極寒注意報



<オープニング>


 ノソリンを連れた小さな商隊が街道をのんびりと進んでいた。晴天の空。早春の風はまだ冷たいが、太陽の日差しは明るく暖かい。このまま何事もなく目的の町へ到着出来ると誰もが思っていただろう。
「ワッハッハッハ! そうは上手く行かないのが世の常、お約束!」
 声と共に数十人の男達が街道にバラバラと出現した。そのまま商隊を取り囲むように進路を塞いでしまう。商人達はうろたえて男達を見回した。全員が武装しており、逞しい体躯の持ち主である。
「お前達は……」
「この状況で何者かと訪ねるなよ?」
 誰何しかけた商人の言葉を、一際立派な体躯の大男が遮った。何故か頭に月桂樹で作られた冠をしているのが謎だが、緊迫した雰囲気に商人達は固唾を呑んだ。
「そう、我々は…… ランドアース大陸ダジャレ連盟の者だ!」
「……は?」
 冷たい空気が流れる。こころなしか、吹く風が先程よりも強まったように思えた。
「は?ではない! もっと感動せんか!」
「…………」
 憤慨する大男に、商人達は言葉が出ない。感動も何も、初めて聞く名前だった。
「どうも貴様らは解っておらんようだな。いいだろう、聞かせてやろう! この俺様のプリリアントなダジャレを!」
「「うおーー!」」
 大男が天を指差し高々と宣言すると、周囲の男達が大喝采を送る。
「ランドアース大陸ダジャレ連盟会長となった俺様の、最新にして斬新な究極ダジャレだ!貴様ら運が良いな!なかなか聞けぬ至高のダジャレだぞ……」
 勝手に盛り上がる男達、状況についていけない商人達。そんな彼らを見回して大男は軽く咳払いをすると大音量で叫んだ。
「『コンドル』が地面にめり『こんどる』!!」
 びゅうーーーーー!
 その瞬間、周囲にブリザードが吹き荒れる幻影が見えた気がした。商人達はあまりの寒さに凍りつき、真っ白になった。ちなみに芸の細かい手下がちゃんとコンドルの人形を用意して地面にめりこませていたりしたのだが、誰もそれに気付いていなかった。

「ダジャレ連盟と称する彼らはダジャレを聞かせた商人達から聴講料という名目で荷物を奪い、何処かに消えたそうです」
 霊査士のユリシアは頭痛を覚えながらも冒険者たちに霊査した内容を告げる。違う意味で疲れきってしまったらしい。
「馬鹿馬鹿しい話だと思われるでしょうが、商人達にとって被害は深刻です。被害者の中には精神的ショックの余り、寝込んでしまった方もいらっしゃいます」
 どんなに温かく部屋や布団を調えても『寒い……寒い……』と呟く商人の話を聞いて、さすがに冒険者たちの顔にも気の毒そうな表情が浮かんだ。
「これ以上の被害が増えない為にも早急に捕らえて下さい。次に現れる街道は解っていますので、商隊に扮して行けば彼らは襲ってくるでしょう。いえ、ダジャレを聞かせに出てくるのでしょう……」
 激しくなる頭痛を抑えてユリシアは深々と頭を下げた。
「皆さま、どうかよろしくお願い致します」

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参加者
明告の風・ヒース(a00692)
射干玉の捜索者・カルーア(a01502)
紫尾の発破娘・スイシャ(a01547)
ニュー・ダグラス(a02103)
引篭もり・セルロッタ(a04314)
放浪傭兵稼業・ダウザー(a05769)
夕暮れにまどろむ白い月・カレリア(a05885)
空心・メイノリア(a05919)


