子供誘拐絶対救出



<オープニング>


「子供を誘拐して親を脅迫する凶悪な賊が出現しています」
 ドリアッドの霊査士・シィル(a90170)が重い表情を作った。弱い子供を盾に犯罪をするとは許しがたい。冒険者たちの考えも同じだ。怒りが湧いてきた。
「霊査によると、賊のアジトは南西の街道にほど近い森の中にあります。賊がさらうのは15歳未満の比較的小さい子供で、現在のところ6人が誘拐されていますね」
 要はその6人を救い賊を退治するわけだ。一般人相手なら冒険者の力で一捻りである。だがシィルの顔はまだ暗い。
「最重要課題は当然人質にされている子供たちを守ることですが……強行突破はまず無理ですね。皆さんの攻撃が及ぶ前に、子供たちは殺されてしまう可能性があります。だから、強行以外の作戦をどうにか考えてください」

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参加者
おバカな奔風・ララ(a09883)
サイレント・ロア(a11550)
真昼間のお天気雨・キスケ(a21848)
世界に一匹だけの猫・アルテミス(a26900)
幸せを呼ぶ黒猫・ニャコ(a31704)
破滅に誘う黒衣の聖女・シアリィン(a31917)
衝撃の弾幕少女・ユーロ(a39593)
ヒトノソリンの紋章術士・トルテ(a45162)
言いくるめのペ天使・ヨウリ(a45541)
黒き輝く月・シーリウス(a46429)
ギルガメビウスクライン・リバーサイド(a46542)
瑠璃色の魂抱く大地の守護者・ペルレ(a48825)


<リプレイ>


 子供というもっとも弱い存在を、恥も外聞もなく自己欲望のために使う賊には、一片の容赦も必要あるまい。冒険者たちは怒りを面に出さなくとも、心を煮えたぎるような熱さで覆っていた。少々痛めつけるだけでは気が済まないとすら思う。
「絶対に、成功させるぞ。頼んだ」
 狭間に漂う虚ろな幻像・リバーサイド(a46542)が囮役に声をかける。――そう、相手が子供をさらうということを逆手に取り、年少のメンバーが体を張ることにしたのだ。
「お姉ちゃんと一緒に楽しく行こうにゃ♪」
「……うん」
 幸せを呼ぶ黒猫・ニャコ(a31704)と破滅に誘う黒衣の聖女・シアリィン(a31917)が姉妹という設定で作戦を行う。ふたりはまだ10代の前半。特に着飾らなければ、どこにでもいる女の子にしか見えはしない。さらに世界に一匹だけの猫・アルテミス(a26900)と衝撃の弾幕少女・ユーロ(a39593)が彼女らの姉として囮をしやすいようにサポートをすることになった。


