【Dark Card】2、The High Priestess



<オープニング>


●黒のカード
 その数字に描かれしは、歪な僧侶。
 闇色の救済に、陰鬱が踊る。
 翳した杖に、告死が揺れる。
 彼女が笑えば、ヒトが死ぬ。
 力ある其れは、幾多の例に漏れず――唯の災厄に違いなかった。

●討伐依頼
「ある村がモンスターによって壊滅しました。
 ……や、強ぇですね。連中は」
 ピーカン霊査士・フィオナ(a90255)は、カウンター席で仕事の話を切り出した冒険者に、真剣な顔でそう告げた。
「連中って、やっぱり……」
「まー、如何にもな連中っすからね」
 タロット・カードを不吉に飾るモンスター。
 それぞれに関連は無いのだろうが、数多い災厄の中には似たモノもあるのだろう。
 真実こそ知れないが……
 他にも居るかも知れない、そんな推測は容易に立つ。そして、その枚数を考えれば、ぞっとする。
「今度のは、法衣を纏った女性の『影』っす。
 彼女は、その外見に違わず、『そういった』能力を持っているみてーですが」
 フィオナは、続ける。
「今度のも賢そうです。
 その上、防御関係は折り紙つき、攻撃力も割と洒落になんねーみてーです。くれぐれも油断しねーように、それ相応の作戦で当たって下さい」

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参加者
アルカナの・ラピス(a00025)
壁犬・ウィスタリア(a00498)
黒焔皇・エルド(a07547)
白木蓮の涙・リア(a17993)
無影・ユーリグ(a20068)
紅玉姫・シルヴィア(a23138)
たまねぎ翔剣士・パパラチア(a28806)
有限と無限のゼロ・マカーブル(a29450)
錦上添花・セロ(a30360)
時の輪の謡い手・エルシー(a30716)
黒白異端狂想曲・シャリオル(a33960)
静穏なる癒師・エフィリア(a43660)


<リプレイ>

●深淵の影のDark Card
 赤々とした夕日に照らされて……
「……なんだか、肌寒い……」
 白木蓮の涙・リア(a17993)の言葉が乾いて響く。
 逢魔が叶うは、黄昏時。
 比較的開けた路地の先に、それは居た。
「成る程。これが噂に聞く大アルカナを冠した敵なのじゃな」
 与えられる威圧は決して小さくない。されど、耐えられぬ程では無い。
 常時寝落ちしてる・ラピス(a00025)の赤い瞳に、不気味なシルエットのフォルムが映っている。敵が冠するその名は、彼女にとって許し難い一事でもある。
「女性の影……ね。
 影なら美人とか関係ないから思う存分暴れてやれるな」
 黒焔皇・エルド(a07547)が小さく軽口を叩く。
 女教皇が纏う黒の法衣はその姿に比べて鮮やかではあるが……実体は、殆ど輪郭だけと言えばいいのか。深淵の黒に塗り潰された半透明の女の姿は、酷く不気味で、酷く不吉だった。
 前触れも無く現れては殺戮を、破壊を繰り返す――彼女等は、まるで災厄のようだ。
 個でありながら、現象のように理不尽。もう何を生み出す事も無い、残滓(のこりかす)。
「心無き力による暴力による因果、見るに堪えない光景です」
 無影・ユーリグ(a20068)が呟く。
 討伐の為に集まった十三人の冒険者がそれに相対するのに、「敵対」以外の何の言葉が使えよう?
 仮に冒険者にその心算が無くとも、その法衣を黒く煌かせ、ふわりと音も無く動き出した彼女の方はそういくまいが。
「The High Priestess……
 直感や平常心、知性や安定した心理状況などを意味しましたかしら。
 落ち着いた心境や状況を作り出すカードですわね、本来ならば」
「ですが」
 時の輪の謡い手・エルシー(a30716)の言葉を、黒白異端狂想曲・シャリオル(a33960)が繋げる。
「逆位置に近い貴方は、些かその魅力に欠ける。
 潔癖、冷淡、浅はか――そして、自信過剰。ならばその自信、打ち砕いて見せましょう」
 ――逢魔が叶うは、黄昏時。
 長く伸びる影を引きずるように、それは踊る。
「滅びの未来しか示さない災厄なんて傍迷惑なだけでヤンス。
 そんなモノは早々に打ち破って、自力で未来を掴み取るだけでヤンス!」
 敵は、深淵の影のDark Card。
 迫る決戦の瞬間を間近に見習い翔剣士・パパラチア(a28806)は強く吠えた。

