麗しきその名は



<オープニング>


●再び
 ――魔鏡の女王。
 かつて、ある冒険者達が取り逃した危険極まる女性型モンスターである。
 供として魔鏡を従える彼女はそれと一対を成し。今も獲物を求め、その被害を拡大しているらしい。
 現在のソレが、ある沼地付近の森に留まっている事が判明したのは、つい先刻の出来事であった。
 当然、行方を眩ますその前にコレに対処せねばなるまい。
「……詳しい事は、報告書にある通りになりますが」
 銀髪の霊査士は、少しだけ憂いを帯びた表情で小さく嘆息した。
 誰かの仕事の引継ぎであるという事以上に、敵は極めて危険だった。それを知るが故に、彼女の表情は、僅かにも晴れない。
「好機です。珍しく魔鏡と女王には幾ばくかの距離があります。戦いが始まれば合流しようとはするでしょうが、叩くなら今しかありません」
「ああ……」
「魔鏡には別の冒険者の皆さんが、向かう筈です」そう付け加えた彼女は、皆まで聞く事も無く頷いた冒険者に、彼女は告げてやんわりと目を閉じた。
「成功を信じています。
 貴方方の冒険に、銀色の加護あらん事を――」

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参加者
終始の剣・ルミル(a12406)
赤と黒・シンジュ(a13972)
斬空術士・シズマ(a25239)
剛健たる盾の武・リョウ(a36306)
空色の花・ショコラ(a37565)
冷徹なる一矢・リーン(a40357)
多装武具装士・レクス(a41968)
凍月の蒼・エセル(a43317)
世界地図は血の跡・ハートレス(a43758)
ヒトの牙狩人・ルミナス(a46351)


<リプレイ>

●魔性
 それは、深い森の中……
「やっぱ、考えるより動く方がボクには合ってるよね。久々に腕が鳴るよ」
 空色の花・ショコラ(a37565)達十人は、彼女に出会った。
「ああ――」
 木々の切れ目から、黒衣のドレスが覗く。
 麗しき彼女を見るなり、終始の剣・ルミル(a12406)は、ほうと溜息を吐いた。
「――半年振りでしょうか、女王」
 霊査士から告げられた情報は、予想外のモノだった。
 以前取り逃がした敵への再挑戦が叶うだけではなく、対を成していた彼等が現在少し離れた位置にいるとは。まさに、話は彼女にとっては願ったりであった。
「……気を引き締めていこう。二の轍は踏めない」
 多装武具装士・レクス(a41968)に一同は頷く。
 視線の先の女王は、冒険者の一団をその視界の中に認めても、逃げる素振りすら見せていない。
「確かに美しい。女王の名には相応しいかもしれません。
 ですが……何というか、違和感を感じますよ、その美しさに」
 斬空術士・シズマ(a25239)の眉が僅かに顰められる。
 一見すれば、数十メートルの向こうに佇む敵はたおやかな女性型を取っている。
「話に違わぬ美人だね。腕さえ伸ばさなきゃ、良い目の保養になるんだが……」
 冗句交じりに犬蠱・ハートレス(a43758) 、
「まるで、奪った命で其の美しさを保って……いや、更に美しくなっているとも感じられるな」
 そして、苦笑い混じりに蒼月の葬華・エセル(a43317)。
 彼の言う、麗しくも恐ろしい彼女の美貌は、まさに壮絶と呼んですら相応しい。
 言うなれば、それは余りに鮮やか過ぎる毒花のようだった。匂い立つような艶と、破滅を連想させる歪んだイメージが混在している。
「確かに。分かり易い相手ですなぁん」
 白と黒・シンジュ(a13972)が静かに言う。
 彼女の周囲に広がる惨事は、彼女が見た目通りの存在ではない事を、何より如実に示している。
 引き裂かれた大型の獣、倒木。痕跡は、ここに到るまでもあちこちに残されていた。
「倒さねばならぬ相手だという事までも、良く」
 黒衣の影が、ゆらりと踊る。
 優雅に、その一挙動すらも美しく。
 敵と認めた冒険者の一団に向けて、ステップを踏み出していた。
 戦いが、始まるのだ。
(「美しい女の姿をしたモンスター。
 自我無きケモノに成り果てて尚、鏡に映る己に酔いしれているのかしら?」)
 ヒトの牙狩人・ルミナス(a46351)は、
(「不吉な鏡が映し出すものは、歪んだ肖像でしか無いと言うのにね……」)
 すぅと目を細めて弓を構える。
「さぁ、目覚めなさい―“NINELIVES”―」
 彼女の言葉が、力を持ちて凛と響く。妄執の邪を、払うその為に。

