蜃気楼



<オープニング>


 さいはて山脈の東側――山と海の距離が近いあたり。
 青い湾に、浮かぶように雪を頂く急峻な山々を眺めることができる、風光明媚な漁村があった。

「漁村から依頼だよ〜♪」
 冒険者の酒場で、ストライダーの霊査士・ルラルが声をかける。

「漁村では『ホタルイカ』が名物なの。ちょうど今の時期が旬で、夜になると海面がキラキラ光って、幻想的なんだって……」
「依頼の話じゃなかったんですか?」
 ホタルイカ見物も、揚がったばかりを味わうのもやぶさかではないですが、と夜明けの風を道連れに・イレミア(a90313)はにっこり笑う。

「そうそう、漁村にとっても大きなハマグリが現れて、漁の邪魔をするんだって。
 漁師さんがせっかく仕掛けた網に体当たりして破っちゃったり、舟を壊したり……」

「具体的な大きさとか、攻撃方法は解りますか?」
 イレミアの問いにルラルは答える。
「3mくらいの大きな貝の形で、貝の口を開いてぱっくり挟んだり、体当たりするみたい。
 引き潮の時、干潟の砂が貝の形で盛り上がっているのが見えるから、探すのには苦労しないと思うよ」

「解りました。早速行ってきますね」
 出かけようとするイレミアと、同席していた冒険者達を引き留め、ルラルはもう一つ、と続ける。

「漁師さんがハマグリを獲ろうとしたら、変な気というか霧というか……もやもやしたものを吐いて……漁師さん達は辺りが良く見えなくなって、行動しにくくなっちゃうんだって。
 それから、退治しても、変異動物だから、食べないほうが良いと思うよ?」

マスターからのコメントを見る

参加者
風色の灰猫・シェイキクス(a00223)
天紫蝶・リゼン(a01291)
おひさまいろの・サチ(a13963)
碧想の永遠花・ラリィ(a19295)
草原を渡る風のように・エルクルード(a32527)
四季・カーサ(a36741)
常闇の牧師・エリク(a45543)
赤銅の蠍・ヘゼル(a46686)
NPC:夜明けの風を道連れに・イレミア(a90313)



<リプレイ>

●海辺にて
 その日はぽかぽか天気で風も微風。穏やかな春の日差しが照り、暖かな気候だった。
 残雪残る山並みを背景に、漁村の浜辺は引き潮時。徐々に水際が海に向かって後退している。天紫蝶・リゼン(a01291)は遠目から観察している。
「うーんっ、いるかなー」
 探しているのは大きなハマグリ――蜃の姿。
 赤銅の蠍・ヘゼル(a46686)は気合いを入れる。
「いくら巨大でも、ハマグリはハマグリなぁん。陸の上で魚介類なんかに負けられないなぁん……!!」
「貝あさりにしてあげましょう♪」
 にこやかに微笑むのは愛を称える漆黒の牧師・エリク(a45543)。
「漁を邪魔するってぇ輩が居るんなら、そいつは退治しねぇとな!」
 風色の灰猫・シェイキクス(a00223)は、後で味わえるであろう料理を思い浮かべる。
(「ホタルイカ……酒の肴にもってこいだねぇ……」)
「……もしかして仲間――海の生き物を守ろうとしてるのかなぁ?」
 複雑な思いを抱き――でも、と自分自身にいいきかせる、風のように気まぐれに・エルクルード(a32527)。
「このままじゃ漁師さんたちも困るし……仕方ないよね」

 夜明けの風を道連れに・イレミア(a90313)の目前で、潮が引き、砂地が広がっていく。退治後に飲む酒を楽しみに、四季・カーサ(a36741)は遠眼鏡で砂地を見る。
 引き潮と共に徐々に、島のようにこんもりと盛り上がっている所が現れる。判りやすっ!
 周りに海水が無くなると、蜃はぶるりと身を震わせ、砂を払い落とし、そのまんまハマグリを巨大化したような姿を現した。
「なぁ〜〜ん……おおきいはまぐりなぁ〜〜ん……」
 蜃の大きさにビックリしていても、普段通りのんびり口調は変わらない甜睡姫・サチ(a13963)。
 その隣では、どうやったらこんなに大きくなれるのでしょうか? と首を傾げつつ
「でも、漁の邪魔ですし……ここは綺麗さっぱり居なくなってもらわないとですね」
 と黒い?ひと言をつぶやく、銀月を奏でる輝石の詩・ラリィ(a19295)。
「っつーわけで、さっさと蜃を殺っちまうぞ」
 カーサは遠眼鏡をしまい、武器を手に取る。
 攻撃開始の前にかけておくなぁん、とヘゼルは前衛組に鎧聖降臨をかけ始めた。

