<リプレイ>
●お茶会 盛りには少々早い頃の誘いであったが、花が所狭しと並ぶのとはまた違った風情が有る。 青い香りを漂わせる一角があるものの花の時期も理解して作られた庭は充分鑑賞に堪えた。 「……ふむ、なるほど。これだけのものを造り上げるというのは大したものだ」 スフィアが感嘆の声を上げた。 「なかなかのバラ園だったと記憶しとるが……とりあえずは今年もうまく育てられてるようだな」 しげしげとバラを観察し、ティキが言う。常に苗木をいくつも育て植物に関する知識に豊富な彼は、また別の観点でバラ園を鑑賞してた。 バラ園の中でヴィネの姿を認めたティキがふと、彼女に問いかける。 「やはりバラ園の主の引きこもりが直らんからか?」 「まあ、ね」 出てきたら、と聞いては見たのだけど――苦笑を浮かべて、彼女は頷く。 感謝して招待をするまでは良いが、内気な園の主が人に慣れるのとはまた別の話である。 「それでも、今回はしつこく呼んでもいいわ。あの子の為に集ってくれた人も居るのに、失礼でしょう?」 「……ま、地道にやっていくしかねぇだろ、バラ育てと一緒でな」 言って見たはいいが自分の言葉に何か思うところがあったのだろうか、彼は地方の珍種の野バラをヴィネに託すとまたバラの観察に向かった。
中央に設置された緑に映える美しい白いテーブルの上にはニューラが用意したお茶の準備が整っていた。ローズヒップティにバラの蜂蜜、バラのジャムとクリームチーズのサンドイッチから、バラの花びらを混ぜて焼いたクッキーはココアとプレーン。彼女の思う通り、混ぜた花の美しい色は焼いても尚、鮮やかだった。 ローズティと共にクッキーを頬張りながらケルクは嬉しそうに笑う。 「今年も、お誕生日おめでとうございます。良い1年が訪れます様に」 お茶を配りながらファオが微笑みかけた。彼女からお茶と栞を受け取ったヴィネは礼をいい微笑んだ。 「ヴィネさん、お誕生日おめでとうなのですよ〜っ」 そんな彼女の後ろからティフェルが突撃する。腰を下ろしていた彼女に逃げ場は無く、ただ受け止めるしかない。 擬音があるならぎゅむーとでもいうのだろうか、抱きついた彼女に困ったように笑うヴィネは、久々だからだろうか、照れてはいたが怒鳴ったりする事は無かった。 「コレ、薔薇で作ったジャムなんですが……自信作なのでよかったらお試しください」 二人の姿に笑いながら、エイヤはジャムを差し出す。 またテーブルの上には彼が作った菓子や軽食が並び――どれも見事なものだった。「他にもリクエストありましたら、お作りしますよ」と微笑むのも忘れない。 「レイも……23日が誕生日なの……一緒にお茶しても、いい?」 プレゼントにとケーキを携えてやってきたレイが小首を傾げて問うた。 ええ、と頷いたヴィネの横で、ティフェルがヴィネさーんとクッキーを手に奮闘していた。手ずから食べさせたいらしい。 「お久しぶりなのでス。去年は妹がお友達のお庭でヒト殴っちゃって……」 困ったように謝ったシュハクに、気にしないでと返された。妙にあっさりした台詞の裏には「ユーマ様を殴れる方ですもの」というよくわからない理由を言われて首を傾げる。 そちらとは少しだけ席を空けて、美味しいローズティを味わいながら、名前を忘れた少女はぼんやりと、昼の光に輝く庭を幸せそうに微笑みながら見つめていたのだった。
