西方プーカ領を求めて〜双影の影法師〜



<オープニング>


●真夜中の襲撃〜安眠を返せ〜
「……Zzz」
 西方プーカ領へ向かう、その日の分の行程を終えた月吼・ディーン(a03486)ら一行は、各々テントを張り、または寝袋に身を収め、一日の疲れを癒していた。スタンダードな寝言でも聞こえてきそうな、僅かな休息の時。
「…………?」
 ふと目を覚ましたディーンは、奇妙な音に気が付いた。というかそれが原因で目が覚めたとも言う。
 ど……ん、どぉん……
 かなり遠くだが、何かが争っているような音だった。どうしてだろう、どうにも嫌な予感がする。やがてその音は止んだが、今度は何かの気配が近付いてきた。
 ずるずると地面を引きずる音に、ディーンはそっと外の様子を窺う。満月の光を背景に浮かび上がる姿は、土くれをこねてくっつけたような不恰好な人形――寄り添い歩くモンスターが二体。
 しかし何故か負傷しており、その様子はまるで、何かから逃げ出してきたようだ。とはいえ、向かってくる以上は討たねばなるまい。
「全員起床!!」
 素早く表に出たディーンは、紅蓮の咆哮もかくやという大声で叫んだ。すぐさま数名が起き出し、外の状況を見て表情を硬くする。そしてぐっすりばっちり幸せな睡眠真っ只中で起きない男性陣を、ディーンは片っ端から蹴り起こすと、すぐに戦いの準備を指示した。
 寝起きでぼんやりする頭を叩き起こし、冒険者達は二体のモンスターと対峙する。戦いの火蓋が、今まさに切って落とされようとしていた。

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参加者
斬鬼・ルシール(a00044)
雪白の術士・ニクス(a00506)
剣難女難・シリュウ(a01390)
月吼・ディーン(a03486)
黒劒・リエル(a05292)
月下雪影の寒椿・セレスティア(a23809)
翠の賢帝・クリスティン(a26061)
砂漠の民〜風砂に煌く蒼星の刃・デューン(a34979)


<リプレイ>

 手負いのモンスターが、逃げるように冒険者達の前に現れた。
 それが、決して歓迎すべき事態ではないことを、彼らは察していた。
「ふん……どうやらこいつは最高に最低だ」
 月吼・ディーン(a03486)は漆黒の槍を構え、ゴーグルの奥の目を細める。このモンスターに傷を負わせたのは他のモンスターか、それともトロウルか『悪』の旗の軍勢か――いずれにせよ、それが現れれば厄介な事になるだろう。
 帽子をかぶりながら、剣難女難・シリュウ(a01390)は眼光鋭く相手を見た。モンスターが逃げる程の存在、危険に違いない。ならば素早くこのモンスターを倒すのが得策。抜いた刃が闇色に閃いた。
 雪白の術士・ニクス(a00506)は目を何度か首を振り、未だ残る眠気を吹き飛ばす。ぐっと気合を入れなおし、いつでも動き始められるように構えた。翠の賢帝・クリスティン(a26061)も、楽はさせてもらえない、と呟きながら既に臨戦態勢を整えている。
 モンスターと冒険者達は、ほぼ同時に動いた。

●双影との戦い
 モンスターの姿は、対照的だった。片方は左腕が大きく、もう片方は右腕が大きい。
 ニクスが、前衛を守る5人に鎧聖降臨を唱え、主の身を守る防具に新たな力が込められる。琥陽・リエル(a05292)はウェポン・オーバーロードをかけ、自らの刃は鋭い輝きを宿した。
 月下雪影の寒椿・セレスティア(a23809)は思う。二人で一つのように動くこのモンスター達、かつては大切な人同士だったのだろうか、と。それならばせめて、共に眠らせてあげる事がせめてもの手向け。放たれたニードルスピアは、リエルを狙おうとしていたモンスターの体を縫いとめるように降り注いだ。
 砂漠の民〜風砂に煌く蒼星の刃・デューン(a34979)はイリュージョンステップで攻撃に備える。悪を断つ竜巻・ルシール(a00044)が一歩踏み込み、左腕のモンスターを薙いだ。シリュウとディーンは同時に各々の武器や防具を強化する。全体の能力を上げ、さっさとケリをつけてしまおうという算段だ。クリスティンはその体に、黒炎を纏う。
(「相手も手負いならぐずぐずする理由はないな。一気に叩く!」)
 デューンは残像が現れるほど素早く動いた。月光を受けて妖しく煌いた刃が、右腕のモンスターを狙う。三方向から立て続けに繰り出される攻撃に、モンスターは思わず足を止めた。
 そこに、ニクスのエンブレムノヴァが直撃する。紋章筆記の力で格段に威力の上がった攻撃は、大きくモンスターの体力を削った。
「コード……エクスプロード!」
 ディーンは瞬きする間に敵との間合いを詰めると、渾身の闘気を込めた槍で右腕のモンスターを貫いた。その鋭い切っ先がモンスターの体に触れた途端、闇夜に爆発音が響く。一瞬、辺りは爆発の炎でぱっと明るくなった。
「間合いが甘い、ってね!」
 同時に行動を開始していたリエルは、敵の間合いに音もなく滑り込み、右腕のモンスターに横名儀の一閃。達人の一撃は相手を恐怖させ、その動きを制限させる。左腕のモンスターが、セレスティア目がけ突撃してきた。が、シリュウが素早く回り込み、身を挺して庇う。シリュウの剣に跳ね返され、そのまま数歩下がったところで、ルシールの巨大剣が容赦なく叩き込まれた。
『グァッ!!』
 仰け反った左腕のモンスター。だが、体勢を整え、そのまま素早く闇に身を隠した。
「……っ、デューンさん、後ろです!」
「!」
 セレスティアの叫びに、デューンはさっと反応して身を翻し、今まさに己を打たんとしていた腕を避けた。
「深緑の葉よ……鎖となりて我が敵を拘束せよ!」
 クリスティンの周囲にアビリティの葉が現れ、モンスターを束縛しようと飛ぶ。だが拘束には至らなかった。とその時、消沈状態から回復した右腕のモンスターが動き出した。同時に左腕のモンスターも動き出す。
「く……っ!?」
 二体はリエルを狙い、続けざまに攻撃を浴びせかけた。リエルが苦しげに眉を寄せ、だがその口元は笑う。土くれの腕は固く重く、痛みはじんじんと骨に響いた。痛みは、戦いは自分に生きていると知らせてくれる。だから、彼女は戦うことが楽しいのだ。すぐさまセレスティアが高らかな凱歌を歌い上げ、傷付いたリエルを癒す。リエルはセレスティアに短く礼を言い、武器を構えなおした。

