フィルの誕生日 幾年ぶりの誕生会



<オープニング>


「ねぇフィル、誕生会はいつするの?」
「誕生会?」
 ココアの入ったカップを両手で握っていた霊査士の少女フィルは、にこにこと楽しそうなサザを見て、首を傾げつつ問うた。
「誰の」

 いや、貴女の。

 ネタなのか素なのか、いや、恐らく後者だろうが。
 ともかく素敵なボケっぷりを披露してくれた彼女に、何人かのツッコミ派冒険者(何)が揃って答える。
「あぁ…私のか。もうそんな時期なのか。すっかり忘れていたな」
 ココアに口をつけながらのんびり呟くフィルに、今度は、サザが頬を膨らませて首をかしげる。
「忘れてたって…もう、いつもどんなお祝いをしているの?」
「特に何もしないが?」
 必要がない。と、さも当然のようにココアをすするフィルに、サザはガタン、と椅子を倒して立ち上がった。
「ダメじゃない! 折角のいい日なんだから、お祝いしないと!」
「しかし………」
「しゃらーっぷ! ねぇ皆、フィルの誕生日には、皆でお祝いしましょうよ♪」
 勢いに任せてフィルを黙らせ、酒場の冒険者たちに呼びかけると。サザは改めて、ニコリとフィルに向き直った。当の本人は相変わらずココアでまったりしている。
「それで、貴女の誕生日はいつなの?」
「……今日だが…」
 ココアを飲み干し、さっくりと告げるフィルに背を向け、ちょっとだけ半べそをかくサザ。
 みかね、フィルは頬を掻きつつ酒場を見渡した。
「……後日、私のほうで場所と簡単な料理は用意する。その…良ければ、きてやってはくれないか…? 折角、こう言ってくれる者がいるのでな…」
 どういえばいいのか判らない。そんな様子で伏目がちに告げるフィルに、初めて少女らしい面が垣間見えたような気が、した。

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参加者
NPC:沈黙の霊査士・フィル(a90017)



<リプレイ>

「まぁ、こんなもんですかね」
 主役の手を煩わせまいと、先んじて準備に訪れていた星辰の爪牙・アンリ(a00482)は、花々やらに飾られた会場を広く見渡して軽く息をついた。
 得体の知れないものを避けるため厨房は諦め、まったりとアンリの準備を手伝うストライダーの忍び・ヴァイント(a06046)は、にこやかに呟く。
「フィル殿や他の冒険者殿が楽しんでくれれば…、拙者はそれで満足でござる…」
 同じように、会場の設営に携わっていた鋼鉄の護り手・バルト(a01466)もまた、大きなテーブルを運んでから、汗をぬぐった。
「こっちも完了だ」
「お花も飾り終えましたよ」
 ふわりと微笑みながら、雫菫の結晶・ルシール(a00620)はパンジーをそっと会場に添えていた。可愛く、小さくても健気に咲く花は、フィルに良く合うだろうと思いながら。
 少し離れた厨房では、蒼き堕天使・イル(a01415)と漆黒竜の血を引く破壊の使徒・オイスター(a01453)の手により、ココアやチョコレートがふんだんに盛り込まれたお菓子類、そしてアップルコンポートのクレープが作られていた。
 次第に、穏かでありながら可愛らしいパーティ会場が出来上がりつつあった。
 その裏では、飾り付けではおどろおどろしい雰囲気を作り出してしまい、厨房にて料理をすれば禍々しい物を作り出し追い出されてしまったという哀れな幻・ギル(a01302)の姿があったことを、あえて伝えておこう。
「……何故ですか…こんなに一生懸命なのに」
 それでも、壁とブツブツ話し始めてしまったその姿は、ちょっとした内緒事にしておこう。
 さて。そのころあまりに無自覚な主賓、沈黙の霊査士・フィル(a90017)は、小部屋の中、一部女性陣の手によって、会場と同じく飾り立てられていた。
「いや、私は別に……」
「私からのプレゼントだから、着てみて欲しいのよぉ♪」
 穏かな青色をしたドレスを手に、百合の導き手・シンシア(a04647)はねだるように微笑む。
 決して嫌がらせでも悪気があるわけでもなく、純粋な行為であるから、断る理由もない。気恥ずかしそうに頬を掻いたが、フィルは大人しくドレスを受け取ると、着替えだした。
「フィルお姉ちゃん、アンジェね、花冠を編んであげるね♪ 似合うと思うんだぁ」
 彼女の傍では、無邪気にはにかんだ天使のたまご・アンジェリーナ(a00810)が花を編んでいる。
「フィルちゃん、ハイ、これあげるね♪」
 着替えの終わったフィルの胸元に、湯の瀬遊撃隊旅団長の・ホノカ(a00396)はブローチをつけ、更に髪の毛を弄りだした。実は食べ物を用意しようとして見事な緑色の物体を作り出してしまったのは、やはりちょっと内緒のこと。
 されるがままのフィルの頭に、アンジェリーナが花冠をのせる。こちらの仕度も、後少し。

