ラミリアの誕生日〜スズラン通りを歩きましょう〜



<オープニング>


 よく晴れた日の昼下がり。一つの小さな小包が酒場に届いた。
 中に入っていたのは一通の手紙と、スズランの花の形をした砂糖菓子。
「あ、懐かしい〜。そういえば、もうそんな季節なんだ」
 いいお茶菓子が手に入ったと、動植物好きの霊査士・ラミリア(a90212)は早速包み紙を開き、一つ口の中に入れる。口の中でふんわりと崩れる白い塊から、優しい花の香りが広がる。昨年口にしたものと、同じもの。
「やっぱり、おいしぃ〜〜〜」
 幸せいっぱいの笑みを浮かべ、ラミリアは思い出したように手紙の封を切る。
 中に入っていたのは、招待状。

「みんな〜。スズラン見に行かない? 丘いっぱいに咲いたスズラン」
 突然立ち上がったラミリアは、酒場にいた冒険者達に呼びかける。
「町の大きな通りと外れの丘にスズランを植えている町があるの。そこのスズランの花がもうじき咲きそろいそうなんだって。見に行かない? お土産として、スズランの花の形をした砂糖菓子とか、スズランをモチーフにした小物とか、売ってるんだって。お買い物に行くのも楽しそうだよね〜」
 口ではそんな風に言うが、一人でも花だけを見て一日つぶしそうではある。
「スズランって、結構好きなんだよね〜♪」
 一人つぶやくラミリアは、すぐにでも出発しそうなほど浮かれてはしゃいでいる。年齢を疑いたくなる言動に、その場にいた冒険者の一人があることを思い出す。
「そういえば、ラミリアの誕生日って今月だっけ?」

マスター:白樹 紹介ページ
場所は昨年の『鈴蘭通り』という依頼と同じですが、知らなくても全く問題ありません。一応誕生日と銘打ってはありますが、あまり意識する必要もありません。本人は誕生日を覚えていますが、だからと言って特別なことをするつもりもしてもらうつもりもなく。ただ、せっかくの機会なのでスズランの花見に皆を誘っているだけです。
お土産を購入して持ち帰りたい方は、その名称を全角35文字以内、設定を全角40文字以内、アイテムの分類、レベルは30以下で能力値の割り振り、をプレイングで指定してください。分類の指定が無いものは、一番近いと思うもの、レベルの指定が無いものは1で発行いたします。
尚、ラミリアは丘で一日潰すつもりです。

参加者
NPC:動植物好きの霊査士・ラミリア(a90212)



