グドンが泳ぐ頃に



<オープニング>


「今年も暖かくなってきたのう」
 ヒトの霊査士・エイベアー(a90292)が熱い茶をすする。
 今日はお日様が出ており、ぐんぐんと暖かい陽気になっている。
「『暖かい』というより『暑い』のほうがいいんじゃないでしょうか。まるで初夏です」
 リザードマンの年増狂戦士・バーリツ(a90269)はそうぼやくと、水を口に放り込んだ。井戸からくみ上げたばかりだそうで、まだひんやりしている。
 エイベアーは待ってましたとばかりに、次のように一言声に出した。
「しょーかー」

「さて、今日の依頼じゃが……ん? みな若いんじゃろ、もっと元気よくせんと依頼成功できんぞ」
 運悪く一言を耳にしてしまった冒険者たちはどこかしょげてこんでいる。そんな彼らを見渡し、エイベアーはニコニコと言葉をかけた。
「……やる気はあります、ちょっと疲れてるだけですから」
 冒険者の言葉に、エイベアーはとりあえずうなずいて返す。
「では、今日の依頼じゃが、グドンが住み着いた海の家を取り戻し掃除して返すというものじゃ」
「グドン退治に、掃除ですか。そういえば、最近流行のピルグリムは?」
「今のところ、確認されておらん。まぁ、用心に越したことはないと思うがのう」
「ピルグリムグドンがいるといないのでは危険が変わるぞ。できれば、はっきりと知りたいものだがな」
 がっちがちに鎧を着込んだ重騎士が立ち上がり、頬を真っ赤に染めて、問いただす。
「依頼人の話とわしの霊視からは存在は確認できておらん。言えるのはそれだけじゃ」
 重騎士はぶつぶつ言いながら座る。

「海の家の持ち主は秋から冬にかけて行商人をしておってな。
 今年も夏も近くなってきたので久々に立ち寄ってみたら、グドンに出くわして、尻尾丸めて逃げ出してきたそうじゃ」
「尻尾丸めて、というと持ち主殿はストライダーかヒトノソリンですかな」
「ヒトノソリンの一般人がランドアースにいるわけないでしょ」
 重騎士と相棒のやりとりに、エイベアーは目をやった。バーリツが意地悪そうな瞳で見つめている。
「恐れ入りますが、バーリツらリザードマンにも尻尾があることをお忘れなく」
 脱線が長引かないうちに、エイベアーは割って入った。
「狐の尻尾を持ったストライダーじゃったな。
 さて、話を再開させてもらおうかのう」
 エイベアーは茶を一口すすり、話を続ける。
「退治が終わったら、海の家の補修と掃除を頼むのじゃ。雨風による家の傷み、グドンが荒らした痛みに、さらに戦い方によっては痛みが増えているかもしれん。下手な戦いをすれば、補修と掃除が面倒になるかもしれんのう」
「グドン相手に正面からあたらなくてもかまいませんわね」
 バーリツが少し楽しそうに呟く。エイベアーは黙殺を決め込んだ。
「わしの霊視によれば、グドンはアザラシグドンで15体前後のようじゃな。
 海の家は、鉄板と洗い場からなる厨房、人が2人くらい横になれる倉庫、人が10人程度座れる食堂から構成されており、丸太を組んでつくられているようじゃ」
 ここまで語るとエイベアーは次の言葉とともに頭を下げた。
「以上じゃ、よろしく頼んだぞ」

マスターからのコメントを見る

参加者
エンジェルの狂戦士・カリン(a26119)
力が自慢の・ザラス(a32819)
セイレーンの医術士・マリア(a36505)
風を纏う赤槍・ウカスィ(a37777)
黒箱・ティターン(a39194)
凍月の蒼・エセル(a43317)
恋想銀魚・ヤーウェ(a46375)
不眠症の眠り姫・プルーリィ(a46915)
氷炎の黒騎士・カシュー(a47550)
碧玉に心を写す・ミシャ(a48876)
NPC:リザードマンの年増狂戦士・バーリツ(a90269)



