【寵姫の望む物】天使の石



<オープニング>


「ようやく来て下さいましたのね。わたくし、皆様に御会い出来ることを待ち侘びていましたわ……」
 冬の泉を思わせる涼やかな髪を風に揺らして、セイレーンの大領主様は微笑んだ。
 降り積もった雪を溶かして行くように、甘やかで柔らかな慈愛深い微笑みは春の女神を思わせる。
 宮殿を訪れた冒険者らは普段通りの紅い絨毯を進み、普段通り荘厳な白い扉を潜り、いつも依頼を受けるサロンへと足を踏み入れたのだが、其処にルクレチアの姿は無かった。ひとり佇んでいた美少年は愛想良く微笑み、「ルクレチア様が御待ちです」と更に宮殿の奥深くへと冒険者たちを案内した。
 白い柱が立ち並ぶ庭園に面した回廊を抜け、離宮であるプティ・プランタン宮殿――と少年に聞いた――に立ち入る。聞けば寵姫は、年の大半の離宮で過ごしているらしい。お気に入りの空間へ招き入れるほど、彼女は冒険者たちを好いてくれたと言うことなのだろうか。

「皆様は、『天使の石』……と言う品の名を御存知かしら?」
 ルクレチアは冒険者らの思考を遮るように、何故かとても嬉しげに笑んだまま話を切り出す。何やら沼に落ちた指輪を拾って欲しいと寵姫が願った際、依頼を受けた冒険者のひとりが「天使の石」の指輪を嵌めており、其の後も晩餐会などで煌く石を目にし気に留めていらっしゃったらしい。
「その宝石を使った飾りを幾つか取り寄せたのですけれど、煌く虹のような美しさがとても気に入りましたのよ。ですから、『天使の石』の鉱山をわたくしのものにしましたの」
 にっこり。
 莫大な資産を持ち得る彼女だからこそ、簡単に告げることが出来るのだろうが、山を丸ごと買い上げると為れば如何程の金銀が動いたのかが計り知れない。当然ルクレチア様は山賊でも無いので、武力行使で山を占拠したと言う筈も無く、財力面で合法的に山を己のものとしたのだろう。思う冒険者の前で、ルクレチア様は賢慮の滲む細い眉を少し寄せて、悲しむように視線を落とす。
「『天使の石』は特殊な研磨法を用いると聞きましたから、職人様も其の侭召し抱えましたの……」
 正に「山ごと」御買い上げになったのだ。
 態々天使の石を城下町まで運ばせ、其処で職人らに働かせると言うのは非効率的――村ごと集団で上京せよと無理を強いる理由は無い――であるから、職人らは今まで通りの村で今まで以上に裕福な、何不自由することの無い生活を行うことが出来るようになった。
「……けれど、おひとりだけ。わたくしの為に『天使の石』を加工することを良しとしない方がいらっしゃいました。彼女は宝石を求めるには理由が必要だとか仰っているようですけれど……わたくしには良く判りませんわ。欲しいから求める……十分では無くて? 他に、何が要されるのかしら?」
 ルクレチア様は、笑っていた。
 とても可笑しそうに、くすくすと零すように肩を揺すった。
 今回の依頼は鉱山まで出向き、女職人マールが寵姫の為に働くことを良しとするよう説き伏せて来ることだ。彼女には彼女なりの矜持があると言うし、既に彼女と面識のある冒険者が居れば、職人肌で如何にも頑固な彼女を説得し口説き落とすには中々に骨が折れるだろうと察せられる。
「もし、彼女が納得して下さらないのでしたら、此処に連れて来て頂けるかしら?」
 穏やかに微笑んだ彼女は、囁くように息を吐く。
「冒険者様がその女性を御存知であると伺ったものですから、いきなりわたくしが呼び寄せるよりも皆様に向かって頂くほうが彼女の為かとも考えたのですけれど……冒険者様にも説得出来ないのでしたら、わたくしが彼女と直接御話をして差し上げようかと思っていますの」
 青い瞳はきらきらと悪戯っぽく輝いていた。
 説得出来るまで帰って来ないなんて無駄な時間を使うのは嫌いよ、と寵姫は鋭く釘を刺す。言葉を尽くしても伝わらないのならば己が直接話をするから、即座に連れ帰って来るよう命じるとルクレチアは冒険者らの退出を促し「報告を楽しみにしていましてよ」と瞳を細めた。