<リプレイ>

●鈴蘭の花咲く通り道
 招かれ訪れた町の大通りは、細長い植木鉢がずらりと並んでいる。その全てにスズランが植えられ、通りを歩く人の目に留まりやすい位置に置かれている。
「いつにない異邦人気分ですね」
 見知らぬ町というのはどこにでもあるけれども、強い花の香りはストラタム(a42014)をいつもと違った気分にさせる。
(「私だって解ってくれるかなあ?」)
 折角のお出かけに、いつも束ねていた髪を下ろしてみたセラ(a17990)はほんの少しだけ、心配にもなってみる。
「……セラ? ああ、髪下ろしたんだな」
「すぐに解った?」
「ん、わかったけど……何か変か? 似合ってると思うけど……」
 いつもとほんの少し違うけれども、セラはセラだし、何が気になるのだろうとクロ(a41958)は首をかしげる。さらりと言われた言葉に少し照れながらもセラは嬉しそうに笑う。でも、通りを歩き始める前に取られた手に首をかしげる。
「……花も綺麗だし、ぼんやりして飛んだら大変だから。嫌ならやめるけど」
「ううん、嫌じゃないよ」
 繋いだ手がほんわか温かい。
「本当に見事ですわね」
 通りをそぞろ歩きながら、テティス(a36154)は花盛りのスズランを見つめる。咲き揃った鈴蘭は小さく可愛らしい姿と香りで楽しませてくれる。それまでは軽い世間話を続けていたウェンディス(a44834)も視線を花に向ける。
「そうですね」
 植木鉢という狭い空間にもいっぱいに並ぶスズランは小さいなりに控えめに、それでも精一杯存在を主張している。そんな鉢植えの乗った窓辺の奥で、その花を模した銀細工の鈴が揺れている。
「雑貨屋……でしょうか。見ていきますか?」
「ええ」
 可愛らしいお土産を期待して、二人は扉に手をかける。
 雑貨の飾られた喫茶店に入ったフローライト(a10629)とアオイ(a07743)とヘリオトロープ(a00944)はお茶とスズランの花の形の砂糖菓子と会話を楽しむ。
「う〜ん。美味い」
「本当に。優しい味ですね」
 ふんわりと口の中で崩れる菓子はそのフレーバーのおかげか甘ったるくない。
「鈴蘭の形の砂糖細工とかお菓子とかって見た目も綺麗だねー」
 座ったテーブルの中央に飾られる細工に見とれながら、ヘリオトロープは会話に耳を傾け、また一つ菓子を口に運んでいく。
 店先にまだつぼみも含む切花と鉢植えを並べているのを見つけたルルイ(a42382)は足を止める。
「鈴蘭のブーケが欲しい。……出来るなら、自分で作りたいのだが」
「大丈夫ですよ。プレゼントですか?」
 無理かも知れないと思って告げた願いも、店員は笑顔で聞き入れ用途を尋ねてくる。それにほっと息を吐いて小さく答える。
「もうすぐ、友人の結婚式なのだ……」
 自分にしてあげられることといえば、こんなことしか思いつかなかったけれども。
「大切な友人なのだ……」
 飾るリボンにも、束ねる花の一本一本にも思いを込めて、選んでいく。
「この町は鈴蘭が多く植えられているが、どのように増やしているんだ?」
 その知識を他に生かせないかと、ノリス(a42975)は尋ねる。ほんの僅かなことでも、美しい花の町を作るコツがあるのではないか。
「特別なことはないですよ。必要なのは相性と時間と愛情でしょうかね」
 その土地に合わないものならばここまでは増えなかっただろうと、答えた者は微笑んだ。

●鈴蘭の丘
 町を抜けたところから見渡せる範囲の丘は全てを埋め尽くすスズランは小さな白い花を咲かせ風に吹かれ揺れる。
「へぇ、こんな沢山咲いてるの、見るの初めてだ」
 明るく楽しそうなナオ(a22340)より少し遅れて、スズランの花とは対照的な黒のゴシック服に身を包んだコラルフィン(a21032)は丘の間を通る道を歩く。スズランはコラルフィンの大好きな人がこの花にたとえてくれたことがあったから、だから、一番愛しい花だけれど。綺麗で大好きなのだけれど、それは今はもういないあの人を思い出させるものだから。涙でにじんだ視界で、ナオと目が合って。コラルフィンは慌てるがナオは何も無いようにからっとした笑顔を向ける。
「景色も香りも、綺麗なもんだなぁ」
 気づいていないわけじゃない。それでも、ナオは何もなかったように振舞ってくれている。そうして欲しかったことに気づいているかのように。だから……
「取っってらっしゃぁーーーーい★」
「だから犬扱いするなっつって……」
 どこから取り出したのやら。コラルフィンは犬用のおもちゃを取り出し放り投げる。ナオもまた律儀にというか条件反射的にそれを取りに走って。
(「一緒なのがナオくんで、良かった……。ありがとね、ナオくん」)
「あ、ナオさん待って!」
 いつもの役割(?)を先にとられて、イオ(a21905)は後を追って駆け出す。
「相変わらずね」
 じゃれあう様子を眺めてセザリア(a21213)は微笑む。そうやって楽しく過ごしていることが、一番嬉しい。
「鈴蘭の花、可愛らしいですわね。花の香りに包まれているととても落ち着きますわ……」
 リリーナ(a39659)は微笑んで、他には何をするわけでもなくずっと丘に咲くスズランを眺める。スズランの花の間に入り込んだウェンデル(a47704)は仰向けに横たわり、より近くにある香りに包まれ、しばらくだけのつもりで瞳を閉じる。だが。
「スズランの上で寝ちゃダメなんだよ? これでも強い毒があるから」
「え、そうなんですの?」
 いたずらっ子のような笑みを浮かべるラミリア(a90212)に言われて、ウェンデルは慌てて起き上がる。
「あ、ラミリア。おいしい砂糖菓子があるってきいたんだけど……」
「うん。名産品らしいよ」
 ミリィ(a37592)は一緒に探しに行かないかと誘うが、もうもう少し見ていこうと逆に誘い返す。急がなくても多分たっぷり用意されているだろうから。
「姉さん、戦の前に一緒に出掛けられてとっても嬉しい。今回こそは、怪我しないよーにしたいかな」
 まったり風に揺れるスズランを眺めながら、幸せいっぱいの笑顔でイオはセザリアに告げる。それから。
「ナオさん、……誘ってくれてありがと。戦の前に姉さんとの思い出も出来たし。感謝、してるわ」
 先ほど犬扱いしてからかっていた相手に、真面目に言うには少し照れくさくて、すらすらと言葉を続けられなかったが、思いはきちんと伝わっているだろう。

