<リプレイ>
●野獣の咆哮 瓦礫の山。その最も高く広い場所に野獣はいた。黄色味を帯びた瞳がこちらを睨め付けている。その目には敵意と戦意がある。そして、こちらも廃村とはいえモンスターを放置して置くわけにはいかなかった。ソレに真の終焉を与えるためにも……だ。戦いは避けられない。 じっくりと作戦を練る時間的余裕はなかったが、彼等8人は気心の知れた者同士であった。ごく短いやりとりで事足りる。3人が囮となり、残った5人が本隊となることにした。
愛を振りまく翼・ミャア(a25700)は血に濡れし孤高なる漆黒の影・ハルト(a21320)に目を向ける。 「ハルトさんから行くよぉ」 ハルトの闇色をした装備がなんとなく変形する。見た目は劇的に変化していないが、防御力は格段にあがっている筈だ。ハルトは謝意を込めてミャアに小さくうなずいた。征嵐の牙・ガリュード(a25874)は『アルダシール』を構え召喚獣と融合する。ガリュードの右半身と左半身から氷と炎が噴き出す。しかしまだ投げない。ガリュードは敵と、そして囮役である3人に視線を投げた。
双風を守護する者・ライシェス(a27374)、空言の紅・ヨル(a31238)、そして昏冥に漂いし魂離る夢魔・シルフィー(a38136)は本隊から離れ、敵の背後へと移動していた。 「瓦礫の山ってやっかいですね」 敵を刺激しないようそっと静かに、しかし急いで移動している。ヨルは足元に気をつけながら出来るだけ素早く行動する。それでもバランスの悪い足場では全力疾走するわけにはいかない。多分、囮役の自分たちが位置に着くまでガリュードが敵を攻撃することはないだろう。しかし、敵がなんらかの行動を行う可能性はある。急がなくてはならない。 「囮らしく防御を固めないとな」 シルフィーは移動しつつライシェスの防具をなんとなく変形させる。防御力があがる。 「助かるぜ! それにしても……嫌な場所だ」 着慣れた防具が変化しても気にせずライシェスは荒れた風景にチラッと視線を投げた。瓦礫の山という戦いの場所についてだけではない。ここを吹く風もこの風景も嫌な記憶を呼び起こすのだ。苦い記憶……それはこの手で断ち切るしかない。手にした武器はいつもより無骨で幅広な刃に変化している。
「どちらの牙が強く鋭いか…、勝負だっ!」 囮役3人が移動した頃合いを見てガリュードは敵に武器を放った。刃が陽光に反射して鈍く光る。黄色い瞳の野獣はそれを横に飛び退いて回避した。しかし、その拍子に足場が崩れる。ガクンと後肢が瓦礫と共に沈む。囮役3人が野獣の前へ姿を見せる。 「もう少し前か……」 ここまで敵の目を気にしてそっと前進していたハルトであったが、ガリュードの攻撃を合図に前へ出る。それでも『粘り蜘蛛糸』の攻撃をするにはまだ間合いがある。 「足場が悪い場所には慣れてるなぁん」 ハルトとほぼ同じだけ距離を稼いだ世界を駆巡る暴風・ノーラ(a40336)は右手に武器を高々と掲げ、気合いの入ったポーズを取る。すると装備していた防具の形がより強そうに変化する。 「これでしばらく保たせるなぁん!」 更にノーラは瓦礫を跳びはねながら進む。流雪歌の歌癒師・ディナ(a22024)はミャアに近い場所にいた。敵との距離は充分にあり、互いに攻撃することは出来ない。 「どこか……安定した……足場が……」 雑然と積まれただけの瓦礫の山は上から見ただけではどこが安全なのかわからない。けれど、下に廻って検分している程の猶予もなかった。ディナは比較的原型が保たれている瓦礫を選んで移った。 「ディナさんにもいくよぉ」 ミャアはすぐ近くにいたディナに、ハルト同様に『鎧聖降臨』を使った。 「ありが……とう。ミャア……さん」 「回復が追いつかなくなったら言ってねぇ。それまではみんなにこれしてるからぁ」 「……はい」 コクンとディナがうなずく。
シルフィーはヨルの鎧も変化させる。 「ありがとうございます」 「派手に行って来い」 「はい!」 ヨルはシルフィーに笑顔で返事をし、ライシェスを追う。そのライシェスはガリュードが武器を投げるのとほぼ同時に敵へ突進していた。本隊の突入まで敵の目を惹きつけ、時間を稼ぐ為だ。 「させるか!」 野獣の口が大きく開く。瓦礫が崩れる咆哮をさせるわけにはいかない。ライシェスの武器から鎖が放たれた。それは敵に絡みつき一瞬で武器が戻る……のではなくライシェスを敵へと引き寄せた。野獣の太い前肢がライシェスの背中に振り下ろされる。 「ライシェスさん!」 ヨルは歌った。力強く勇ましい戦いの歌。それは即座にライシェスに効く。傷みが消え闘志がもう一度湧き上がってくる。ライシェスは敵と自分を繋ぐ鎖を強く掴む。 「やはり……闘うか!」 足場が悪くても仲間がいなくても、敵が退く様子はない。ガリュードは投げた武器を手に戻すと足場は気にせず敵に向かった。 「がぁああああああぁぁ」 身をよじる野獣は不快な咆哮が響く。