<リプレイ>
● 温かな日差しの小春日和。若葉が芽吹き、青々とした葉を茂らせ始めていた。 町を一望できる丘に柔らかな歌声が響く。 歌につられて丘に住む動物達が姿を現し、しばらくその歌に耳を傾けていた。 「お腹空いていたらどうぞ」 想い紡ぐ者・ティー(a35847)が自分を見つめる動物達に用意していた果実の入った袋を広げた。 「餌ならもっとあるなぁ〜ん」 ヒトノソリンの忍び・ダリアン(a47203)が拾い集めた木の実などを動物達に振舞った。敵意がないと知った動物達は警戒しつつも振舞われた餌を口に運んでいく。 「いま〜この丘の〜」 ティーが動物達に歌で語りかける。動物達は話しに耳を傾けながら、餌を頬張った。 「よーするに丘から立ち退いてくれってことだね」 慎重に説得しようと思っていたことをあっさりと六花を抱いて踊る風・カザネ(a41649)が伝える。 動物達はそれに反抗するように首を振った。 「野犬や猪とか君たちも怖いだろ? 鍋にしたいって人達だっているんだよ」 にっこりと微笑むカザネの鍋という言葉に反応したのは動物達だけではなかった。 密かに「猪鍋♪」とか「兎美味♪」と言っていたセイレーンの重騎士・セレスタイン(a47217)と風冽・エトル(a31989)はさっと視線をそらす。 「誰だろうねぇ〜そんな事を言っていたのは? ささ、餌をお食べ」 動物達の不信感漂う視線の中、取り繕うようにセレスタインはひだまり特製ペットフードをばら撒いた。 「町の人も動物さんと喧嘩することなく暮らしいから、新しい住処も探してくれるって言ってるの」 ティーの説得に動物たちは悩むように顔を見合わせる。住み慣れた丘を離れるのは動物達にとっても大きな問題なのだろう。まして、それが人の都合であればなおさらだ。 「それにほら、最近凶暴な動物が住み着いただろ。巨大蛙に食べられた鳥もいるみたいだし。ここよりず〜〜っと安全な場所を用意するよ」 「カザネの説明は説得じゃなくて脅迫なぁ〜ん……」 ぼそりとダリアンが呟く。 「直ぐに返事するのは無理だと思うから、考えててね」 ティーの言葉に動物達は頷きつつも不満そうだった。
● 「この中です?」 「そうみたい」 「そうみたいって大雑把です……」 あっけらかんと帰ってきたエトルの返事にアルシェーラはがくりと肩を落とした。 彼女たちのいる場所は巨大ミミズが発見された倉庫近くの茂みだった。気づかれないように身を隠している。 「中を確認すればはっきりするんじゃない?」 エトルはそう言って用意したロープを持って倉庫に向かった。 「あけるよー」 と声をかけて扉をおもいっきり開ける。 べちーーーん! ドアに寄りかかっていたのか、一匹のミミズがエトルの向かって倒れこんできた。 「ギャーーッッ! 気持ち悪い!!」 下敷きになったエトルの悲鳴が上がる。その声に釣られた様に数匹のミミズが顔を出したが、外が眩しいのか、倉庫の中にもぞもぞと入っていく。 「逃がしてはダメです!!」 蒼き空の翼と夢・ブレイズ(a34294)がとっさに粘り蜘蛛糸を放ち、引っ張る。 ずるりっ、と倉庫から一匹が引きずり出されると芋ずる式に何匹ものミミズが絡まりあって出てきた。 びちびち、くねぐねと倉庫前の空き地で数匹のミミズが暴れまわる。 「何匹はいっていたです??」 アルシェーラが顔を引き攣らせつつ、影縫いの矢を放った。 「早く助けてーーー!!」 まだ数匹のミミズの下敷きになったままのエトルが悲鳴ともつかぬ声で叫ぶ。 「逃げられないように捕まえていてくれ!」 ミミズに剣を突き立てる虚空に謳う魔狼・ヴァント(a37349)の無情ともいえる返事にエトルは蒼白になった。が、ヴァント達も助けるだけの余裕がない。暗い所を好むミミズだけに直ぐに動きを封じなければ逃げられてしまうのだ。 「いやーーーー!!」 再びエトルの悲鳴が上がる。 「逃げられるぞ、しっかり捕まえて!」 「ハイッッ!!」 ヴァントの指摘に涙交じりのエトルの返事が返る。 