●誕生日
 丘一面に広がるスズランにぼーっと見入っていたラミリアにとって、それは不意打ちだった。
「この度はお誕生日おめでとうございますわ」
「うん?」
 リリーナが最初に微笑んでお辞儀をした後も、すぐにはわからぬ顔で首をかしげる。だがそんなことはお構いなしに、ニューラ(a00126)は真っ白なケーキを取り出す。この町で買っただけあって、飾られているのは真っ赤なイチゴではなく、真っ白なスズランの砂糖菓子。その上に、23本のろうそくも立てて。
「うわぁ〜、すご〜い」
「ラミリア、誕生日おめでと♪ これで同い年だね〜」
 ただただ驚くラミリアに、ミリィはろうそくを吹き消すように促す。
 本人も別に忘れていたわけでもない。ただ、もう過ぎ去ってしまっている上に、祝ってもらって無邪気にはしゃぐ年でもないだろうと感じていた。だから正直なところ、反応に少し困っていた。
「ラミリア、誕生日おめでとさん♪ 良いところにつれて来てもらって、感謝してるぜ」
「ありがと〜。やっぱり、いい景色を見るのも皆と一緒の方が楽しいもんね」
 照れ隠しに微笑みながら、物凄く困っていた。なんでもないように笑っていたいのに、勝手にほてってくる顔なんかに。
「お誕生日おめでとうございますね♪」
「ラミリアさん、誕生日おめでとう」
 お祝いの言葉と共にトモコ(a04311)は持参した小さなチェリーパイを渡し、セザリアはラミリアの漆黒の髪に一輪のスズランを挿す。
「やぁ、ラミリア久しぶり〜。誕生日おめでとな〜」
「ラミリア殿、誕生日おめでとうじゃな。今年一年がおぬしにとって良い年である事を祈っておるぞ」
 アレス(a14419)とクルティア(a07373)も、皆にあわせて祝いの言葉を贈る。
「私からは大吟醸酒一升瓶入よ」
「それって、店の売り物じゃないの?」
 イオが取り出したそれに見覚えがあるセザリアは小声で尋ねるが、イオは何も気にすることは無いと爽やかな笑顔で答える。
「損失分は価格に上乗せするから無問題よ」
 それは、店としては損はしないが……。
「お誕生日おめでとうございますわv わたくし達のプレゼント受け取っていただけます?」
「つたない踊りですがお祝いの舞ですv」
 祝いの言葉を告げた後、セイカ(a46303)の弾くリュートが奏でる音楽にあわせ、アンシュ(a41199)が舞う。花のそばであったために余り大きな動きはできなかったが、息の合った演技にラミリアはお礼と賛辞をこめて拍手を贈る。
「ありが、とう。なんか、こうやってちゃんと、祝ってもらえるなんて、思ってなかったな」
 お祝いの言葉をもらって、ケーキが出てきて、プレゼントをもらって。幼い頃から繰り返し両親にしてもらったそれらの行為は、成長するにしたがってだんだんなくなって。だから酷く、子供っぽいことのように思えていたけれども。
 どう扱っていいかわからぬ感情をもてあまし、苦笑しうつむく。
「おっと、そういえば誕生日プレゼントじゃが……こんなのはいかがかな?」
 用意していた物の存在を思い出したクルティアは、何故か毛生え薬を取り出し……違う者へのプレゼントだったと戻してもう一度持ち物を探し始める。その様子を見てアレスも思い出して。
「あ、そうだ! どうしても身長欲しいって言うなら……これあげようか?」
「おお、あった。160cmにギリギリ1cm届かない上げ底ブーツをあげよう」
 二人がほぼ同時に差し出した、底のとっても分厚い靴に、ラミリアの笑顔が解りやすいくらいに引きつる。
「そんなの、誰がいるかぁ!!!!」
 いったん受け取ったそれを放り投げ、真っ赤な顔で怒るラミリアの怒っている理由が実は『そんな靴は可愛くないし歩きにくい』ということだった辺りは、まだ困惑が残っていたからだろうが、見ていただけだと全くわからなかったりする。
「こうやって見ると……」
 年相応……という言葉からすらも離れていく姿に、ニューラは用意していた台詞が続けられそうになく、微笑みで誤魔化す。

