<リプレイ>
●魔性 それは、深い森の中…… 「やっぱ、考えるより動く方がボクには合ってるよね。久々に腕が鳴るよ」 空色の花・ショコラ(a37565)達十人は、彼女に出会った。 「ああ――」 木々の切れ目から、黒衣のドレスが覗く。 麗しき彼女を見るなり、終始の剣・ルミル(a12406)は、ほうと溜息を吐いた。 「――半年振りでしょうか、女王」 霊査士から告げられた情報は、予想外のモノだった。 以前取り逃がした敵への再挑戦が叶うだけではなく、対を成していた彼等が現在少し離れた位置にいるとは。まさに、話は彼女にとっては願ったりであった。 「……気を引き締めていこう。二の轍は踏めない」 多装武具装士・レクス(a41968)に一同は頷く。 視線の先の女王は、冒険者の一団をその視界の中に認めても、逃げる素振りすら見せていない。 「確かに美しい。女王の名には相応しいかもしれません。 ですが……何というか、違和感を感じますよ、その美しさに」 斬空術士・シズマ(a25239)の眉が僅かに顰められる。 一見すれば、数十メートルの向こうに佇む敵はたおやかな女性型を取っている。 「話に違わぬ美人だね。腕さえ伸ばさなきゃ、良い目の保養になるんだが……」 冗句交じりに犬蠱・ハートレス(a43758) 、 「まるで、奪った命で其の美しさを保って……いや、更に美しくなっているとも感じられるな」 そして、苦笑い混じりに蒼月の葬華・エセル(a43317)。 彼の言う、麗しくも恐ろしい彼女の美貌は、まさに壮絶と呼んですら相応しい。 言うなれば、それは余りに鮮やか過ぎる毒花のようだった。匂い立つような艶と、破滅を連想させる歪んだイメージが混在している。 「確かに。分かり易い相手ですなぁん」 白と黒・シンジュ(a13972)が静かに言う。 彼女の周囲に広がる惨事は、彼女が見た目通りの存在ではない事を、何より如実に示している。 引き裂かれた大型の獣、倒木。痕跡は、ここに到るまでもあちこちに残されていた。 「倒さねばならぬ相手だという事までも、良く」 黒衣の影が、ゆらりと踊る。 優雅に、その一挙動すらも美しく。 敵と認めた冒険者の一団に向けて、ステップを踏み出していた。 戦いが、始まるのだ。 (「美しい女の姿をしたモンスター。 自我無きケモノに成り果てて尚、鏡に映る己に酔いしれているのかしら?」) ヒトの牙狩人・ルミナス(a46351)は、 (「不吉な鏡が映し出すものは、歪んだ肖像でしか無いと言うのにね……」) すぅと目を細めて弓を構える。 「さぁ、目覚めなさい―“NINELIVES”―」 彼女の言葉が、力を持ちて凛と響く。妄執の邪を、払うその為に。
●淑女の嗜み 戦いは、程無く始まっていた。 「ここで取り逃がす訳にはいかないからな。さっさと退治させて貰おうか――!」 木々の間を、低い姿勢で冷徹なる一矢・リーン(a40357)が走る。彼は、外装の強化を得た強弓を手に、彼は遊撃の役に徹していた。 「さぁ、行くぞ」 弦が引き絞られ、力ある一撃を放つ。 木々の隙間を、彼我の間合いを鮮烈に引き裂いて光の軌道が敵に向かう。 (「馬鹿力だとは聞いていたが、これ程とはな。お近づきにはなりたくないものだ」) 距離を取り、強烈な弓矢での一撃に徹する彼は直撃を受けてはいないが。強引に弾き飛ばされた矢を見れば、彼が苦笑いを浮かべるのも仕方ない事だった。 「確かにコレは、楽じゃないぜ……っ!」 鎧聖の付与を纏った剛健たる盾の武・リョウ(a36306)が伸ばされた腕を大盾で凌ぐ。鋼鉄のように硬い女王の四肢は、盾にぶち当たり、硬質の音を立てていた。 (「こいつぁ……」) 彼が感じたのは、痺れるばかりの威力である。 「だが、どんな不利でも――何としてもぶっ潰してみせるさ」 平素の天真爛漫さを真逆に変えたショコラが、溜めた力を解放する。 戦場は、圧倒的な怪力を持つ女王に有利に作用している。