魔法のキャンディボックス



<オープニング>


 人からの頂き物は有難くて、傷み難い御菓子ともなれば長く取って置いてしまう。
 可愛い小瓶の中にきらきらと輝く飴玉が詰まった贈り物を、荊棘の霊査士・ロザリー(a90151)は菓子棚の上に載せていた。最近特に何をするでも無く、物思うように過ごしていた彼女は、沈み気味な想いを和らげようとでも考えたのか菓子棚に近付き、透明な小瓶を取り上げる。
「……」
 見れば、既に中身が無いでは無いか。
 最後の一粒を食べた記憶が無い。
 余程疲れていたのか、何者かが食べてしまったのか。少しだけ怒気のようなものを抱くも、意味は無いかと直ぐにやめる。そろそろ一年が経とうとしているのに、今まで残っていたことの方が可笑しいのかも知れない。ロザリーは小瓶を手に、少しばかり思い悩む様子で小首を傾げた。

 とある地方に、子供たちから「魔法のキャンディ」と呼ばれ親しまれている飴がある。
 色取り取りの綺麗な丸いキャンディは、本当はとても在り来たりな何処にでもあるキャンディなのだ。魔法と呼ばれるような不思議な力など欠片も無くて、何処か昔を想わせる懐かしい味がするだけの、高価でも何でも無い優しいキャンディ。飴職人たちが受け継ぎ伝えて来た大切なキャンディは、その小さな村々で子供の頃、誰しもが愛する故郷の味になっていた。
 しかし、近々その職人は店仕舞いをするらしい。
 理由は黙して語らず、唯、申し訳無さそうに頭を下げるのみらしい。
 店を閉める前に、せめて、と職人は心を込めてキャンディを作っている。出来るだけ多くの人に食べて欲しいからと可愛らしいキャンディボックスを自費発注して、沢山のキャンディを詰め込んでやるのだ。子供たちが、キャンディを舐めながら祈り続けると願いが叶うのだと信じるほど、優しい味をした「魔法のキャンディ」……其れをせめて、最後に多くの人へと贈りたいと、職人は願っていた。
 色硝子のピースを嵌め込んで作った、可愛らしいキャンディボックス。ステンドグラスを箱の形に変えたようにも見える箱の中に、空色の飴、草色の飴、薔薇色の飴、星色の飴、作り得る限りの飴を、其々詰め込んで行く。箱の中身はひとつひとつ、一色のキャンディで染められる。宝箱を開ける気分で、自分好みの品を探し、少しだけ寂しくなった時に甘くて優しい味を感じることが出来たなら、可愛らしい其の箱は将来きっと「魔法のキャンディボックス」と呼ばれるようになるだろう。
 そして霊査士の言うには、
「……職人さんは、良ければキャンディボックスを持ち帰って欲しいって……」
 心が惹かれるキャンディボックスを探して、気に入った品があれば是非、とのこと。
「それと、キャンディボックスひとつひとつには、其々違う色の飴を入れるものだから、入り切らなくて余ってしまったキャンディも結構あるらしいわ……」
 残してしまうのも心苦しいし、近くの村から遣って来た人々がキャンディボックスを選び終わった後、残ったキャンディを食べながら簡単な御茶会をしましょう、と霊査士は普段通りに小首を傾げる。職人さんを労わるのも良いし、質問があれば聞いてみても良い。
「何だか……辛いことも多い分、楽しいことも作らなくっちゃ、って思ったの……」
 霊査士は僅かに目を伏せて、零すように小さく言った。

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参加者
NPC:荊棘の霊査士・ロザリー(a90151)