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参加者
想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)
緑のちび魔女・グリューネ(a04166)
朝凪の珊瑚樹・フェイルローゼ(a05217)
夢幻を惑いし夜鶴・スフィア(a07050)
月森の番人・クローディア(a08285)
緋色の花・ジェネシス(a18131)
古き森の・ユレイラ(a22991)
世界に一匹だけの猫・アルテミス(a26900)
虹霓・ルーネ(a33126)
貴方に捧げる狂死曲・セドリック(a35874)


<リプレイ>

●出立前
 ルクレチアは依頼に関して話終えると、冒険者の退出を促すも、退出後に再び顔を合わせることが出来るのは職人を説得し終えるか連れて来た後になるだろう。想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)は退出の命に逆らい場に留まった。
「今回の依頼、歌を紡ぎ伝える者としてとても興味を惹かれます。差支え無いようでしたら、歌にしても宜しいでしょうか?」
 不機嫌そうに目を細めた寵姫は、彼女の言葉に息を吐く程度の沈黙を落とす。
「意図を御話しなさい。許可が必要な事柄なのかしら」
 天使の石の伝承に惹かれると言うならば兎も角、領主に歯向かう職人の図の何処が面白いと言うのか。聞けばラジスラヴァは「宝石職人と領主様」と言う歌を作り報告したい旨、後日領内で歌い広めたい旨を語る。ルクレチア様は、驚いたように目を瞬いた。
「歌を作るのは勝手ですけれど、聴くつもりなんてありませんわ。あまつさえ領内で広めるおつもりだなんて……わたくしに逆らう職人が居たと吹聴して、わたくしの名を貶めるおつもりですのね……ああ、なんて酷い。酷過ぎますわ」
 寵姫は涙を拭うように白い指先で目元に触れ、「そんな話が広まれば、彼女の命も危ぶまれましょうに……冒険者様がそんなに非情な方々でしたら、御依頼なんてしませんでしたわ」と呟くように零した。そして再度、反論を許さぬ静かな声音で退出を命じる。

●女職人マール
 褐色の肌、ひとつに結い上げ纏めた髪、火傷らしき傷跡だらけの両腕、引き締まった身体、動き易さを重視した女っ気の無い作業着。家族は無いのか静まり返った家の壁には、細やかな刺繍のタペストリーが掛けられている。仕事柄か生まれつきか、手先の器用な女性のようだ。実は案外と家庭的であるのかも知れない。来訪者に顔を顰めるも、月森の番人・クローディア(a08285)が突然の訪問を詫びると共に、恥じらいつつ天使の石を譲り受けた際の礼を述べると、彼女は朗らかに笑った。
「御無沙汰しております」
「以前は至らぬ者たちが御迷惑を掛けてしまい申し訳ありません」
 緋色の花・ジェネシス(a18131)が、古き森の・ユレイラ(a22991)が丁寧に述べ頭を下げるも、マールは「いいよ、済んだことだ」と大らかに返す。安堵を覚えつつ、ユレイラは続けた。
「今後そのようなことが起こらぬよう、確りと御話をさせて頂きたく思――」
「帰んな」
 職人は笑みを消した。
 無知故に鉱石を無断で持ち帰ろうとした冒険者たちを責めるつもりは無いし、根に持ちはしないが、其れと此れとは話が別だろうと怒りを露にする。三度目は無いと言ったのに二度目が在った時点で、未来永劫、冒険者を鉱山に招くつもりは無いと一行を睨み付けた。
「尤も、鉱山がセイレーンに買い上げられちまった今じゃ、そんな勝手は許されないだろうけどね」
 皮肉げに笑って零した言葉にジェネシスが答える。今回はそのセイレーン、琥珀の寵姫・ルクレチア様よりの使者として伺ったのだ、と。職人は引き攣った笑顔を向けて来た。
「言ってることが違うじゃないか。何だい、私を騙そうってのかい? 大領主様だか何だか知らないが、人を誑かしては遊び呆けるセイレーン女の話なんざ聞くつもりは無いね! 出て行きなッ!」
 ばしん、と痛そうな音を立てて扉が閉まる。冒険者たちは彼女の怒りように息を呑んだ。享楽的なセイレーンの貴族様と、勤勉や節制を好み仕事を愛する女職人との相性は最悪なのかも知れないが、やはり彼女なりの「矜持」とでも言うべきものがこうまで彼女を怒らせるのだろうか。
 貴方に捧げる狂死曲・セドリック(a35874)が、扉をとんとんと叩きながら「せめて話だけでも聞いて貰えないでしょうか」と家の中へ声を掛ける。反応は無いが、話もせずに帰るわけにも行かない。暫く粘るしか無いようだ。

