フエンテの誕生日〜砂の海を渡って〜



<オープニング>


●砂の海を渡って
 ザ……ン。ザザ………ン。
「なんとも、雄大な景色ですねぇ」
 ヒトの霊査士・フル(a90242)はノソリンから降り、辺りをぐるりと見渡す。
 正面には、水平線。
 左右には海岸線が地平の彼方まで広がり。
 そして後ろを振り返ると、そこには草木のない、荒涼たる砂丘が続く。

「私は……この風景、好きですのよ」
 同じくノソリンから降りた砂塵の中の蒼・フエンテ(a90277)が海を見る。
 やってきた潮風がその髪をそよがせる。
 生命を感じさせない砂漠と、母を思わせる海。
 それがこうして共存し、視界を埋め尽くしているということ。
「……それが、たまらなく………神秘的で、よいですの」
「なるほど。生在るが故に死在り。逆も然り。命は死して帰り、そして生まれ来る、というわけですね」

「………ちょっと……むつかしいですの」
 一人納得したように言葉を紡ぐフルへと、微妙に眉根を寄せてフエンテは言う。
「いえ、誕生日という、『生』を祝う日に、これほど相応しい場所はない、ということですよ」
 そういって微笑むフル。
 笑顔を向けられたフエンテはというと、やっぱり先と変わらぬ表情でうーんと唸っている。

「さ、では、場所も確認しましたし……一旦戻りましょうか」
「……そうですのね」
 というと、二人は再びノソリンに乗り、砂丘の向こうへと帰って行った。

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参加者
NPC:砂塵の中の蒼・フエンテ(a90277)



<リプレイ>


 黄昏に暮れてゆく砂丘。
 すぐに寒さにとって変わられるだろう暖かさの残る中を、海に向かう一行があった。
「今夜は、良い天気になりそう。空で瞬き始めた星達も、貴方の誕生日を祝っているのですわ。もちろん、ここにいる皆さんも♪」
「ロマンチックでありんすねぇ……そう言えば、こんな風景を歌った歌を聴いたことがありんすね」
 ノソリンの背に揺られながら群青色に染まった空を眺めていたミギワが、フエンテに向き直る。
「なにはともあれ、フエンテ、お誕生日おめでとうでござんす」
「私からも。フエンテさん、お誕生日、おめでとう」
 二人に声をかけられたフエンテは、ぺこり、と頭を下げる。
「ありがとうございます……ですの」
 余り表情の変化が見られないフエンテだが、口元が微笑んでいるのを二人は見逃さなかった。

「月光に輝く砂浜に闇を映す黒い海。死と命の出会う場所こそ、命が生まれるに相応しい……フルさん、詩人ですね」
 リュウがフルの台詞をそう評すると、少し照れた顔でフルは頭をかく。
「いえいえ。さ、目指す場所が見えてきましたよ」
 リュウの耳に、かすかな波の音が聞こえてくる。
 砂丘の向こうに、黒く染まり始めた海が見えてきた。


 満点の星空と無限に寄せては返す波の音。
 昼の暖かさとは正反対の寒さが辺りを覆う中、果てなく続く砂浜に灯りが見える。

「篝火というか焚き火? は、おっけーだよ」
 手を振るルティアに、ケーキ作成班のフィアが手を振り替えして答える。
「了解だよ〜、さ、ケーキの仕上げ、いくよっ」
 フィアの号令のもと、シャルルとクローバーは予め仕込んできたケーキの仕上げに入る。
 上下に分かれたスポンジを分け、蜂蜜で戻したフルーツをシャルルが飾り付ける。
「う〜ん、こんな感じですかね? ……よし、これで彩りはOKです」
「後は私が……なぁ〜ん」
 クローバーがチョコペンを取りだし、文字を書いてゆく。

【ハッピ〜パ〜スデーフエンテ・よき一年を】

「……。ちょっと歪んじゃったなぁ〜ん……」
「でも、これはこれで良いかもです」
 隣で、レツヤもうんうんと頷く。
 一生懸命書いた手書きの文字には、言葉では言い表せない暖かさがあったのだった。

「さ、ケーキが出来たよっ」
 手作りのケーキを見て、フエンテは三人にお辞儀をする。
「手作りのもの……とても、暖かいですの」
 フエンテに笑顔で答えるシャルル、クローバー、フィア、レツヤ。
「では、私からは飲み物を……。ペリニョン卿という発泡ワインと、未成年の方用に発泡性のジュースです」
 ケーキの到着に合わせテティスが飲み物を用意する。
 皆にグラスが行きわたったところで、フエンテがグラスを掲げる。
「では……乾杯、ですの」

 かんぱーいっ!!

