お菓子工房



<オープニング>


 あのねあのね、ドリアッドの森にね、お菓子こーぼーができたの〜。
 お菓子づくりのどーぐとか、いっぱいおいてあって、ざいりょーを持っていって、しよーりょーを払えば、そこで自由にお菓子を作れるんだって〜。
 アルエットもお菓子、つくってみたいの〜。でも、アルエット、ごはんは作ったことあるけど、お菓子はとちゅーまでしか作ったことないの。
 だから、いっしょに行ってくれる人、ぼしゅーちゅーなの〜。
 もうすぐランララ聖花祭もあるから、誰かにプレゼントしたい人はアルエットといっしょにお菓子こーぼーに行って、お菓子作るの〜♪
 ランララ聖花祭には、きになる人に手作りのお菓子をプレゼントするんだ、って、おかーさんが言ってたの〜。
 ……ん〜、でもきになる人ってどんな人?
 ドリアッドは、髪にはお花が咲くけど、木にはならないのに〜。
 よくわかんないけど、きになる人のためにお菓子作るの〜。でも、木ってお菓子食べられるのかなぁ……? にゅ〜。
 とにかく、お菓子作りに行くの〜☆

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参加者
NPC:九里香・アルエット(a90070)



<リプレイ>

 ランララ聖花祭はドリアッドよりもたらされた祭り。
 本来は『高価な贈物よりも、心の込もった贈物の方が価値がある』という教訓めいた逸話だったはずなのだが……。後から付け加えられたロマンチックなイベントの方が人気が出て、いつしかカップルのお祭りになってしまうのは……よくある話☆

「ランララ聖花祭かあ……郷里じゃ毎年大忙しだったなあ♪ ……手作りお菓子の作り方教えてー、って引っ張りだこで」
 ふ……思わず遠い目。ランララとはいえ、すべての人にイベントが発生するというものではない。
 だけど必死な皆の姿を見てると応援もしたくなる。こんなのも教えたことあったな、とセーネードは二色のチョコレートムースを作り始める。
 お菓子なんて作ったことないミィミーは、簡単だと聞いたトリュフに挑戦。ルヴィンはお酒が好きだから……ドボドボドボッ……あっ。
「お酒の量=愛情、ってことにしておけばいいわよね」
 拘らないことにして、ミィミーはチョコ生地をぐるぐるかき混ぜる。ラッピングはリボンと花……薔薇?
「薔薇とりりかる。本気で頭痛いわ」
 呟く隣ではフィルミリアが真剣な表情でアップルタルトの製作中。深淵の蒼のお留守番&料理番なのは伊達じゃない。黙々と動かす手の下で出来てゆくタルトからは、甘酸っぱい林檎の香り。
「旅団には小さい子はいないから、大人向けにお酒を香らせても大丈夫ですよね」
 お世話になっている旅団の為に、とチョコレートケーキを作るアーシアを、兄のアルシェンドは複雑な表情で見やった。
「兄様もたくさん作るんですね」
「あ、ああ……」
 アルシェンドが作っているのは少し甘めのブラウニー。妹にはまだ言ってないのだが、これは旅団の皆の為のものではない。……渡せるだろうか。片思いの相手に。
 プリムローズはジャガイモを薄く薄くスライスして水にさらしたものを油で揚げ始めた。パリッと揚げるのは結構難しい。揚がったポテトチップスには、たっぷりと激辛香辛料をまぶしつけ。
「お祭り当日は甘いお菓子ばかりだろうから、別のにしたら印象に残るわよねぇ」
 確かに……これを食べたら強烈に印象が焼き付くに違いない。