<リプレイ>

●正面
 海を背にして、冒険者たちは火をおこす。
 火種は、浜にうちあげられた枝類、海草類をくべられ、次第に炎へと育っていく。その炎の上ではアワビが全身をひねるように踊る。その隣では海老が甲羅を真っ赤に変えつつある。
「なんと美味そうな魚! これは……海のIT(活きが良い、捕れたて)革命や〜!」
 漆黒の騎士・カシュー(a47550)はびっちり着こなした黒衣の雰囲気には無頓着に、豪快な叫びをあげた。叫びに前後して、後ろには大波が打ち寄せる。
(アレが食通……熱血というか暑苦しいかもしれませんね、なんだか)
 ドリアッドの武道家・ミシャ(a48876)が小声で漏らすが、待機場所がよかったのかカシューの耳までは届かなかったようだ。
 そんなミシャに声がかかる。前後して腕に触れられる。その腕は黒き鱗で覆われていた。
「ミシャさんは無理しないようにしてください。いざというときは私の後ろに待機してくださいね」
 黒箱・ティターン(a39194)の申し出をミシャは受け入れた。髪先に百合の花を咲かせた娘の緑の瞳と、鎧に身を包んだ男の赤い瞳は一瞬見つめ合う形となるが、それは青き髪を持つセイレーンの言葉に断たれてしまう。セイレーンの医術士・マリア(a36505)は遠眼鏡を覗き込んだまま、仲間に声をかけたのだ。
「出てくるみたいだよぅ」
 遠眼鏡の先には薄汚れた感じの丸太小屋があった。彼らが確保を目指す海の家である。
 マリアはその出入り口の扉に注視している。今まではあたりの様子も時折確認していたのだが、扉の震えに気づいた今は、もっぱら扉をずーっと眺めている。
 カシューの焼く海産物のあげる煙が、扉の隙間から中に入り込んでいる。煙が濃くなるごとに、家の中で騒ぎ声があがるのが、実に興味深い。
 そして、扉は開かれた。
 アザラシの頭を持つグドンが大きな鼻をびくつかせ、炎めがけてやってくる。
「アレがグドン……モノによっては可愛いですね、なんだか」
「実際にたくさんのグドンと戦えば、そうも言ってられなくなると思うぞ」
 ミシャの呟きに、エンジェルの狂戦士・カリン(a26119)が小さじ一杯程度あきれてみせる。が、煙に鼻をくすぐられ、表情をわずかに崩す。
「しかし、いい匂いだ……、グドンじゃなくても惹かれそうだ」
「もっといい匂い出しますけど……、食べちゃだめ、ですよ」
 ミシャを見れば、両手一杯に生魚、菓子を抱えている。ミシャはそれを砂浜にばらまいていく。
「これで海の家から遠くに離せるはずです」
 カリンはとりあえず手伝うことにした。

●右・背面
「俺の側、離れないでね?」
 黒麗銀魚・ヤーウェ(a46375)の囁きに、蒼月の葬華・エセル(a43317)は静かに肯いた。頭を軽く揺らすだけで、銀色の髪も厳かに揺れる。
「グドンが動き出したな」
「正面組の誘き出し、うまくいったんだね」
 ヤーウェは、海の家の右脇の扉に体重をかけ、一気に押し開けた。息つく間も惜しみ、中に飛び込む。


「初めての依頼……絶対に成功させます!」
 力が自慢の・ザラス(a32819)が海の家裏の扉前で唸った。リザードマンの年増狂戦士・バーリツ(a90269)は愉快そうにザラスを見つめている。
「あんまり力みますと……出ちゃいますよ」
「えっえっ? 出るってなんですか?」
「腹への力の入れ方に慣れてない戦士の後ろについたことがありましたが……、変なところに力を入れてしまったんでしょうね」
 ザラスは気づいていないが、バーリツの瞳は狡そうに細められている。
「おならをよく浴びせられたものです」
「おならって、あの尻から出るアレですか」
「そうです。ひどいときにはアレで収まらず……一応、バーリツも女性ですしこれ以上は口にしませんけれど。
 あまり力みすぎないことですよ」
 ザラスは慎重な顔つきで肯いた。その後、
「動き出しました!」
 ザラスはブロードソードに念を込める。業物のその刃が鋭さを増したような雰囲気である。愛用者であるザラスにしかわからないであろうレベルの雰囲気でしかないが。
「すっかり誘き出されてます。しかし、グドン臭いですね」
 中に入ったバーリツが鼻をピクピクさせながら言い放った。
「バーリツ、グドンがいないからといってものに当たるなよ。家や家具を直すのは私たち自身なのだからな」
 合流したエセルの言葉にバーリツは神妙そうに肯きを返す。
「ご助言ありがとうございます。家具修繕なんて面倒が増えるのは嫌ですから、しっかり留意することにしますね」
「……それにしても」
 エセルはバーリツの頭からつま先までジロジロ見つめる。エセルの口からついつい言葉がこぼれ落ちてしまう。
「背は意外と小さかったのだな」
 踏み込んだ部屋――食堂を見て回っていたヤーウェ、ザラスが二人になんとなく目を向けてみれば、バーリツはエセルの肩程度しか背丈がなかった。
「バーリツさんの話しぶりの印象から、もっと大きな方だと思ってました」
 ザラスの素直な言葉に、ヤーウェは軽く肩をすくめて見せた。
「さて、正面組が苦戦しているといけません。もういきますよ」
 バーリツは表情を見せずに、海側の出口をくぐっていった。

