酒樽亭夜話



<オープニング>


「ねえ、ミッドナー……」
 トレジャーハンター・アルカナ(a90042)が1人の少女に声をかける。
「なんですか? アルカナさん」
 その少女……夜闇の霊査士・ミッドナー(a90283)は、アルカナに一瞥をくれると再び向き直って、ワインを開け始める。
「ミッドナーがお酒好きなのは知ってるけど……」
 そこで、言いよどむ。
 ミッドナーがお酒好きなのは周知の事実だし、実際問題として止める者は居ない。
 しかし、アルカナには分かってしまっていた。
「……違うよ。そんなの、君らしくないよ」
「私はいつも通りです」
 そう言って、もう1本のワインを開けるミッドナー。
 そう、アルカナの見る限りではミッドナーは……この数日、飲んでいる姿以外は見た事がない。
 前にも1度、こんな事があった。あの時はどんな理由だったろうか……ともかく、誰かが優しくワインの瓶を取り上げたのだ。そう、あれは誰だったろう。
「……ダメですよ、アルカナさんの言う通りなのです。そんなに飲んだらお腹を壊してしまうですよ」
 そう言って、誰かがワインを取り上げる。
「……え」
 まるで、待ち望んだものを見るかのようにミッドナーは顔をあげた。
 けれど、そこにいたのは。
「え? え? ボギーの顔に何かついてるですか?」
 思わぬうろたえるハニーハンター・ボギー(a90182)に、ミッドナーは急いで表情を取り繕う。
「いえ……1度飲み始めると止まらなくて……ありがとうございます、ボギーさん」
 そう言って、足早に立ち去るミッドナー。
「アルカナさんも……ごめんなさい、少し酔ってたみたいです」
「……ううん、いいんだ」
 そのまま立ち去っていくミッドナーを眺める2人。
 状況が掴めていないボギーにアルカナは曖昧に笑いかけて。
「……ボクの前でくらい……強がらなくたっていいじゃない……バカ」
 いや、バカなのは自分もだ。今にも崩れそうな膝を、空元気で押さえ込んでいる。それでも自分が何とかしてあげなくちゃ、という気持ちで塗り固めて。
「ねえ……ボクはどうしたらいいのかな?」
 遠い何処かに、語りかけるかのように。アルカナはめを瞑って答えを待った。
 ……やがて、アルカナの耳がピクッと動く。
「そうか、そうだよね! 皆、ちょっと集まって!」
 酒樽亭。今まで何度となく集まった、その場所で。
 アルカナによる「元気回復・お泊り大会」が催されようとしているのだった。

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参加者
NPC:夜闇の霊査士・ミッドナー(a90283)