「知ってる人沢山なのね♪」
 ニケーはマフィンをオーブンに入れると、焼けるのを待つ間、工房の中をちょこちょこ歩き回った。
「アゼルおねぇちゃんは何作ってるのぉ?」
 粉を混ぜ合わせているアゼルの手元を覗き込み。
「ブール・ド・ネージュだ」
 雪玉の名の通り、軽く真っ白でころんと丸く。ナッツの風味豊かな菓子だ。材料を混ぜて丸めてオーブンで焼き、あら熱がとれたら粉砂糖をまぶすだけ。
 ぱくん。
 横からのびてきたジャムの手が菓子をひとつつまみぐい。
「ん。味はいいねっ」
「欲しいなら分けようか」
 これは贈らない菓子だから、とアゼルは菓子を幾つかジャムのために取り分ける。これは……永遠に渡せないであろう相手を思いながら食べる為の菓子。
「シャルムおねえちゃんはお菓子の先生なのね?」
「先生ってほどじゃないよ〜。でもみんなで作ると楽しいのっ♪」
 シャルムはニケーに、にこ、と笑ってみせると、出来上がったチョコレートケーキを隠すように背中を丸め。ホワイトチョコレートで文字を書く。恥ずかしいからケーキに書く文字だけは見られたくない。
「あ、文字が曲がっちゃった〜っ、うにゅ……」
 でもでも頑張った、と自分に言い聞かせ、急いでケーキを箱に収める。
 メイプルはシャルムを手本に、チョコレートケーキ作り。シンプルに。でも味には少しだけ拘って。
 小麦粉をぎりぎりまで減らし、ビターチョコとブランデーシロップをふんだんに。しっとりとした大人の味の間には、メイプルシロップを薄く挟み。苦みの中に優しい甘さの隠し味。
 暗闇に射す一筋の光を模したケーキを前に、メイプルは小首を傾げる。
「喜んでいただけるでしょうか……」
 サリカはレシピと首っ引き。目指すはちゃんとしたガトーショコラ。出来上がってゆくのは失敗作ばかりだけど、きっといつかは美味しいケーキが……。
「あ、綺麗に焼けた!」
 やった、とオーブンから取り出し、調理台に置いた途端。
 ぼんっ☆
 ……ケーキは四散。
 そんな惨事にも気づかずに、クウリッシュはマフィン作りに奮闘中。粉と玉子をボールにどさどさ、手でこねこねこねっ。
「みゅー。白い物が粒々してる」
 だまになった粉の塊がぼこぼこっ。
「後は焼けばいいの?」
 でろろ〜ん、と生地をフライパンに投入っ。
「あうっ熱い!」
 火傷はすかさずヒーリングっ。
「みゅ? お砂糖とチョコ入れ忘れてた」
 白と茶色を追加投入っ。
「……食べられそうにないにゅ」
 ジャムもつまみ食いを躊躇うシロモノは、とてもマフィンには見えない……マフィンっ?
 ニケーはダッシュでオーブンに戻る。
「にゅぅぅぅぅっ! 焦げてるのねー!!」
 教訓:お菓子を焼いている間に、オーブンから離れてはいけません、まる。

 プレゼントする相手が甘いの苦手だから、エレアノーラが作るのは、甘さ控えめマーブルケーキ。刻んだ林檎を少し入れて。
「きれいなマープル模様にするにはどうしたらいいんでしょう?」
 白と茶の生地を前にお菓子講師役のユース聞いてみる。
「型の中で混ぜると上手に出来ないんですよ」
 白生地の真ん中にチョコ生地をのせ、まわりからそっと白生地をかぶせ。それを混ぜるのではなく、切り分けるように掬い取って型に詰める。
 これで綺麗なマーブルの出来上がり。エレアノーラはメッセージカードを書きながら、焼き上がるのを待つ。
 ユースはみんなのお菓子作りを興味深げに見ているアルエットに、ボールを渡し。
「僕が教えるからチュコケーキを作ってクレインのおじさんにプレゼントしよう」
「わたしにも出来るかなぁ」
「大丈夫。きっとできるよ」
 それでも不安そうなアルエットに形も、上に乗せたチョコのバリエーションもいろいろの猫さんクッキーを作っていたフレルが笑顔を向ける。
「私も手伝ってあげるね♪」
「にゃ〜♪」
「クロちゃんも……って、クロちゃんっ?」
 黒猫クロちゃんが小麦粉を被って白猫に。菓子は後回しに捕まえにかかるフレルを見て、セラフィードが笑う。
「代わりに私が手伝ってあげるわね」
「にょ? おねーちゃんはお菓子作らないの?」
「私のはパンナコッタだから。あとは固まるのを待つだけなの」
 セラフィードは肝心な所はアルエットにやらせるようにしながら、お菓子作りを手伝った。
「これ、食べてみてくれ。木苺ムース、得意なんだ」
 テンマは出来上がったばかりの木苺のムースケーキをアルエットに渡す。
「わ〜い。綺麗なケーキ、いっただきま〜す♪」
 ふわふわのムースをスプーンでぱくんっ。
「おいしいの〜」
 じーんと感動を噛みしめるアルエットに、セラフィードはお菓子を作っている皆を示す。
「たくさんお菓子が出来るだろうから、紅茶をいれて試食会しましょうね」