●淑女の嗜み
 戦いは、程無く始まっていた。
「ここで取り逃がす訳にはいかないからな。さっさと退治させて貰おうか――!」
 木々の間を、低い姿勢で冷徹なる一矢・リーン(a40357)が走る。彼は、外装の強化を得た強弓を手に、彼は遊撃の役に徹していた。
「さぁ、行くぞ」
 弦が引き絞られ、力ある一撃を放つ。
 木々の隙間を、彼我の間合いを鮮烈に引き裂いて光の軌道が敵に向かう。
(「馬鹿力だとは聞いていたが、これ程とはな。お近づきにはなりたくないものだ」)
 距離を取り、強烈な弓矢での一撃に徹する彼は直撃を受けてはいないが。強引に弾き飛ばされた矢を見れば、彼が苦笑いを浮かべるのも仕方ない事だった。
「確かにコレは、楽じゃないぜ……っ!」
 鎧聖の付与を纏った剛健たる盾の武・リョウ(a36306)が伸ばされた腕を大盾で凌ぐ。鋼鉄のように硬い女王の四肢は、盾にぶち当たり、硬質の音を立てていた。
(「こいつぁ……」)
 彼が感じたのは、痺れるばかりの威力である。
「だが、どんな不利でも――何としてもぶっ潰してみせるさ」
 平素の天真爛漫さを真逆に変えたショコラが、溜めた力を解放する。
 戦場は、圧倒的な怪力を持つ女王に有利に作用している。彼女のような力を望むべくも無い冒険者が、それに抗するには……
(「踏み込んで、叩き付ける。重さが無けりゃ、コイツには通用しない……!」)
 ショコラは、上段から重い斬撃を叩き付ける。しかし、これは届かない。怪力だけではなく、敏捷性も同時に有する女王は、ひらりと嘲るように一撃をかわしていた。
「召還獣無し。ついでにコレに、魔鏡かよ」
 首筋を伝うのは冷や汗。リョウは、半ば呆れたように呟いていた。
 彼女に接敵する役目を負った仲間達は、一様に苦戦を余儀なくされている。その身に備える「完璧なる盾・魔境ナルシス」を持たぬとは言え、彼女はやはり女王だった。
 悠然と戦場を支配するクエスターは、未だ余力十分に彼等を見下しているかのよう。
(「もし、魔境とコレが合流したなら……」)
 エミルの中を、冷たい予感が駆ける。
(「いや、それでも私は自分の出来る事をするだけだ」)
 彼が繰り出した黒炎が、女のシルエットを焦がす。
「……後悔させてやらなければな!」
 余裕めいた女王が口惜しい。
 距離を詰めたレクスが、鎖に連なった己の得物を撃ち出す。
 コレは、彼女を捉えるには到らないが……連携の布石だった。
「ハートレス!」
「はいよ、了解っ!
 とは言え、掴まれるのは、御免だからな……」
 一瞬生まれた隙に、回りこむようにしたハートレスが蹴撃を放つ。
 光の弧は、体勢の乱れた女王のドレスを斬り散らした。
「ひゅう、ちったぁ効いたか?」
「いえ――あの見た目に惑わされないように……!」
 ハートレスに続き、目にも留まらぬ電光石火で得物を振り抜いたのはルミルだった。
 女王が体勢を取り戻すより先に、彼女の放った不可視の刃は更に一撃切り裂いた。
「……決して、こんなモノではありません……!」
 ルミルの見据える敵は、ドレスの裾を小さく持ち上げ優雅な一礼をする。
 そして、ダメージに余裕めいた「お遊び」を辞めていた。
「これからが――」
 ぐねぐねと質量を増した鞭のような腕がだらりと地面に横たわる。絶世の美女が、非人間的なフォルムに変わる時、彼女はその真価を示すのだ。
 一敗地に塗れた剣士は、その恐ろしさを嫌と言う程知っている。
「――本当の、勝負です!」