●丘の上、静かに―花言葉―
 丘をゆっくり見て回った後、セイカとアンシュは並んで座る。
「こうやって二人で話すのも久しぶりですわね、姉様」
 嬉しそうなセイカと一緒で、アンシュにとってもそれは嬉しいこと。ただ、ちょっと気になっているのが。
「セイカ……昔のようにアンシュと呼んでいいのよ? 私達双子なんだからね?」
 その方が嬉しいと、アンシュは微笑む。
「本当に……見事なまでに咲いていますね……」
「小さい花でもこれだけ咲いてると見応えがあるな」
 通りを抜け、丘まで上ったアオイとフローライトは通り以上にいっぱいに咲く鈴蘭を見渡し、先ほど口にした砂糖菓子によく似た香りを楽しむ。
「花言葉は確か……」
「……幸福とか純愛だったかねえ」
「あと、やがてくる幸福、だね」
 途中で言葉を切り考えを巡らせるアオイに代わって、フローライトとヘリオトロープが答える。微妙に違うそれはどちらも間違ってはいない。答えを聞いてからほんの少し間が開いて。
「お二人ともお土産に頂いては如何でしょうか?」
 ふんわりと。アオイはそれはそれはステキな微笑を二人に向ける。
「……お土産? それは別に構わねえけど、その妙な間の長さは一体何だ? つか何でアオイがそんなに嬉しそうなんだよ」
「いえ……折角ですからと思いまして…」
 慌てるフローライトに、アオイはなんでもないというように、しかし更に笑みを深くして続ける。
「それに……お二人には幸福になって頂きたいですから…」
「俺には重いなあ……」
 苦笑するヘリオトロープに、そんなことはないとやんわりと笑顔で否定して。アオイは風に揺れるスズランを見下ろす。
「こういった穏やかな日が続く世の中に早くなると良いですよね……」
 スズランの花咲く丘はこんなにも、暖かく静かなのに。
 スズランの間をトモコは一人でゆっくり歩き、その香りを吸い込む。その澄んだ優しい香りに包まれて、静かに考えを巡らせる。この一年、いろんな人と出会い、笑い、泣き。思い出が沢山増えた。
「……私は、少しぐらい成長できたんでしょうか」
 力の強さや体の大きさのような単純なものではなく、人間として。答えを定めきれずに、時間を忘れて考え続ける。
「……鈴蘭はあまり香りないかと思ってたが結構あるんだな」
 花を揺らす風に乗って、花の香りがクロ達に届く。
「小さくとも……凄いな」
「うん」
 一つうなずいたセラはかがんでその花に軽く触れる。
「花は大抵好きだけど、小さな花が頑張って咲くのを見るのはもっと好き。一杯頑張っているのをみるとこっちも元気づけられるから」
 隙間無くお互い押し合うように咲いた花も、それぞれ精一杯に咲いている。そんな花達のように。 
「これからも一緒に頑張っていけたらいいよね?」
「そうだな」
 クロとしてはなんとはなしに繋いだ手だけども。
 これからもこうやって繋いでいければいい。どんな時でも。思い出した鈴蘭の花言葉は『約束』。
(「……約束できればいい」)
 誰に誓うわけでもなく。見下ろした鈴蘭は静かに揺れている。
 傾いた日が空に淡いグラデーションを作り始め、ほんの少し辺りが暗くなったように感じる。
「明日からはまた同じ慌しい日常が待っているのでしょうね」
 そうつぶやいて、ストラタムは流れる茜雲と同じ色に染まる丘に背を向ける。
 ゆっくりと、辺りにとどまり続ける香りを吸い込んで。

 それでは、また来年。


マスター:白樹 紹介ページ
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作成日:2006/05/28
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