 静かな夜空に、乾杯の声が響き渡った。


「誕生日おめでとうー!!」
「誕生日、おめでとうございます」
「フエンテ、お誕生日おめでとう!」
「始めまして。それと、お誕生日おめでとう!」
「依頼ではいつもお世話になってますわ。感謝の意も込めてお祝いですの〜♪」
「フエンテ、お誕生日おめでとう!」
「おめでとうございますの〜」
「フエンテさん、お誕生日おめでとうネ」
「……誕生日、おめでとうな」

 フエンテの元に、見知った顔、始めての顔が次々と訪れ、お祝いの言葉とプレゼントを届けに来た。

「女性が喜ぶプレゼントがあまりわからなかったのだが……香料を集めていると聞いたのでな」
 グレイヴが、プレゼントを手渡す。
「ありがとうございます……ですの」
 礼を言うフエンテに、グレイヴは一つ咳払いをして、
「……で、だ」
 と、続ける。
「この前、これまた人づてに聞いたのだが……俺が撫で棒を貰って喜ぶとか聞いたらしいな?」
 頷くフエンテに、グレイヴはさらに続ける。
「いつも言おう言おうと思っていたのだが……、俺は」
「フエンテちゃん、お誕生日おめでとうなのよぉ〜。誕生日プレゼントもってきたのよ!」
「私からも……プレゼントです」
「私からは、腕輪の形の盾です。よろしければ、使ってください」
 ミナが割り込みプレゼントを渡すと、テティス、ウェンディスがそれに続く。
 何か言い続けるグレイヴを、
「私、やっぱりこういう役割なのネ」
 とか呟くヨーコが引きずってゆくのだった。

「香水瓶の【les yeux bleues】というものです」
「綺麗なもの……ですのね」
 ニューラがフエンテに手渡した青く輝く瓶が、篝火に照らされて頭上の星のように煌く。
 瓶の見つめるフエンテに、ニューラは瓶に関する話を聞かせる。
「青い薔薇の花言葉【不可能】という人も、【奇跡】という人もいる」
 瓶をフエンテとともに見つめ、そして視線をフエンテへと移す。
「……けれど、そんなことは、自分で決めればいいことですよね」
 ニューラの言葉に、フエンテはこくりと頷く。
「そうですのね……その言葉も、プレゼントとして……頂いておきますの」
「はい」
 漆黒の髪を揺らして、ニューラはフエンテに微笑だ。

 続いて、やってきたのはヒマワリ。手には、自作のリボン付き麦藁帽子。
「さ、プレゼントですわ」
 と、フエンテに麦藁帽子を被せる。
「ありがとう……ございますの」
 帽子の角度を直したりしているフエンテ。そんな様子を見ながら、ヒマワリはフエンテに話かける。
「初めてお見かけした時より、瞳に映る意思が強くなっている気が致しますわ〜。フエンテ様も成長されておりますのね♪」
 そういいつつ、ふとその胸元に目がいく。
(「……胸は、相変わらず大きいですわね」)
 ヒマワリの内心を見透かしたかのように、エリィがフエンテの方を向いて口を開く。
「フエンテさんきれいですの〜。どうやったら、そんなにむねがおっきくなるんですの〜?」
「……、好きな香りの中で……良く寝ると、育つかも……ですの」
 きゅぴーん。
 参加者中、幾人かの目が光った(かもしれない)。
 エリィはなるほど〜と素直に関心する。
「おしえてくれたおれいと、たんじょうびのおいわいに、うみべでおんがくをひいてあげるですの♪」
 とてとてと海辺に歩いてゆくエリィ。
「私も協奏致してよろしいですか?」
「宜しければ、私も加えてもらえるでしょうか……」
 コチョウが海岸の流木に腰掛け、ウェンディスがフルートを取り出す。
 テティスも、無言でリュートを取り出すとウェンディスの隣で構える。
 少し硬くなるウェンディスの様子に微笑しながら、ニューラも白鳥琴を持って進み出る。