 会場では、エルフの忍び・ヒースクリフ(a05907)が率先して進行を勤め、何か芸などを披露するという者達と打ち合わせをしていた。
「…と、こんな感じになると思う。そろそろ来ると思うが…準備は平気か?」
「フィールはいつでも準備いいにゃー!」
 鈴や金属が凛と綺麗な音を立てる衣装を身に纏い、風を友に舞う者・フィール(a03750)は元気にカスタネットを鳴らし、返事をした。茜のような癒し・ピート(a02226)もまた、ギターを手にこくりと頷く。
「僕も平気だよ。あ。噂をすれば…」
 微笑を称えてついとそちらを見やれば。
「あ〜…一応、釈明はしておく。…腹だ。その半ズボンばりにどこぞのお姉様方々が喜びそうな無防備な腹出しが男の子っぽいんだっ」
「つまりこの姿なら間違えないと?」
 朽澄楔・ティキ(a02763)がフィルを男と間違えていたことを弁明していた、その背後から、ドレスに身を包み、髪形も変え、可愛らしいアクセサリーやらをつけたフィルが、相も変わらず無表情に問うた。
「…ティキ、これなら間違えないよな」
 訳もなくティキの耳を引っ張りながら、蒼の閃剣・シュウ(a00014)はにこやかに頷き言う。
 少なくとも、男には見えない。素晴らしいまでの変貌振りに少々驚きつつ。満足げな着せ替え隊も交え、改めて声をそろえた。

 誕生日おめでとう!