<リプレイ>

●酒樽亭に集いて
 トントントン、と。酒樽亭から包丁の音が響く。
 今出来る事は、料理だけに違いない。
 そう信じて行動した者達の響かせる小気味よい音が、外へと聞こえていく。
 道行く旅人達にしてみれば、それはきっと。微笑ましい音に違いなかった。
 しかし、事情を知る者達にしてみれば……それは癒しの音には程遠いものであった。
 究極絶無のエロメイド・シンイチロウ(a26766)の隣で包丁を動かしていた黒百合纏いし希望の翼を護る盾・ゼソラ(a27083)の動きが、ふと止まる。
「リクエストがあれば何なりと。今宵の私は貴方の為の料理人です」
 そう言って微笑むと、夜闇の霊査士・ミッドナー(a90283)は静かに答える。
「……ありがとうございます。でも、私よりも他の人のリクエストを聞いた方が……結果的には良くなるかと」
 そう言って立ち去ろうとするミッドナーに、ポンっと何かが被せられる。
「ホラ…何時までもウジウジしてんじゃねぇよ」
 武侠運送屋・ハンソー(a22844)の被せたそれは、1つの鬘だった。
「……?」
 その鬘を外してみて、気づく。
 それが、誰の髪型を模していたか。
「コレには、アイツの願いが一杯詰まってる。ついでに、俺の願いもちっとばかし込めてある」
 願い。願いとは……何だったか。
「だからよ……お前は笑って居てくれや、な?」
 笑ってください。それが、私の……。
「……笑う……」
 大きなナイフを、突き刺されたような気がした。
 必死で塗り固めていたのに。
「ミッドナーさん」
 近くに来ていた鍛冶屋の重騎士・ノリス(a42975)に、顔を背けるようにして鬘を押し付ける。
 不機嫌そうな顔を見せているミッドナーをなだめる様に、着物の戦乙女・グラリア(a44018)が無言で頭を撫でる。
 驚いて振り向くミッドナーの顔に浮かんだ、一瞬の悲しげな表情。
 そのまま走り去るミッドナーを追いかけようとした終焉を綴る少女・テルミエール(a33671)を、アルカナが押しとどめる。
「……お願い、ちょっとだけ」
 そう言った後、くるりと表情を変える。
「さ、明るくいこうよ。ね、ゼラン。なんかやってよ♪」
 武具王・ゼラン(a44038)に声をかけると、ゼランは慌てて変な顔をしてみせる。
「そんなんじゃダメぎゃ! 肉体を凌駕する飲みか」
 ポーズをとる赤い風・セナ(a07132)からゴキン、と骨の破壊音が響く。無理な体勢は禁物である。
「うわ……お酒が色んなところから……」
 月下の沙羅双樹・シャオリィ(a39596)が、その辺りにあった棒でセナを突付く。
 こんな事で来るとは思わなかった。そう思ってはいたが。こんなものを見るとも思わなかった。
 そんな光景を、明るい曲を弾きながら見つめて。貴方に捧げる狂死曲・セドリック(a35874)は、ふと思う。
 ミッドナーは、1つ1つの光景に。きっと、あの黄金の男の影を見ているのだろう。
「……言えるはずもないなあ」
 思わず苦笑する。ふと目をやった先で、何事か笑顔の剣士・リュウ(a36407)が呟いている。
「……僕は……手を……」
 良く聞こえなかった、が。気にするほどでもないだろう。
「ハデスさん……」
 言いながら小さな探究者・シルス(a38751)が陰膳を用意しているのが目に入る。
 其方に向けて軽く祈る。
「一緒に彼と歌ったわね。もう、会えないのが信じられないけれど……」
 夜蝶嬢王・ペテネーラ(a41119)の呟きが、風に消える。
今にも、隣で飲んでいそうなのに。
「お前の気持ちは解ってるつもりだ。キッチリと俺が始末してやるので上からしっかり見届けてるんだぜ?」
 狂風の・ジョジョ(a12711)が、空になった杯を握り潰す。
 誰へ向けた台詞か、何を指した台詞か。この場に知らない者は無い。だが、語る者も無い。
「……ありがとう、ございます」
 去り行くジョジョとすれ違いざまに、ミッドナーが呟く。
 御隠居・ミットナゲット(a23243)が台詞に違和感を感じるが、特に口には出さない。
「あたし考えてる事言葉にするの上手じゃないんだけど、あのね、えーと、うーん」
 席に戻ってきたミッドナーに話しかける笑顔咲かせる日だまりの野花・デイジー(a29260)。
「ミッドナーが元気だとハデスも喜ぶ……と、思うよ。たぶん、ね?」
「僕たちが、ハデスのことを、忘れたら、本当に、ハデスは居なくなっちゃうんだよ?」
 翡翠色の歌い手・オルフェ(a32786)の言葉は、暗に酒に逃げるな、という暗喩。
「……忘れやしませんよ。待っていたかっただけなんです」
 不思議な台詞に、白い悪魔・エスティア(a33574)が怪訝な顔をする。
「こうやってお酒を飲んでいたら、あの御節介が来てくれるんじゃないかなって。何となく……そう思ってたんです」
 逃げていた訳じゃなく、願っていた。
 しかし、それは。
「自分を傷つけるお酒は……控えてくださいね」
「悪酔いしちゃいますし、体にも悪いですから……ね?」
 うたかたのゆめ・ロン(a33766)と蒼穹翠曖・リア(a13248)の言葉に、ミッドナーが苦笑する。
 結局は、場所こそ違えど逃げているのだ。自分を傷つけて、貶めて他者を求める醜悪な儀式。
 言われて初めて気づいた愚かさに、苦笑する。
 何事か言おうとした農家出身のヒトのチビの武人・アルカディール(a34446)を抑えつつ、秘密結社の忠実なるメイドガイ・イズミ(a36220)が見つめる。
 すでに言いたい事は皆が言った。あとは、きっと。
「まぁ、飲もうよ」
 びっくりどっきり紋章術士・フォーカス(a34949)の注いだ白ワインを手に取り、ミッドナーは微かに微笑む。
「明けない夜は……ないなぁ〜んよ!」
 桃ノソリンの行かず後家・トロンボーン(a34491)の言葉に、綻ぶ口元を抑えて。
「そうですね。全く……その通りです」
 明けない夜など無い。自分を体現する言葉だというのに、まさか自分が言われてしまうとは思わなかった。
「ミッドナーが僕たちを信じてくれるように、僕たちもミッドナーを信じてるよ。だから、頼りにしてね。頼りにしてるから」
 邪炎を纏いし背約者・レヴィアタン(a38708)の言葉に、誰かが頷く。
「さぁ、悲しいときは大きな声で笑うんだ。あいつが笑っていたようにみんなで大きな声で笑ってやろうじゃないか」
 貪欲ナル闇・ショウ(a27215)の言葉に、やはり誰かが頷いて。酒樽亭が笑いに包まれる。
 だから。一部の人間が外に出ていた事にも、気づかなかったのだ。