●決着、結末
「こいつら、まさかダメージを共有しているのか……?」
 ディーンが呟いた。集中攻撃をかけられている右腕のモンスターは、もうそろそろ倒れてもいいぐらいのダメージを受けているはずだ。だが疲弊した様子はあっても未だ倒れそうではなく、そして、さして攻撃を受けていないはずの左腕のモンスターも同じ程度のダメージを受けているように見える。
「それだけ、想い合ってたのかな……」
 何度目かの紋章を描きながら、ニクスが悲しげに言った。火球は右腕のモンスターを掠める。同時に左腕のモンスターも、同じ箇所に傷を負う。デューンがミラージュアタックをお見舞いした時も、同じように二体同時に傷を負った。
「かつての誇りを汚させるのも憐れだ。俺達の手で止めを刺してやろう」
 腕を振り上げた左腕のモンスターの攻撃をかわし、バランスを崩したところで、ルシールの巨大剣が叩き潰すようにその背を斬った。
 クリスティンの緑の業火と、セレスティアのニードルスピアが、完璧なコンビネーションでモンスターに放たれる。燃え尽す炎と終焉をもたらす槍。同じぐらいボロボロになりながら、それでも尚攻撃を繰り出してくる二体の様は、いっそ悲しかった。
 シリュウが、雷電の力を宿した剣で、右腕のモンスターに渾身の電刃居合い斬りを放ち、そしてディーンがデストロイブレードを左腕のモンスターに叩き込んだ。
『グァアァ……』
『オォ……ォ』
 同時に崩れ落ちた二体は、確かに最後、互いの手を握ろうとその腕を伸ばしていた。

●二つ目の襲撃
 モンスターはただの土となり、放っておいてもいずれ大地と融け、新たな命の源となるのだろう。しかし気を抜くことは出来ない。冒険者達は、近付いてくる足音を聞き取っていた。
「あれは……」
 あの二体のモンスターが逃げてきた方向、そちら側から月光を背に現れた一団。
「……! 悪の、旗……っ」
 誰もが息を呑んだ。レルヴァ大遠征で、自分たちを追うトロウル達を攻撃した者達が居た。それはまさに、目の前に現れた彼らが背負っているものと同じ、『悪』の旗を背負っていた。
 モンスターのようでそうでなく、冒険者のようで違う、その姿。彼らは何者なのか? ―しかし、それを気にする余裕はない。相手は5人だが、彼らは、恐らくとてつもなく強い。少なくとも、今の冒険者達で連戦できるような相手ではない。冒険者をやってきて培った勘が、そう囁いているのだ。
 冒険者達は静かに、互いに目配せをすると、相手を見据えながらじりじりと後退した。モンスターとの戦いであちらも疲弊しているなら攻撃しようと目論んでいたデューンも、相手の力量を瞬時に見極め、刃を納める。
 そして、全員はぱっと身を翻し、一気に同盟への道を走った。後方からはすぐに、追ってくる足音が聞こえる。脇目も振らず、ただ来た道を走り抜けた。
 追う足音が聞こえなくなるまで走った頃には、空も既に白み始めていた。

「少しでもプーカ領への道が開ければ、と思っていましたが……」
 この先には、まだまだ強い存在が居ることを、シリュウは確認した。道のりはどこまで続くのだろうか。
 今分かるのは、確実に近付いていっているということ。
「あの、皆さん……今確認したら、保存食もギリギリですので……」
「え?」
 セレスティアの柔らかな声が紡ぐ言葉は、彼らに事実という名の試練を課す。
「頑張って帰りましょうね……」
 全力で駆け抜けた道より、その後、街まで辿り着くまでの道の方が、余程疲れたように感じた。


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