 ティキはハーブやエディブルフラワーを食材として提供した代わりに、男の味覚も大事だろ、とお菓子の味見をして回った。菓子作りをしているドリアッドに目をやり、ふと考える。
「ランララの時期はいい成長期なのかな? ……場合によってはカップル間で精神年齢に大きな差が出て悲喜劇が巻き起こりそうだが」
 難儀な種族だな、と苦笑混じりのティキの呟きも耳に入らず、ドリアッドのパティは猫の顔の形をしたチョコを作ろうと必死。
「……お料理は〜愛情〜……お料理は〜愛情〜」
 独り言を繰り返し、けなげに頑張るその手は火傷や傷だらけ。きっと痛いだろうに、それを顔にも出さず。
 パティの隣では、どこか寂しげに真剣な瞳で、アリーシャがマロン生クリームケーキを作っている。
 気になっている人がいる。でもちょっと長すぎる間離れなくてはいけなくて。せめてありがとうの気持ちだけでも伝えておきたいから、1個だけちゃんと……。想いの丈をケーキに託して。
 アイシャはラム酒の香るバナナケーキにチョコレートソースをかけ。その上にレモンクッキーの月と星をデコレーション。
「サンタナ様、美味しいと言ってくださるかしら……」
 贈る相手の好きなもの……バナナとレモンを使って作る、アイシャの力作チョコバナナケーキ。
 リシュは大きなレアチーズケーキを作る。お菓子の本、ケーキ、本、ケーキ、交互に何度も何度も比べて。愛情たっぷり入れたケーキが出来上がると、大急ぎでお片づけ。
「お先に失礼しますっ!」
 一刻でも早く食べてもらいたいから、ケーキを抱えて旅団へ駆けて行く。
「どう……? 美味しい……?」
 プレゼント出来るようなものを作らないといけないからと、サリアは味見係にクレスを呼んでいた。甘いもの好きのクレスならば、的確な判断をしてくれるだろうと。
 サリアの作ったチョコを口にしたクレスは
「あっま……甘すぎ……」
 慌てて水に手を伸ばしたが、口が痙攣していて、なかなかうまく飲み込めない。
「にゅぅ〜。……頑張るもん!」
 サリアは再び作業開始。クレスは甘さに痺れた唇に手を当て、チョコに取り組むサリアを見守った。今度はちゃんとまともなチョコが食べられるだろうか。
 まともでない、と言えば……。
「それ、動いてませんか?」
 紅茶のチョコレートケーキを作り終えたカレリアは、変わった菓子を作っている人を興味深げに見て回っていたのだが……ロゼが作っているものは、変わった菓子、というのの範疇を越えている。
「ふっふっふ……これを食べさせれば、男なんてイチコロよ」
 にやり、と笑って示す処で、土塊の下僕がうゆうゆ動いている。下僕を利用して作った生きたプリン。数分後には下僕は土塊に戻ってしまう為、鮮度が命のプリンである。
「隠し味は……やっぱり愛情だね♪」
「愛情……ですか」
 このプリンのどこに……とカレリアが首を傾げかけた時、異音と異臭が漂ってきた。
 何かが沸騰する音。砕け、ぬめり、弾け、叫び、切れ、混濁し、解け、溶け、熔け……っ……激しく……(暗転)。
「ふぅっ……出来上がりました」
 ジュディスは額に浮いた汗を拭く。
「……これであっと言わせてみせます」
 親指程度の大きさの異臭を放つ緑色の物体――ショコラ・デ・モルトが生まれ出ずる瞬間であった。

