銀玉



<オープニング>


 ごろごろごろ………音を立ててそれは転がっていた。
 のっぺりと光る表面は、何処が頭で何処が目なのか全く分からない。一見しただけではただの丸い物体。そう表現するしかないものが街道を転がっていた。
 但し……それはとてつもなく大きな代物であった。
 大人が10人腕をつないでやっと囲めるかどうか、其れぐらい大きな鈍い銀色に光る玉。それが地響きを轟かせ転がっていく。
 速さとしてはノソリンよりも少し早いくらいだろう。
 森をなぎ倒し、家を潰し……もちろん道筋にいた人などひとたまりもなかった。

「モンスターを退治してください」
 表情を変えずにエルフの霊査士・ユリシア(a90011)が集まった面々を見回した。
「今までに村を二つ……壊滅状態に陥れた危険なモンスターです」
 その言葉に一同がそれほど危険なモンスターが相手なのかと、緊張したようにユリシアの言葉を待つ。
「相手は………玉です」
「「「は?」」」
「丸く大きなモンスターが今回倒してもらいたい相手なのです」
 数は1体。そのモンスターの進行上にあった村が二つ程見事に潰されたらしい。
 潰された村の住人達が、モンスターを何とかしてもらわないと安心して生活できないと冒険者達を頼ってきたという。
「モンスターが何処へ行くのか分かりません、球体なので、何が切っ掛けで方向を変えるかも未知数です」
 けして立ち止まることなく転がり続けるそれの、進む方向はモンスターの意志が関与するところかどうか……それすらも不明であった。
 早話がどっちに転がっていくのか……半分時の運のようだとユリシアは告げる。
 地図を取り出したユリシアはモンスターの現在地を霊査する。
「早急な対処をお願いします」
 白く長い指が指し示したのは、街道から少し離れた川岸だった。

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参加者
荒野の黒鷹・グリット(a00160)
踊る遊星・ユウジ(a16745)
灰十字・セザリア(a21213)
銀の剣・ヨハン(a21564)
日神・シュリ(a22706)
エレメンタルディア・ティー(a35847)
孤独を抱く娼女・リア(a38408)
深森に微睡む影・ノエル(a40588)


<リプレイ>

●転がり続ける玉
 とにかくそれは呆れるほど大きな玉であった。ちょっとした家よりも大きいのではないのだろうか?
「今までも散々馬鹿みたいなモンスターと戦ってきたけど………」
 流石にこれほどひどいモンスターはなかったと、噂の物知り先生・セザリア(a21213)が呆れたように肩を竦めて見せる。
 これでは、玉の進路上にあった家なのはひとたまりもあるまい。
少し小高い丘の中腹から、冒険者達は麓の街道に沿うように転がり続けるモンスターを見下ろしていた。
「何ともまぁ……傍迷惑な玉ですねぇ……」
 意識思考とかあったりするのでしょうか? と、深森に微睡む影・ノエル(a40588)もけったいなモンスターを前に首を傾げる。
「はた迷惑なモンスターであることは間違いないようじゃな」
 日神・シュリ(a22706)も目を眇めてモンスターを注視する。
「動機は人々の為……と、言うところかな?」
 噂のモンスターを一目見てみたかったから……という輝ける陽の正典・ユウジ(a16745)も興味深そうに遠巻きに転がる玉を見て微笑を浮かべた。
「かなりのサイズだけど……土に還してやらなければならないね」
 最近ボール状のモンスターとは縁があるという、荒野の黒鷹・グリット(a00160)もその大きさに圧倒されながらも拳を握った。
「堅牢な事、重騎士のスーツアーマーのごとく……と言った所ですか」
 遠眼鏡でそのモンスターを観察していた銀の剣・ヨハン(a21564)が仲間たちを振り返る。
「表面は見た感じ、叩いて伸ばした鋼と同じように見えますね」
 歪さは感じられない、ほぼ真球の物体と思ってもいいだろう。
「……困っている方もいるから……」
「リア……まだま、だ……未熟……だけど……がんばる、の………」
 想い紡ぐ者・ティー(a35847)と孤独を抱く娼女・リア(a38408)の2人の少女達も、己の戦意を確かめるように頷きあうのだった。