●左
「そろそろおらたちも行きますよ」
 闇に潜む赤槍・ウカスィ(a37777)は、正面が騒がしくなった物音に、勝手口をこじ開けはじめた。
「ようやく動いたか。これで口を閉じている必要がないな」
「プルーリィさん……息まで止めてなくてよかったんですよ」
「そ、それくらいわかってる」
 月下香・プルーリィ(a46915)は色白な肌を薄く染めて、ウカスィの頭を枕で軽く叩いた。
「っと、手元が狂います……、と、開きましたよ」
 ウカスィは扉を開け、中に踏み込んでいく。プルーリィはその後ろをこっそりついていく。
「すっかり荒れているな。……む」
 何となく覗き込んだ洗い場に置かれた大鍋。プルーリィはその中身に言葉を詰まらせる。
「この大きさからして子猿ですかね〜、死んでから1ヶ月くらい経っていますね。たぶん、群れからはぐれていたところを襲われたんでしょう」
 ウカスィが平気そうにつぶやいてくれたおかげか、プルーリィも次第に落ち着きを取り戻せた。プルーリィは礼を述べ、ウカスィは柔らかな笑みで受け入れた。
「こちらにはピルグリムグドンどころか、グドンもいないようですね。中で血を流すと掃除が大変なので歓迎すべき事態です」
 ウカスィは隣接する倉庫を軽く見回すとそう結論づけた。
「では、食堂を覗いて正面組を追いかけよう」
 プルーリィが食堂への扉を開けると、ザラスが南側の扉をくぐる背を見ることができた。二人はその背を追うことにした。

●対決
 海の家からかなり離れた砂浜。そこにグドンと冒険者たちの姿があった。グドンを正面組と海の家内部経由班で挟撃するかたちとなっている。
「さあ、眠りなさい〜♪」
 マリアの歌声がアザラシグドンの耳に入り込む。『眠りの歌奥義』が8体のグドンを次々と眠らせていく。
「これでグドンは全部かい。どうやらピルグリムグドンはいないようだね」
 ヤーウェは群れを見渡すとそう結論付け、頭を光らせる。セイレーン特有のみずみずしい青髪が光を受けて、涼しげに輝く。眠らなかったグドンのほとんどが『スーパースポットライト奥義』の光に硬直してしまった。
「これでおしまいです」
 ウカスィの手から糸が放たれる。グドンは『粘り蜘蛛糸奥義』に絡みつかれてしまう。
「グドンはもう動けませんわね。後腐れなく仕留めておきませんとね」
 バーリツは大鉈を振るい、アザラシグドンの頭部を叩き潰す。
「ふん、グドン如きが……身の程を知れ」
 エセルの金属杖が振るわれる。彼女の前に無数の金属針が生み出され、身動きできぬグドンたちに降り注ぐ。『ニードルスピア奥義』が十体近いグドンの命を奪う。
「重騎士の戦い方ではありませんが……行きますよ」
 ティターンのシミターが激しく振るわれる。生み出された黒き矢は、グドンのまとう薄汚れた皮鎧を貫き、腹部に深く突き刺さる。グドンは腹部から血を流し、命の輝きを消していく。
「あと3体」
 筋肉を大きく膨らませたカリンの腕に操られ、大鎌はグドンを傷つける。一撃で仕留めるにはもう一歩足りないようだ。
「拳に気合を乗せて……えりゃー!」
 ミシャの回し蹴りがグドンに止めを刺す。
「海へ……お帰り!」
 カシューが抜き打ちでモールをアザラシグドンに叩きつける。『居合い斬り奥義』はグドンの肩を大きく歪ませる。だが、グドンの命はまだ残っているようだ。
 そのグドンに稲妻が込められたブロードソードが迫る。ザラスの『電刃衝奥義』である。
 グドンは全滅した。