<リプレイ>

●魔法のキャンディボックス
 人だかりを覗き込めば、きらきら輝く綺麗なものに出くわした。見惚れたリヤの耳に、村の子供たちのはしゃぐ声が聞こえて来た。人混みが苦手なシュラーフェンも、隅からこっそり辺りを見渡す。今日と言う日を憶えておきたいと笑顔の人々に視線を向けた。混雑した場も今日だけは何故か好ましく思えて、ロレンツァは職人の手による品々へ近付いて行く。
 多くの人々に魔法のキャンディボックスを贈りたいと言う職人の願い通り、広場には人が溢れていた。「俺のキャンディボックスを発見してやるわよ」と意気揚々向かうデュラシアに、「僕も僕も!」とブラックが続く。知人の姿に気付いたリョウは、「良いのが見付かると良いね」等と彼らに声を掛ける。ひとりきりで無く此処に来れたことに大喜びしているスノゥを、アヴァロンは迷子に為らぬよう時折は手を握っておいて遣った。
 お姉ちゃんのキャンディ選びは私が遣ってあげると胸を張るヴェルーガに、今日は誘ってくれて有難うとオルーガが微笑み掛ける。ミュヘンやシャルは誕生日の贈り物としてあげたい相手を思い浮かべながら数々の宝石箱を見比べ、一方ガルスタは一番最初に目についた品を持ち上げると中身も開かず其れに決めた。リリファやオルクスは見て回ることを楽しむようにのんびりと棚の間を歩いて居たし、人によってキャンディボックスの選び方は様々だった。
 きらきら光るキャンディを見詰め、とても綺麗ですねとマリエッタが微笑む。言われた側のオパールは少し困ったように女子供の多い場を見渡した。甘いものが得意で無いエセルも、贈りたい人の為にキャンディを見比べる。
「……本当に、宝石みたい……」
 ルトリヒは少しだけ寂しげに目を伏せた。きっと宝石よりも、手にする人にとっては価値のある品なのだろうと村の子供たちを見て思う。レウザークは自身がナナと呼ぶ「ー」と言う名の少女と共に、折角だから御揃いの品を持ち帰ろうとキャンディボックスを見比べていた。
 決して高級な品でも無いけれど、可愛らしい硝子の箱をフロリメルは丁寧に持ち上げる。始めは遠目に見るのみで済ませようと思っていたユーリアも、我慢出来ずとうとう自身のキャンディボックスを探し始めた。ユルクは自身や家族の持つ瞳と同じ色のキャンディを探して、きらきらと太陽の光を映す箱たちを開けてみる。きっと其のキャンディなら、寂しい時にも頑張ろうと思えるだろうと彼女は思った。
 大切な恋人の瞳に似た。飛び切り綺麗な赤を探してイクセルも宝石箱に向かい合う。大好きで仕方の無い彼女が喜んでくれれば良いと願いながら、彼女と一緒に食べる時間が楽しみ過ぎて頬が緩んだ。穏やかな午後の日差しを浴びる広場に、涼やかな風が吹き抜けて行く。

●僕のキャンディ私のキャンディ
「なぁん……」
 箱の中のきらきら光る飴玉を見詰めて、ラマナはうっとりと溜息を零した。正に宝石と言った風情で輝くキャンディが美しく、手を伸ばしてしまいたくなる。数々の宝石箱をずっと眺め続けて居たいと願ったファスティアンも、暖かな日に転寝をするような心地になれる、甘い香りのキャンディボックスに心を決めた。サガとシャルティナも仲睦まじげに顔を寄せ合って、暖かな朝焼け色、穏やかな夕焼け色のキャンディに目を輝かせた。
「このキャンディ、観ているだけで何だか幸せな気持ちになるわね」
 呟かれたケラソスの言葉に頷きながら、ユウノは改めて彼女を癒してくれるキャンディを見付けたいと箱の蓋を開いて行く。セリンデも気に入った一品を見付けた様子で、大切そうに宝石箱を抱きかかえていた。あいつは秋の葉の緑色が好きなんじゃないか等と教えてくれるヤツキに、サクラは照れたように上目遣いで「いつも助けてくれて、有難うなのじゃ」と微笑む。
 綺麗なキャンディは誰かを喜ばせてくれるだろうかと期待しながら、アメも嬉しげに輝く箱を手に取った。ネマは楽しげな人々を見遣り、場の空気に目を細める。悲しみに潰れて仕舞わぬように、暖かな記憶を大切だと感じた。淡く仄かに照る飴玉を見詰めて、頬を緩めていたイクサネノヒメはふと相棒の姿に気付き顔を上げる。視線の先に居るフィーは、一生懸命になって自分のキャンディボックスを探していた。彼女は弱音を吐く程に子供でも無かったけれど、自分は強がることの出来るほど大人でも無いと知っていたから、寂しい気持ちが突然に訪れた時、こっそり魔法のキャンディに祈ろうと思った。
「見〜つけた、ですぅ〜」
 桜色の甘いキャンディを見付けて、アスティナはにっこりと微笑んだ。ロンドも漸く心奪う品を見付けたらしく、クレアも自分のことのように喜んでは彼を祝福する。ドアは記憶の底を擽る誰かに似た色のキャンディボックスを優しく撫でた。彼にとっては意図せずに手を伸ばしてしまう程、愛しい雪の色。ガレットは飴玉をひとつ、口の中へと放り込む。甘い味が何処か優しくて、食べたことも無い筈なのに懐かしくさえ思った。同じくひとつだけ口に入れたアリシアーナも、広がる懐かしさに胸が暖かくなって何故か涙が滲むようで閉じた瞳が熱くなる。
 幼い頃の寂しさを包み込んでくれた甘いキャンディを久方振りに掌へ載せ、リイスは僅かに目を伏せた。もう子供では無いから、自分にキャンディの優しさは必要無いかも知れない。其れでも、大切な家族の優しさにもう一度触れることが出来ればと彼は胸中で小さく祈った。何時かの未来、この可愛らしい箱を手に、魔法のキャンディの話をすることになるだろうとセシリーは確かな予感を抱く。永い命を持つ彼女だから、永く語り継いで行けるだろう。

