ヒッヒッフー



<オープニング>


「南の山のふもとでモンスター退治です」
 ドリアッドの霊査士・シィル(a90170)は至極簡潔に言った。冒険者にとって、単純だが一番燃えられるのがモンスター退治だろう。だから皆、真剣に耳を傾けた。
「登山客を狙うそのモンスターは植物タイプで、毒の種を標的の口に向かって飛ばしてきます。被害者のひとりであるご婦人の談によれば、それを飲み込んでしまった途端にまるで陣痛の時のような痛みに襲われたんだそうです。そのため、モンスターはヒッヒッフーという名前がついたと」
 皆、真剣な表情を崩した。酒場が失笑に包まれた。いくらなんでもその名前はないだろうと思ったが、つけられてしまったものは仕方がない。
「名前は変ですけど、とても厄介な攻撃ですので、充分気をつけてくださいね」

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参加者
西の白き城壁・ダンドリオ(a14681)
漆黒の殺戮姫・リズ(a16566)
大地を翔ける蒼き翼・カナメ(a22508)
前進する想い・キュオン(a26505)
世界に一匹だけの猫・アルテミス(a26900)
紅刃の翔天使・ラビリス(a30038)
鮮紅を纏いし者・ファーラ(a34245)
始まりの龍・タツト(a37229)
御手先・デン(a39408)
深紅の翼・レオン(a42618)
四天裂く白花・シャスタ(a42693)
無垢なる刃・ソニア(a44218)