●補修
「さ。頑張って掃除、だね」
 戦闘で汚れた装束を着替えたヤーウェの言葉に、反対する者はいない。早速、皆が動き出す。
「こんな感じでどうだろう」
 カリンはこう呟き、食堂のテーブルを拭く手を休める。
「上のほうは任せろ。しかし、どうしたらこんな上まで汚せるんだ?」
 カシューのモップは天井に近い壁に付いた汚れを拭き取っていく。白っぽい体液は乾ききっており、拭き取るのに力とコツがいるようだ。
「大分片づいてきたかな? も〜。海の家は綺麗に使うんだよう」
 そういってマリアは軽く笑う。脇に抱えた大袋には拾い集めた、グドンの食い散らかしがおさまっている。
 その大袋がひょいと掴まれる。
「これもゴミだな。外へ捨ててくる」
 エセルはゴミや破損物を外に運び出していく。
「こんなものか? 今度来るときは、普通に客として来たいものだな……」
「……僕らの行動が、先に繋がると良いね」
 修繕しきれなかった椅子を外に運んできたヤーウェは、そんな話をエセルと交わした。

「これで鉄板の手入れは完了ですね」
 厨房ではザラスがこう言って、汗をぬぐう。鍛冶の知識を活かし、かまどを直し、鉄板を手入れしたのだが、その過程で火を使ったせいか厨房に熱が溜まっている。
「やはりグドンですね、あちこちに食器が散乱していますよ」
 使える食器を拾い集め、破損した食器は一度まとめてから外へ。ティターンは厨房、倉庫を行ったり来たりしながら食器整理に余念がない。
「……バーリツさん、怠けないでくださいよ」
 ティターンの視界端のバーリツは口端によだれがついていた。
「……怠けてなんかいませんです」
 バーリツは慌てて指先を食器棚に滑らせる。
「そんなことより! こんなところに食器を置くなんてどうでしょう?」
 バーリツの突きつけてきた指には、真っ黒に埃がついていた。
「こんなところに食器を置いては、せっかく運んだ食器に埃がつきますよね」
「えっ、そうですね」
 バーリツの変な雰囲気に、気づけばティターンはちょっと押され気味。攻勢に立っていたはずなのに、いつしか足が後ろずさる。
「食器から埃を取るために、更に掃除しなければなりません。二度手間になるわけです」
 ……バーリツは説き続ける。
 やがて、ティターンは食器棚の拭き掃除、食器洗いを一人でやることになった。
「暑い夏向きに建てられているはずですから、熱が籠もることは少ないと思うんですけれど……」
 厨房の熱気がもたらした汗なのか、謎の冷や汗なのか、鱗を伝う汗を床に垂らすティターンである。

「こういった補修、清掃は専門職を雇ったほうが安くていい仕事すると思うんですけど……」
 ウカスィはぼやきつつ、杭を砂浜にしっかり打ち込んでいる。
「グドンが住み着くような土地に来てくれる大工さんは滅多にいないし、いても特別手当をたくさん請求されそうだけど」
 そう答えるプルーリィの後ろには、木材と大工道具。
「そういわれればそうですね……、ってプルーリィさん、手が怪我だらけじゃないですか」
「……なんでもない」
 プルーリィの隠そうとする両手を掴むと、ひっかき傷やら無数の小さな傷を確認できた。
「あとでマリアさんになおしてもらってください」
「道具を持ってきたのはいいのだが、なかなかうまくできなくてな……」
「はぁ……。私が冒険者の大工作業というものを教えてあげますから、しっかり手伝ってくださいよ」
「すまない」
 ウカスィ、プルーリィはこうしてロープスライダーを作り上げた。海の家側の足場から吊り輪にぶら下がると、ロープを伝った吊り輪が数メートル先まで利用者をスピード豊かに運んでくれるという代物だ。
「わわ〜、すごいです〜」
 早速ミシャが歓声をあげている。
「これも……冒険者の務めというやつなのですね」

「みなさん、できましたよ〜」
 ザラスの声が海の家の周りに響く。
「誘き出しに使った食材の残りで軽く作ってみました。鉄板の直り具合も見ておきたかったので、海の家らしく焼そばですが」
 各自、芳ばしい香りに導かれ、わらわらと集まってくる。
「これで腹一杯だな。食べたら動かなければな、せっかくだし、後で泳ごう」
「そうですね、周囲に他のグドンがいるといけませんから、見回りもかねて、ですね」
 カリンの言葉にバーリツが肯く。
 しばらく後、海の家でかいた汗を流すため、海水に身を浸した冒険者の姿がいくつか確認されたという。まだちょっと冷たかったという話である。


マスター:珠沙命蓮 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:10人
作成日:2006/06/03
得票数:冒険活劇4  ほのぼの6  コメディ2 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。