●優しい御茶とキャンディを
「ジルちゃん、見付けて来たよ!」
 駆け寄って来たヴィンが抱えていたキャンディボックスを開いて見せる。優しい色の煌きに、わあ、とフラジィルが歓声を上げた。良かったですねとケネスは微笑み、彼女の頭を優しく撫でる。場に溢れる笑顔で満たされながら、リューシャはテーブルを囲む面々に暖かな紅茶を淹れて遣った。リンカとレフィーユも紅茶を飲んでは、きらきら綺麗に輝くキャンディを見遣っては笑みを浮かべる。
 貴様の淹れた茶と言うのもなぁ、等と我儘なことを言うティアレスを宥め賺しつつ「キャンディって綺麗だよね」とミナは話を逸らした。シュシュは微笑んで頷きながら、遅れたけれど誕生日の御祝いにとティアレスへタルトを切り分けて遣る。
 茶会の場に響く柔らかな音色はリューの奏でるヴァイオリンのものだ。穏やかな曲の流れを聴きながら、ロゼリィは茶会の給仕を手伝っている。ノリスは飴玉ひとつひとつを大切に味わいながらゆっくりと食べていた。店仕舞いとは実に惜しい、と時折物思うように眉を寄せる。甘い味を口の中に感じていたマユリは、ふと表情を曇らせた。トロウルやノスフェラトゥの子供たちも、甘く優しいキャンディの味を知っているのだろうか。
 隅の席に座ったハートレスは、人目を気にしながらキャンディに手を伸ばしていた。時折尻尾がぱたぱたと揺れているのを見るに、実は甘いものが好きらしい。飴玉を紙箱に貯めて大切に少しずつ食べた思い出を噛み締めつつ、ルルイも遠慮がちながら可愛らしいキャンディのひとつに手を伸ばす。 宝石箱を抱えたチャザは顔を上げ、荊棘の霊査士・ロザリー(a90151)の姿を探した。以前に会った際は少しばかり元気が無いように思えて気になったのだ。霊査士は丁度、マオーガーやルーシェンと簡単な挨拶を終えたところだった。
 故郷での飲み方だと言いながら、ジェネシスはキャンディを落とした紅茶を振舞う。
「何時かまた故郷で……いえ、何でもありません。御代わりは如何ですか、ロザリー?」
 言われた霊査士はキャンディに向けていた視線をゆっくりと動かし、彼の瞳に目を留めた。
「私に、気にして欲しくて言っているのかしら。それなら、私、そういう人は嫌いよ」
 にこ、と唇の端を持ち上げる程度の仄かな微笑を浮かべて霊査士が紡ぐ。彼女の隣に座っていたクールは少し驚いたように瞬きをしたが、静かに紅茶へ口を付けた。ユズリアも特に何か紡ぎたい言葉も見付からず、静かに流れる会話に耳を澄ませる。桜色のキャンディを摘んだミアが微笑んで「ロザリーさんは何色の飴が好みですか?」と問い掛けた。
「……蜂蜜色の飴が好き。一番、甘く見えるから」
 食べるのは別かも知れないけれど、と霊査士は瞳を細めて囁く。今までに出会った、そして此れから出会う大切な人々の幸福を願いながらキャンディを舐めていたティーが、遠慮がちに重ねて問うた。キャンディには何を願うのかとの問い掛けに、霊査士は小首を傾げて「……願いごとが出来るたびに、願うのだと思うわ」と穏やかに答える。
 魔法のキャンディの依頼を受けた日のこと、甘くて優しい魔法のキャンディのこと、ずっと憶えていこうとリアンシェは思った。流れた時は長く、けれど短くもある。逢えて良かったのです、と呟く彼女の霊査士は小首を傾げたまま「そうね」と柔らかな言葉を返す。
「は、はじめましてロザリーさんっ……よ、宜しければ、御一緒させて頂いても……?」
 頬をほんのり紅潮させたフリーデルトがおずおずと申し出た。霊査士は不思議そうに二度瞬きをして、其れから自身の隣の椅子を引き席を勧める。勿論、と当然のようにこくりと頷く。そんな遣り取りを微笑ましげに眺めていたアオイは、暖かな紅茶に口を付けた霊査士に向けて小さく言った。
「余り、ひとりで色々抱え込み過ぎないようにな……?」
 霊査士の信頼に冒険者は全力で応えるものだから、と静かに告げる彼に対して彼女は暫く沈黙していた。何時の日からか、直ぐには感謝の言葉を紡げぬほどには、素直で無くなっていたから。