●そして、夜は更けて1
「……初めて会った時から、あいつが嫌いだった」
 無銘なる赤・デスペラード(a27803)の言葉が響く。
「綺麗な理想ばかり言うのが嫌いだ」
 誰も居ない屋上……いや、もう1人。アルカナの姿がある。
「いつでも明るくて、人当たりが良いのが嫌いだ」
 夜風が、髪を撫でていく。
「実は礼儀正しいのも嫌いだ」
 実は、の部分に感情が篭っていたが。ちゃかす者も居ない。
「わざわざ馬鹿なガキを庇ったのが……一番一等に大嫌いだ」
 思い浮かべた光景に、デスペラードの瞳に何かが光る。
 あの黄金の男は、そういう人間だった。
 いつでも馬鹿で、無駄に明るくて。
「……皆、ハデスらしくないって言うけどさ。ボク、ハデスらしいと思うんだ」
 あの場で退く事なんて頭に無かったわけが無い。
 それでも、きっと。見知らぬ誰かのまだ見ぬ笑顔と、自分の命を天秤にかけて。
 ……きっと、見知った人達の顔を思い浮かべて。寂しげに苦笑したのだろう。
「迷惑ついでに……すこしだけ、肩を貸してくれ」
 忘れない、絶対に。こんなにも……大嫌いだから。

●そして、夜は更けて2
「ね、ボクも手伝おうか」
 地面で酔いつぶれているヨッパライーズを部屋まで運んでいくのは、奏風月歌姫・セレネ(a30868)には如何にも大役だ。
「いや、こうしておけば大丈夫でスよ」
 潦・イーオー(a29859)がヨッパライーズに布団をかけていくのを見て、アルカナも真似して漢・アナボリック(a00210)に布団をかける。
「うわたっ!」
 座ったままのポーズで寝ていたアナボリックが、突然アッパーのポーズで立ち上がる。
 あやうく顎を砕かれそうになったアルカナが抗議の声をあげるが。
「世の中そう言う事もある」
「なーいっ! ていうか、君ホントは寝てないだろ!」
 寝言を言うアナボリックを枕で叩くアルカナ。
 やがて息を切らしたアルカナの肩を、月吼・ディーン(a03486)がポン、と叩く。
「そのくらいにしとけ……どうせ無駄だ」
「うぐぐ……なんか悔しい」
 半分涙目になったアルカナは、近くで真っ青になって倒れている紅蓮の颶風ルーズリーフ・グウェン(a19529)を見る。
「……背水の陣で挑み倒れた勇者です」
 楽風の・ニューラ(a00126)の台詞は、なんか格好良さそうであったが。
 つまるところ、高らかな凱歌を予め拒否して飲み比べに挑戦した残骸であった。
「ね、アルカナさん。外に出ない?」
 そう言った月下邪竜・シルヴィア(a38394)に、怪訝な顔でついていくアルカナ。
「うーん風が気持ちいです……そう言えばハデスさんっていつも笑ってましたね。失敗しても巻き込まれても」
 クスリ、と笑う。
「きっと……ハデスさんは誰かが泣くのも落ち込むのも望んでないんだろうなぁ……」
 そこまで言って振り向くと。アルカナは厳しい表情をしていた。
「……ごめん、ちょっと冷えちゃったみたい。ボク、中に戻るね」
 そう言って振り返ると、一目散に駆け出して。
「わぷっ」
 燃龍ブ・ルース(a30534)にぶつかった。
「なあ……今日この時くらいは、本音をさらけ出し、誰かにもたれかかり、迷惑をかけてもいいんじゃねぇか?……明日からまた笑顔で前を向いて歩き出す為にな……」
「やだなあ……ボク、何も我慢してないんだよ?」
 今にも泣きそうで、それでも笑顔を作って。走り出す。
「アルカナ君っ見て見て〜っっ、露店で買ったんだよぅ〜2つ買ったカラ、1つアルカナ君にあげるネ? お揃い!」
 そう言って駆け寄ってくるマーメイドセニョリィタ・ニトレーティア(a35815)の前で、思いっきり転ぶ。
「だ、大丈夫?」
「おいおい……」
 駆け寄ってくる3人と荒波を穿つ海賊娘・ランディ(a36144)に、やはり笑顔を見せながら。
「あはは……転んじゃった」
 大粒の、涙を零しながら。
「……痛いね、痛いよ……」
 本当に痛いのは、転んだ傷なんかじゃないけれど。
 泣かないと、決めていたから。