●女教皇の領域
「黒い聖女……祓わせて頂きます!」
 清らかな衣装に身を包んだ紅玉姫・シルヴィア(a23138)の瞳が、凛と敵を見据えていた。
 迎撃は万全。地面には、紋章術の力場が存在している。
「攻撃、開始しますニャ♪」
 すぅと息を吸い込んだ壁犬・ウィスタリア(a00498)が、外装を得た竜翼弓を引き絞る。
 事前の地形情報の確認と、ミアのクリスタルインセクトによる偵察等により、パーティは「魔術師」の時よりもスペースのある場所で戦闘を開始する事に成功していた。
 彼女と、敵の距離は三十メートルはあろうか。
 前に出て女教皇を迎撃せんとする前衛達、それを支える中後衛達に先んじて、彼女の一矢は、風を切る唸りを上げていた。

 ひゅ――

 力ある一矢は、逆棘を持つ一撃。
「最初の、チャンスですにゃ!」
 彼女の先制攻撃は、法衣を翻した女のシルエットを掠めて過ぎる。
「アルカナのクィーンオブハートとして、貴様に挑戦なのじゃ!」
 ややバランスを失った女教皇に向けて駆けたのは、
「ラピス・メロディ、押し通るっ!」
 同じくアルカナを自称する騎士だった。
 鎧聖の付与を纏い、前に出る彼女は聡く考える。
(「敵の性質が、短期決戦を許さぬモノなれば……
 妾が勤めは、威圧を以って敵を食い止める事ばかり」)
 そう。如何な十三人の冒険者とて、強大な敵に余裕は無い。
 敵が、敵の戦略を以って彼等に当たったならば、その不利は否めまい。個体としての能力に劣る冒険者達は、出来るだけ長く戦力を保持したまま、彼女に当たらねばならぬのだから。
「――っ!」
 聖気を纏ったラピスの打ち込みが、切り裂いたのは影の一部。
「墜ちた僧侶が導く先は……暗澹たる闇の中、か」
 呪いの名を持つ大鎌を携え、有限と無限のゼロ・マカーブル(a29450)が迎撃に続く。
 彼の斬撃も又、浅く法衣を切り裂いたに留まっていたが……
(「良いだろう。死体の上で踊る死神の舞、とくと見るが良い」)
 唯の一攻防で分かる事。この敵は、確かに手強い。
 戦いの高揚にか、強敵との邂逅にか。彼の口元は薄っすらと笑んでいた。
「敵については常に最悪を考える位で丁度良い。
 ……拍子抜けするような敵とばかり戦えるのなら話は別だがな」
 小さく苦笑いを浮かべたユーリグが、鎧聖の付与を齎し、
「カードの象徴が紡ぐ災厄の鎖。……今度も、必ず」
 左腕のブレスレットに軽く口付け、一言に決意を込めた綺夜煌星・セロ(a30360)が軽くステップを踏んで前へと出る。
「は――!」
 細身の刀身が描き出した不可視の刃は、漸く女教皇の影を相応に斬り散らしていた。
 だが、当然ながら――勝負はこれからであった。
「来ます――!」
 シルヴィアの警告に、冒険者達は身構える。
 間合いを詰め切った女教皇は、ゆらりとその全身を揺らめかせていた。
「――っ!」