 まずは情報戦。誘拐に値する子供がいると街中でアピールする。
「知ってるかいマスター、金持ちの家族がこの街に来ているらしい」
「それ、私も聞きましたよ〜。とある地域では大変に有名な行商人らしいですねえ〜」
 黒き輝く月・シーリウス(a46429)とヒトの牙狩人・ペルレ(a48825)が酒場に行き、よく通る声で話した。酒場には商人も多い。さっそく興味を示した者が何人かいた。いい出だしだ。予想より早く噂は広まりそうである。
 さて本命の囮班。言いくるめのペ天使・ヨウリ(a45541)が娘役のメンバーたちと一緒に通りを闊歩している。
「うーむ、いい所じゃのう。素晴らしい取引ができそうだわい」
 彼は姉妹の養父&宝石商という役だ。恰幅もよくてそれっぽく、疑う要素はない。見事なはまり役だった。
 適当にしばらく街を回った。もし誘拐団がここにいれば、必ず一行の噂は伝わっているはずだ。
 次にニャコ、シアリィン、アルテミスが街を抜けて街道に出た。ピクニックに向かう、いかにも楽しげにはしゃぎまわっている子供たちという風に。今日は天気もよく、子供が出歩いていても無論、何の不自然もない。
 森の入口は街からはさほど離れておらず、間もなく見えてきた。ポッカリと木々が開けており、よく見れば足で踏みならされたようになっている。頻繁に人の出入りがあるのは間違いなかった。
 3人は森に入ると、可愛らしく咲いている花を探したり、キラキラと飛んでいる蝶を追いかけたり、純真無垢な子供をひたすらに演じた。もちろん周囲を窺うのも忘れない。
「あっ、忘れ物してきたにゃ。ちょっと待っててにゃ〜」
 頃合を見計らって、アルテミスがすたこらと離れていく。残されたニャコとシアリィンはそれを見送ると、引き続きお菓子などを食べながら遊びの演技に専念した。
 時が来た。
 ガッシリした体つきの男がふたり、後方から見えてきた。街からやってきた賊に間違いない。少女の人影に気づいた賊は、小走りで近づいてきた。眼が怪しく輝いている。
「なあ、もうふたりくらいは置いとけるんじゃないか?」
「だな、ボスも喜ぶだろう。ふっふっ、こんな所で遊ぶなんていけない子供たちだ」
 唇がいやらしく歪んでいる。邪に染まりきっていることが容易にわかる、凶悪そのものの面構えだった。彼らが腕を伸ばす。
「あ〜〜ん、ニャコちゃんのしゅ〜くり〜む〜」
「……お姉ちゃん……」
 ふたりは精一杯に抵抗のふりをしながらも、口に布をつけさせられた上でおとなしく賊に抱えられた。賊は満面の笑みで奥へと悠々歩いていく。
 ――その様子をしっかりと目に焼き付けたのが、おバカな奔風・ララ(a09883)、真昼間のお天気雨・キスケ(a21848)、シーリウスの3人だった。巧みに木陰に隠れていた上にハイドインシャドウで風景に溶け込んでいたので賊たちも気づいていなかった。
 尾行を開始する。ハイドインシャドウは走ってしまうと効果が切れてしまうため、敵がのんびりと歩いているのは幸運だった。
 賊たちはずんずん進んでいく。やがて地ならしされた土地の上に、かなり大きな丸太小屋が建っているのが見えた。入口には見張りらしい男がいて、得物を捕まえてきた仲間にニヤリと微笑んでみせた。
 囮ふたりは問答無用で中へと放り込まれる。中は外観から予想されたとおり広く、多数人での共同生活に適しているようだった。
 そして――いる。まだ年端もいかない子供が6人、隅に座らされている。一様に目に涙を溜めて、新たな被害者がやってきたのを更なる絶望の眼差しで見つめてくる。ニャコもシアリィンも心の中でもうすぐ助けると声をかけた。
 外でも、無事アジトを発見した尾行班が闘争心を燃焼させていた。
「キスケ、よろしく監視頼むで」
「合点じゃ」
 キスケを残し、ララとシーリウスはすぐさま元来た道を音も立てず走り抜ける。


