≪恋愛探求旅団 『赤い糸』≫桜吹雪の中で愛を契る日



<オープニング>


「と言うわけで、結婚式をするです!」
 深雪の優艶・フラジィル(a90222)は拳を握り締めて宣言した。

「なぁ〜ん?」
 壁に耳あり障子に・メアリー(a14045)が不思議そうに小首を傾げる。
「メアリーさんはあっち行ってて下さい。来ちゃ駄目ですなのです!」
「なぁ〜ん!? ジルちゃんが苛めるなぁ〜ん……」
 追い払われて戻って来た彼女を、蒼天の魔術師・スバル(a03108) がよしよしと優しく慰めてやった。妙にこそこそとしながら、フラジィルは声を潜めて計画を話す。
「取り合えず、ジルが素敵地元案内その三を実行する予定なのですが、折角の素敵な春の日に、お花見だけでは勿体無いと思うのです!」
「……別に……お花見だけでも十分……楽しいと思うんだけど……」
「だ、駄目です、ジルの決意を揺るがさないで下さい!」
 悲しみ絶ち切る刃となる・アルム(a12387) の純粋な一言に、フラジィルはふるふる首を振った。
「まあ、確かに結婚式は面白そうじゃのぅ」
 取り成すような斬舞姫・ルルティア(a25149)の言葉に、フラジィルは勢いを取り戻して話を続けた。
「それでですね、エンジェルさんたちが結婚式を挙げる桜の広場があるのです!」
 雪を思わせる純白の芝桜が作り上げる絨毯。
 言葉通りの淡い桜色をした枝垂桜がぐるりと円を描いて広場を囲んでいる。
 中央にある白い台の上には天使の彫刻が施されており、台の上にて新郎新婦は愛の誓いを交し合うのだ。時折吹く春風が花弁を巻き上げ、世界を淡い淡い桜色で包み込んでくれる。
「素敵なところなのですねぇ〜。フウアもジル先輩と一緒に行きたいですぅ〜」
 にこにこと笑みを浮かべながら、エンジェルの医術士・フウア(a23205) が賛同した。
「メアリーさんもピンク色は好きだと思うですし、桜はバッチリだと思うわけなのです」
「……お花見も出来るしね……なぁん……」
 フラジィルの言葉に、紅華の四葉・ショコラーデ(a18742)もこくりと頷く。結婚式を恙無く終えた後は、皆で宴会をするのが良いだろう。桜の広場で桜に囲まれて、甘いお菓子を食べたり甘い話をするのも良い。
 のんびり花見をし続けていれば、何れ日も沈んで美しい夜桜が見えるだろう。
「夜桜の下で初夜なんて……ス・テ・キ、なぁ〜んvv」
「ぴぎゃっ」
 振り向けば頬を染めているメアリーが居た。
 はっはっは、と余裕のある笑いを零しながらスバルもスバルで色々考えているらしい。
「うあーん、御二人とも思いっきり聞いてたんですかー!?」
 秘密にしようと思ってたですのに、とフラジィルが悲鳴を上げた。
 旅団の中で話し合っておいて今更、団長に秘密も何も無いのである。

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参加者
堕落論・スバル(a03108)
暁に誓う・アルム(a12387)
紫水晶ノ守り姫・リリ(a14019)
壁に耳あり障子に・メアリー(a14045)
朱想う青猫・コーシュカ(a14473)
紅華の四葉・ショコラーデ(a18742)
断罪の剣・カズキ(a19185)
旅団の裏にいらっしゃい・アクアローズ(a22521)
エンジェルの医術士・フウア(a23205)
凶殲姫・ルルティア(a25149)
NPC:深雪の優艶・フラジィル(a90222)