彼女のような力を望むべくも無い冒険者が、それに抗するには…… (「踏み込んで、叩き付ける。重さが無けりゃ、コイツには通用しない……!」) ショコラは、上段から重い斬撃を叩き付ける。しかし、これは届かない。怪力だけではなく、敏捷性も同時に有する女王は、ひらりと嘲るように一撃をかわしていた。 「召還獣無し。ついでにコレに、魔鏡かよ」 首筋を伝うのは冷や汗。リョウは、半ば呆れたように呟いていた。 彼女に接敵する役目を負った仲間達は、一様に苦戦を余儀なくされている。その身に備える「完璧なる盾・魔境ナルシス」を持たぬとは言え、彼女はやはり女王だった。 悠然と戦場を支配するクエスターは、未だ余力十分に彼等を見下しているかのよう。 (「もし、魔境とコレが合流したなら……」) エミルの中を、冷たい予感が駆ける。 (「いや、それでも私は自分の出来る事をするだけだ」) 彼が繰り出した黒炎が、女のシルエットを焦がす。 「……後悔させてやらなければな!」 余裕めいた女王が口惜しい。 距離を詰めたレクスが、鎖に連なった己の得物を撃ち出す。 コレは、彼女を捉えるには到らないが……連携の布石だった。 「ハートレス!」 「はいよ、了解っ! とは言え、掴まれるのは、御免だからな……」 一瞬生まれた隙に、回りこむようにしたハートレスが蹴撃を放つ。 光の弧は、体勢の乱れた女王のドレスを斬り散らした。 「ひゅう、ちったぁ効いたか?」 「いえ――あの見た目に惑わされないように……!」 ハートレスに続き、目にも留まらぬ電光石火で得物を振り抜いたのはルミルだった。 女王が体勢を取り戻すより先に、彼女の放った不可視の刃は更に一撃切り裂いた。 「……決して、こんなモノではありません……!」 ルミルの見据える敵は、ドレスの裾を小さく持ち上げ優雅な一礼をする。 そして、ダメージに余裕めいた「お遊び」を辞めていた。 「これからが――」 ぐねぐねと質量を増した鞭のような腕がだらりと地面に横たわる。絶世の美女が、非人間的なフォルムに変わる時、彼女はその真価を示すのだ。 一敗地に塗れた剣士は、その恐ろしさを嫌と言う程知っている。 「――本当の、勝負です!」
●腕(かいな) 「噂に違わぬ強さ。戦っている最中でさえ、美しいと感じる。正に魔性の美貌か――」 エミルが、乾いた呟くを漏らす。 戦闘は、刻一刻と壮絶さを増している。攻め始めた女王は、まさにその真価を発揮しようとしていた。 「私としては、もう少し楽に報酬のいただける仕事の方が好みですが……なぁん」 宙空に長剣で紋章術を描き出したシンジュは、連なる葉の鎖で女王を縛り上げていた。不敵に嘯く彼女の表情は、平素と殆ど変わらないが。決して、余裕があると言う訳では無かった。 「……っ、私は、主とは違って敵の姿形に興味はありませんし……っ……」 ギリと歯を噛み締める彼女は、自らの束縛が弾き飛ばされる瞬間を見ていた。 流石にこの拘束が通用しないという事は無いが、効果がどこまで続くかは運次第。自由を取り戻した女王は、再び苛烈な攻め手に出る。 「来ますよ――!」 華麗なステップを踏み、残像すら残す一撃で彼女を薙いだシズマが叫ぶ。 女王のだらりと伸びた腕は幾度目か。再びぐにゃぐにゃと波打ち、力を溜め始めていた。 ヴン――ッ! ノイジーな風切り音を立てて、鞭のように腕がしなる。 しならせながらその長さを増す腕は、指先は。分かっていても避け難い薙ぎ払いだった。 「冗談は、その腕の長さだけにして欲しいものだな……!」 リーンと、ルミナス。距離を取る弓手の二人はこの一撃を受けなかったが、残りの八人はそうはいかない。回復手の少なさから消耗は避けられぬ。グリモアの加護に拠る守りを以ってしても、体力に優れないエミルは、この一撃を耐え切る事が出来なかった。 「――ッ!」 弾き飛ばされた彼は、顔から地面に叩きつけられ、動けなくなる。 「……仕掛けます。気に入って頂ければ幸いですわ」 ルミナスが、リーンが弓を引き絞る。