 クァルは工房の片隅で、のーんびりゆっくりと手を動かす。作るケーキはオペラ。
「ぴーす・きゅー・じゃーこんど?」
 はずれ☆ 正解はビスキュイ・ジョコンド。
 専用の焼き生地にガナッシュやモカシロップを塗り、何段にも重ねて作る手間のかかるケーキに集中していると、心のわだかまりやもやもやも消えて行きそうだ。
 ケーキに打ち込んでいるクァルやカガリを見つつ、リウルはナッツホーンの製作中。知り合いが一緒だとなんとなく安心できる。クリームチーズとバターで作った生地にシナモンシュガーをふり、アーモンドとクルミをぎっしり入れて巻き巻きっ。
「楽しく作ろう美味しいお菓子っ♪」
 にぱっ、と出来上がる前から美味しい笑顔。
「……いつもは食べる側だからなぁ」
 バーミリオンは、色んな人にお世話になってるお返しに、今日は作る側に挑戦。といっても難しいお菓子は無理だから、失敗しにくい小さいカップケーキ。小さく切った林檎をぽろぽろっと混ぜて焼いてみようか。
「カガリさん、やっぱ上手いしすごいなーっ」
 感嘆して見ているものの、いつもとちょっと違うカガリの様子に、声がかけられない。
 カガリはコニャック入り生チョコを作っていた。亡き父に毎年贈っていたチョコ。……今、自分が贈りたい相手は誰だろう。旅団で過ごすのは楽しい。皆優しく頭を撫でてくれる……けれど。両親みたいに大切な人の支えになりたい。護られるのではなく、認めて欲しい人……。そんなことを考えているカガリは眉間に皺を寄せ、おどろをしょって。
 ルシールは、焼き上がったハートのチョコケーキをじっと眺めた。ちゃんと伝える為、そして美味しく食べてもらえるように、心をこめて作ったケーキ。
 その上にフランボワーズを飾ってゆき……最後の1つにはこっそりキス。大切に大切にケーキに乗せれば完了。
 このケーキが自分にとってのお守りにもなりますように。

「あら……」
 ぺしゃんとつぶれてしまったシュー皮に、リンはしゅんと肩を落とす。もう何度目の失敗だろう。本の通りに作っているはずなのに。
 美味しい、って言ってもらいたくて作っているのに、シューは心ほどには膨らんでくれない。でも。
「材料は足りなければ、買いに行けばいいんですよね。諦めずに頑張らないとっ」
 ふぁいとふぁいと。
「お料理、苦手なんですよね……」
 山積みの失敗作を前に、エレハイムはため息をついた。フォンダンショコラは、作り方は簡単だけど、微妙な焼き加減が難しい。
「オーブンから出してからも……生地は変化する。少し早いかなという処で出すと……丁度いい」
 キャスレイが教えてくれることを、エレハイムは紋章筆記で書き留める。
「ありがとうございます。お菓子作り、お上手なんですね。そのお菓子は誰に?」
 艶やかなチョコでコーティングされたザッハトルテを目で示され、キャスレイは曖昧に言葉を濁す。
「……いや、少し……作ってみようかと思っただけで……」
 どぎまぎとさまよう視線は、渡すことさえ決めかねている悩みのままに。

 甘い香りがたちこめる工房で、次々にお菓子が生まれてゆく……。
 カノンは息を詰めるようにして、出来上がったフルーツタルトを包み、リボンを結んでいった。壊れないように気を付けてバスケットの中に入れ、桜の香りの紅茶の葉を添える。
 たった1人の為に作るお菓子は、ときめきと温もりが美味しさのエッセンス。
「……出来た!」
 苺のタルトに、つやつやのゼリーをコーティングし終えたキリの表情が、緊張から笑顔へと変わる。いつもは手伝いしかしたことがなかったけれど、今日は自分で作ってみたかった。
「……キリさん、お疲れさまです」
 手伝ってしまえば簡単だけれど敢えてそれはせず、ただじっとキリを見守っていたヒカリは、お疲れさまのプリンを渡す。
「おっ、プリン♪」
 目ざとく見つけてやってきたジャムには、桶プリンを渡し。
「……これだけあれば大丈夫」
 すっかりあしらいも慣れたもの。
「ヒカリさん、タルトの味見してくれる?」
 キリは苺のたっぷり乗ったタルトにフォークを添えて、ヒカリに差し出した。
「……美味しいかな?」
 もちろん、その返事は決まっている。

 2月14日。
 ランララ女神の微笑む日。恋人に、仲間に……大切な人に美味しいひとときを――。


マスター:香月深里 紹介ページ
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作成日:2004/02/14
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