「もう少し我慢してくだされ」 しっぽふわふわ・イツキ(a33018)はエトルに声をかけると大きく息を吸い込んだ。 そして次の瞬間、獣のような咆哮があがり、周辺に響いた。 びりびりと肌で感じる咆哮にミミズ達が動きを止める。 「私のエゴが真っ黒に燃える!餌を掴めと轟き叫ぶ!拘束!暗黒縛鎖ぁ!」 そこに夢見る船長さん・リディア(a18105)がミミズ達を鎖で覆って地面に拘束する。続けてブレイズのシャドウスラッシュを放つ。 ミミズ達は切刻まれ、ぐったりと横たわる。 「これで大丈夫ですね」 麻痺した体を休ませるために、リディアはその場に座り込んだ。 「出て来れるかな?」 蜘蛛糸とミミズの隙間からブレイズがエトルに手を伸ばす。 「なんでこんな目に……」 エトルは泣き出しそうなのを我慢しつつ、木陰に避難した。精神面立ち直るのに少し時間がかかりそうだ。 「皆さん大丈夫ですか?」 ティーが心配して歌を歌い始める。ゆったりとしながらも力強い歌に体が癒されていく。 その歌を邪魔するように木々がざわつき始めた。よく見ると木々の間を何かが飛び跳ねている。 「蛙さん?」 振り返ったリディアの視界をロープの様な物が占めた。
● 「蛙はいりませ〜んっ ミミズさんは釣り餌にしたかったですけどぉ」 半べそ状態でリディアは叫んだ。 「今度はリディア殿でござるか……」 イツキは眼前に退治すべき巨大蛙がいるのに手が出せない状況に歯噛みした。 巨大蛙の口から伸びた舌にはリディアがぶら下っており、その後ろには二匹の蛙が控えていた。 「下手な手出しはできないね……」 蛙を睨みつつ、ブレイズはナイフを握りこむ。 「なら説得してみればいいだろう」 その言葉に振り返るとカザネが拘束されたミミズ達の上に立っていた。即席のステージの代わりらしい。 「人を食べても美味しくはないからね。まだ肉厚なミミズのほうが美味いんじゃないかい?」 つらつらと適当な言葉を並べ立ててカザネは歌う。だが、それは決して蛙達が聴いていて好ましい歌ではなかった。当然、餌です。といわれたミミズ達も。 カザネの歌に蛙とミミズが殺気立つ。 生き残ったミミズ達が激しく暴れだすが、怪我をしている上に拘束されているのでは思うように身動きはとれない。 だがミミズの動きが段々とゆっくりになってくる。 カザネの歌に重なるようにしてティーの口から眠りの歌が紡がれる。それに合わせてヴァントとブレイズも眠りの歌を歌い始めた。 獣の歌と眠りの歌の二つがミミズと蛙を揺さぶりかけていく。 他の冒険者達はその二つの歌を聞きながらじっと成り行きを待つしかなかった。 ガチャガチャと鳴る鎖の音がピタリと止まり、それと同時にドサッと音を立てて三匹の蛙が倒れこんだ。 「眠ったのか?」 「おそらく……」 ヴァントとブレイズは動かなくなったミミズと蛙を確認して、ほっと胸を撫で下ろした。 ミミズと蛙も眠りの歌三重奏には勝てなかったようだ。 「いまのうちに倒しましょう」 ブレイズはそう言って蛙に粘り蜘蛛糸を放って拘束した。 助け出されたリディアはふらふらしながら立ち上がる。精神的には萎えていたが、怒りの振りまくだけの気力は残っていた。 「町の人達と乙女をいたぶった恨みを晴らせとこの手が澱んで唸る! 灼熱! ブラックフレイム!」 振り下ろす手と同時に黒い炎が蛙に喰らいつき、焼き尽くしていく。 立て続けに三発放ち、リディアは力尽きたようにその場に座り込んだ。 「あとはお任せします〜〜」 そう言って目を閉じた。