●蜃が気を吐き、現れるは楼閣
 さて行くぞ、と冒険者達が動き出したとたん、

 でんでろでろでろりん……

 貝の殻をぱかっと開き、蜃が怪しげな気を吐き出す。それは蜃の周囲と真上に立ち上り、大きな建物、楼閣ほどの範囲に広がる。海辺の光景を歪めて見せ、遠くの岸辺が間延びする――そう、蜃気楼のように。
 蜃の居場所もおぼろげで、定かでは無くなった。
「あの盛り上がりが蜃のはずですが……これでは確実にそうだとは言えませんね」
 エリクはスキュラフレイムを放つのをためらう。
「吹き飛べー!!」
 技が届く距離まで踏み込み、リゼンはレイジングサイクロン! 竜巻が巻き起こり、蜃に命中!
 竜巻で怪しげな気は拡散したように見え――竜巻の収まるのと同時に、再び元に戻る。蜃にダメージは与えるも、霧の効果をも帳消しには出来なかった。
 続いてラリィも接近しフォーチュンフィールドを発動する。
 彼女の高い心能力は蜃の気による阻害をものともせず、砂浜を淡く光らせ、全ての者の運を――冒険者も、蜃をも――上げた。
 ゆがんだ景色は消え、巨大物体の姿が現れる。巨大物体が――蜃が体当たりを仕掛ける!
「体当たり――そっちにいくよ!」
 鼠ストライダーのカーサの声で、エリクが避ける。

 ずし〜〜〜〜〜〜ん

 攻撃を避けた冒険者たちの足跡をかき消し、砂に蜃の巨体がめり込む。
「けっこう素早いヤツだねぇ」
 シェイキクスはホーミングアローで追尾攻撃。
 体当たり攻撃を警戒しつつ、サチは一気に間合いを詰める。横から叩き、攻撃しながら殻の弱いところを探す。
 後衛組を庇える位置に陣取ったヘゼルの後方、支援に徹するエルクルードの高らかな凱歌が響き渡り、リゼンの麻痺が解けた。
「……何もさせない、ですよ?」
 蜃はラリィが放つ大量の木の葉に覆われ、固まる。
「危ないから前衛には出てこないようにねー?」
 イレミアに声をかけるリゼン。
「はい! 後ろから援護します!」
「ホタルイカの為に砕けてもらうよ!」
 尻尾ぱたぱたさせつつ飛燕連撃を繰り出すカーサと共に、イレミアはエンブレムシュートを放つ。
 大ダメージ狙いのシェイキクスのライトニングアローが飛び、貝殻に稲妻の矢が命中! 
 フォーチュンフィールドの効果で、冒険者達の攻撃も成功し易い代わりに、蜃も拘束を解け易くなっている。前触れもなく、突然ぱかっとその口を開ける。
 気を休めず、じっと目を凝らしていたヘゼルが叫ぶ。
「挟まれないように避けるなぁん!!」
 蜃は最も近くに居たサチを狙う。適度な距離を保っていたサチはヘゼルの大声にも助けられ、挟み攻撃を難なく避ける。
「牽制します」
 援護にエリクがスキュラフレイムを放つ!
 敵が動き出したのを見てラリィは
「もう少しですかねー……?」
 再度、緑の束縛で拘束をかける。
「仕返しなぁ〜〜ん…… デストロイブレードなぁ〜〜ん……」
 開けた口から見える中身を攻撃!
 拘束が解けた蜃は攻撃の為か、それとも苦しんでいるのか、ごろごろごろごろ転がる。
「っ、割と重たいでやんの……」
 避けずに盾で衝撃を減らすも、カーサはかなりのダメージを受ける。すかさずエルクルードの凱歌が響き、カーサを癒す。
「蜃の一撃は大きいぜ、気ィつけな!」
 転がる蜃にシェイキクスが蜘蛛の糸。同時に、リゼンが咆哮する。
「くらいな!!」
 蜃の動きがぴたりと止まった。
「硬い貝殻も一刀両断にしてやるなぁん……!」
 ヘゼルの斧の刃の炎の紋章が煌めく。
 大上段の構えから振り下ろされる、重騎士の一撃! 貝殻にぴきっとヒビ割れが生じる。
 牙狩人の貫き通す矢が更に追加のダメージを与え、割れ目は更に大きくなる。
「その割れ目なぁ〜〜ん……。待ってたな〜〜ん……。おもいっきり叩くなぁ〜〜ん……」
 動かない相手を十分に狙い、サチのデストロイブレードが炸裂! 上の貝殻が吹っ飛んだ!
 蜃は、その中身を晒し――そこへエルクルードの黒い炎やらエリクのスキュラフレイムやらリゼンのデストロイの爆発やら、片っ端から炎を喰らい――トドメには。
「焼き蛤にしましょうか?……食べないですけど」
 ラリィの業火で潮の香りもかぐわしく、良い色に焼き上がった大焼きハマグリが出来上がった。