●薔薇園 ふと、フィズは目を細めた。 バラというものは解散した旅団を否応なしに思い起こさせる。そのまま思考に落ちる。 「メイヴィスさん!? だ、大丈夫ですか?」 ……間もなく、メイヴィスの指先から血が出ているのに気付き、フィズはあたふたとする。 しかし当のメイヴィスは全く気にせず「親分、あっちも見てみよう」とか何とか言って先に言ってしまう。 「これ……食べれる?」 「薔薇のジャムなどはありますけれど……。でも、このままでは食べれませんよ?」 フィズは忙しかった。そしてメイヴィスの興味が次に移る前に彼の手を捕らえ、止血する。傷は深くはないが、そのまま放っておくわけにはいかない。 其の表情は仕方がないなといった様子で、しかし確実に笑んでいる。 気付けば、彼の脳裡を掠めた物思いは何処かへと消えていた。 そんなフィズの事は知らず――別の場所で土をいじるトウジロは目の前にゆれるバラを見て、ふと笑みを零す。バラは相棒を連想させる。今も尚、鮮明に。彼が思わず微笑んでしまうほどだ。笑みはすぐに消えてしまうものの、彼の心の中の思いは簡単に揺らぎはしない。 バラの育て方のレクチャーを一通り記憶して帰るまで、結局、友人と出会うことも無かった。
「花の盛りには、さぞかし綺麗なんでしょうね」 新居の庭の参考に、と思いながら庭園を眺めるセドナはそれでもこの園で豊富にそろったバラの数々に感嘆する。 「薔薇の世話って、大変なんでしょうねぇ……」 尻尾を揺らしながら彼は呟く。 また別の場所では櫻を愛するガルスタが自分で調べれば何とかなるのだろうかと首をかしげた。バラ園の主は人見知り――彼女に問うのは難しそうで有ったが、できれば知りたいと彼も思っていた。 それを耳にしたロストは懇切丁寧に、彼にバラについて質問に答えていた。 誰からの質問にも柔らかく答えていたが、男性から声をかけられると、尚の事嬉しそうであった。 同じようにアリエノールも旅団の庭にバラを植えるべく、色々なバラを眺め、その香りを楽しむ。様々なバラが揃う中、気に入った香りのものを見つけると、嬉しそうに微笑む。 香りの良いものを求めるものは彼女だけではなく、ジョゼフィーナも同じだった。やはり女性は色形だけではなく、香りにも拘るものなのだろうか。 「もう少し経って薔薇が一面に咲き揃ったらとても美しくて良い香りなのでしょうね……時期に少し早いのが残念な位ですわ」 リリーナが残念そうに呟いた。 されども久々に土いじりを心行くまま堪能し、非常に満足そうな様子であった。
「るんるん〜♪ おはなさんたち元気ですかぁ〜?」 鼻歌交じりでリンゴはテントと共にバラに水をやっていた。満面の笑顔、というのだろうか、その姿は非常に楽しそうであった。 気の向くままにバラに水をやる事へ夢中になっているリンゴが、テントとうっかりはぐれている事に気づいたのはすぐのとこである。 リンゴと逸れても、一人で色々楽しむべく頑張っていたテントであるが、それでも彼の姿を認めると安心したような表情になった。
「とても、可愛らしい苗木ばかりですの〜」 棘に気をつけつつ、苗木の取り分けを手伝っているハナは嬉しそうに笑う。自然に混ざり、バラの香りごと美味しい空気を吸い込むのはとても良い事のように感じられた。 ごろり、ロゼッタは土の上に転がった。 土のにおいと緑の香り、そしてバラの香りに切り取られた青空に、彼女は微笑んだ。
誕生日おめでとさん、ザルフィンがヴィネに声をかけてきたのもこのタイミングだった。 怪我を負っているのを隠すような外套を羽織りつつ、お茶会などの手伝いをする彼の姿をヴィネは面白そうに眺めた。しかしその表情にやや陰りがあったのは、誰が気付いただろう。 「去年までは俺も「とうねん」取れば18歳だったんだがついに追い越しちまったな」 ザルフィンの軽口は変わらない。 むっとして鞭を構えたが、彼女は其れを躊躇う。とはいえ、思えば自嘲であって彼女への軽口ではないわけで―― 「また十年経てば同じ事でしょう」 すっぱり言う。それもそうだと、と彼は笑う。