 丁度一年程前に出会った職人を前に、チキは丁寧に礼を述べた。店を閉めることを残念がりながら、其れを補うかのように沢山の御疲れ様でしたと有難う御座いましたを職人に向ける。彼の「魔法のキャンディ、とっても大好きなのです」と言う言葉を聞いて、職人も嬉しそうに顔を綻ばせた。
 人見知りするキョウも、優しいキャンディの御礼が言いたくて跳ねる心臓を押さえながら一言有難うと職人に伝える。笑顔の職人に、ニャコは可愛らしく強請り始めた。曰く、自分はとても御菓子作りが好きだからキャンディのレシピを教えて欲しい。話を聞いていたグリュウは真剣な顔になって、彼女が作り方を知ればまた何処かで誰かが魔法のキャンディを味わえるだろうから、是非教えて遣って欲しいと願い出る。しかし職人は笑顔のままに嘯いた。
「魔法のキャンディは僕にしか作れないんだよね。僕、魔法使いだから」
 一拍置いて、何処にでもある在り来たりなキャンディだよ、とやはり笑顔のままで彼は言う。
「ねぇ、如何して店仕舞いにしようと思ったの?」
 こんなに綺麗で美味しい飴を作れるのに、とリアが聞いた。私も気になっていました、とカルラも頷いて職人を見る。職人は困ったように苦笑しながら、「家庭の事情って奴なんだよねぇ」と曖昧に答えた。沈黙を護っていたエルノアーレが口を開く。
「……ひょっとして、セイレーン王国に行かれるのではありませんこと?」
 例えば大領主様から勧誘を受けたとかと尋ねる彼女に、職人は驚いたように目を瞬いて、「そんなに有名な人なのかい?」と唇に笑みを刻んだ。別に隠す理由は何も無いけれど、子供たちは悲しむだろうから僕が何処へ行くかなんて言っちゃ駄目だよ――理由は秘密にしておいた方が、不満が生まれないものだからと彼は言った――と口止めをしつつ彼は続ける。
「勿論、僕にはセイレーンの親戚なんて居ないけど、家庭の事情なんだよねぇ」
 本来は此処に居続けることを望んでいるのだろう彼は、やはり苦笑して言葉を切った。


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参加者:78人
作成日:2006/05/21
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