<リプレイ>

●スバルとメアリーの結婚式
 花弁の膜を風が押して、ぶわりと桜の舞う音が鳴る。
 春風が弾ける世界は淡く甘い色で包まれていた。足首に触れる柔らかな芝桜の花弁は純白に染められている。暖かな雪に埋もれているかのような錯覚を覚えた。空を見上げれば垂れ下がる枝垂桜が桜の美しさを存分に知らしめてくれる春色をして、さわさわ音を立てて揺れている。桜の広場の中央の、天使が彫られた白い台に新郎新婦が並んで立った。
 蒼天の魔術師・スバル(a03108)は藍色がかった黒いタキシードを着せられている。当初はちょっと気を使った程度のファッションであったのだが、周りが――主にひとりなのだが――花嫁さんが可愛くしてるときに花婿さんが格好良く決めないでどうしますか、と無理矢理着せたらしい。スバルは礼服を少し着崩して、気取り過ぎないように襟元を緩めていた。
 花嫁はふんわりと裾の広がったプリンセスラインの可愛らしいウェディングドレスを纏っている。春を思わせるような淡いピンク色の衣装はとても華やかで、壁に耳あり障子に・メアリー(a14045)に良く似合う。長い金の髪にはレースのベールを掛けて、真っ赤な薔薇のブーケを捧げ持ち、慎ましやかに未来の旦那様を見詰めつつ何故か息を荒くしていた。
 舞い散る桜も見えない様子ではぁはぁと息を吐く新婦を制すように、式の進行役を買って出た悲しみ絶ち切る刃となる・アルム(a12387)がコホンと咳をする。厳かに語りだし、新郎の名を呼んだ。
「……汝メアリーを生涯の伴侶とし……その健やかなる時も重傷の時も……」
 アルムの声が響く中、薄い桃色のワンピースを着た愛羅舞優・リリ(a14019)は頬を紅潮させて新郎新婦の背を見詰めている。自分もいつかはお嫁さんに、と思えば妙に恥ずかしく照れてしまって、隣に佇む断罪の剣・カズキ(a19185)にちょっとだけ身を寄せた。
「その命ある限り……真心を尽くすことを誓いますか?」
 問い掛けに答える新郎を見遣り、闇に抱かれて歌う蒼薔薇・アクアローズ(a22521)は穏やかに微笑む。暖かな春の陽射しの中で行う結婚式は、とても眩しいものに見えた。凶殲姫・ルルティア(a25149)は欠席している恋人を思い、一瞬だけ表情を少し渋いものへと変える。
 そしてアルムから同様の問い掛けをされた新婦は、誓うと元気良く返答した。が、
「メアリー、スバルちゃん一筋だから、ちょっとしか浮気はしないのなぁ〜ん♪」
 少し余計なことを言って結婚式中に耳をムニムニされるの刑に処される。
 紅華の四葉・ショコラーデ(a18742)も少しだけ今日は此処に居ない恋人を想いつつ、愛を契る二人の姿を微笑んで見守っていた。きちんとした礼服を着込みながらも、前のボタンが幾らか開いたままになっている辺り彼らしい。ライトブルーのドレスを着込んだ恋蒼猫・コーシュカ(a14473)は、目を輝かせて新郎新婦を見詰めていた。花嫁の可愛らしい姿は「綺麗」と評するに相応しく思えて、うっとりと立ち尽くす。二人は本当に御似合いに見えたから、コーシュカもいつか自分が花嫁になる日が来ればと夢を馳せた。
 誓いのキスをと促され新郎がベールに手を掛ける。

 むちゅー。

 慈しむように唇を重ねたスバルへ、メアリーは熱烈な口付け(子供は見ちゃダメ)を求める。其の侭押し倒しを敢行せんとする新婦を、新郎と進行役がどうどうと宥めた。まあこんな二人ですけど、とスバルが小さく咳払い。
「今まで以上にらぶらぶするから、皆、覚悟するのですー!」
 ちょっと理性が失われて見える新郎は、やはりとても嬉しそうで幸せそうで、エンジェルの医術士・フウア(a23205)や参列者たちは心の底から祝福の拍手を贈った。