攻めに出た一瞬、女王に出来る隙を見逃さず。 二人は、一直線に雷光の矢を解き放った。 ざむと生々しい音を立てる一撃は、女王の胸を抉る。 これは――効いていた。 「畳み掛けろ!」 体力に優れたリョウは、正面から彼女に挑む。 護天を従え、鎧聖を纏う彼は……彼女と打ち合いの形を選んでいた。 彼の聖気を帯びた一撃が、鉄槌となって振り下ろされ、 「行くぞ――!」 ショコラの重い一撃がそれに続く。 ギ――! 女王が、禍々しい呻き声を発する。 「は――!」 青白い電光纏ったレクスの斬撃、 「これで、どうだ!」 ハートレスの蹴撃が連なっていく。 華麗な連続攻撃は、少なからず無勢の女王を追い詰め始めてはいたのだが。 これで終わる程、彼女は甘くは無かった。 腕がしなる。指が伸びる。 「な――!」 レクスの視界の全てを埋め尽くすように広がった彼女の五指は、 彼が後退するより早くその全身を絡め取っていた。 「――っ……」 何かが折れる嫌な音が響き、喉の奥から空気と、苦鳴の声が漏れる。 「……く……!」 デ・ジャヴにも等しい光景に、ルミルは口惜しく唇を噛んだ。 そして、二度目を、許す訳には行かぬ――決意を新たに弾かれるように地を蹴った。
●花を摘む 「断ち切る!」 戦場を、シズマが華麗に舞う。 まさに美しき翔剣士の戦いを見せる彼は、減った前衛で良く彼女を凌いでいた。 譲らぬ死闘は、消耗戦の様相を呈していた。 幾度も、幾度も女王はその御手を振るい。 幾度も、幾度も冒険者達は諦めずに剣を向けた。 女王が、ハートレス、ショコラを倒せば、リョウ、リーン、ルミナスが苛烈にやり返す。 ギリギリの天秤は、戦いの中でどちらに傾くかを決めかねているようであったが…… 最終的に僅かにそれを傾けたのは――勝利への一念だったのだろう。 ヴン――! 風を裂く豪腕を一撃を、ルミルは掻い潜る。 彼女が間合いを走ると同時に、シンジュの紋章術が今一度女の肢体を縫い止めた。 「今ですなぁん!」 女王には余力がある。 そして、パーティには傷を負った者が多い。この一撃で決めきらなければ、勝ち目は薄い。 ルミルのサーベルが、高く啼く。 幾条も閃いた薔薇の剣戟は、一連、二連、三連、そして四連の死連撃。 大輪の薔薇を咲かせて、彼女を見事摘み取っていた。 麗しきシルエットが崩れ落ちていく。 「ふ――」 言葉を発する事すら出来ず、ルミルは脱力した。 見事な逆転の一撃は、まるで健闘に天から与えられた褒美のようだった。
●物語の終わり 戦いを終えた森に、静寂が戻る。 女王とナルシス。対の魔性の片割れは、今、この地に滅びた。 「手強かったが、何とかなったか」 傷に顔を顰めながら、レクスが呟く。 もう一方の結末は分からぬが、取り敢えず最悪の事態は防げたとは言えよう。 「……さようなら、麗しき惨酷な女王よ」 エセルの視線は、風化し風に溶けた女王を追うかのようだった。 願わくば、次の彼女の生にこそ安寧を。冒険者の本分逸れず、無辜の民を殺める事等無いように。
かくして、麗しき女王は滅んだ。 幾度と巡る暗闇の童話の結末は、魔鏡ナルシスの運命に託されたのだ。 無論――その結末がどうなったのかは、又別の物語の記す所になるのだが。

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参加者:10人
作成日:2006/05/02
得票数:冒険活劇3
戦闘9
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冒険結果:成功!
重傷者:空色の花・ショコラ(a37565)
多装武具装士・レクス(a41968)
凍月の蒼・エセル(a43317)
世界地図は血の跡・ハートレス(a43758)
死亡者:なし
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