Speak Like A Child



<オープニング>


 おばあちゃんが動かなくなった。
 かなしくていっぱい泣いたけど、仕方ない。神様のもとへ旅立っていったんだから。
 あたしがいちばんおねえちゃんなんだから、しっかりしないと。
 もんばんのおじちゃんもいるし、きっと大丈夫だよね。

「今回向かっていただくのは、とある山間部なんですけど」
 霊査士の少女が依頼内容を語り出す。
 向かう場所は北方の山間部。まだ春になったばかり、というその辺りでは、未だに雪が残っているところもあるらしい。
「人間嫌いのおばあさんが、そんな辺鄙なところに家を構えて一人暮らししてたそうなんです」
 割合裕福だった老婆は、小さな屋敷とも言えるほどの家屋を山中に建てさせ、移り住んだのだという。
 当初は近在の人々の話題にもなったようだが、そんなことがあってから十数年、すっかり人の口に上ることもなくなった。
 もちろんその間も、半年に一度程度の周期で食糧は運び込ませていたらしいのだが、数年前から老婆に変化がある、と出入りしている者が気づいた。
 老婆以外に、どうやら小さな子供がいる。
 その子供が怪しいのか? という聞き手の問いに、メリルは首を横に振る。
「長い一人暮らしで心境に変化があったのか、数人の子供たちと一緒に暮らしてたみたいですね」
 いやいや待て待て。では、その子供はいったいどこから来たというのか。
 当然の疑問を口にする聞き手に、
「えぇっとまぁ……貧しい山村とかではたまにあることなんで……」
 と言葉を濁す。
「そんなわけで、ここ数年、おばあさんと子供たちはまぁそれなりに平和に暮らしてたみたいです」
 ようやく長い前置きが終わり、話が本題に入る。
「ある日突然、その屋敷の玄関に、モンスターが居座ったんです」
 突然現れたモンスターは、何をするでもなく屋敷の門にただ居座り続けたという。微動だもせず。
 もともと人が訪れるような場所でもなく、老婆も注意して子供たちをモンスターに近寄らせないようにしたため、それほど問題はなかったらしい。たまにやってくる危険な獣を一瞬で屠ってくれたようで、逆にありがたがっていたかもしれない。
「どうやら、モンスターは屋敷の門――というか、敷地を出入りしようとする者を敵とみなすようですね」
 問題は、まず老婆の身に起こった。
「どうしてかわかりませんが、お亡くなりになってしまったみたいなんです」
 聞いていた冒険者たちに、疑問が生じる。なぜそんなことがわかったのか?
 もっともな疑問に、メリルは一度頷いてから、その理由を口にした。
「事情がわかったのは、半年に一度の食糧補給の商人さんのおかげなんです」
 例年通り、食糧をノソリンの背にくくりつけて運んできた商人達は、門の向こう側に立つ少女に気がついた。少女は言う。「玄関からこっちには入って来ちゃいけない」と。
 商人が少女との話で聞き出せたのは、老婆が動かなくなったこと、屋敷に入ろうとすると、もんばんのおじちゃんに追い返されてしまうこと。
 確かに、門の脇には黒い人型の塊が微動だにせず直立している。像ではないかと思ったという。
 そんなことを言っている場合か、と老婆の安否を確認しようと敷地へ入ろうとした商人の一人は、門を潜ろうとした瞬間、首と胴が泣き別れた。
「で、慌てて逃げ戻ってきた商人の方から、報告があったというわけでして」
「要するに、モンスターを倒して、ガキ共を連れてこいってことか」
 煙草を燻らせてばかりで話を聞いているとも思えなかった黒旋風・ジンギ(a90206)が、突然そう口を挟むと共に席を立った。
「そ、そうですね。モンスターを倒すのももちろんですけど、子供たちだけでそんな辺鄙なところで生きていけるとも思えませんから、連れ出してきてください」
 突然の乱入に狼狽するが、気を取り直して頭を下げるメリルであった。

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参加者
銀露吟望・リンカ(a23298)
唸る真空飛び膝蹴り・エアロ(a23837)
波間に揺れる紅の薔薇・メーア(a32557)
暁天秘華・ミルリアナ(a32718)
レディーハチェット・イルマ(a36060)
煌蒼の癒風・キララ(a45410)
NPC:黒旋風・ジンギ(a90206)



