包んで、こう……本にはさむのです〜」 夢見草は花が大きいから、ぐっと力を込めた方が綺麗に出来ると思うのです、と言いながら、ノエルは本の表紙を両手でしっかりと押す。 「あとはカラカラになったら出来上がりなのです〜」 早ければ3日程で乾燥するだろうとはノエルの言だ。 「なるほどねー」 ふむふむと頷いて、どんな素敵な夢が見れるかしらと、優水の旋律・サガラ(a17496)は想像する。 美味しいご飯いっぱいの夢? 作ってくれる人は、もう近くにはいないけれど……夢に見る位なら、良いだろうか……? 「夢見草も摘み終わったし、次は探検に出発だなぁ〜ん!」 一緒に押し花を作ってみた、骨を心に抱く・クーリン(a35341)は、ノエルを誘いながら元気よく歩き出す。折角初めての所に来たのだ、色んな場所を見て回らなければ、損というものである。 「ノエル君、あれはどんな花か知ってるかな?」 「あれはマーガレットなのです。その向こうは、ゼラニウムなのです〜」 黎明の燕・シェルト(a11554)は、花の心地よい香りを楽しみながら、この機会に花について教えて貰おうと、ノエルに尋ねながら歩く。そんなシェルトの質問に、ノエルは楽しそうに答えている。 「……ほえ?」 と、そんな中、ふと自分に誰かの視線が向けられているのに気付いて、ノエルは振り返る。 視線の主は、紅い魔女・ババロア(a09938)だ。 「すぐに私より、ずっと強くていい男のナイトになれそうね」 じーっと見つめながら、そう呟くババロア。何故ならば、大抵の事は気にしない性格というのは、とても男として大切な物だからだ。 そう、胸の事とか年齢の事とか……。 「……7歳年上なだけよ。いつか一緒に冒険しようね」 「はいなのです〜♪」 夢見草の事を教えてくれたお礼に、とワイルドファイアで手に入れた花を渡しながら、桁が1つ違うだろと突っ込まれそうな台詞を放つババロアだが、ノエルはやっぱり気にしていない様子で、にこにことお礼を言いながら笑っている。 「きもちいいなぁ〜〜ん……♪」 いつものように眠たそうな顔ながらも、そう空を見上げた甜睡姫・サチ(a13963)は、ノエル達を誘い、一緒に草の上に座りながら景色を眺める。 「あれは、マンゴーみたいに見えるなぁ〜〜ん……」 「向こうはブーツなのです〜」 「じゃあこっちは帽子なぁ〜ん!」 雲が何の形に見えるかを、一緒にあれこれ言い合ったりしながら過ごすうち、ポカポカした陽気に誘われて、サチはうとうと、瞼を落としていく。 (「穏やかな日は、気持ちが安らぐよね……」) 少し離れた場所では、身に秘せし鼓動の赤・ファスティアン(a46847)が、夢見草を編んで作った簡素なコサージュを手に、草の上に寝転がっている。 「夢見草か……。このままここで寝たらどうなんだろうな?」 そうふと浮かんだ疑問を漏らしながら、黒麒・クロ(a41958)は風竜の舞姫・セラ(a17990)が座っている、すぐ隣へと寝転がると、両目を閉ざして、そのまま本当に眠ってしまう。 「……この春の陽気だと、眠くなって来るな」 狭霧・アイズ(a05918)の様子に、儚い光の軌跡・リア(a03550)は笑うと、膝枕してあげましょうか? と彼の頭を膝に乗せる。 「……そういえば、アイズンはどんな夢が見たいんでしょうか?」 やがて、すぐ眠ってしまったアイズの頭を撫でながらリアが呟くと、それに応じるかのように、微かな声が零れる。 「夢なら、見られる……お前が、居るなら」 微かに彼女へと触れるかのように伸ばされる指先に、はにかむようにリアは微笑む。 「……キーゼルさん? 寝てしまわれたのですか……?」 日当たりの良い一角で、キーゼルと共に景色を眺めていた、微笑みの風を歌う者・メルヴィル(a02418)は、ふと彼の目が閉ざされているのに気付いて、小声で問いかける。 返事は無く、返るのは微かな吐息だけ。 メルヴィルはそれを見ると、そっと……起こさないように、気をつけながら慎重に、彼の頭を自分の膝の上へと運ぶ。 彼の目は、それでもまだ閉ざされたまま。 (「……素敵な夢。それは、きっと……」) こんな風に過ごす時間の事なのかもしれないと、そう思いながら。メルヴィルは、風に揺れる夢見草を見つめながら、微笑んだ。
青く澄んだ綺麗な空と。 眩しくきらめく暖かな太陽と。 優しげに広がる甘い香りと、それを乗せて運ぶ風に包まれて――。 冒険者達は、穏やかに流れていく春の一日を楽しむと、その夜は、とても穏やかな眠りについた。

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参加者:40人
作成日:2006/04/21
得票数:ほのぼの32
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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