そんな彼女はまた別の方向から視線が向けられていると気付いていたのだろうか。 黒いバラの周辺で、それを鑑賞しながらも、 「自然に咲く花で、黒い薔薇というものはあまり無いものなのですね……」 呟いてカイエンがふふ、と笑う。そして、進みだす。 近づいてきた宿敵――とヴィネは認識しているのかもしれない――に、彼女は表情を複雑なものに変えた。守るべきか攻めるべきか、これからかけられる言葉を思いあぐねているのだろう。 悟って、全く……と思わず笑みを零すカイエンは、「やっぱり、「この花」が一番見事に咲いてますよね♪」と軽く言う。思わず唸った鞭をかわすと、急に真剣な表情を浮かべる。 「永遠の18歳、おめでとうございます」 まるで冗談のような台詞ではあるが――彼の表情や態度が真摯で有ったがゆえに、彼女は戸惑った。 しかしすぐにそれも変わる。 「あまり、男どもを狂わせてはなりませんよ?」 軽い調子で再び言われ、いつも通り鞭を振るう事となったのだから。
●庭園の主と苗木分け 本を片手にリュウナは人々の楽しげな声が微かに聞こえるほどの遠い場所を探していた。 初めは本を読むためだけに此処へやってきた。だがいつしか落ち着ける場所を探しながら、栞を挟んだページを再び開く事は無く。 ただバラ園の奥へと進んでいた。 このバラ園はどこまで広いのかと錯覚されるような、アーチ型の垣が並ぶ先に、小さな庭を見つけた。華やかな庭園に比べてとても小さな、簡素な庭だった。 それにも関わらず、バラの品の良い香りで溢れていて、そこで未だ蕾のバラと向き合うドリアッドの少女の姿を認めると、リュウナは思わず声をかけた。 彼女の姿に驚いた少女は、しかし彼女がドリアッドであったため、一瞬自分の招待した冒険者達であるということが認識できずに居た。 微笑んだ少女としばしリュウナは言葉を交わし――自らの名を「バティン」と短く名乗ったところで、やっと彼女の招待に気付いたのであった。
驚いた、といった表情をヴィネが浮かべたのは、リュウナとバティンというバラ園の主が連れ立って現れたからだ。 リュウナはさっさと今度こそ読書をするために、何処かへと向かってしまったが、バティンはヴィネの傍に立つと、緊張した面持ちで、冒険者達に礼を告げた。 「……特別なおもてなしもできませんでしたが、好きな苗を……受け取ってください」
「苗木の世話のコツ教えてもらえっと嬉しい」 苗木を手にアトリが言う。 「贈り物にしよーと思ってんだ、苗。世話の仕方がわかんねーと枯らしちまうかもだろ?」 そうですね……と呟いてから、バティンはアトリが選んだバラを前に、世話の仕方を説明しはじめた。その姿はバラと向き合う職人のものであり、口調には自信が満ちていた。 人見知りではあるが、バラの事になればそちらに集中できるらしい――思いも寄らぬ解決策に、ヴィネは苦笑いを浮かべた。 「背景に薔薇を背負って、背景から薔薇を引き抜くというステキな離れ技をするにはどうすればいいのでしょうか……」 いつかそんな大技が会得したいらしいノヴァーリスは、バラについて造詣を深めればそのような事もできるのではないか、と考えていた。 うっかりそんな言葉を聴いてしまったヴィネは「あの子にそれを聞くのは止めておいてね?」とノヴァーリスに釘を刺すのであった。
