<リプレイ>
はらりと花びらが舞い散る。 月の光と焚き火の明かり、そして幾つかの篝火は淡い色合いの桜の花びらを夜闇に浮き上がらせていた。 ――しかし、風景こそは幻想的だが、辺りは飲めだの歌えだのと大騒ぎである。そして冒険者達には村人の好意により、桜を漬けたという酒やジュースが振舞われていた。
慰労の言葉を掛けられた後、『面白い』と評された灰翼・レイトヴァール(a90316)はその言葉に、ほう、と目を細めた。 「弄りがいあり過ぎだってぇの! 真面目なのもいいが、いつまでも肩張ってると、ジジ臭いを通り越してそのうち禿げちまうぜー」 呵呵と笑うシェイキクスに思わず頭に手を伸ばしてしまうレイトヴァールである。 「……ま、楽しめる時は真面目に考えすぎずに楽しんどけ、ってな。じゃないと、損するのは自分だぜ? ……さーて、これだけの人数が居るんだ。呑まされ過ぎて潰されないようになぁ?」 そして彼はにやりと笑みを浮かべ、盃を軽くぶつけたのだった。
「遠慮なくリクエストしてなぁ〜ん」 桜の花弁が月の光に照らされてハラハラと舞うのを見ながら、心に浮かんだ静かで暖かく明るい曲調の音色で、ドンは愛用のリュートを奏でる。 「……この月と桜と美味しいお酒に乾杯、ですわね♪」 エメルディアは持参したつまみや料理を広げつつ、酒を酌み交わす。 「桜に月……風流だねぇ……」 グラムは誰かいないものかと探す為に腰を上げた。 ふらふらと綺麗なおねーさん方に行こうとするゼイムをリリエラは、駆け寄って頬にキスを贈ると無理矢理引っ張っていく。彼もそう嫌なわけでは無いらしく、彼女の腰に手を回して「来年も来れるといいねぇ……」と耳元で囁いた。 ノリスの様々な問いに村人は「それは秘密なのじゃー」などとほろ酔い気分で答えつつ、名産のジュースをコップになみなみと注ぐ。確かに名産品の製造過程をそう易々と話すことは少ないだろう。 オルーガのチェロの演奏を聞きながらレーヴェはにやりと笑う。 「お互い、桜も翳みそうな花を手に入れたな?」 「……何よりも綺麗な花をな」 ギィはウインクしてそう返すと、視線は恋人のアゲハへと向かう。 「柔らかな音色に乗って舞う夜桜の風景……いいね、酒も美味いし」 レーヴェもまた恋人のオルーガへと視線を向けていた。 「『月と桜と冒険者』ぬ……良い名前が思いつかない」 サンは木の実の詰まった重たい鞄を傍らに置き、喧騒を遠巻きにして、一本桜の風景を絵に描き始める。 アレスフォードは貰ってきたジュースを宴会の輪から少し離れた場所で座って待つティーレリサにも手渡した。こういうときは男が動くべきだとアレスフォードは思う。 「この間の花見も夜だったけど、夜の桜もまた綺麗だな?」 桜よりも彼女の方が……と口には出さずともそう思いながら、ティーレリアの旅団の話や最近の依頼の話に耳を傾けていた。 ティーレリサも話し易く、一緒に居ると落ち着くと感じながら話を続けていた。 また誘ってくれた事も彼女は嬉しく思っていた。 一緒に花見が出来て嬉しいとレンカに微笑んだのはリオンだ。普段から頼りにしているが頑張り過ぎるきらいのがある義姉、少しは頼ってもらえると良いのにとも思う。 レンカとてとても優しい妹にどれほど助けられているか分からない。瞳を閉じ、レンカはリオンを抱きしめて「何時も有難う」と囁いた。 ネフェルと、そして彼女のあとを追いかけて冒険者になった義理の妹のダイアナは二人仲良く酒を酌み交わしていた。 初めての冒険者としての働き。依頼などのことについて、心配していたらしいネフェルにダイアナは沢山の出来事を語って聞かせていた。 「ん……お邪魔します……」 名乗り、横に腰を下ろしたミストに対しても花灯の霊査士・ティーリア(a90267)は然程反応を示さなかったが、霊査士の少女が身に纏うふわふわ舞う桜のような可愛らしい洋服が気になったという言葉を聞いて、ティーリアは僅かに微笑んだようだった。 (「確かに変わっているな……」) 桜の香りなどそうそう思い浮かべられるほど強くなかったと思いつつ、ガルスタは名産のジュースに口をつけた。酒が飲めないことに落胆しつつ、宴の端から静かに彼は眺めていた。
