<リプレイ>
「愛の唄に涙を流すモンスター…ですか」 「え? 何か言った?」 衝撃の弾幕少女・ユーロ(a39593)が問うと、終焉の医術士・テルミエール(a33671)は、晴れ渡った空を見上げた。 「生前の、もはや取り戻すことの出来ない時間を悲しんでいるんだとしたら、それはとても切ないですよね?」 「そんなものかな」 昏冥に漂いし魂離る夢魔・シルフィー(a38136)はそっけない。 「そうですよ。だって、私達は、その思いを断ち切らないといけないのだから」 「きっと、好きな人への想いを残してモンスターになっちゃった女の人だったんだろーね……」 神戸電鉄のグリモア・スルット(a25483)は、そう言うと魔戒の疾風・ワスプ(a08884)とシルフィーを見た。 「ワスプさん、シルフィーさん、メインで頑張ってねー」 「俺かよ!」 ワスプは頭をかいた。出発前に歌姫のミーティアから教わった歌を思い出して、少しだけ顔をしかめたのは照れくさいものを隠すためか。 「歌に涙するモンスター……か。やり辛い相手だな」 「歌……ね。そんなん歌わなくても、勝てるような気がするんだけどな」 「なによー、戦う前から二人ともやる気なし? そんなんじゃモンスターに勝てないわよ?」 ユーロが口を尖らせると、まぁまぁとなだめる無垢なる茉莉花・ユリーシャ(a26814)。 「愛の歌で、泣き、動きを止めるモンスターですか……冒険者の頃の思い出が残っているのでしょうか?」 「恥ずかしい歌詞で固まったんだったら、何か嫌」 ユーロの言葉に苦笑いする一同。 「攻撃する敵を、歌で励ますのもおかしな話では御座るが……って、ハツネ殿は先ほどから何を?」 阿修羅剣・チカ(a42266)は言い、くるくるとステップを踏むのに忙しい、笑顔の舞娘・ハツネ(a00196)を見た。 「うん♪ せっかくだから、振り付けも考えてるの♪ アイドルとしては、恋の歌くらいはばっちり歌って踊れないとね♪」 それ違うと思う、とシルフィーがぼそりと言った時だった。天気にはそぐわない、生暖かい風が一同の間を吹きぬけた。 「あれ、なに?」 スルットが立ち止まって前を指差した。シルフィーの目が鋭くなった。 「噂をすればお出ましって奴だね」 街道の真ん中に、腰まであるざんばら髪の女性が立っていた。その両手は、ナイフよりもはるかに長い爪のようなものが指の数だけ突き出している。 「スルットは下がったほうがいいな」 すっと前に出るワスプ。ユリーシャが続いて前に出ると身構えた。 「……で、マジで歌うんか?」 ブラストウィンドを抜いたワスプの顔が心なしか紅潮していた。その背後で、黒い炎に包まれたシルフィーがため息混じりに言った。 「まじで歌うんだな。はぁぁ………」 「頑張ってね」 スルットの笑顔に促されるようにして、こほんと咳払いするワスプ。一瞬だけ頬の傷がひくついたような気がした。 「モンスター相手にラブソング歌うなんて聞いたら、親父が墓の下で卒倒しちまうぜ」 背後で、不意に鈴の音が響いた。え?となったワスプの背後で、踊り子衣装姿のハツネが、ステップを踏んでいた。体と尻尾の鈴がリズミカルな伴奏となった。モンスターは、その音に動きを止めた。 「今よ!」 ユーロの言葉に、ワスプが歌った。自分でも信じられないくらいの美声だった。 ♪貴女に愛を捧げたい 愛を言葉で届けたい 貴女の耳に 貴女の心に 「愛しています」と伝えたい 気付いて欲しい 振り向いて欲しい 貴女に愛を受け入れてほしい モンスターはその動きを止めたまま微動だにしなかった。ワスプの歌にあわせて、ちゃっかりシルフィーも歌っていた。だが、その顔はいささか照れくさそうで、それを押し隠そうと無理やりしかめっ面を作っていた。 「効いてますわ」 ユリーシャがそう言ったときだった。女の両手がすっと胸の前で組まれた。え? となったシルフィーの前で、女は両手を広げるかのように大きく振り払った。次の瞬間、冒険者たちを激しい衝撃波が襲った。ワスプとシルフィーは辛うじて踏みとどまったが、スルットとチカが吹っ飛ばされて叩きつけられた。 「きゃあッ!」 「カンサイ様ッ?」 立ち木に叩きつけられたスルットは動けなかった。 「な、何だ今のは!」 素早く飛び起きるチカ。 「こんなの聞いてないわよッ!」 突然の攻撃に悲鳴を挙げるユーロ。女が猛然と突っ込んできた。 「全然効いてねえじゃねえかッ! シルフィー、下がれ!!」 怒鳴ったワスプの眼前に迫る女。振り下ろされた女の腕をとっさに剣で受け止める。つばぜりあいとなったワスプが見たのは、いきり立つ女の姿だった。 「歌が効くんじゃなかったのかよ!」 女を突き飛ばすワスプ。その間に割って入ったのはユリーシャ。白いチャイナ服の裾がはためき、ユリーシャは女を掴むなり投げ飛ばした。土煙と共に地面に転がるモンスター。が、素早くはね起きると、体をしならせてダッシュしてきた。 「スルットさん、しっかりして下さい」 スルットを抱き起こすテルミエール。 「今のはラピート並に効いたわ」 ひしゃげたとんがり帽子をかぶり直しつつ呟くスルット。 「何わかんないこと言ってるんですか。回復しますね」 テルミエールのヒーリングウェーブが、傷を癒していく。 突進してくる女に、シルフィーは笑みを浮かべた。 「歌なんかで倒れてくれれば、冒険者なんかいらないよね?」 カドゥケウスの杖に黒い炎が集まると、それは異形の魔物の形となった。 