<リプレイ>

●街道から
 ゆっくりと流れる景色が、明告の風・ヒース(a00692)の瞳に反射していた。貴公子の風貌を持つ彼はそっと思索に耽っている。
「ごきげんよう。ブリリアントで高貴なヒースです。会長のダジャレに心が動いてしまった僕は、どっこい向こう岸に渡りかけているのかもという一抹の危惧が。皆にこの心のざわめきを悟られぬ様頑張ります……」
「……あのな、声に出てるぞ、声に」
 不良中年三枚目伝承・ダウザー(a05769)が、ヒースの肩を恐々つつきながら注意を促した。息を呑むヒース。
「聞かれてしまいましたね……」
「いや、勝手に喋ったんだろうが……」
 覗き穴から顔を離して振り向く彼を見て、ダウザーは一気に疲れを感じた。彼らが隠れている荷車の中は、仲間の荷物やニュー・ダグラス(a02103)の用意した数々の小道具等に占領されていて狭い。隅で膝を抱えて座っているストライダーの紋章術士・メイノリア(a05919)が落ち着いた瞳で二人を一瞥するとポツリと呟いた。
「もしかして同盟諸国って変人の宝庫?」
 さく。自分の事では無いと思いつつも心に矢が刺さる約二名。
「多いよね、変な団体」
 一方、外では商隊に扮した冒険者達が汗を流しながら荷車を押していた。近隣でノソリンを借りられず、引篭もり・セルロッタ(a04314)の提供してくれたメルだけではこの大荷物を到底引けない。となると、押すしかないのだ。
「ダジャレかぁ……親父ギャクとの違いはなんだろうな」
「メル、頑張ってね」
 背中に黄昏背負うダグラスの横では、引篭もり・セルロッタ(a04314)が御者の扮装で愛ノソリンに寄り添い励ましている。
「一方的につまらない芸を披露して荷物を奪っていくなんて……でも、どんな寒いダジャレが聞けるのかちょっと楽しみかもしれませんね」
 夕暮れにまどろむ白い月・カレリア(a05885)は憤慨しつつも未知の期待に胸をときめかせていた。紫尾の発破娘・スイシャ(a01547)が器用に荷を直しながら首を傾げる。
「拙者の村の伝統あるダジャレを伝えればいいでござるかな」
「駄洒落は奥が深いです……」
 颯爽とした男装姿で荷を押す射干玉の捜索者・カルーア(a01502)が淡々と言葉を添えた時。
「その通りだ!お若いの!」
 突如耳障りな大声で相槌が響き渡り、街道の両脇からバラバラと人影が躍り出てきた。中央に立つ大男の頭には月桂樹の冠。そう、噂のダジャレ連盟が見るからに怪しい商隊を全然ちっとも全く気にせず、のこのこ現れたのだ!

●駄洒落大決戦!なのか?
「聞いて驚くな、いや、むしろ驚いてくれ!俺達は、」
「あなたがランドアース大陸ダジャレ連盟、略してダジャレンの会長ね?」
 会長の口上を、カレリアの鋭い声が遮った。
「ぬう、どうしてそれを……!」
「逆に驚かされてどうする」
 このツッコミは、荷車内のダウザーさんと中継が繋がっております。
「そんな事はどうでもいいの。さあ、会長の座をかけて、私と勝負よ!」
「ほお、面白い。いいだろう、では俺様から……ぬが?!」
「そうはさせません!」
 立ち塞がったセルロッタがハイ・ビートのリズムで踊り出す。必殺のフールダンス♪で、会長を踊りの世界へ問答無用でご案内である。
「あなたの体力が上か、私の体力が上か、勝負です」
 趣旨を絶妙に間違えるセルロッタさん(23歳)。でも、そんな貴女が素敵です。
「ぬう!卑怯だぞ!ならば……お前ら、やってしまえ!」
 激しいダンスに翻弄されながら、会長が手下達に指示を飛ばした。わたわたと動き出す彼らを見てスイシャが一歩前に出る。
「盗賊(とうぞく)は党則(とうそく)に縛られているでござるな」
「「おおーー」」
 一瞬ざわめく会員番号1番〜20番(匿名希望)だったが、武器を構えると威圧の怒声を上げた。しかし彼女は涼しい顔で首を振る。
「危険(きけん)と言われても聞けん(きけん)」
 再びどよめきが起こった。
「す、素晴らしい!」
「感心している場合か!よし、俺だって。家を見てイエぇぐふっ!」
 スパーン!
 ダジャレを言い掛けた会員Aの後頭部にカルーアのハリセンがクリーンヒット!
「喝!!」
 そして無表情で叫んだ一喝、紅蓮の咆哮で周囲にいた手下数名が固まった。
「フールダンスで会長はフリーダンスよ。やるダンスよ〜」
 ダグラスの影縫いの矢に動きを封じられた会員Bはその掛け声に感動の涙を流した。
「ダグラス様やりますね……僕もずっと考えているのですが中々良い駄洒落が思い浮かびません。男として少々残念です」
 荷車内から覗き穴で状況を見守るヒースが唇を噛み締める。
 一方その頃会長は。
「ぬう!この!でりゃ〜!」
「まだまだですっ!」
 セルロッタと炎のダンス対決中です。しばらくお待ち下さい。