「ここで咲いてるのと同じくらい綺麗に、頑張って咲かせたいなぁ〜ん」 薄くオレンジがかかったピンクの花弁をいとおしげに見つめながらルゥルが脳裡にバラを送りたい相手の姿を思い浮かべる。 「うまく育てられれば、旅団に、貢献できるでしょうか……」 ミュカレが薄く微笑んで、見定めたバラの葉を撫でた。 「小ぶりだが、しっかりしていて、匂いもきつくないものがいいな……」 彼女の近くではルルイが呟きながら、バラをひとつひとつ確かめる。 これはどうでしょう、とバティンが小さな花を咲かせている白いバラを差し出した。彼女が育てていく上で、香りを弱くした花だ。咲かせる花の数も少ないが、その分強い。 ありがとうとルルイは短く礼をいい、その花の名を問うと、バティンは微笑んで「名付けてあげてください」といった。品種などに関わらず、バラを愛でるには、苗のひとつひとつに名をつけるのが良いのだと。 「どっちかがいいなぁーん。どっちも大輪で、アノニマスちゃんのイメージかなぁーん」 其れを聞いたか否か、バラの前で唸るカイエはふとヴィネの視線に気付き、 「……あげるわけじゃないのなぁーんよ。カイエがアノニマスちゃんを育てるなぁーん」 嬉しそうに言う。要するに勝手に名前をつけて愛でるつもりらしい。 「ああ、そう……」 別に不満はないのだが、かける言葉に悩んだヴィネは遠くを見た。二種類のバラを前にカイエは楽しそうである。ならばよいか、とアノニマスが聴いたら憤慨しそうな結論をつけた。
「お前さんのそこにあるような黒い薔薇の苗木はあるかね?」 口元を少し歪めてオーエンが問いかける。含みがあるような無いような、不敵な笑みだ。 頭を指差されたヴィネはむっつりとした様子で「失礼な」と言う。 そして二の句はシンプルだった「あるけど、無いわ」――如何なる意味にも捉えられそうな言葉である。 「それは残念だ……じゃあ……」 比較的にあっさりと引きながら、他の苗木を指し示し、これを頂きたいと告げる。 「折角貰った苗木だしきちんと育ててやらんとな……」 「花の命は短いけれど。きちんと育てれば、永遠に続くのよ」 苗木を見て、誰にでもなく呟かれたオーエンの言葉を聞いたわけではないのだろうが、ヴィネはぽつりと呟いた。
ノリスがバティンにツルバラを誘導するための支柱や鉄柵を贈ろうと思うが、どうだろうかと問いかける。 この庭園にはツルバラが少なかった。それは彼女が用意できる範囲というのが狭かったゆえだ。 是非お願いします、と告げる少女の瞳は輝いていた。ノリスは任せてくれと頷いて、支柱を届ける事などを約束したのだった。 「これは頂いても?」 ツルバラが無いわけでもないが少ない事を案じて、ダイアナが問いかけた。 「私がこの先育てる分は分けてありますから、どうぞお持ち帰りください」 ダイアナがその苗木を大切そうに抱えるのを見て、バティンは微笑む。 もうすっかり人々に馴染んでいるようだ。 「綺麗な薔薇園、その手入れをする手には幾つもの傷がついているのかもしれません。でもそのお陰で、私達はとても美しいものを見ることができました。どうもありがとう」 本当はヴィネに託すつもりで有った言葉をストラタムはそのままバティンへと伝えた。少し嬉しそうに。 まっすぐに向けられた感謝の言葉に、ドリアッドの少女は恥かしげに俯くも、またいつでも、遊びに来てください、と告げられ、ストラタムは薄く微笑んだ。
その後、苗木わけがひと段落すると面倒くさがりなオルガが剣舞を披露した。 直にバラ園は夕暮れを迎え、シュハクのホーリーライトがバラを照らすとまた変わった風情が有った。 彼らの明るい声は日が落ちるまで溢れていたのだった。

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参加者:38人
作成日:2006/06/19
得票数:恋愛1
ほのぼの15
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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