 工房を訪ねたラジスラヴァは、他の職人らに何故マールが天使の石に拘るのかと尋ねてみた。
「拘りの無ぇ奴ぁ、職人なんざ遣ってねぇと思うぞ」
 嬢ちゃんには判らんかも知れねぇけどなあ、と壮年の男は苦笑して答える。
 言われてみれば尤もだ。冒険者とて冒険者の誇りを持って依頼を受け、果たす。職人たちも誇りを持って石を磨く。其の過程に各々の矜持が影響を与えることは当然と言えるだろう。
 ラジスラヴァの合流後二時間程、家の前で待機し続けたところ、此の侭では埒が明かないと気付いた女職人が溜息と共に扉を開いた。話だけは聞いてやるから中へ入れ、そんなところへ何時までも居られたんじゃ外出も出来ないと吐き捨てるように言う。絨毯の上に人数分のクッションを投げ捨て、「茶は出さないよ」と断りながら己も腰を下ろした。彼女の家に、湯飲みは十一個も無い。
「ルクレチア様は身の回りに置く全てを愛する御方じゃ」
 まずは女職人が抱く大領主に対しての悪印象を少しでも拭うところから始めるべきだろう。ただ据え置き、珍重するような方では無いと朝凪の珊瑚樹・フェイルローゼ(a05217)が言う。やはり飾るだけに成り下がることは良しと思わないのか、女職人も「身に付けてくれない奴よりゃマシだぁね」と値踏みするように相槌を打った。夢幻を惑いし夜鶴・スフィア(a07050)が続けて口を開く。
「ルクレチア様は自分が欲しいものだからと言って独占してしまうような、狭量な方では無いと思います。必要としている方々に行き渡らなくなるような懸念は、殆ど無用では無いかと思うのですが」
「アルもそう思うにゃ!」
 世界に一匹だけの猫・アルテミス(a26900)も一生懸命な様子でスフィアの言葉に同意した。「天使の石」が欲しい者には分けてあげるだろうとアルテミスも思っているのだと言葉を重ねる。しかし女職人は「信用ならない」と言う風な半眼で二人を見遣った。
「『思う』だとか『殆ど』だとか……あんたら、根拠はあるのかい? 少なくとも私の聞いた話じゃあ、その女領主は気に入ったもんを片っ端から買い漁るような女だってね。実際、この鉱山を買ったのだって自分で『独占』するためだろう。違うのかい」
 二人は盲点を突かれた気分になった。
 確かに、鉱山を丸ごと買い上げたと言う図は十分な「独占」に見える。咄嗟には「思う」理由を説明することが出来なかった。少なくとも無闇に量産して質を落とすことはしないと「思う」とスフィアが付け足すも、「まあ、量産は物理的に無理だからね」と流される。確かに「天使の石」は特殊な鉱石で、とても稀少なものであるとの話だ。
「ルクレチア様は『天使の石』が本当に好きだから、鉱山ごと買ったんじゃないかな」
 緑のちび魔女・グリューネ(a04166)が口を挟む。好きだから独占しようとしたのだろうと言う点については何も言えないが、大領主が『天使の石』を好んでいることは確実だった。其れは職人も認めるところだったのだろう、職人はちらりとグリューネの顔を見遣る。
「『天使の石』の幸せを蔑ろにする方でも無い、と……」
 言葉に詰まりながらスフィアも言った。石の幸せって良く判んないけど、と職人は目を細める。
「その女領主、私の聞いた話じゃあ、綺麗なもんは全部自分だけに相応しいってな高慢ちきだよ」
 違うのかねぇ、とあんまり信じて居なさそうな表情で呟いた。
「でも、ルクレチア様だったら、お金が無くて頑張ってる人にも『天使の石』をあげられると思うよ」
 確かに、財力のある大領主であれば可能であろう。
「もちろん誰にでもあげるわけじゃなくて、いろんなことを頑張った人にだけあげるの」
 マールさんも頑張っている人にしかあげないよね、とグリューネに尋ねられて女職人は小さく呻いた。幼い子が嘯くようには思えない。しかし問題はルクレチアなる大領主が、本当に必要とする誰かへ分け与えるような人物なのか如何かだ。根拠に薄いと感じる想いには変化が無い。グリューネは大領主様の元で働いてくれるなら、今まで通り一人の為の「天使の石」を作れるよう御願いしてみると言うも、「順序が逆だろ。女領主がそう言うなら考えるさ」と職人は溜息を吐く。