 ざんっ

 冒険者達の挙動よりも早く、女のフォルムをとっていたシルエットが、一瞬で刃となる。
 無数に伸びた鋭い鋼糸のような彼女の体は、その有効範囲に位置していた冒険者達を一度に切り裂いていた。拡散する一撃は、即座の危険までに繋がる切れ味では無いが、体力に劣るリア、パパラチア、静穏なる癒師・エフィリア(a43660)らには痛打となっていた。
「ちぃ――!」
 鋭く舌を打ったエルドが、傷にも構わず強引に間合いを詰める。
 周囲の建物ごと壊さんという勢いで振り切られた彼の一撃は、爆裂と轟音を伴って法衣の影を怯ませた。
「偽りの慈愛の象徴を持った魔物……
 やはり、簡単に止めさせてはくれませんね……」
 朱に染まった胸元を軽く押さえ、エフィリアは呟く。

 ――――♪

 エルシーが高らかに歌を奏で、シルヴィアが癒しの力を繰れば。
 エフィリアの受けた傷は、取り敢えず塞がりはしたが……
(「先は、長い。油断出来ませんね……」)
 悠然と佇む女教皇を前に、彼女は知っている。
「付き合わざるを得ない」女教皇との持久戦が、そう甘いモノにはならない事を。

●持久戦
「勇敢なる者に戦乙女の祝福を!」
「まだ間に合うはずです!」
 ユーリグの、シルヴィアの放った輝く聖女が、間一髪で仲間達を救う。
 果たして――危惧は、現実のモノとなっていた。
(「悪夢の暴君、クローク……力をお借りしますよ」)
 幻惑のステップを踏んだシャリオルが、女教皇の間合いを踊る。
 彼の繰り出した高速の剣技は、風を巻き込んで的を捉えていた。
 されど、浅い。それだけでは届かない。
 防御力を増した暗黒の法衣を突き抜ける一撃は、確かに有効打として作用しているが。全体としての攻め手は、足りているとは言えず、その命中率も芳しくは無い。
 防御には役立つ足元の力場も、攻め手にとっては邪魔になる。
 冒険者達と同じように黒癒を繰る女教皇は、未だ余力十分に彼等に相対していた。
 ウィスタリアの矢は、これを幾ばくか阻んだが、それもやはり足りていない。
「次から次へと。『女教皇』ではなく『女奇術師』だな」
 ユーリグの表情に苦笑いが浮かぶ。
「今、回復いたします」
「大丈夫ですかっ?」
 エフィリアの、リアの力は、体力を削られていた幾人かを救うが……
 言ってしまえば、それは繰り返しに過ぎなかった。いや、むしろ長い持久戦の中で、徐々に余力を削られ始めているのは冒険者の方なのだから、それも正確では無いが。
「流石に、手強いでヤンス……」
 振り抜き、放った真空の刃を避けられパパラチアが呟く。
 乾いた血と土に塗れた彼女の頬は汚れている。
(「力量不足は百も承知、それでも出来る事をするだけでヤンス!」)
 まともに喰らえば、正直どうなるか分からない死の御手を次々とかわして未だ立っている。
 しかし、想いが現実をカバー出来る分は、こんな時、決まってそう多くは無い。
 戦いは続く。冒険者達に無形の焦りを押し付けながら。
「来ますっ!」
 リアの強張った声が響く。
 彼女の見据える敵の頭上には、煌く黒いダイヤモンドのような物体が浮かび上がっていた。
 不意の攻撃を受けぬよう、細心の注意を払っていた彼女だったが……ここからの一撃は速過ぎた。
「――!」
 彼女の回復より、回避動作よりも早く、硬質の物体が次々と地面に突き刺さる。
 その場に居る冒険者達を構わず巻き込んで……
「……ッ」
 幾つか重なった細い悲鳴の後にその場に立っていたのは、既に十三人では無かった。
「じゃが……っ、負ける訳にはいかぬ……!」
 気勢で負ければ、いよいよ敗北は近いだろう。
 威力にも怯まず、何とか一撃を堪えきったラピスが、
「そういう事だ」
 マカーブルが駆け出す。
「一気にいくにゃ――!」
 ウィスタリアの矢が、法衣を貫く。
「は――!」
 ラピスの護天を従えた一撃は鮮烈な横薙ぎに、
「ふ――!」
 青白い電光纏うマカーブルの強烈な打ち込みは、上段より。
 攻撃の成功に一瞬の油断を見せた女教皇を強烈に叩いていた。
「……っ!」
 俄かの反撃に、打撃を受けた女教皇の影がざわざわと揺れる。
 怒りと憎悪を微塵も隠さない彼女の殺意は、それまでとは違う次なる「異質」に変わろうとしていた。