<リプレイ>


「あそことかどーかなぁ?」
 木陰の陽だまり・ミルリアナ(a32718)が、腕をさすりながら後ろを歩く黒旋風・ジンギ
(a90206)に声をかけた。目的の場所を指差したかったのだが、ちょっと寒い。わかってもらえるだろうと指差しはサボってみたのだった。
 この季節にしてはちょっと肌寒く、塀のせいで一日中日陰になるようなところには、まだ雪が残っていたりする。
 ミルリアナとジンギが歩いているのは、問題の屋敷の裏手だ。事前の話にあったように、屋敷はぐるりを高さ二メートルほどの塀で覆われており、中の様子は見て取れない。
 他の面子は、門の脇に彫像よろしく佇んでいるモンスターをわき目に、子供たちを説得しているハズだ。二人はその間に、戦闘に適した場所がないか偵察していると言うわけである。
「無謀だな」
 にべもなくミルリアナの意見を却下するジンギ。
 ミルリアナの示した場所は、割合開けてはいるが、屋敷の敷地内へ入ろうとするには、塀を乗り越えなければならない。どうやら裏口はないようだ。
 塀を乗り越えようとすると感知してやってくるというのだから、曲芸バリのチームプレイで一気に塀を飛び越えでもしない限り、初撃は塀の向こうからの不意打ちを喰らうということになるだろう。その場合でも、全員が乗り越える前に敵が到着するという事態も考えられる。
「やっぱり正面からかなぁ」
 気が進まない表情で、ミルリアナが考えを口に出す。
 当然ながら、正面玄関前なら七人が展開できるだけのスペースの余裕もあるし、そもそも不意打ちだってされない。まともに考えれば、そこで戦うのが冒険者にとって一番有利だ。
 しかし、そこには子供たちがいる。
 戦闘中は眠ってもらうことになるだろうが、万が一目を覚ましてしまうと『もんばんのおじちゃん』と戦っている姿を見られてしまうし、そもそも危険が及ぶ可能性も捨てきれない。
 子供たちは危険に晒したくない。そう思っての偵察だったが、結果としてはあまり芳しくなかった。
 もう一つの目的――強面のジンギを子供たちに見せない――が達成されただけでも良しとするか、と年齢に似合わぬため息を一つ吐き、
「そろそろ行こっか、ジンギさん」
 仲間たちはそろそろ説得を終えているはず、とジンギを促し玄関を目指す。


「えっとぉ、皆さんの中の誰かが病気になったらぁ、治せる人が居ないですよねぇ?」
 銀露吟望・リンカ(a23298)は、数メートル先でこちらを睨むようにして立っている七人の子供たちに必死に話しかけていた。
「病気になんかなんないもんっ。なっても、おとなしくねてたら治るもんっ」
「ぁう……」
 取り付く島もない。
 彼我の距離はほんの数メートル。開かれた門があるばかりで、間を隔てるものは何もない。
 ……門の隣に静かに立つ、物言わぬモンスター以外には。
 ほんの少し足を進めて、手を伸ばせば触れられる距離なのに、その少しが、今は果てしなく遠い。もどかしい想いを抱えて、それは罪もつ紅の闇姫・メーア(a32557)も子供たちを見つめる。
 子供たちを説得するにあたって、冒険者たちは嘘をつかないことを選択した。

 『もんばんのおじちゃん』と子供たちが慕うモンスターを退治すること。
 老婆との思い出の詰まったこの屋敷から離れなければならないこと。

 子供たちに納得させて、実行に移したい。
 相手は子供だ。丸め込むなり、いきなり眠らせてその間にモンスターとの決着をつけるなり、方法はいくらでも考えられたが、彼らはあえてこの道を選んだ。それが吉と出るか凶と出るかは、まだわからない。
 とにかく、決めたからには、信じるところに従い実行するだけである。
 モンスターを刺激しないよう門の手前から屋敷に向かって呼びかけ、子供たちに出てきてもらったところで、自分たちが冒険者であり、先日の商人から連絡をもらってやってきたのだと説明した。
 そこまでは良かったのだが、モンスターを倒しこの屋敷を離れる必要がある、と話したところで、予想通り子供たちの反応は悪化した。
「えっとえっと、寝てても治るような、軽い病気なら良いんですけどぉ、そうじゃない病気もいっぱいあるんですよぉ」
「ほら、お婆ちゃんの時もそうだっただろう?」
 レディーハチェット・イルマ(a36060)がフォローを入れると、
「おばあちゃん……」
 その一言で思い出したのか、五歳くらいの女の子が涙ぐみはじめてしまった。
「あちゃぁ……」
 失敗したか、と頭をかくイルマ。
 泣き出してしまうと、説得どころではない。とはいえ、老婆のことを引き合いに出さないと話が進まないのも事実だ。
「こらっ。泣いたらおばあちゃんにしかられちゃうぞ」
 比較的年長の子がなだめてくれている。別にこちらのことを考えての行動ではないだろうが、正直助かる。と思っていたら、
「おばあちゃんは天国へいったんだもん」
 なんて言ってきた。こう言われてしまうと、メーアの論法ではなかなか言い返しづらい。下手に反論して「おばあちゃんのところへ行く!」なんて言われるとやぶ蛇だ。……まぁ、子供を理で納得させようという試み自体、分の悪い賭けではあるのだが。
「あ、でもね」
 メーアに代わって、輝蒼癒風・キララ(a45410)が説得を試みる。
「お婆さんは、天国の門を叩けるようになっただけで、まだ天国に入れてないの」
「え……そう、なの?」
 いきなり不安げな表情を浮かべて確認してくる少女に、うんうんとキララは頷きを返す。
「ちゃんとお葬式をして、みんなで儀式を済ませないと、お婆さんは天国で幸せに生活する切符を貰えないのよ」
「ぇー」「おばあちゃんかわいそう……」「あたしたちで葬式してあげれば」「でもやり方が」……。
 子供たちで少し話し合った結論は、
「あたしたちがおばあちゃんのおそうしきやるから、やり方教えて」
 であった。
「ぁー……ちょっと難しいから……」
「おばあちゃんのためなら、むずかしくてもがんばる」
 手を変え品を変え説得しようとしてみるが、子供たちはなかなか納得してくれない。問答無用で眠らせて、無理矢理実行に移すということも出来なくはないが、それは最後の手段にしたい。
「いいわ……じゃぁ、貴方たちがお婆さんを天国へ行かせてあげられたとして、その後貴方たちはどうするの?」
「どうって……今までどおり、あたしたちで暮らす」
 メーアの問いに、一番年長の子が応える。
「でも、門番のおじちゃんがいるから、商人の方はこのお屋敷に近づけません」
「食べるものはまだいっぱいあるもん」
「でも、そのうちなくなってしまいますよ。もし、貴方たちが飢えて死んでしまったら、亡くなったおばあ様もひどく悲しむと思います」
「ぅ……」
 改めて正論をぶつけられて、年長の子がひるんだ。考えないようにしていたことだが、改めて突きつけられれば、それは逃れようのない真実だ。人は食べるものがなければ、飢えて死ぬしかない。
「そうだ。お婆ちゃんだって、あんたたちに長生きしてほしいに決まってるだろ?」
 イルマが、子供たちが「おばあちゃんのとこへ行くなら死んでもいいもん!」とか言い出さないようにしっかりフォローを入れる。
 ようやく突破口が見え、冒険者たちの表情に希望の光が灯った。