最初は風情を楽しんでいたのだがそれも束の間、ガラッド、ザクロ、ショウの周りには山のような空き瓶が転がり始めていた。 「いかん。はしゃぎすぎて、ちぃっと回ってき……た……」 ザクロが突っ伏し、漸く飲み比べが強制終了となる。ちなみに最初に潰れたのは、勝負を仕掛けたガラッドだが、肉体を凌駕する魂をもってしても済んでのところで敵わなかったようである。一方二人の倍程飲んでいるショウは至って平然とした様子で、ルナの元に戻ると寄りかかるルナと共に今度はゆるりと酒を嗜む。 「……ふ」 アルフィレアが息を吐き出した向こうには恋人のケイン。初デートにして酒飲み対決という一風変わった状況ではあったが、 「うな〜♪」 猫のように頬を摺り寄せるアルフィレアをケインは撫でつつ……それでもやはり二人は酒を注ぎ足し飲み続ける。勝負は勝負、のようだ。 「前回のことは訊くな……思い出したくない」 ヒサギの挨拶代わりの言葉にも呻くレイトヴァールである。かなり飲んでいるようだが顔色は変わらず、またただ量だけ飲み干しているわけでもなく味わって飲んでいるようではあった。 「酒……綺麗な夜桜に月を愛でながらの酒は格別なんだよなぁ」 「あと、一年と半年だろう。成人した暁には俺で良ければ付き合ってやる。今はまだこれで我慢しておけ」 そう言って差し出したのは名産のジュース。酒の方同様に桜を漬け込んだ飲み物だが、此方は限りなく甘い。甘いので当然ながらレイトヴァールは一切口をつけようとしなかった。 「風流じゃのぅ……誘ってくれたレイトヴァール殿には感謝じゃわいな゛ぁ〜ん」 礼だと告げ、ナムールはレイトヴァールの盃に酒を注ぐ。 「そういえば、レイトヴァール君の冒険譚を聞きたいわ」 酒を運んできたノヴァは桜を眺めるのに飽いたらしく、ねぇ、とレイトヴァールに強請ったが、「面白い話は何も無いさ」とやんわりと断りの言葉を告げられた。
ユウに酒を注いだブラッグァルドはいつになく真剣な眼差しで口を開いた。 「ユウは恋愛に関しちゃ割り切ってるし、俺はまだまだ子供っぽいし、本気にされてないと思う。でも、俺は、本当にユウの事が好きで……愛してるんだ。だから、ずっとユウの傍にいさせて欲しい!」 「……まっ、あんたがもうちょっといい大人になったらね」 はぐらかすように曖昧に答えたユウにブラッグァルドが頬に口付けると、代わりにでこピンがとんで来た。
ウォッカオードは恋人同士で訪れた者達を眺めて、ちょっと羨ましいです、と呟いた。 普段ならこんなことなど口には出さない。酔っているのだろうかと思いつつ夜桜を見上げたその瞳は微笑んでいた。 アストもその横でひっそりと宴を眺めていた。誘ってもらっておきながら申し訳ないとは思いつつ、心配のあまり騒げるような気持ちではなかったからだ。 ルトリヒもまたぼんやりと桜を眺めていた。手にした盃には酒がなみなみと注がれていたがそれに口をつけた様子はなく、唯々、見惚れているようだった。 様々な感情が入り乱れる。熱気も談笑もいつしか消えて、そう、先は一人かもしれないけれど今は目を瞑ろうとストラタムは思う。 (「今宵は散る花びらの如く、踊り踊る一夜になりましょう」)
ギルレインは舞い落ちてきた花びら手に取り軽く口付けると、盃に注がれた酒に浮かべた。 「美しい満月と夜桜、そして心蕩かす美酒……至上の贅沢ですね。レイトヴァールさん、お誘いありがとうございます。実に素敵な夜でした」 「そう言ってもらえたのなら此方こそ誘った甲斐があったというものだ」 青年の礼にレイトヴァールはにやりと笑った。
●一本桜 喧騒を遠巻きに咲く桜の木が一つ。 その下で、同様に幾許かの静けさを求め喧騒から逃れてきた者達が腰を下ろしていた。 「その、特に用は無いのだが。普段、御世話になっている故にな」 暁の凛花・アシュレイ(a90251)を誘い出したローは嗜む程度の酒を煽りつつ、ふ、と笑みを浮かべた。 「来年も又、見に来れると良いな」 そう言いつつ、共にぼんやりと桜を見上げていた傍らの少女に上着を掛けてやる。 そんなアシュレイの姿を、 (「アシュレイさんの金髪は月明かりに映えるな……」) などと、リュウはぼんやりと眺めていた。