 残りのメンバーは20分後に合流した。あまりの速さにキスケも驚いた。
 後は乗り込むだけだ。しかし人質の真ん前で乱戦状態に陥るのはできるだけ避けたいところ。
 そこで冒険者たちはもうひとつ作戦を立てた。ユーロと至上の黒・トルテ(a45162)がさらなる囮になる。
「ニャコちゃん、シアリィンちゃん、どこー? お姉ちゃんだよー!」
「……あ? あそこに建物があるなぁ〜ん?」
 とてとてアジトに向かって走る少女たち。それは入口に立っている見張りに当然発見される。彼はおうまた子供が来ましたぜと中の仲間に呼びかける。
 扉が開かれ、男がふたり現れる。彼らはノータイムで、ぎらついた野獣の仕草で、捕獲にかかろうとした。
 その時! 木陰から飛び出したサイレント・ロア(a11550)が大地斬で地面を撃った。凄まじい轟音が響く。それが合図となって冒険者たちは次々に躍り出た。
 機先を制したのは、か弱い少女の演技を止めたユーロだ。襲ってきた賊を粘り蜘蛛糸でがんじがらめに縛る。
 二番手、アルテミスが突っかける。両手斧で攻撃――もちろん刃を立てたら死んでしまうので、ハンマーの要領で腕を殴った。軽くやっても重量があるので骨が折れた。
 冒険者たちも鬱憤が溜まっている。実際に命は奪いはしないが、秒殺で敵を仕留めんと気力をみなぎらせた。見張りが叫ぶ。
「く、曲者!」
「何だ、どうした!」
 またひとりが外に出てくる。賊が人質から離れれば離れるほど好都合だ。
「余所見をするな。これを見るんだ」
 シーリウスが魔法の胡蝶を空間に生み出し、すみやかに混乱させた。へなへなする賊を横目に、何人かのメンバーはアジトに乗り込む。
 建物の中は一触即発状態になる。囮だったふたりが子供たちの前に立ちはだかり、そこへ入口から冒険者が入って来たのだから完全な挟み撃ちだ。
 突風が吹く。ララとキスケが緑の束縛でひとりずつ封じていった。ひええお頭ぁ。賊たちは気弱な声を漏らした。
「ええい、野郎ども、しっかりせんか」
 ボスは喚くが自分からは向かおうとしない。ずいぶんと汚い男のようだった。
 と、壁が爆発した。ニャコが隙を突いて爆砕拳で穴を開けたのである。無論子供たちを逃がすためだ。
 子供たちは順番に急ぎ穴から逃げていく。賊たちは手を出せなかった。シアリィンが眠りの歌を歌ったからだ。
「……おいたは駄目……させないの……」
 そうしてあえなく昏倒する。
 その時、賊が3人、側の窓から抜け出た。ララたちは追わず、あえてそのままにした。逃げ切れるわけがないからだ。
「うわ!」
 外に出た途端、ふたりがその足を停止させられた。足元には矢が――リバーサイドとペルレの放った影縫いの矢が刺さっていた。
「諦めろ。おとなしくすれば命までは取らん」
「そういうことです。お縄についてくださぁい。……本当は森の肥やしにしたいんだけどね」
 もうひとりの賊はやぶれかぶれに突っ込んできた。ナイフがトルテの腕にかすりそうになる。
「危ないなぁ〜ん……。もう、2倍! いや子供たちの分も含めて3倍にしてお仕置きなぁ〜ん!」
 トルテが杖で敵の太腿を殴る。ゴキャッと鈍い音が鳴って顔面から地面に突っ伏す。
 子供たちは全員脱出した。ヨウリは建物から賊が飛び出してこないか注意しながら、子供たちを背中にして守る。
「もう少しの辛抱じゃて。怪我があったら後で治してやるぞ」
 ――内部でも決着がついた。最後に残ったボスがロアに長剣を突きつけられる。ボスはそれ以上抗うことはしなかった。
「……ま、参った」
 悪いことはできねえ。賊たちはようやく当たり前のことを悟った。


「みんなお疲れにゃ〜! 大成功にゃ〜!」
「完璧な首尾だったわね。ふふん、正義は必ず勝つのよ」
 アルテミスが万歳し、ユーロが縛られた賊を見下ろして胸を張る。自分たちも人質も、誰もたいした怪我は負っていない。まさにパーフェクトな結果に終わり、100パーセントの満足感が全身を満たした。
「みんなこれで家に帰れるにゃ。もう少しの辛抱にゃ」
 と、ニャコ。子供たちは恐怖から解放されたことに安堵し、たまらず涙を流した。
 そうして泣きに泣く子供たちを慰めながら、冒険者たちは森を出た。清々しい陽光が体を温めてくれる。
「のう、今回はろくでもない大人に捕まってしまったが、大人そのものを嫌いにならないでおくれよ」
 ヨウリが声をかける。大人にひどい目に遭わされた子供は、しばしば大人不信に陥ってしまう。一番心配なのはそこだった。キスケとトルテが願うように言う。
「もちろん悪いのもいるが……いい大人のほうが、絶対多いんじゃぞ?」
「大人を嫌いになったら、こっちも大人になりにくくなるなぁ〜ん。だから怖がらないでほしいなぁ〜ん」
 子供たちは返事をしなかったが、そのうちにわかってくれるだろう。今はゆっくりと休ませることが大事だ。

 暖かい街並みが見えてくる。子供たちの日常が戻る。冒険者たちは子供たちの平和を願い、これからも力を尽くすと誓った。


マスター:silflu 紹介ページ
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作成日:2006/05/21
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