●決着
 戦況は冒険者の圧倒的有利で進んでいる。
「戦い(たたかい)は叩き合い(たたくわい)」
「くそ、ヤバい、逃げ……!」
 次々と紡ぎ出されるスイシャのダジャレに臆したのか、手下達は逃げの体勢に。しかし、その足元に矢が突き刺さる!
「な、何者だ!」
 荷車から飛び出した影に、叫ぶ会員C。
「何事にも動じない商人である」
 レイピアを構えたヒースは汗を拭いながら声高に宣言した。放ったのは勿論影縫いの矢。容赦なく打ち出されるそれに、動けなくなる手下続出中。
「ロープでお縄にかけるぞ!」
 それをダグラスが土塊の下僕に命じて手際よく縛っていく。メイノリアは、縛られた手下を前に尋問中だ。
「とりあえず、君たちはどうしたかったわけ?会員を増やしたかったとかあるの?」
「え、いや、えーと」
 彼女は会を発足した理由が本当にすごく気になるのだ。すいません、理由は特に無いんです、許して下さい。
「何だかな〜」
 彼にしてみれば撫でる位の感覚で、逃げる手下を殴って気絶させたダウザーは、その様子を見て溜息を漏らした。
 一方その頃会長は。
「はあ、はあ、お前、なかなか、やるでは、ないか……」
「あなたも、ね……」
 ダンス対決もいよいよ終盤。爽やかな汗を流した二人の間に友情は
「……芽生えませんっ」
 だそうです。
「もう休んで。後は私とスイシャさんに任せて下さい」
「セルロッタ殿、感謝するでござる」
 カレリアとスイシャが汗だくのセルロッタを両側から支えた。彼女は安心したように座り込む。
「覚悟は良いですか」
「ぜえぜえ、ぐはげっほっ、うぷ」
 疲労困憊でしゃがみこみ、咳き込む会長の前にカレリアが悠然と立った。
「行きます……!コンドルがへコンドル、ダジャレを言うのはダレジャ、猫が寝込んだ、イカはイカす、ブーツで打(ぶ)つでぇ〜」
「ちょ、まて、うぬぅぐは、げほっ」
 頬を染めながらも流れるように紡がれるダジャレ。舞い飛ぶコンドルや猫、イカにブーツはダグラス&黒子下僕演出です。お疲れさま!
 会長は声も出ず、呼吸困難中。さらに止めとばかりにスイシャの必殺ダジャレが炸裂した!
「『鼠』が『寝ず見』る。『牛』が笑う『うし』し。『虎』が『捕』らえられる。『あ、兎』が『合う詐欺』。『龍』が言う『理由』。『蛇』の重さは『ヘビー』。『馬』は『うま』かった。羊(ひつぎ)が執事(しつじ)と棺(ひつぎ)を運ぶ。『猿』が『去る』。『鳥』が『トリ』を務める。『犬』は『居ぬ』。『猪』が『愛の志士』(あ・いのしし)となる」
 どーーーーん!
「ぬおおおおぉぉぉ!俺には見える!光り輝く十二支のオーラが!!これこそが、ダジャレを極めた者だけが持つという伝説の黄金凍気なのか?!」
「まだ拙者未熟でござるよ」
「!!参っ……た!」
 素晴らしきダジャレに打ちのめされた一人の漢は、こうして月桂樹の冠を脱ぎ捨てたのだった。

●愛の?説教タイム
「まだまだ修行が足りません。まずは私がお手本を見せましょう。『猫』が『根っこ』に『寝こ』ろんだ」
 地面に正座させた元ダジャレンを前に、カルーアは精神修行を兼ねた3連駄洒落(注意1:存在しません)を淡々とした口調で言って聞かせた。防寒具を着ているのは駄洒落合戦の寒さ対策らしい。
「ああ、暑くなってきました……トウガラシだけに『モウカラ』ん!by『ヒー』ス」
 辛味を体験した時の感動を名前に織り込んだその渾身の句を、体に忍ばせていた唐辛子を撒き散らしつつ披露するヒース。「そんなに持ってりゃ暑くもなるって」という元ダジャレンの抗議も聞こえてません。
「ギャグを言って盛り上がるのはいいけどさ、もう少し人の迷惑にならない盛り上がり方しなよ。皆でコメディアンになるとかさ」
 冷静に言い聞かせるメイノリア。
「多分、いや、絶対売れないと思うけど。そういう場だけでもあれば気が済むんじゃない?」
 正しい、正しすぎるが故に元ダジャレン、涙が止まりません。
 正座のまま延々とカルーアの4連駄洒落(注意2:これももちろん存在しません)も拝聴した彼らは、真摯に更生を誓った、らしい。
「あてんしょん・ぷり〜ず。今から私達、似非『商隊』がダジャレ連盟ご一行様を牢獄までご『招待』致しま〜す☆」
 セルロッタの明るい声が、平和を取り戻した街道にこだました。

●後日?談
 連行された町で役人に引き渡された元ダジャレンは、冒険者達に頭を下げこう言ったらしい。
「おトイレします(おいとまします)」
「ああ……皆、便器(元気)でな〜♪」
 満足気な(?)涙を流しつつ爽やかに手を振ったダグラスだった。
 冒険者の酒場ではカルーアが霊査士のユリシアに淡々と報告を。
「彼らに『勝った』のですが、ちょっと寒『かった』ですね」
「……ご苦労様でした」
 一瞬気の遠くなりかけたユリシアはギリギリで持ち堪え、深々と頭を下げた。霊査士が戦闘以外で気絶する訳にはいかないのだ、多分。
「穴があったら入りたいかも……」
 同じ場所ではカレリアが恥かしさを紛らわすためか、ぐでんぐでんに酔っ払っている姿が目撃されている。
 最後にダウザーさん、一言お願いします。
「ダメだこりゃあ!」
 お後が宜しいようで。


マスター:有馬悠 紹介ページ
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