桜はクラウが素直に綺麗と思える数少ないものの一つだった。物事の捉え方は人によって様々だが、万人が多少なりとも美しいと思える……桜にはそれだけの価値はあると、彼女は『夜の』桜を楽しんでいた。 (「……未だにわかんねぇ。俺はこんなにいいもんじゃねぇんだけどな」) 遠い昔、自分のことを夜桜みたいだと言った奴が居た、とドュートは寂しげに微笑む。 息を呑むような美しさのその夜桜に目を奪われながら、早くも彼は飲み干した酒によって微睡み始めている。 酒宴も嫌なわけではなかったのだが、どうせなら静かに、とラジシャンは空を見上げた。 桜に透けて見える月、美味い酒、これほど贅沢な事もそうそう無い。 幻想的な空気に身を委ねるように彼は再び盃を傾けた。 ハークの膝枕に頭をのせたセイジの綺麗だという呟きは、見上げた桜と、そしてハーク自身の事だった。 「大好きやよ、ハーク」 「……っ」 セイジの前髪を指で梳きながら桜の間に覗く夜空を眺めていたハークは、手が止まる。 その表情は真顔でありながら、視線を逸らした目は照れているのか泳いでいた。 コクセイは酔った勢いで報告を、と、クルワに捲くし立てるように自分みたいな人間にも一緒にいてくれる人が出来たことを話し始めた。そして仕舞いにありがとうの言葉。 「……てめぇはもうユースレス……不用品じゃねぇんだからな」 低く笑ってクルワはコクセイの背を軽く叩いた。 「なんていうか……、……ああ……いや、何でもない」 クレシャの言葉にメイレンは首を傾げつつ、とりあえず礼を述べる。 メイレンが注いだのは酒は極僅か。人前で酔うのを嫌ったクレシャへ量が少なめの盃は手渡される。互いに店主と客の間柄だと主張する二人は宴の端でのんびりと喧騒を眺めていた。 ティンも舞う花弁を寝転んではしっと掴みつつ、ジュースを飲むことも忘れない。 「桜も月もお酒も大好きデスけど、コシロさんはもっと好きデスよ」 「月も桜もお酒も大好きですが、ギバさんが一番好きですなぁ〜ん」 肩を寄せて空を眺めるギバとコシロは同時に言い、そして笑った。自他共に認めるバカップルというのは本当らしい。 「あー、良い気分だ。うるせぇ奴も居ないし、酒も美味い。しかも桜もきれいで言う事ナシ、だな」 待つ者に酒の一本でも持って帰ってやらねばと思いつつ、バリーは夜桜を仰ぎ見た。 「いい桜だな。また来年も見に来たいな……」 アミティエルは両手でジュースの入ったコップを傾けながらぽつりと呟く。 リュウはそっと桜の木に手を触れた。 「アイツに見せてあげたかったな……」 脳裏を過ぎるのは今は亡き恋人。一人で此処に立つせいだろう。平素見せない寂しげな表情を青年は浮かべていた。 リィリは朗々と詠うルワの詩を耳を澄まして聞いていた。 「――この詩はリィリに捧げる」 ルワの美しい桜と思い人への愛情を綴った愛の詩を聞き終えると、ある地方で使われている言葉で「ずっと私を離さないでいて」という言葉を少女は便箋に綴り、それを青年へそっと手渡した。 誘った仲間達にも挨拶をし終え、談笑してきた後、ウィーとガウスはこの一本桜の方へとやってきていた。人の居ない頃に訪れたかったが、波は引いたものの人が居なくなる事はなかったのだ。 「桜の木の下には、死体が眠ってるんだって。桜が綺麗なのは、そのヒトの想いが綺麗だからって、聞いたことがあるの……どんな人が寝てるんだろうね」 くすくすと笑いながら寄り添うウィーにガウスは微笑む。 「ありがとな」 浮かんだ疑問符は当然ながら、ガウスは意味を答えぬまま只笑みを浮かべた。
空は白み、朝焼けが見える頃、喧騒はいつの間にか過ぎ去っていた。 煙が棚引き、明けの空に細い線を描いていく。 桜の下で眠る者たちに、等しく桜の匂いが馨っていた。

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参加者:59人
作成日:2006/05/05
得票数:恋愛4
ほのぼの34
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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