 いかにも旨そうな、その姿を見て、シェイキクスはしみじみと
「っかし、こいつが普通に喰える奴なら、かなり幸せなんだがねぇ……」
 ヘゼルも残念そうにつぶやく。
「とっても食べごたえがありそう……だけど、これ食べられないんだよなぁ〜ん……?」
 ――ごめんなさい、食べられません。

 二人の心境を知ってか知らずか、てきぱきと焼き蛤もとい、蜃の死体を埋葬するエルクルード。イレミアもそれを手伝う。
「っと、皆おつかれさん……これで漁村のやつらも安心してホタルイカ漁ができっだろ」
 カーサは鼠尻尾をぱたぱたさせつつ、持参の紙巻煙草で大人の一服。
 紫煙が蜃気楼のようにゆらめいた。


●蛍の光
 夕暮れ時――湾の底から、海面近くへ――そしてエリクや見物人達の待つ岸辺近くまで、小さなイカの大群が産卵の為にやってくる。
 時間と共に、空も海も、暗闇に支配されていくその中に青緑色の燐光を浮かびあがらせる。わずか数cmの体の中に、無数に煌めく点が浮かび、海面を群遊する。

「蜃を無事に倒せて、漁師さん達も一安心ですかね……?」
 待ちかねたように、沖合に舟をこぎ出していく漁村の民の姿。
 ラリィは、良い漁ができますように、と彼らを見送った。
 一艘の舟には、漁師の手伝いを申し出たエルクルードも乗っていた。仕掛けられた網に入ったイカを引き揚げる力仕事を手伝う為に。
 漁師達とエルクルードが網をたぐり、引き揚げる――みっしりと集められた大量のイカ。それが濃縮された燐光を放ち、夜の海を青白く染める。
「うわぁ〜……きらきらして綺麗だねぇ」
 幻想的な光景にエルクルードは思わず感嘆の声をあげた。

 海面のキラキラを眺めつつ、浜辺では成人二人が、水揚げされたイカを肴に酒を手に。
「ホタルイカ……酒の肴に最高だなー」
「幻想的な光景もいいが、漁村特製料理の方がやっぱ楽しみっつぅか」
 沖漬け、酢みそあえ、刺身に、さっと湯通ししたしゃぶしゃぶ。漁村特製のホタルイカ料理に舌鼓をうち、カーサとシェイキクスは旨い酒を飲む。 
 料理の器は、ヘゼルが兜割り奥義で割って適度な大きさにした、蜃の貝殻。
「ただ捨てるっていうのも勿体ないからなぁ〜ん」
 貝殻の内側は、淡い虹彩を帯びた柔らかな白色で、料理の色を損ねず引き立たせる良い器になった。

 イカの見物人が大勢集まるこの時期、村の広場では屋台も出てちょっとしたお祭りのような賑わいだった。
 リゼンはイレミアに声をかけ、折角だから一緒に見て回ろう、と誘う。
 二人は屋台を巡り、大釜から茹で上がった、はちきれそうにぷりぷりの、赤紫色も鮮やかなホタルイカのボイルを酢みそでつまむ。
 せんべい屋台の前では、おみやげを見繕うサチの姿。
「おいしそうだから〜〜せんべいがいいかなぁ〜〜ん……?」
「おせんべい、美味しいです……」
 ラリィはホタルイカ一杯丸ごと貼り付いた、イカの塩味も程良いせんべいをパリポリパリ。

 海では夜明け近くまで漁が続く。海から宝石を引き上げるように。
 網から漏れたホタルイカは幾筋もの光跡を残し、海へと帰っていった――


マスター:星砂明里 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:8人
作成日:2006/05/02
得票数:冒険活劇9  戦闘1  ほのぼの1 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。