「ルクレチア様は我儘なだけの人に見えるかも知れないけれど……彼女の元で、『天使の石』の名を広く知って貰えば、より多くの石を必要としている人の手に届けることが出来るんじゃないかな」
 大領主様はきっと力になってくれるよ、と諭すセドリックだが女職人は頑固に首を振る。
「我儘なだけの女にしか見えないね。他の何に見えるって言うんだい」
「……あの方は、領民全てを愛し愛されている人なんだよ」
 大切な相手が確り居るのさ、とセドリックは咄嗟に言葉を紡いだ。人望を集めているとの言に、僅かばかりマールの表情が変化する。愛する相手が多過ぎるから、自らを飾ることで自らの愛を示しているのかも知れないと彼が語るのを、渋い顔をして腕を組みながら聞いていた。ルクレチア様は「王様」のような立場の人だから、恋人ひとりだけじゃなく沢山の人を幸せにする為に天使の石を必要としているのだとグリューネも言う。
「大領主様は、領民と従者の方々全てを平等に愛しまなければならない立場に在られますなぁ〜ん」
 御一人の方だけを大切にする余裕の無い立場なのだと虹霓・ルーネ(a33126)も言葉を継いだ。
「ルクレチア様は、親しい血縁者も無く、共に住まう従者の方々を家族と仰られましたなぁん……」
 若しかすると寂しさゆえに物へと執着するのかも知れない。
 その淋しい御心を汲んで頂くことは出来ないだろうかとルーネは頼む。以前女職人の手で加工された「天使の石」は、ルーネ自身の大切な人へと贈り、素敵な笑顔を貰うことも出来た――だからこそルクレチア様にも、同じように微笑んで頂きたいのだと彼女は語った。
 女職人の胸中で想いが渦巻く。
 本当だろうか。
 本当に女領主は「魔女」で無く、領民想いの御優しくも寂しい方なのだろうか。
「……だとしても、本当に必要としている奴は、ちゃんと『天使の石』を見付けてくれる。其れが石の『運命』って奴だ」
 別に宣伝なんざする必要は無い、と女職人は顔を顰めた。
「石の謂れに従って理由を求めているのでしたら、石を必要としているのは愛すべき人を失った人だけでも、愛を形にした人だけでも無い……と言っておきます」
 深い拘りを見せる職人に対し、ラジスラヴァが言う。職人の表情が酷く硬いものへと変わった。私に喧嘩を売っているのかい、と彼女は低い声で尋ねる。ユレイラは「まあまあ」と宥めるように間へ入った。真摯に職人を見詰め、クローディアが口を開く。
「拒否し続けて天使の石に携われなくなれば、貴女の信念も本末転倒になりませんか」
 伝説を護りたいのでは無いのですかと静かに問えば、女職人は笑って答えた。
「私はあんな女の為に作るくらいなら携わりたく無いって言ってんだ」
 彼女は言う。自分が此処で最も腕の良い職人だ、と。己の加工した石が最も美しいことは周知の事実で、其れは受け取る者の想いが石を美しく彩るからなのだ、と。初めから美しい石に加工出来ぬだろう相手の為に腕を振るうつもりは無い、と。
 もう一押しであろうに、もう一押しが見付からない。
 断るにしても直接ルクレチアに会い、理由を話しては貰えないかとクローディアとユレイラは言う。が、職人は「顔も見たくない」と一蹴した。セドリックは「石に相応しい方か否か、貴女の目で確かめれば良い」と言うも「相応しいようには到底思えないね」と鼻息荒く断られる。
 ルクレチア様が石の本当の美しさを理解していないと言うなら貴女が教えてあげて欲しい、とアルテミスが言う。ジェネシスも石の伝説を話し理解を求めてみては如何かと言うも、「説得しに来てるのはあんたらだろ」と呆れたように吐かれてしまった。
「向こうが理解してから来るんなら作ってやっても良いけど……私は『作らせて欲しい』なんて頭下げに行く気は無いんだよ。あんたらの顔を立てて遣れなくて悪いがね」
 職人が同行を拒否をすることを想定して居なかった者は困惑したように眉を寄せる。縛り上げて引き摺って行けば、ルクレチア様の依頼は果たせたことになるだろう。だが、依頼遂行の為に其処までする決意のある者は居なかった。拒否するのならば無理強いは出来まい、とフェイルローゼは目を伏せる。難しいものだ、と溜息が零れた。
「その女に伝えな。世の中にゃ金じゃ買えないものがあるんだって」
 マールはどんと胸を叩いた。
「私の心――職人の矜持とかね!」