 5人の楽器から、緩やかで優しい音楽が紡ぎだされる。
「薔薇の燈です。こういう雰囲気には合うと思うのですが……」
 ニューラが用意した篝火のオレンジ色とは違う幻想的な灯が、演奏している者達を照らす。
「じゃあ、私は剣の舞を披露しようかな?」
フィアが演奏している4人を見ると、皆が頷いて了解の意を示す。
「では……舞の名は、【月の蜃気楼】。月光の下、踊ります」

 一礼し、二振りの刀を両手に持ち、そしてフィアが舞う。
 足元でペットのみにたれが一緒に踊り、波の音と音楽が一体となる。
 緩やかに踊る剣が音に合わせて銀月の光を、篝火を反射する。

「不思議でんす。荒涼としているのに、海が見えるせいでありんしょうか……」
 踊りと、その向こうに見える海を見つめ、ミギワは我知らず【月虹】を抱きしめる。
「少しも寂しくありんせん。見守られているよう……」
それは、想い人から贈られた剣だった。

「さ、フエンテさん、お食事もどーぞ、なのヨ」
 ヨーコが踊りを眺めていたフエンテに食べ物を差し出す。
 ヒマワリも釣って来た魚を焼いて、音と踊りを楽しむ者に振舞う。
 ミナが喜んで魚を受け取り、はぐはぐと食べている。
 まったりと紅茶を飲んでいたソルディンが、フエンテにお茶を勧める。
「入れたてのローズティです。よかったら、どうぞ」
「ありがとう……ですの。頂きますのよ」
 食べ物とお茶をもらうフエンテに、ソルディンはマントを差し出す。
 と、隣から同じタイミングでマントが差し出される。リュウだ。
「お?」
「ソルディンさんも、同じことを考えていましたか」
「そのようですね」
 顔を見合わせ、リュウとソルディンはお互いに笑う。
「あらあら、フエンテちゃん、モテモテね?」
 参加者と飲み比べをしていたドロレスが、いたずらっぽい笑みを浮かべてフエンテの頬を突っつく。
 つつかれた当の本人は、きょとんとした顔で小首を傾げている。
(「これは、からかいがいがあるようになるのは、もう少し先かしら?」)
 心の中で苦笑するドロレスなのだった。

 ちょいちょい、とフエンテの肩が叩かれる。
 振り返ると、そこにルティアの顔があった。
「フエンテちゃん、コイントスしない? 負けたほうが言うこと聞くって条件、どう?」
 密かに博打好きなフエンテの瞳が光る。
「……いいですのよ」
「じゃ、私は裏で。……いくよっ」
 ルティアが親指でコインをはじく。手の甲に着地するコイン。
 すかさず掌を被せる。
 それがのけられて結果が出たとき、丁度音楽が鳴り止んだ。


 緩やかな音楽が鳴りやむ。
 一瞬の静寂の後、割れんばかりの拍手が辺りを包み込んだ。
 たくさんの人といれる嬉しさに、少し涙ぐみ、笑顔を浮かべるエリィ。
「エリィ、いままでずっとひとりだったから……たくさんひとがいるのはうれしいですの」
 その光景に、全員の心が温かくなる。
 
 さて、では次は……と皆が思考しようとした、その時だった。

 ざしゅっ!!