● 「暴れないで少しは人の話を聴くでござる!」 イツキはそう言って裂ぱくの気合を放つ。 その気合に当てられてバタバタと狼の群れが倒れこむ。中には完全に意識を無くしたものもいた。 「歌が効く前に逃げられたり暴れられたりしたらどうしようもないね」 ため息をついてセレスタインは破れたペットフードの袋を入れ替えた。 始めは警戒していた狼もこちらに敵意がないと知るや、餌を奪おうと襲い掛かってきたのだ。 「いまのうちに縄で縛るなぁ〜ん」 ダリアンが荷物から荒縄を取り出して一匹ずつ狼の手足を括っていく。 「しかし、よくこれだけ大量のロープが用意できたでござるな」 イツキが呆れたように呟く。 仲間の何人かの荷物は餌を除くとほとんどロープや荒縄ばかりだった。危険な所へも赴く冒険者だから必要なものは捨てずにとっておくのだろう。 「これだけ用意していれば足りないってことはないだろうからいいんじゃないか?」 セレスタインはそう言って狼を一箇所に集めるために背負い袋に放り込む。 「こいつは鍋かな?」 最後の一匹は襲ってきたのでメイスでぶん殴ったイノシシだ。完全にこと切れている。 「一匹くらいはいいと思うでござるよ?」 イツキも止めずについでとばかりに近くに生えていた香草を積んだ。 「今夜は猪鍋なぁ〜ん♪」 上機嫌でダリアンは仲間と合流するため駆け出した。
「話も聞かずに逃げないでよ!」 エトルはそう言ってスーパースポットライトを放った。 丘の一角を眩しい光が照らし出す。その光の中に餌をばら撒くエトルの姿が煌々と浮かび上がる。 周囲にいた動物たち全てがエトルの姿に釘付けになる。 「ほ〜らご飯よー」 エトルがばら撒く餌に釣られて、たどたどしい動きで動物達は餌を口にした。 「捕まえなくても話に納得してくれればいいよな?」 ヴァントは餌を頬張る小動物達に獣の歌での説得を試みる。 「君達もツツジを見たいのかもしれないが、人の迷惑になる事はしてはいけないだろう…………ツツジってどんな花だっけ?」 首を傾げるヴァントを容赦ない動物達の突込みが襲った。 「二十……二十三と……こんなもんかな」 餌を与えながらエトルは集まった動物たちの数を数える。 「朝から説得した数を足せば結構な数になるんじゃないですか〜?」 逃げ出そうと暴れる鹿の手足を縄で括りながらアルシェーラは周囲をざっと見渡す。 「一度合流してみるか」 ヴァントの提案に冒険者達は頷いた。
● 「たくさん捕まえたんだね……」 町長は集められた動物を見ながら呆然と呟いた。 丘の入り口にはずらりと無数の動物達が群れをなしている。 その動物達の奥の隅っこではエトルやセレスタインが巨大な鍋に湯を沸かしていた。建前は死んでしまった動物を有効利用して片付けるためだ。 その横にはリディアが作った釣り餌用のミミズ団子の詰められた袋が並んでいる。 「どこか移住させられる土地はご存知ありませんか?」 腕に抱いた兎を撫でながらブレイズは尋ねた。 捕獲にいく際、動物達の移住はできないかと町の人達に話を持ちかけていたのだ。 「ここから山三つ越えた先に人の出入りのない山があるから、そこでいいんじゃないかと話し合いはまとまったよ」 町長の言葉に皆ほっと胸を撫で下ろした。 「ペットにしたいという人もいたからね」 「拙者も一匹飼うでござるよ」 イツキがロープを引いて連れて来たのは中型の犬だった。 「寝床の心配もないでござる。名前はジョン・犬・ヌッツォでござる」 名前を口にしたとたん、大人しかった犬がイツキの足に噛み付いた。皆がその姿を笑いを噛殺しながらみている。 「移住先についてはお任せしてもいいんですね?」 ブレイズに問いかけに町長は笑顔で頷いた。 「危険動物のほうも倒したからもう大丈夫です〜。安心してくださいです〜」 アルシェーラの言葉に町長は安堵した。 「そうですか、ありがとうございました。皆さんに頼んで本当によかったです。皆さんも花が見ごろになる頃には是非いらしてください」 「案外動物達も、ツツジを見に来ていたのかも知れませんね」 「お花見したかったのかな?」 動物達を見て微笑むブレイズとアルシェーラの言葉に町長も微笑んだ。

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参加者:10人
作成日:2006/04/19
得票数:冒険活劇1
ほのぼの7
コメディ5
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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