<リプレイ>
● 「あそことかどーかなぁ?」 木陰の陽だまり・ミルリアナ(a32718)が、腕をさすりながら後ろを歩く黒旋風・ジンギ (a90206)に声をかけた。目的の場所を指差したかったのだが、ちょっと寒い。わかってもらえるだろうと指差しはサボってみたのだった。 この季節にしてはちょっと肌寒く、塀のせいで一日中日陰になるようなところには、まだ雪が残っていたりする。 ミルリアナとジンギが歩いているのは、問題の屋敷の裏手だ。事前の話にあったように、屋敷はぐるりを高さ二メートルほどの塀で覆われており、中の様子は見て取れない。 他の面子は、門の脇に彫像よろしく佇んでいるモンスターをわき目に、子供たちを説得しているハズだ。二人はその間に、戦闘に適した場所がないか偵察していると言うわけである。 「無謀だな」 にべもなくミルリアナの意見を却下するジンギ。 ミルリアナの示した場所は、割合開けてはいるが、屋敷の敷地内へ入ろうとするには、塀を乗り越えなければならない。どうやら裏口はないようだ。 塀を乗り越えようとすると感知してやってくるというのだから、曲芸バリのチームプレイで一気に塀を飛び越えでもしない限り、初撃は塀の向こうからの不意打ちを喰らうということになるだろう。その場合でも、全員が乗り越える前に敵が到着するという事態も考えられる。 「やっぱり正面からかなぁ」 気が進まない表情で、ミルリアナが考えを口に出す。 当然ながら、正面玄関前なら七人が展開できるだけのスペースの余裕もあるし、そもそも不意打ちだってされない。まともに考えれば、そこで戦うのが冒険者にとって一番有利だ。 しかし、そこには子供たちがいる。 戦闘中は眠ってもらうことになるだろうが、万が一目を覚ましてしまうと『もんばんのおじちゃん』と戦っている姿を見られてしまうし、そもそも危険が及ぶ可能性も捨てきれない。 子供たちは危険に晒したくない。そう思っての偵察だったが、結果としてはあまり芳しくなかった。 もう一つの目的――強面のジンギを子供たちに見せない――が達成されただけでも良しとするか、と年齢に似合わぬため息を一つ吐き、 「そろそろ行こっか、ジンギさん」 仲間たちはそろそろ説得を終えているはず、とジンギを促し玄関を目指す。
● 「えっとぉ、皆さんの中の誰かが病気になったらぁ、治せる人が居ないですよねぇ?」 銀露吟望・リンカ(a23298)は、数メートル先でこちらを睨むようにして立っている七人の子供たちに必死に話しかけていた。 「病気になんかなんないもんっ。なっても、おとなしくねてたら治るもんっ」 「ぁう……」 取り付く島もない。 彼我の距離はほんの数メートル。開かれた門があるばかりで、間を隔てるものは何もない。 ……門の隣に静かに立つ、物言わぬモンスター以外には。 ほんの少し足を進めて、手を伸ばせば触れられる距離なのに、その少しが、今は果てしなく遠い。もどかしい想いを抱えて、それは罪もつ紅の闇姫・メーア(a32557)も子供たちを見つめる。 子供たちを説得するにあたって、冒険者たちは嘘をつかないことを選択した。
『もんばんのおじちゃん』と子供たちが慕うモンスターを退治すること。 老婆との思い出の詰まったこの屋敷から離れなければならないこと。
子供たちに納得させて、実行に移したい。 相手は子供だ。丸め込むなり、いきなり眠らせてその間にモンスターとの決着をつけるなり、方法はいくらでも考えられたが、彼らはあえてこの道を選んだ。それが吉と出るか凶と出るかは、まだわからない。 とにかく、決めたからには、信じるところに従い実行するだけである。 モンスターを刺激しないよう門の手前から屋敷に向かって呼びかけ、子供たちに出てきてもらったところで、自分たちが冒険者であり、先日の商人から連絡をもらってやってきたのだと説明した。 そこまでは良かったのだが、モンスターを倒しこの屋敷を離れる必要がある、と話したところで、予想通り子供たちの反応は悪化した。 「えっとえっと、寝てても治るような、軽い病気なら良いんですけどぉ、そうじゃない病気もいっぱいあるんですよぉ」 「ほら、お婆ちゃんの時もそうだっただろう?」 レディーハチェット・イルマ(a36060)がフォローを入れると、 「おばあちゃん……」 その一言で思い出したのか、五歳くらいの女の子が涙ぐみはじめてしまった。 「あちゃぁ……」 失敗したか、と頭をかくイルマ。 泣き出してしまうと、説得どころではない。とはいえ、老婆のことを引き合いに出さないと話が進まないのも事実だ。 「こらっ。泣いたらおばあちゃんにしかられちゃうぞ」 比較的年長の子がなだめてくれている。別にこちらのことを考えての行動ではないだろうが、正直助かる。と思っていたら、 「おばあちゃんは天国へいったんだもん」 なんて言ってきた。こう言われてしまうと、メーアの論法ではなかなか言い返しづらい。下手に反論して「おばあちゃんのところへ行く!」なんて言われるとやぶ蛇だ。……まぁ、子供を理で納得させようという試み自体、分の悪い賭けではあるのだが。 