<リプレイ>


「どんなものなんでしょうね、陣痛っていうのは」
 西の白き城壁・ダンドリオ(a14681)は実のところソレを経験してみたいなどと思っている。何しろ男ではどうしたって味わえないものだ。
「んー、以前ちらっとそういう話を聞いたことあるけどにゃあ……聞いているだけで痛くなるというか」
「うん、それはもう大変だってさ」
 世界に一匹だけの猫・アルテミス(a26900)と漆黒の殺戮姫・リズ(a16566)が溜息をつく。陣痛は赤子を産む祝福の痛みである。その痛みが伴うからこそ、出産という出来事は何よりも記憶に残るのである。だがしかし! 必要もないのにそんなものに襲われたらたまったものではない。
 雑談をしているうちに、目的地の山のふもとに到着した。
 登山客を狙うということはわかっているから、登山道入口まで足を運べば遭遇は容易のはずだ。そう考えていた矢先、ヒュッと軽く空気を切る音が聞こえた。始まりの龍・タツト(a37229)の手甲に蔓が絡まっている。
「……出たか」
 グイと引っ張ると、木々の隙間から黄緑色の異形――ヒッヒッフーが出現する。茎の胴体には不気味な形の葉っぱと、しなりのよさそうな蔓がいくつも付いている。その下部には触手のような柔軟性に富んだ長いモノがいくつも生えており、これが脚となっている。そして頭部に当たる部分は、ウツボカズラのような容器の形。ここから毒の種を出すのだと思われた。
「始めようか。マスクをしてれば例の攻撃は平気だと思うけど、油断しないようにね」
 バンダナを口に巻いた前進する想い・キュオン(a26505)が矢をつがえ、まずはタツトを捕まえている蔓を狙った。通常の矢では細い蔓に当てるのは至難の業だが、今射たのはホーミングアロー。確実に断ち切ることができた。解放されたタツトは手に若干の痺れを覚えながらも自らに鎧聖降臨を施す。道着が口まで覆う忍び装束のように変形した。
「……さて、あちらはどう出るのか」
 覆面被る大地を翔ける蒼き翼・カナメ(a22508)はイリュージョンステップを刻みながら様子を見る。毒の種は脅威だし絶対に食らいたくないが、それだけに注意しているわけにもいかない。あの蔓も厄介な代物だ。
 とにかく攻撃しなければ始まらない。マントで口元を覆うダンドリオが大剣振り上げ、真正面から突っ込む。闘気十二分のデストロイブレードが敵の脚を襲った。轟音と共に粉塵が巻き上がる。
 効果はあった。濃霧のような埃の中から現れたヒッヒッフーの脚は、一部がなくなっていた。防御はそう高くないようである。
「できるなら徹底的に防御を固めよう。毒の種さえ防げれば、どうにかなるはずよ」
 紅刃の翔天使・ラビリス(a30038)も鎧聖降臨で口元をカバーする形状に防具を変える。功を焦らず戦いやすい形を作り上げるのも、冒険者の基本だ。
「名前は変でもモンスターはモンスターにゃ! 容赦しないからにゃ〜!」
 鳥の形を模した仮面を被ったアルテミスがじっくりと接近する。ザン! 斧が敵の蔓の一本を斬り飛ばした。達人の一撃を食らったヒッヒッフーは意気消沈し、ふらふらと震えた。この敵も、冒険者の強さをとうに感じ取っている。
「ファーラ、形はどうする?」
「感謝する、デン。フルフェイスアーマーで頼む」
 鮮紅を纏いし者・ファーラ(a34245)はウェポン・オーバーロードで武器に細かい刃の外装を加え、さらに目明し・デン(a39408)の鎧聖降臨で守りも強化する。
 これまでで、冒険者はだいぶ体勢を整えた。いかに毒の種と言えど、飲み込まなければ怖くはない。しかしそんな楽観を砕く一撃がやってきた。ヒッヒッフーの蔓が音速も超えるような速さで繰り出され、断罪執行を司りし闇の審判者・レオン(a42618)の太腿を打った。
「〜〜〜ッッ!」
 まるで電撃が走ったかのような痛みだった。たまらず腰を落としてしまう。
「毒の種など飛ばさなくても――この敵は強いですね。さすがにモンスター」
 太陽の目・シャスタ(a42693)が気を入れなおして矢を射る。後方からの急激な飛来物をヒッヒッフーは避けきれず、茎の真ん中に痛々しい裂傷を負った。
 レオンはリズのヒーリングウェーブで治癒してもらっている。若干痛みはひいたが、明日になればきっと痕が浮き出るだろう。やられた分はしっかりとお返ししなければ気が済まないというものだ。
「……その命、貰い受ける」
 冷静にデモニックフレイムをまっすぐに撃った。植物だから黒炎は効果抜群だった。しっかりと黒い火傷を焼き付ける。――と、レオンがまたその場にうずくまる。太腿が痛みではなくジクジクする。あの蔓自体に何か毒があるのかもしれなかった。
「希望のグリモアよ……我らに邪なる力から、身を護る加護を与えたまえ……」
 しかしそれ以上は悪化させない。無垢なる刃・ソニア(a44218)が祈りを捧げる。清らかな想いは毒を浄化した。
 今のところ、冒険者側が優勢だ。このまま、このまま攻め続ければ勝てる。だから手を抜かない。キュオンのライトニングアローが空気を引き裂いてうねる脚を貫く。タツトの力強い蹴撃が蔓をまとめて数本断ち切る。自身の持つ最高の技で壊す。戦闘とは破壊だ。できるだけ早く、敵の戦意を喪失させるが勝ちである。
「このまま一気に行こう。……はっ!」
 カナメのソニックウェーブがさらに切り刻む。周囲には敵の破片や体液がかなり飛び散っていた。
 その時だった。ヒッヒッフーの袋部分が傾いた。
 パン。乾いた音がして、丸いものが飛び出た。赤く小さい、見た目は少し美味しそうな種。――それが無防備なダンドリオの口に、スポンと入ってしまった。ゴクリ。飲み込んでしまう。
「お、お、お、おおお……?」
 数瞬もしないうちに悶え苦しむダンドリオ。脂汗が泉のように湧き、滝のように流れていく。一番懸念されていた毒の種をついに腹の中に納めてしまったのである。下腹部が焼かれるように痛い。とにかく痛い。とても動けない。恐るべきはヒッヒッフー。
「ちょ、ちょっと、大丈夫?」
 ラビリスが攻撃に行くのを中断して毒消しの風を起こす。幸運にも、それで症状は治まった。少しづつ楽になっていく。
「そんなに痛いのにゃ、陣痛って。……えい、気を取り直すにゃ、みんな!」
 いつまでも恐れてはいられない。アルテミスが深呼吸し、軽く腰を落とす。斧に稲妻を宿らせ――疾駆。そしてファーラも。
「鮮紅に沈め!」
 ふたつの電刃居合い斬りが敵の袋を削り飛ばした。武人の誇る上級奥義の連続、効いていないはずがない。今までで一番ぐらついている。無論まだ気は抜けない。デンは引き続き鎧聖降臨で仲間の守りを強めようと決め、アルテミスに発動させる。
「ん? 仮面があるから大丈夫にゃ」
「いや、弾き飛ばされる可能性もないではない。念のためだ」
「確かに、布や仮面程度では蔓で剥ぎ取られることもあるでしょうね」
 シャスタは覆面に手をかけ、このままでよいかと一瞬考えた。しかし今は攻撃を優先させるべきだろうと思い直す。すでに相手は瀕死の一歩手前。また何かされることがあっても、長くは持たないはずだった。雷光が空を裂く。ライトニングアローが見事敵の胴体に直撃し、シャスタはよしと拳を握った。
「あたしも攻撃に参加するよ!」
「では、同時にやるぞリズ!」
 もはや叩くのみと、リズとレオンが無数の黒い針を射出した。ヒッヒッフーの破片が花火のような断続的な音を立てて、紙のように儚く散っていく。
 敵が再度袋を向けた。とっさに口を両腕で庇う冒険者たち。だがそれはフェイクで、残っていた蔓を振るい、前衛にいたメンバーをまとめて打ちすえた。尋常でない痺れが襲ってきて脚を崩すが――。
「――! さらなる加護を――!」
 心までは崩さない。ソニアの祈りは絶えることなく流れている。冒険者は励まされ、立つ。対してヒッヒッフーは動きを止めている。
「体力が尽きたのかな? ……なら、これで終わりにさせてもらうおうかな」
 茎の胴体に吸い込まれたのはキュオン必殺の鮫牙の矢。恐ろしい形状の矢による傷口からは、すべてを搾り出すように体液が吹き出て、とめどなく地面を濡らす。
 決着はついた。敵の体は真ん中からポキリと折れ、一気に崩れ落ちた。