「どうでした?」
 ジンギと共に戻ってきたミルリアナが、説得の結果を尋ねる。視界の端に眠っている子供たちを収めながら。
「ま、なんとかなったよ」
「ご苦労なこった」
 慣れないことに疲労の色をにじませながらも笑顔で返答してきたイルマに、やれやれとジンギが肩をすくめた。説得班全員の顔がジンギへと向けられるが、ミルリアナが「まぁまぁ」ととりなす。なんだかんだ言いながらもジンギは根の部分ではやさしい、とミルリアナは思っている。
「ようやく出番だ。腕が鳴るよ」
 唸る真空飛び膝蹴り・エアロ(a23837)が拳と掌をあわせて不適な笑みを浮かべるのに、全員が門の傍らで微動だにしないモンスターへと視線を向けた。
「全力でいかせてもらうぜ」
 エアロの全身が、黒い炎に包まれた。


「ほら、起きな」
「ん……」
 眠っていた子供たちを、優しく揺り起こす。
「ほら、おじちゃんが皆にお別れしたいって」
「え?」
 自分を目覚めさせた冒険者の指す方向に目を向けると、そこには、自分たちに向けて手を振るおじちゃんの姿があった。
「おじちゃん……」
 まだ完全には目覚めていない頭に、動作の示す意味と『お別れ』という単語の意味が浸透する前に、黒い影はフッと消えた。
「ぁ……」
「さ、お婆ちゃんのお葬式をしましょう」
 子供たちが正確に意味を理解する前に、キララが子供たちにとってより重要なことへと意識を向けさせる。
「そうだ!」「おそうしき!!」
 騒ぐ子供たちに、まずは老婆の遺体まで案内を願う。ワイワイと騒ぎながら屋敷へと向かう者たちを眺めながら、エアロはなんとも言えない表情を浮かべていた。
「……」
「わかってるよ。アタシがやったことは偽善以外のナニモノでもないってことくらい。汚いオトナのやるコトさ」
 塀に身をもたれ掛け、くわえた煙草に火をつけながら自分を眺めるジンギに気づき、言い訳めいた言葉を並べるエアロ。
「やらない善よりゃ、やる偽善の方がましだろうさ」
 まったくだ、くらいの言葉を返されるかと思っていたが、意外な言葉を返された。
「へぇ。ジンギの旦那もたまには良い事言うじゃないか」
 同じく館には入らず残っていたイルマが、耳ざとく聞きつけニヤッと笑いながら評した。
 それには応えず、「先に帰る」ときびすを返すジンギへ、
「霊査士の嬢ちゃんに、子供らの引き取り先を確認しといとくれ」
と言葉をかけた。あらかじめ霊査士にはお願いしておいたのだが、あの少女に任せておくのは少し不安が残る。
 ジンギは何も応えを返さなかったが、それを気にする様子もなく、今度はエアロに笑いかけた。
「さ、あたしらも葬式に参加しようかね」


マスター:結城龍人 紹介ページ
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作成日:2006/05/05
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