●黒を呑む
 どれ位の時間が過ぎただろうか。
 短く、長い戦いの時がゆっくりと流れ落ちていた。
 黒弾雨に貫かれ、パパラチアがリアが。
 生者を無慈悲に砕く暗黒の槍に貫かれ、エフィリアが、ユーリグが倒れている。
 つまり、鮮血に臥す冒険者は既に四人。但し黒の女教皇にも、当初程の余裕は無かったが。
「そろそろ――決着か?」
 流れ落ちる朱を手の甲で拭いながらエルドが呟く。
 一流の戦士は、本能で戦いの趨勢を知る。勝つにせよ、敗れるにせよ――その瞬間が近付いている事が、彼には何となく分かっていた。
 現状までの劣勢を知る彼は、一つ頷いて周囲に合図を送る。
 それは、望む結末を掴まんとする――最後の大攻勢の呼び水となっていた。
 ウィスタリアの矢に続き、
「ここが、正念場なのじゃっ!」
 一撃に力を込めラピスが叫ぶ。
「……光の中で、眠れ」
 マカーブル、
「貴方に葬られた方たちはもう、影さえ身に宿せない……貴方の辿る路も等しく同じです!」
 残像すら残したセロの斬撃は、美しく華麗に戦場を彩る。

 ――――♪

 エルシーの歌は、傷付いた戦士達を励ます凱歌となり、
「おおおおおおおお……!」
 吠えたエルドの重い一撃は、女の影を打ち据える。
 その体をくの字に折った女教皇は、崩れ落ちかけ……
「……な……!」
 すんでの所で持ち直した。
 黒光が、陣を描く。暗黒の槍が、地面から幾つも顔を出す。
 それが一斉に冒険者達に向かったなら、どうなってしまうだろうか――?
「医術士だって――これくらいは出来るんですよ?」
 シルヴィアの繰り出した黒炎が、凶悪無比な一撃を携えた女教皇へと向かう。
 魔氷の束縛を乗せたその一撃は、撃ち出された槍と交差するように彼女に向かい――

●結末
 戦場より幾ばくか離れた森の中――
「人を殺す黒き僧侶……私とは正逆の……」
 シルヴィアは沈痛に首を振る。
 彼女の一撃は女教皇を止めるには到らなかったのだ。
 尤も、吹き荒れる槍の嵐を受けた一行が辛うじて退けたのは、その届かなかった一撃のお陰だったと言えるのだが。
「悔しい……ですね」
 傷付いたエフィリアは呟いた。
 誰もが、似た表情で重い沈黙に堪えている。
(「せめて今は、多くの犠牲者が増えない事を祈るしか……」)
 それが叶うかどうかは分からない。リアは、強く唇を噛んだ。
 次は無い、次こそ負けぬ。皆がそう思う。
 されど、この一敗の味は、何時にも等しくやはり――彼等を責め苛んでいた。


マスター:YAMIDEITEI 紹介ページ
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死亡者:なし
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