「……ありがとう」
 にこり微笑んだフィルの言葉で、パーティ開催だ。

「まずはプレゼントです。実はセーターを編んでみました。サイズ合ってると良いけど…」
 手作りなクリーム色のセーターを贈る内気な半人前看護士・ナミキ(a01952)。そしてある者に付き添わせて選んだという洋服を手渡すシュウ。女の子らしい服だが、実はティキ同様フィルを男だと思ってはらまきなんぞ用意していたことは、やっぱり内緒事だ。
「あまりお話したことはないですけど…きてみました。フィルさんのお誕生日って、とっても素敵な日なのですねぇ」
 赤いリボンで飾られた、真白な花。『希望』の花言葉を持つスノードロップの鉢植えを手に、陽だまりの昼寝猫・エリス(a00091)は微笑む。
 次いで、楽風の・ニューラ(a00126)は、折りたたまれたナイフを差し出す。象嵌の握りは、木瓜の花をあしらった図柄。切れ味も、使い勝手も良さそうだ。
「この先も、よき日でありますようお祈り申し上げます」
 他にも、ホノカの湯の瀬のサイダーやらアンリの翡翠のブローチやらギルのチョコやら飴やらココア味のクッキーやらイルの手袋やら、果てはバルトの『グリモア100の秘密』という本など、バラエティに富んだプレゼントが贈られる。それらは、見ているだけで楽しめた。
「ま、なんといいますか。何を選んでいいのか分からなかったんで、これで」
 綺麗にラッピングされたココアの詰め合わせ。バースデーカードの添えられたそれを手渡す、欲望の騎士・シヴァ(a04547)。
 プレゼントを手にするフィルを背後から抱きすくめ、無垢なる銀穢す紫藍の十字架・アコナイト(a03039)が、ふぅ、とその耳に息を吹きかけながら、ショコラショーの入ったカップを口元にやる。
「フィルさん、こういうのは好きですか?」
 それを見て、咄嗟に止めに入ると同時にちょっと高そうなココアを手渡したのは、止めの一撃・ガイラ(a00438)だった。
「おいアコナ。手は出すなって…あぁ、コレ、俺からのプレゼントな」
「抱きゅ抱きゅして人の肌の暖かさを思い知らせてあげてるんです! あ、フィルさん、逃げちゃダメですよ。逃げたらはみゅはみゅしますよ〜」
「だからするなって! 祝いにきたんじゃないのか!」
 手一杯のプレゼントやら2人のやり取りにやらにちょっと動揺気味のフィルに、爽やかな香りのミントティーが差し出された。
「……わたしも、森から出てきた時は随分と……戸惑いましたけれど……こうして賑やかな場所で、笑顔の人達に会える……素敵な事だと、思いませんか?」
 そう言って、優しく微笑んだのは茨の導士・アキレギア(a04072)。その一言に改めて見渡せば、ピートやニューラの演奏にあわせ、ナミキやフィール、アンジェリーナやイルが、歌い、踊っている。
 賑やかさに気圧され気味だったが、皆に伺える楽しそうな姿や笑顔に、和まされた。
「まっ何にせよ、フィルさんの誕生日にこれだけの人が駆けつけたてのが一番のプレゼントじゃないんでしょっか♪ あ、決して手ぶらできたことの言い訳じゃ…」
「いや……本当にそうだな」
 ひょいひょいと食べ物を摘みつつ、こっそり羨ましそうに、けれど申し訳なさそうに呟く渡り烏・ゼクス(a05693)の言葉に、フィルは彼の目を見つめ、微笑んだ。
 幾年ぶりの誕生会か。もはや覚えてさえいないこの賑わいが、暖かな気持ちにしてくれる。それだけで、いや、それこそが、フィルにとっての幸せだった。
「フィルさん、一緒に踊りましょう〜」
 ナミキに手を引かれたフィルは、アキレギアやシヴァに見送られ、歌と踊りの輪の中に入っていく。
 と。ヒースクリフの演出によるスモークが起こり、次いでフィルにスポットが当てられた。
 演奏は止み、アクロバットを繰り広げていたフィールも静かになる。そして流れるように、ナミキのエスコートは風薫る若葉・アリエ(a01091)にバトンタッチされる。
「誕生日おめでとうフィル♪ この日を君よりも楽しみにしてたよ。コレ、俺からと…こられなかった、リーフの皆からのプレゼント。…最後になったけど、君の誕生日に捧げる歌。聴いてくれ…」
 ピートに目配せすると、アリエはギターの演奏に合わせ、歌いだした。

 おはようって

 朝露がささやく

 眠け眼をこすって小さなあくび

 さぁ朝一番のココアを入れたよ

 ほぅっと一息

 白い吐息がゆれて

 君の微かな笑顔がこぼれる

 ラ〜ララ ラ〜ララ ララララララ〜♪

 この甘い香りが僕のしあわせ

 ティキが、頭上から花びらを舞わせる。
 ピートはアリエとハモらせると、最後のワンフレーズを奏で、指を止める。
 アリエはフィルの目を見つめ、そのまま手を引いて会場の外へ出た。
「邪魔しちゃいけませんよね…♪」
「そうよねぇ…アリエさん、後はよろしくねぇ♪」
 エリスとシンシアがくすりと呟く。ルシールもまた、二人の元へ行くならば俺を倒してから行け的雰囲気なバルトに寄り添いながらアリエの心配をしていたり。
「アリエお兄ちゃん、フィルお姉ちゃんの誕生日が待ち遠しいのは、ケーキが食べられるからって言ってたけど…」
 ちょっとだけむむぅっとうなって、けれど、何となくにこにこなアンジェリーナ。
 彼らの会話は、当人だけの秘密。
 二人を見守りつつ、パーティは継続だ。

 パーティが終わった後。やはり、どこか気恥ずかしそうに頬を掻いて礼を述べていたフィルだが、それからしばらく、貰った衣装等を一人こっそり着て、時折笑って見せるようになったとか。
 幾年ぶりの誕生会。暖かな会は、大成功に終わったようだった。


マスター:聖京 紹介ページ
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