野獣とライシェスの周りにあった瓦礫が音をたてて崩れる。足場を失ったライシェスは鎖から手を離せば瓦礫の隙間から下へと落ちてしまう。 「蜘蛛の深き執念……その身で思い知れ」 低いつぶやきと共にハルトの両手から白い糸が野獣へと向かって飛ぶ。淡く繊細な糸は野獣の身体に絡みつく。ライシェスと鎖をふりほどこうとしていた野獣の動きが止まる。 「いつもの役目なぁん。ほら、じっとしておくなぁん」 野獣に接近したノーラも木の葉を敵にからみつけ、その自由を奪う。敵は動かない。けれど野獣の周りの瓦礫はどんどん崩れてゆく。そして、ライシェスもろとも野獣も下へ落ちる。 「っく!」 ライシェスは鎖から手を離し、縦穴と化した瓦礫の端を掴む。背中にまだ鈍い傷みがあった。声にならない苦痛は表情に出る。ディナはミャアと顔を見合わせた。それから淡く身体が光る。 「……みんな……助けたい……から」 光の波動が皆を癒す。
自分の防具を変化させたミャアは瓦礫の大穴をのぞき込んだ。かなり落下した筈だが、野獣の戦意は衰えてなさそうだ。その目は戦う意志を宿している。 「まだ終わってないよぉ」 両脇にスリットが入ってはいるが、不思議な形に変形した服装となったミャアが仲間に警告を発する。本隊とは逆方向にいたシルフィーもミャアと同じように自分の服を変形させていた。召喚獣に似た服装がもっと似た形になる。 「まぁこんなモノか……」 少しだけ満足気な様子が見て取れる。シルフィーは本隊のいる方へと移動する。 「ライシェスさん、大丈夫ですか?」 ヨルは大穴に駆け寄った。ライシェスに手を伸ばす。けれど、すぐ隣で別の逞しい腕が伸びる。ガリュードだ。 「来るぞ、ライシェス!」 「ああ」 ガリュードの左手をライシェスが掴む。ガリュードは武器をくわえ、更に右手も伸ばして一気にライシェスを引き上げた。 「来たよぉ!」 穴の向こう側でミャアの声がした。 「ミャア!」 ガリュードは名を呼んだ。その声に万感がこもる。その思いをわかっていて、けれどミャアは戦場から逃げたりはしない。 「もう……終わりにしてあげましょう」 ヨルの全身が黒い炎に包まれる。 「ああ」 素早く立ち上がったライシェスは武器の柄に手を掛ける。野獣は闇雲に瓦礫の穴をよじ登ってくる。 「ここだ!」 鞘から武器を抜きざま敵を斬りつける。確かな手応えがあった。野獣がひときわ激しい咆哮をあげ、激しくのたうつ。麻痺はしていないようだ。咆哮と暴れる野獣によって瓦礫が砕け、うずたかい山が平らになってゆく。 「魂よ……もう……安からなれ」 ガリュードが敵の懐深く入り攻撃武器を振るう。氷と炎の追加攻撃が入るが麻痺はしていない。続けてハルトの音のない攻撃が別の角度から野獣を襲う。やはり炎と氷が野獣を更に苛む。 「よ〜し最終集中攻撃なぁん! くらえなぁん」 ノーラの頭上に描かれた紋章から激しい火球が産み出され、野獣にむかって繰り出される。野獣が燃え上がった。野獣は燃える塊となって自らが作った大穴に落ちた。 「やったなぁん!」 得意のポーズをとるノーラ。そのすぐ後ろで召喚獣も同じポーズを取る。 「……あっ」 瓦礫に激しい振動が下の方から伝わってくる。ディナは瓦礫の端から下をのぞき込んだ。崩れている。 「……ここ……あぶない……みんな、早く……逃げて……」 瓦礫の山が崩壊し始めていた。 「ミャア!」 「ガリュード」 小柄なミャアの身体が足場を失って宙に浮く。ガリュードが追う。 「退くぞ」 「わああああなぁん」 ハルトはノーラを抱えて瓦礫の端を降りてゆく。 「シルフィーさん、ライシェスさん! 逃げましょう」 安全な順路を確認する暇もない。ヨルは直感を頼りに瓦礫を飛び降りてゆく。 「もう降りている」 シルフィーは既に半分ほど下っていた。気が付けば戦場だった場所にはライシェスしかいない。 「わああ、俺も……」 白刃を閃かせたままライシェスは瓦礫の端へと走った。
野獣のいた瓦礫はそのまま墓標となった。
瓦礫を降りる時に負った傷はディナが癒してくれた。けれど、ミャアはなかなか目を覚まさなかった。瓦礫のほぼ頂上から落下したのだ。 「ガリュードさん……傷は……」 「俺はいい」 ガリュードの腕の中で目を閉じたままのミャア。そのミャアがゆっくりと目を開けた。 「……あれぇ」 重い雲がたれ込めた空が見えた。それはもう夕暮れ色に染まっている。 「……ミャア」 抱きしめてくる恋人の頭をミャアは小さな手の平でそっと撫でた。

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参加者:8人
作成日:2006/05/26
得票数:戦闘7
恋愛1
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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