「消えてなくなれ!」 放たれたデモニックフレイムは、突っ込んできた女に命中するや黒い炎に包み込んだ。が、女の動きが止まるどころか、スピードをあげてきた。慄然となるシルフィー。 「何度もさせないわよっ!」 ユーロのやじりがピタリと女に向けられると、ためらうことなく矢を撃った。稲妻のように走った矢は女の胴体を貫き、初めて女は動きを止めた。 「男の人が歌ってはダメなのですわね?」 首を傾げるユリーシャに抗議するユーロ。 「だったらおかしいじゃない! 男の人が女の人に歌う恋歌なのよ!」 「どっちにしても、歌なんかに頼ってちゃダメってことだね」 シルフィーは口の端に笑みを浮かべた。女が再び胸の前で腕を交叉させる。 「させへんで!」 スルットの頭上に描かれた紋章が、火球となって放たれた。だが、女の衝撃波とほぼ同時だった。 「くっ!」 「きゃっ」 衝撃波を食らって踏ん張るシルフィー。ユリーシャは衝撃波をかわしそこなって、吹っ飛ばされると立ち木に叩きつけられた。額から生暖かい感触が顔を伝い、強引にそれをぬぐって立ち上がる。 「みんな下がって♪」 前に飛び出したのはハツネだった。殺伐とした緊張感をまるで無視するかのように、ハツネは女に一礼した。 「下がれハツネ! こいつに歌は効かないぜ!」 怒鳴るワスプに、ハツネは首を振った。 「うん、分かってる♪ けど……」 ハツネの脳裏に、恋人の顔がよぎる。 「ラブは世界を救う……ってね♪」 軽やかな鈴の音が響き、ハツネがステップを踏んだ。歌の中身に、ええっ?となるテルミエール。それは、貴女から、愛する貴方への曲にすりかわっていた。呟くシルフィー。 「歌詞、逆になってるんだけど?」 「うきゅ♪」 ハツネは笑顔で歌いながら、そのステップをファナティックソングにすり替えた。それに気がついたチカは、無言でハツネの横に出た。 「拙者も踊るでござるよ」 「ありがとう♪」 ハツネの踊りに合わせて、チカがステップを踏む。 「モンスターが泣いてる!」 スルットの言葉に、全員が言葉を失った。女は、立ちすくんだまま涙を流していた。身構えていた両手が、一瞬下に下がる。その瞬間をチカは見逃さなかった。 「そこぉーっ!でごさる」 チカの刀が一閃すると、女に命中した。つんざくような悲鳴と共に女が後ずさり、はじめて我に返った様な顔を見せた。チカの一撃を食らったせいか、左手を押さえたまま冒険者たちを睨みつける。女が再び衝撃波を撃とうとした。 「何度もチャージさせないもの!」 スルットが、すかさず頭上に紋章を描き出す。それは大きな火球となって女目掛けて放たれた。女の衝撃波より早くエンブレムノヴァが炸裂し、女は大きくよろめいて後ずさった。 「そろそろ、とどめと行くか?」 飛び出すワスプ。 「正直女のモンスターってのはやりづらいが……」 ワスプは、目を充血させたまま睨みつける女と目が合った。 「善人を泣かす奴に情けは無用だ」 ブラストウィンドが音もなく一閃すると、女の左手が飛んだ。悲鳴を挙げて飛びのく女。ステップを踏みながら近づいたハツネのブレードダンス♪と共にサーベルが走り、女に命中した。 「愛する貴女に逢いたい♪」 ユリーシャが、女の懐に飛び込むと歌うように言った。 「この歌詞は、貴方の心の声ではないですか?」 ユリーシャの拳が炸裂した。ぐらりと傾く女の体に、もう一撃を叩き込むユリーシャ。が、反撃するかのようにユリーシャに女の一撃が命中した。がくりと膝をつき、倒れそうになるユリーシャ。 「ユリーシャさんっ!」 テルミエールが叫び、ユリーシャの頭上に光り輝く聖女が現れると、そっとキスをした。女の憎悪に満ちた瞳が向けられ、残った右腕を振り下ろそうとしたときだった。鈍い音と共に、モンスターの眉間をユーロの矢が貫いていた。仁王立ちとなる女。ハツネとチカのラブソングが響き渡り、女は、血の涙を流したまま崩れ落ちると動かなくなった。 「倒したでござるか?」 チカの言葉に、大きく安堵の息をつくスルット。テルミエールがへたり込みそうになり、ユリーシャが手を貸した。 「女のくせに……結構手ごわかったね」 冷たく言ったシルフィーの瞳は、複雑な光をたたえていた。 「どうして、男の人が歌ったのに効果がなかったんでしょうね?」 「難しいことは分かりませんが……」 テルミエールが答えた。 「恋歌と何かのかかわりがあったことは確かみたいです。この方を埋葬させてもらってもいいですか?」 「そうですわね」 「うん、ボクも賛成♪」 ユリーシャとハツネが頷き、モンスターは丁重に埋葬された。 街道沿いの立ち木の側にモンスターは埋葬された。 「貴方の魂が、いつか絆へと導きます様に……貴方の想いが、いつか愛する人に届きます様に」 テルミエールは一人呟くと、腰を上げた。 「帰りましょう」 ユリーシャの言葉に、全員が頷くとその場を後にした。去り際に、スルットが墓標代わりの木を振り返り、そっと言った。 「あの世で幸せにね?」

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参加者:8人
作成日:2006/06/10
得票数:冒険活劇12
ミステリ1
恋愛2
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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