「またこういう変な名前のモンスターと戦ってみたいにゃ〜」
 アルテミスにそう言わしめたほどの奇妙な名前のモンスター、ヒッヒッフーは世界から消え去った。インパクトで言えば五本の指に入る相手だったと全員が思った。
「名も忘れられし冒険者よ……安らかに眠れ……」
 即席の墓に冥福を祈るタツト。死ねばもはや恨みはない。変な名前からも解放されたのだから、喜ばしいことであろう。
「さて、みんなお疲れ様。手強かったね」
「幸い重傷者は出なかったけど……怪我はない? 細かい傷でも遠慮なく言ってね」
 回復のできるレオンがリズが仲間たちに視線を送る。
「ダンドリオ、もう大丈夫なのか?」
 デンが言った。唯一陣痛(のようなもの)に見舞われた彼は苦笑いしきりだった。
「冗談じゃなくて死ぬかと思いましたよ。女性は本当にこれに耐えて子を産むのですか。男でよかったです」
 端的に感想を言い表した。本当はちょっと経験してみたかったからオッケー! などと言ったら呆れられそうなので黙っておく。
 しかし後になれば笑い話になるだろう。陣痛を語れる男などそうはいないだろうから。こんな風に思うと、一同ふっと微笑まずにはいられなかった。
 冒険者たちはもう脅威がないことを早く知らせるため酒場へ戻る。そして、この山が再び登山客で賑わうように願うのだった。


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