 海岸で静にポージングを取っていたパゲが突如動いた。月光をバックに飛び上がる。
 キラリと頭が月光を反射して輝く。
 次の瞬間、影は砂煙を舞い上げて、砂の上に着地していた。

 件の影、もとい、パゲの名を、リュコスと言う。

「では、次はワシ等の番じゃな! 今宵は踊るのじゃ! ほれ、ソコの者! 及びソコの者!!」
 
 ビジッ! という音が二回、鳴る。

「俺か?」
「ん? 俺もか?」
「うむ、御主ら良い身体をしておるのう! 一緒に踊ら な い か ?」
 指名されたレツヤと、砂の上でぼんやり考え事をしていたサンクは顔を見合わせる。
「ふ、面白い。丁度身体を動かしたい気分だったからな」
「ふむ……折角の機会だしな、躍らせてもらうぜ」
 不適に笑って立ち上がるレツヤ
 何かを振り払うかのように頭を振り、立ち上がるサンク。
 雲行きが怪しくなったのを察し、グレイヴが眉根を寄せながらリュコスにつかつかと歩み寄る。
「いいか、リュコス。前から言いたかったのだが、お前は……」
「おお、御主も踊るか、グレイヴ!」
「だから、人の話を聞けと……! うわー」
 哀れ、グレイヴは襟首を猫のようにつかまれ、再び引きずられていってしまった。
 諦め顔で頭を振るヨーコ。
「ああ、やっぱりこーなるのネ……」
「私も踊るわよ。フエンテに生が宿った日を、共に集った仲間達と祝うために」
「せっかくだから、ボクは歌うのよぉ〜♪」
 祭りの雰囲気を感じ取り、キララとミナが立ち上がる。
「では、次は賑やかに参りましょうか。さぁ、今宵、踊り灯りましょう♪」
「賑やかにいくなら、私も参加しますわよ」
コチョウがハープを、新たに加わったヒマワリが竪琴を、それぞれ掻き鳴らす。
先ほどとはうって変わった速いテンポの音を紡ぎだした。

「月が輝き 砂が歌う 波はよせ 風に音を乗せる
 今宵に祝福を 砂が月明かりと踊る夜
 波の音に乗せ 届く声に耳を傾けよう」

 さながらアイドルコンサートのように、ミナが歌い、その隣でキララが、背後でリュコス、レツヤ、サンク、グレイヴが踊る。キララのホーリーライトが七色の光を放ち、賑やかさを否応にも増してゆく。
 リュコスの頭上にミナがタコを乗せると、タコも一緒に踊りだす。これがホントのタコ踊り。 
「どんちゃん騒ぎですね」
「でも、みな楽しそうなぁ〜ん」
 そう言いながら、踊りを眺めているシャルルとクローバーはとても楽しそうに笑う。
「さ、フエンテも踊ろうぜ! 楽しい時を何時でも思い出せるよう、あの満月が沈むまで!」
「良かったら、フエンテも一緒に踊りましょ♪」
 サンクとキララがフエンテの前に進み出て、手を差し伸べる。 
「……ええ、いきますですの」
 両の手で二人の手を取り、立ち上がるフエンテ。
「そうねぇ、賑やかにいくのも、たまには悪くないわね。フエンテちゃんに、軽く踊りを披露してあげるわ」
 衣装を異国風の赤い衣装に変えて、ドロレスも立ち上がる。
「では……ドロレスの踊り、見せてもらいますのよ」
 フエンテが自分がされたように、ルティアへと手を差し伸べる。
「ルティアも、言うこと聞く約束……ですの。一緒に踊る、ですのよ」
「む、そうきたかぁ。いいでしょ! やってやるわよ」
 弾むリズムに、次々と人が加わってゆく。
 鈴が鳴り、歌が流れ、曲が鳴り、声が響く。

 思い思い、ばらばらに踊っていたはずの踊り。
 それは、いつしかジャズのセッションように一つのハーモニーと成る。
 皆が自由に、しかし一体感を持って踊り、歌い、弾き、紡ぐ。

 飽きることなく、その光景を眺めていたリュウが不意に飛び込んできた強い光に目を細める。
「夜の内に帰る予定が、もう朝だ……ほら、満月と太陽が同時に……!」
 水平線に光が輝き、太陽が昇る。
 皆が、手を、身体を休めて、生命を抱く光を全身に浴びる。

 新たな時を告げる光に目の中、フエンテは思う。
 この素晴しい仲間と共に、一年後の今日を祝えたら良いな、と。


マスター:PE2 紹介ページ
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参加者:21人
作成日:2006/05/21
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