●桜色の祝宴
 結婚式の後は宴会と相場が決まっている。
 花嫁花婿は溢れんばかりの祝福と、明るいからかいを受け幸せを噛み締める。コーシュカは事前に、桜の花弁の形をした、桜の香りがする焼き菓子を作ってきていた。近くの村を尋ね郷土料理を聞き、ホワイトガーデンの出身者である深雪の優艶・フラジィル(a90222)やフウアと共に頭を捻って美味しい食卓を用意したのだ。
 ショコラーデも近くの村から分けて貰って来た大量の品々を、ひょいひょい軽々と皆に配った。勿論お菓子だけでは無く美味しい料理も十分にある。アルムとアクアローズは白いティーカップに紅茶を注ぎ、ひとりひとりへ手渡してやっていた。ノンアルコールを徹底したドリンクが皆の手元に行き渡る。甘酒が満ちた杯には舞い降りた桜の花弁が浮かび、春の風情を感じさせてくれた。
 更にアクアローズは以前ホワイトガーデンの村で貰った葡萄酒も持参していたのだが、成年者が殆ど居ない為、瓶が空になるとも思えない。其れは勿体無い、しかし酔ってしまえば醜態を晒す可能性も低くは無い、とアクアローズは瓶を前に思い悩む。
 結婚した二人の為に、フウアはフォーチュンフィールドを使い周囲を幸福な輝きで満たした。更にフワリンを召喚したりなどして彼女が宴に花を添えるのを見、ルルティアは己も舞を披露しようと立ち上がる。アクアローズが微笑んで、音を奏でようと買って出た。
「危ないので少々離れて見ておれ」
 胸を張って言ったルルティアに、フラジィルが両腕を交差させてバッテンを作る。
「危ないことはしちゃダメです」
「え、えぇっ!?」
「今日は結婚式なのです。縁起でもないのです」
 危なく無い踊りなら良いですがと真面目な顔の彼女に言われ、ルルティアは力無く肩を落とした。
 其の頃のメアリーは、彼女の故郷であるワイルドファイアの出身集落で伝統的に使われている婚礼衣装に御色直しを済ませていた。鮮やかな原色の花を飾り、花嫁と示す為のペインティングを施して、嬉しそうに花婿へと抱き付いた。スバルは笑顔でぎゅうと抱き返し、可愛いですよと彼女の姿を褒めてやる。
 笑顔で二人を見ていたリリは、思い出したようにメアリーへ声を掛けた。なぁん、と不思議そうに首を傾げる花嫁に、そっと勿忘草のペンダントを差し出す。リリからの心の篭ったプレゼントに、メアリーは感激したようで、なぁんなぁんと嬉しげに鳴きながら彼女にがばっと抱きついた。
「ジル先輩の結婚式のときはぁ〜フウアに任せてですよぅ〜」
「わあ、楽しみにしてますね〜」
 にこにこと微笑んで言うフウアに、フラジィルは子供をあやすような口調で返す。のんびりと穏やかな午後のひと時を過ごしていた時、妙に呂律の回っていない声が背後から掛けられた。
「じるたん……よくみたら、い〜いぺたんだよねぇ……はぁはぁしちゃおっかなぁ……」
 振り返るとオレンジジュース片手に顔を赤くしているルルティアの姿。
 盛り上がる気配に呑まれたのか何やら錯乱しているらしい。ちょっと摘み食いしても良いよね、と手をわきわきさせている。
「ルルティアさん、ジュースで酔うのはどうかと思うのですが……!」
「いや、おやくそくってだいじだよね?」
「ひあああああっ!?」
 フラジィルが襲われていた頃、穏やかな春の陽光を浴びてフウアはぬくぬくと転寝をしていた。
 とても幸せそうな寝顔で、小さく寝言を呟きもする。
 宴会は和やかに進められた。

●夜桜舞う月夜に
 月明かりを浴びてひらひらと舞う夜桜は一層白みを増して、純粋な輝きを秘めている。音の無くなり始めた夜の端に独り佇み、ショコラーデは静かに桜を見上げた。いつか愛する女性と愛の誓いを立てることが出来る日は訪れるのだろうか、と流れ行く時を待つように目蓋を落とす。
 花嵐の向こうに見える星空を覗いて、リリは小さく息を吐いた。美しい光景の中、恋人と過ごせることに幸せを感じる。自分もいつかはと洩らしつつ、何を考えているのか顔を赤らめるリリを、カズキは酷く大切そうに見遣りながら、結婚と言うものについて考えた。何故なら彼にとって、彼女が何より大切なのだから。
 そろそろ、とアルムが呼び掛けて皆は帰り支度を始める。折角の夜だし、新婚夫婦の時間を作ってあげても良いだろうと考えたのだ。桜の広場を後にしつつ、自分の恋人がウェディングドレスを着た姿を想像する。どんなに綺麗なのだろうと思えば目元が緩んでしまった。
 白い花弁がちらちらと散る桜の下で、物思いに耽っていたらしいアクアローズも立ち上がる。何だか少しだけ羨まれて、自然と唇に笑みが浮かんだ。

 本日誓いを交わした御二人はと言えば、人の気配が去るのを知って互いの顔を見詰め合う。可笑しそうに笑みを浮かべて、他愛の無い言葉をひとつふたつ。どちらからとも無く寄り添って、肩を抱き寄せ唇を寄せる。軽く触れる程度で顔を離して、艶めく桜の世界に酔った。
 綺麗な桜は何処か温かく春の香りがして、二人の初夜の褥になるには相応しく思えた。
 ノソリン耳をムニムニしたりじゃれ合うような愛撫を重ね、しかし、
「う」
 何故かメアリーが小さく呻く。
「き、気持ち悪いのなぁ〜ん……」
「え?」
 色々と原因を考えるも、最終的には奥さんのおなかに視線が落ちる。
 勿論食べ過ぎだとか飲み過ぎだとかの笑い話では無くて、もっともっと大切なこと。
「えぇぇ?」
 旦那様は目をぐるぐるさせて、驚いたように声を洩らした。
 若しかすると今日の主役は花嫁花婿だけでは無くて、もうひとり、隠れていたのかも知れない。
 未だ明確な答えは無く淡い気配だけを感じさせる其の存在は、本当に微かながら、自分を主張し始めていた。そんな、春の夜の一日だった。


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参加者:10人
作成日:2006/04/19
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