●されど玉は転がり続ける
「さて、行くか……」
 シュリが太刀を抜き放った。
「何をしてくるか分かりません、皆さん油断せずに行きましょう」
「散って!」
 ノエルに続いてセザリアの声をうけ、銀色のモンスターを遠巻きに囲むように冒険者は散開した。
「……広がりすぎると……回復が届かないから……」
 注意してねとティーが続けた。
 先んじて、ヨハンのチャクラムから闇色に透き通った矢が放たれる。
「さすがに、固いようですが……」
「まずは小手調べです!」
 おいけるようにノエルの短剣から放たれた衝撃波がモンスターに襲いかかる。
 2人の攻撃をうけうっすらと表面に傷が付いた程度で、玉はびくともせずとまることなくただ転がり続けていた。
「厄介な相手みたいだな!」
 戦闘の気配に高鳴る鼓動、既に馴染みのものになりつつあるその感覚にある種の快感を感じ、軽く唇を舐めるシュリが口調も荒々しく無骨な太刀を正眼に構えをとった。
「またぞろけったいな奴が現れたものだ。世界は広い、と言う事を改めて実感させられるな」
 異常ともいえるモンスターの外見に、感嘆の声をもらしユウジが大鉈にウェポン・オーバーロードを付与する。
「これはどう!?」
 セザリアの頭部が激しい光を放ち、まるで其処に太陽があるかのように銀色の玉を照らし出だした。
「……だめ……な、の……?」
 やっぱり目がないからからだろうか? 光を全く気にせずモンスターは直進する。そもそもこれはどうやって動いているのだろう?
 リアが軽く首をかしげながらその身にライクアフェザーを発動させた。
「予想……できない……の、が……ちょっと……厄介か、も……」
 今の所ただ地響きを上げて転がっているだけのようだが………羽の様な身のこなしで、間合いを取りつつふわりとモンスターの前に躍り出た。
「何考えてるのか読めないが、倒すには攻撃あるのみ!」
 はまばゆい光の軌跡を残しながらグリットがその側面を蹴り飛ばす。
「せいっ!」
 続けて出の早いジャブ、ローキックを叩き込んだ。
 玉が大きく軌道をずらされ弾き飛ばされる。
「やったか?」
 確かな手ごたえにグリッドが小さく拳を握る。
 銀色の玉は周囲の土に薄くめり込むようにして動きを止めた。
「今です!!」
 動きを止めたモンスターの姿を確認したヨハンが仲間に一斉攻撃を促す。
「大きい事は良い事だ、か。単純なだけに穴が無い……厄介な話だな、全く」
 手ごたえの感じられない球体の何処を攻撃していいのやらとぼやいてみせる。
 動きの止まったこの間にけりをつければ……言われるまでもなく冒険者達はそのつもりで武器に握りなおした。
 ずずず……と重い音を立てて乾いた大地にめり込んだ銀球が細かく振動する。
「うわ!?」
 そして……何かに弾かれた様に、グリットめがけてその巨体を飛ばした。
 その頂上部分に60cm程度の、白くてふわふわした羽毛の塊が見える。
「それはだめなの……」
 ティーの援護を受け、間一髪グリットの革鎧が鋼のように堅さを増す。
「いくらなんでも……非常識でしょう!」
 大きく玉がバウンドする度に、地震のような揺れに足元をすくわれそうになるのを回避しながら、ノエルが悲鳴のような抗議の声をあげた。
 それもそのはず……バウンドを始めた銀球の表面が変形し、玉から車輪のような円盤状になり。さらにその円盤の縁がまるで刃物のようにギラリと鈍い光放っていた。