●そして、夜は更けて3
「気になったのですが……ミッドナー様とハデス殿、アルカナ様は、どうやってお知り合いになったのですか?」
「成り行きですよ」
 すっかり何時も通りの表情で、深淵の流れに願う・カラシャ(a41931)にミッドナーが答える。
 添い寝しようとしたまま、先に力尽きて寝ていた光牙咆震閃烈の双刃・プラチナ(a41265)に布団を被せると、ミッドナーは席を立つ。
「ちょっと、出かけてきます」
 向かう途中で、翔剣士・セリア(a16819)の言葉を思い出す。
 ……その友達のためにたくさんの人が泣いた。でも、それだけでいいんだと思う。それだけみんなが好きでいたって事だから。その人はそれだけ幸せだったんだ、って思えるから……
 自己満足に、過ぎないのかもしれない。
 彼は、望んでいないかもしれない。
 でも、それでも。
 向かった先で、扉を勢い良く開ける。
「……ども」
「おう」
 部屋に居た男達……と言っても3人だが、思い思いの声をあげる。
 そのうちの1人……武侠・タダシ(a06685)に目を向ける。
「……分かりますか」
「ふん、馬鹿が。馬鹿共が。俺達の前でまで強がったところで、まるわかりで痛々しいんだよ」
 もう1人の悪をぶっ飛ばす疾風怒濤・コータロー(a05774)にも目を向ける。
「何だか凄く泣きそうな顔してるぞ。別に泣くのを我慢しなくてもいいんじゃねぇか?」
 それを聞いて満足そうに頷くと、勝手にベッドに潜り込む。
「今から思いっきり泣きますから。ユーセシルさんの泣き声って事にしといてください」
 話をふられた彩雲追月・ユーセシル(a38825)が、指でOKポーズを作る。
 真面目に馬鹿なことやってなきゃダメになってしまいそうな自分にとっては、きっと似合いの役柄だ。
「でも、なんで此処で?」
「……皆の前では、クールぶりたいんです。いけませんか?」
「……いや、いいんじゃないかな」
 本当は、泣きたいだけだった。
 泣く事で、別れを認めたかった。
 やがて布団の中から聞こえてくる嗚咽。泣いて、泣いて。疲れて、眠った。
「……多少はスッキリしたかね」
「さあな。ところで、だが」
 使えるベッドは2つ、人数は3人。もう1人はミッドナーが起きるまでは床。
 かくして、暑苦しい夜の、暑苦しくも静かな戦いが始まる。

●そして、朝が来る
「おはようございます、ミッドナーさん」
「おはようございます」
 重騎士・アレクシス(a37320)に、何かの樽を転がしながら答えるミッドナー。
「……3年ものですよ」
 聞いてもいない質問に答えられて、思わず笑った。
 どうやら、いつもどおりのようだ。
「それで、結局どちらを選んだの?」
 黒の少女・ルノア(a42211)が、問う。
「ここで立ち止まるのか。それとも乗り越えて前へ進むのか」
 ミッドナーは、止まらずに通り過ぎる。
「どちらでもありません。立ち止まってしまった人達を背負って、進んでいく。迷ってしまった人の手を取り、迷ってしまった時に手を取られ、進んでいく。最初から、私が選ぶべき道は……それ1つだけだったんですから」
 明けない夜は、在るはずも無く。
 されど、夜闇に迷う人が消えるわけでも無く。
 だからこそ。
「……おはようございます、皆さん。私、全部知ってますから。お気遣いありがとうございますね」
 思わずドリンクを零しそうになった終焉を綴る少女・テルミエール(a33671)の様子を見て、一瞬だけ悪戯っぽい笑みを浮かべて。
「後は、お任せします。すでに最高など望むべくもないでしょうが……どうか」
 そう、願わくば。
 この悲劇に、残酷なりし全ての悲劇に。
 どうか、最良の……結末を。


マスター:じぇい 紹介ページ
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