●腕(かいな)
「噂に違わぬ強さ。戦っている最中でさえ、美しいと感じる。正に魔性の美貌か――」
 エミルが、乾いた呟くを漏らす。
 戦闘は、刻一刻と壮絶さを増している。攻め始めた女王は、まさにその真価を発揮しようとしていた。
「私としては、もう少し楽に報酬のいただける仕事の方が好みですが……なぁん」
 宙空に長剣で紋章術を描き出したシンジュは、連なる葉の鎖で女王を縛り上げていた。不敵に嘯く彼女の表情は、平素と殆ど変わらないが。決して、余裕があると言う訳では無かった。
「……っ、私は、主とは違って敵の姿形に興味はありませんし……っ……」
 ギリと歯を噛み締める彼女は、自らの束縛が弾き飛ばされる瞬間を見ていた。
 流石にこの拘束が通用しないという事は無いが、効果がどこまで続くかは運次第。自由を取り戻した女王は、再び苛烈な攻め手に出る。
「来ますよ――!」
 華麗なステップを踏み、残像すら残す一撃で彼女を薙いだシズマが叫ぶ。
 女王のだらりと伸びた腕は幾度目か。再びぐにゃぐにゃと波打ち、力を溜め始めていた。
 ヴン――ッ!
 ノイジーな風切り音を立てて、鞭のように腕がしなる。
 しならせながらその長さを増す腕は、指先は。分かっていても避け難い薙ぎ払いだった。
「冗談は、その腕の長さだけにして欲しいものだな……!」
 リーンと、ルミナス。距離を取る弓手の二人はこの一撃を受けなかったが、残りの八人はそうはいかない。回復手の少なさから消耗は避けられぬ。グリモアの加護に拠る守りを以ってしても、体力に優れないエミルは、この一撃を耐え切る事が出来なかった。
「――ッ!」
 弾き飛ばされた彼は、顔から地面に叩きつけられ、動けなくなる。
「……仕掛けます。気に入って頂ければ幸いですわ」
 ルミナスが、リーンが弓を引き絞る。攻めに出た一瞬、女王に出来る隙を見逃さず。
 二人は、一直線に雷光の矢を解き放った。
 ざむと生々しい音を立てる一撃は、女王の胸を抉る。
 これは――効いていた。
「畳み掛けろ!」
 体力に優れたリョウは、正面から彼女に挑む。
 護天を従え、鎧聖を纏う彼は……彼女と打ち合いの形を選んでいた。
 彼の聖気を帯びた一撃が、鉄槌となって振り下ろされ、
「行くぞ――!」
 ショコラの重い一撃がそれに続く。
 ギ――!
 女王が、禍々しい呻き声を発する。
「は――!」
 青白い電光纏ったレクスの斬撃、
「これで、どうだ!」
 ハートレスの蹴撃が連なっていく。
 華麗な連続攻撃は、少なからず無勢の女王を追い詰め始めてはいたのだが。
 これで終わる程、彼女は甘くは無かった。
 腕がしなる。指が伸びる。
「な――!」
 レクスの視界の全てを埋め尽くすように広がった彼女の五指は、 彼が後退するより早くその全身を絡め取っていた。
「――っ……」
 何かが折れる嫌な音が響き、喉の奥から空気と、苦鳴の声が漏れる。
「……く……!」
 デ・ジャヴにも等しい光景に、ルミルは口惜しく唇を噛んだ。
 そして、二度目を、許す訳には行かぬ――決意を新たに弾かれるように地を蹴った。

●花を摘む
「断ち切る!」
 戦場を、シズマが華麗に舞う。
 まさに美しき翔剣士の戦いを見せる彼は、減った前衛で良く彼女を凌いでいた。
 譲らぬ死闘は、消耗戦の様相を呈していた。
 幾度も、幾度も女王はその御手を振るい。
 幾度も、幾度も冒険者達は諦めずに剣を向けた。
 女王が、ハートレス、ショコラを倒せば、リョウ、リーン、ルミナスが苛烈にやり返す。
 ギリギリの天秤は、戦いの中でどちらに傾くかを決めかねているようであったが……
 最終的に僅かにそれを傾けたのは――勝利への一念だったのだろう。
 ヴン――!
 風を裂く豪腕を一撃を、ルミルは掻い潜る。
 彼女が間合いを走ると同時に、シンジュの紋章術が今一度女の肢体を縫い止めた。
「今ですなぁん!」
 女王には余力がある。
 そして、パーティには傷を負った者が多い。この一撃で決めきらなければ、勝ち目は薄い。
 ルミルのサーベルが、高く啼く。
 幾条も閃いた薔薇の剣戟は、一連、二連、三連、そして四連の死連撃。
 大輪の薔薇を咲かせて、彼女を見事摘み取っていた。
 麗しきシルエットが崩れ落ちていく。
「ふ――」
 言葉を発する事すら出来ず、ルミルは脱力した。
 見事な逆転の一撃は、まるで健闘に天から与えられた褒美のようだった。

●物語の終わり
 戦いを終えた森に、静寂が戻る。
 女王とナルシス。対の魔性の片割れは、今、この地に滅びた。
「手強かったが、何とかなったか」
 傷に顔を顰めながら、レクスが呟く。
 もう一方の結末は分からぬが、取り敢えず最悪の事態は防げたとは言えよう。
「……さようなら、麗しき惨酷な女王よ」
 エセルの視線は、風化し風に溶けた女王を追うかのようだった。
 願わくば、次の彼女の生にこそ安寧を。冒険者の本分逸れず、無辜の民を殺める事等無いように。

 かくして、麗しき女王は滅んだ。
 幾度と巡る暗闇の童話の結末は、魔鏡ナルシスの運命に託されたのだ。
 無論――その結末がどうなったのかは、又別の物語の記す所になるのだが。


マスター:YAMIDEITEI 紹介ページ
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死亡者:なし
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