●進化しているように見えて……
「ある程度は予測していたけどね………」
 セザリアが空中に長剣の切っ先で描いた紋章から、円盤状に姿にかえたモンスターに幾筋もの光線が降り注ぐ。
 誘導しようにも相手の出方が分からず、手詰まりの感が濃厚に漂っていた。
 高く跳ね上がっては突撃を繰り返す。その動きに法則は見えない。
「厄介な形だが切り崩す糸口はある」
 体勢を立て直したグリットが、反撃される事を恐れず再びモンスターめがけて深く踏み込んだ。
「鎧聖降臨といった所か?」
 確かに鎧の形状は使う者次第であったはずだが……まるで円状の刃のような姿に形状をかえたモンスターに、シュリが思わず飛び込むのをためらうように蹈鞴を踏む。
「あれは鎧といえるのか……?」
 回転速度が増し、地に深く奇跡を刻みつけ迫ってくるモンスターは無作為ながら、明らかに冒険者達を排除しようとする意志が感じ取れた。
 スピードを増したその攻撃が直撃すれば命にかかわりかねない。
「リア……まけない、の………」
 鋼糸を構え、回復と援護を勤めるセザリアとティーの盾になるようにリアがぐっと顔をあげた。
「エレガントさに欠けるが致し方無い…その防御、力尽くでぶち破らせて貰う」
 正面からでは不利と見たユウジが、後方の側面から走りこむ。
「……当たるわけには!」
 行きません! とノエルも必死でその丸で地面すれすれを飛んでいるかのように速度を上げ襲い掛かる、モンスターの突撃を避けながら気を練って作り出した刃を連続して投げつける。
 円盤状に姿をかえたモンスターは相変わらずの堅さを誇っていた。
 いくら攻撃をたたきこんでも、全くといっていいほど反応らしい反応が返ってこない。
 不気味に輝く無機質な刃のような、そのモンスターとの戦闘は長期戦の様子を見せ、冒険者達は苛立ちのような焦燥感を感じ始めていた。
「皆さん無理しないで……」
 ティーも仲間を励ますように精一杯声を張り上げ、力強い凱歌を歌う。
 その歌声に背を押されるように、直撃をしたら大怪我は免れないモンスターの攻撃を必死で避けながら、冒険者達はもちうる全てをぶつけるように攻撃を繰り出した。
 今は走る凶器と化したモンスターと対峙し、アビリティの温存などと考えている暇などはなかった。
 その攻撃を全てかわしきれた分けではない。
 よけたつもりが、掠めるようなその刃の風圧でぱっくりと口を明け傷を負う。
「回復は任せて!」
 傷を負う端からティーとセザリアの手によって癒されていく。
「何か……何かないのか……?」
 唸るような声は誰が漏らしたものであったのだろうか?

「ちょっとまって……円盤っていうことは……」
 セザリアがそれに気が付いたのは、仲間たちから少し後方から援護するように戦況を見極めていたからに他ならない。
「どちらからでもいいわ! 一点に攻撃を集中させて!!」
 それだけの短い言葉に勝機が垣間見えた。
「ここが終着点です」
「だったら!!」
「このチャンス…貰った!」
「……これで……おわり……な、の……」
「分かりました!」
 セザリアの指示に即座に全員が己のなすべき事を承知する。全員が右側に回り込む。
 束縛の木の葉がその行く手を阻むようにまとわり付き。
 稲妻の闘気を込めた強大な抜き打ちの一撃が、鉄をも切り裂く蹴りが、鋼糸から放たれた衝撃波が、練りあげて作り出した気の刃がモンスターの右側面のある一箇所に集中する。
 それだけの攻撃に晒されたモンスターはゆっくりと回転を緩め、暫しの逡巡のあと硬直したようにその動きを止めた。
 どうっと、重い地響きをたててその体が横向きに地面に倒れ伏す。
 ぴしぴしっと細かい亀裂が入り、倒れた瞬簡に細かく砕け散った。
 車輪の様な形状であれば、真横からの攻撃に弱いのでは……というセザリアのよみが見事にあたった。
「元の形に戻らなくてよかったわ」
 球状のままであれば、この戦法は意味のないものであったから。と、セザリアが安堵のため息を付く。
「終わった……?」
 後方にいたティーが近寄ってきて、おそるおそるモンスターの残骸の覗き込む。
 銀色の砂塵はこれまでの騒動が嘘であったかのように、静かに小山を作り冒険者達の前にあった。

●そしてモンスターは静かに眠り
「モンスターっていうのは奇想天外な奴が多いが、今回のはとりわけひどかったな」
 結局銀色の玉の形をしたモンスターが何の目的で転がっていたのか分からず仕舞いだったな、とユウジが夕焼けに染まりつつある空を見上げた。
「モンスターと言えどせめて弔ってはやりたいですが……」
「……世の中、色々なモンスターも居るものですね」
 まるで無機質のように、今はただの鋼の屑山となってしまったモンスターの残骸を見てヨハンとノエルが途方に暮れる。
 最初の大きさが大きさだったために、その量は半端でないものとなっていた。
「まぁ……そのうちなんとかなるんじゃないかしら?」
 時が立てば、いずれ苔むしてこれがモンスターであったことすら忘れさられるであろう。
「何とか勝てたね、そろそろ戻ろうか」
 モンスターから受けた怪我をティーに癒してもらっていた、グリットが立ち上がる。
「みんな……無事で……よかった、の……」
 目に見えてひどい傷を負ったものは幸いにもいない。
 夕日を受け少しだけ表情を緩ませたリアは、微笑んでいるようにも見えた。


マスター:青輝龍 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2006/05/20
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