●ルクレチア様の御前
 と言うあらましを聞いたルクレチア様は、初夏の薔薇が如く美しかった。無論、棘もある、と言う意味だ。ユレイラとセドリックは深く頭を垂れ、至らぬ結果と為ったことを謝罪する。叱責は甘んじて受けねばと思いつつ、フェイルローゼは身を硬くした。柔らかに刺すように寵姫は囁く。
「わたくしが御願いしましたのに、連れて来ても下さらなかった、と……」
 わたくしの御願いより職人風情の言葉を重要視なさいますのね、と寵姫は目元を拭った。
「……ルクレチア様、御願いします」
 寵姫が良いと認めた人へは「天使の石」を与えてあげて欲しい、とグリューネは喋る。寵姫は意図が掴めぬのか小首を傾げて、贈りたいと思った方へは贈りますわ、と仰った。次いで発言許可を求めるルーネに、緩く頷いて先を促す。彼女は己の知る「天使の石」の素晴らしさや、自らが譲り受けた際の事柄を一生懸命に語った。愛情深い御心のままに石を選べば、素敵な輝きを放つ石となるだろうと告げる少女に「楽しみですわ」と寵姫が微笑む。
 そしてジェネシスも発言を求めた。
「しがない詩人の身で御座いますが、恐れ多くも詩篇にて御身を讃うを希望すべく参上致しました」
 許可を受けての彼の口上に、歌は聴きませんわよ、と寵姫は些か不機嫌になって答える。ジェネシスは「天使の石」に纏わる悲恋の伝説を告げ、相手への深い想いが篭められた石であり、同盟領内では特定の想い人が居る証なのだと語った。
「ルクレチア様が身に付ければ、あらぬ誤解を招いてしまう恐れも――」

「わたくしが」
 寵姫は凍れる瞳でジェネシスを見た。
「石について下調べもせず、衝動で山を買う女だと御思いですのね」
 伝承を知らずに居ると己を見縊っていたのか。彼女の眼差しはそう言っていた。
 石を身に付けた者は必ずや想い人が居る等と言うのが虚言だと、寵姫は既に知っている。
「いいえ、何より……あなたは、わたくしの判断が誤っていたと仰いますのね? わたくしが、『天使の石』を身に付けるべきでは無い、山を買うべきで無かった、と」
 不愉快ですわ、と寵姫はにっこり微笑んだ。
「御顔を見続けることに耐え切れませんの。今直ぐに出て行って」

 寵姫は「天使の石」の鉱山を処分したのか、女職人を処分したのか、其れとも――
 其の後については今は未だ、知れぬところである。


マスター:愛染りんご 紹介ページ
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作成日:2006/05/25
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