「あ、でもね」 メーアに代わって、輝蒼癒風・キララ(a45410)が説得を試みる。 「お婆さんは、天国の門を叩けるようになっただけで、まだ天国に入れてないの」 「え……そう、なの?」 いきなり不安げな表情を浮かべて確認してくる少女に、うんうんとキララは頷きを返す。 「ちゃんとお葬式をして、みんなで儀式を済ませないと、お婆さんは天国で幸せに生活する切符を貰えないのよ」 「ぇー」「おばあちゃんかわいそう……」「あたしたちで葬式してあげれば」「でもやり方が」……。 子供たちで少し話し合った結論は、 「あたしたちがおばあちゃんのおそうしきやるから、やり方教えて」 であった。 「ぁー……ちょっと難しいから……」 「おばあちゃんのためなら、むずかしくてもがんばる」 手を変え品を変え説得しようとしてみるが、子供たちはなかなか納得してくれない。問答無用で眠らせて、無理矢理実行に移すということも出来なくはないが、それは最後の手段にしたい。 「いいわ……じゃぁ、貴方たちがお婆さんを天国へ行かせてあげられたとして、その後貴方たちはどうするの?」 「どうって……今までどおり、あたしたちで暮らす」 メーアの問いに、一番年長の子が応える。 「でも、門番のおじちゃんがいるから、商人の方はこのお屋敷に近づけません」 「食べるものはまだいっぱいあるもん」 「でも、そのうちなくなってしまいますよ。もし、貴方たちが飢えて死んでしまったら、亡くなったおばあ様もひどく悲しむと思います」 「ぅ……」 改めて正論をぶつけられて、年長の子がひるんだ。考えないようにしていたことだが、改めて突きつけられれば、それは逃れようのない真実だ。人は食べるものがなければ、飢えて死ぬしかない。 「そうだ。お婆ちゃんだって、あんたたちに長生きしてほしいに決まってるだろ?」 イルマが、子供たちが「おばあちゃんのとこへ行くなら死んでもいいもん!」とか言い出さないようにしっかりフォローを入れる。 ようやく突破口が見え、冒険者たちの表情に希望の光が灯った。
● 「どうでした?」 ジンギと共に戻ってきたミルリアナが、説得の結果を尋ねる。視界の端に眠っている子供たちを収めながら。 「ま、なんとかなったよ」 「ご苦労なこった」 慣れないことに疲労の色をにじませながらも笑顔で返答してきたイルマに、やれやれとジンギが肩をすくめた。説得班全員の顔がジンギへと向けられるが、ミルリアナが「まぁまぁ」ととりなす。なんだかんだ言いながらもジンギは根の部分ではやさしい、とミルリアナは思っている。 「ようやく出番だ。腕が鳴るよ」 唸る真空飛び膝蹴り・エアロ(a23837)が拳と掌をあわせて不適な笑みを浮かべるのに、全員が門の傍らで微動だにしないモンスターへと視線を向けた。 「全力でいかせてもらうぜ」 エアロの全身が、黒い炎に包まれた。
● 「ほら、起きな」 「ん……」 眠っていた子供たちを、優しく揺り起こす。 「ほら、おじちゃんが皆にお別れしたいって」 「え?」 自分を目覚めさせた冒険者の指す方向に目を向けると、そこには、自分たちに向けて手を振るおじちゃんの姿があった。 「おじちゃん……」 まだ完全には目覚めていない頭に、動作の示す意味と『お別れ』という単語の意味が浸透する前に、黒い影はフッと消えた。 「ぁ……」 「さ、お婆ちゃんのお葬式をしましょう」 子供たちが正確に意味を理解する前に、キララが子供たちにとってより重要なことへと意識を向けさせる。 「そうだ!」「おそうしき!!」 騒ぐ子供たちに、まずは老婆の遺体まで案内を願う。ワイワイと騒ぎながら屋敷へと向かう者たちを眺めながら、エアロはなんとも言えない表情を浮かべていた。 「……」 「わかってるよ。アタシがやったことは偽善以外のナニモノでもないってことくらい。汚いオトナのやるコトさ」 塀に身をもたれ掛け、くわえた煙草に火をつけながら自分を眺めるジンギに気づき、言い訳めいた言葉を並べるエアロ。 「やらない善よりゃ、やる偽善の方がましだろうさ」 まったくだ、くらいの言葉を返されるかと思っていたが、意外な言葉を返された。 「へぇ。ジンギの旦那もたまには良い事言うじゃないか」 同じく館には入らず残っていたイルマが、耳ざとく聞きつけニヤッと笑いながら評した。 それには応えず、「先に帰る」ときびすを返すジンギへ、 「霊査士の嬢ちゃんに、子供らの引き取り先を確認しといとくれ」 と言葉をかけた。あらかじめ霊査士にはお願いしておいたのだが、あの少女に任せておくのは少し不安が残る。 ジンギは何も応えを返さなかったが、それを気にする様子もなく、今度はエアロに笑いかけた。 「さ、あたしらも葬式に参加しようかね」

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参加者:6人
作成日:2006/05/05
得票数:冒険活劇7
ダーク2
ほのぼの2
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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