<リプレイ>
「洞穴には前みたいにこっそり行けばいいよね。レンヤさんに隠れながら先に行ってもらって、合図があったらみんなで移動かな」 「前回とは状況が違う」 星影・ルシエラ(a03407)の提案に異を唱えたのは、それまで黙って冒険者達の話し合いを見ていた闇より出づる影・レンヤ(a90132)だった。 「確かに…前回は囮のおかげで入口周辺にグドンはいなかった」 アートゥロ・ミケーレ(a36984)は前回の調査で洞穴へと入った状況を思い浮かべながら呟き、これまで話し合った内容に入口周辺のグドンに関する対策が出ていないことに気付く。 「人数も前回の倍以上、中には隠密行動にそぐわぬ装備の者もいる。これに気付かぬ程、奴らは鈍くはないぞ」 周りの者達に鋭い眼差しを向け、谷の南側のグドンは放っておくつもりか、と問うレンヤにソニックハウンド・カリウス(a19832)が声を上げる。 「北側のグドンを片付けたら南の連中も始末する。一匹残らずな」 「──それが貴様等の作戦ならばやり遂げて見せろ。入口周辺のグドンは私が引き離す」 そう言い放ち、その場から立ち去ろうとするレンヤを引き留める者はなく。ただ、彼の行動に不安を感じていた十字架を背負う者・レイ(a07113)が去りゆく背に声を掛ける。 「レンヤ、くれぐれも無茶はしないように!」 しかしレンヤはその声に答えることもなく、その場から立ち去っていった。 「レンヤさんを信じて、わたくし達も参りましょう」 そう言って身を翻した蒼灰の銀花・ニクス(a17966)の肩で銀色の髪がふわりと揺れ、歩き出した彼女の後に他の者達が続くと、冒険者達は谷の北側へと繋がる洞穴の入口へと向かった。
「レンヤのやつ、この前みたいな無茶してねぇだろうな」 そう呟きながら狭い穴の中を進んでいく戯の蒼黒・ソウ(a31731)は、以前この谷で囮となった時に自分の回復を断って結局重傷を負ったレンヤに、今度は何と言われようとも傷を回復して重傷にさせないつもりであった。しかし、そのレンヤの姿はこの場にはない。 ソウ達が進んでいる洞穴の入口周辺には4匹のグドンが徘徊していた。レンヤはそのグドンを引き付ける囮となったからだ。 「いやーすごい場所ですね」 ほのかな光を放つランタンを手にした杳渺謌・タブリス(a19679)は、光に照らし出される洞穴の様子に溜息混じりの声を漏らしながら慎重に歩いていく。自然が作り上げた洞穴の壁はゴツゴツとしていて、その道筋もまた変化に富んだものであった。 時折枝分かれしている道や先に続く道が分かり難い場所もあったが、前回の調査を思い出しながら先頭を進んでいるルシエラの案内のおかげで、彼らは迷うことなく進むことが出来ていた。 やがて二つある出口へと繋がる分岐点まで辿り着くと、彼らは事前に決めた役割通りにそれぞれの道へと進んでいった。 「どうぞお気をつけて…」 桜花ノ理・エメルディア(a20562)にそう声を掛けられ、振り返った白綺士・ヴェロ(a35215)は無表情な顔のままではあったが敬意を込めた丁寧な言葉で、「そちらもお気をつけを」と言い残すと洞穴の奥へと姿を消した。
「グドンの配置はこの前と同じみたいだよ」 出口の端からわずかに顔を覗かせ、小型の遠眼鏡を覗き込んだルシエラが頭を振る度、それに合わせて尻尾のように束ねられた髪がふわりふわりと揺れる。 「あれがピルグリムグドンですか。うわっ…あのツメは痛そうですね」 ルシエラの隣で外の様子を窺っていたタブリスは、覗き込んだ遠眼鏡の中に映った凶悪な爪を生やしたピルグリムグドンの姿に顔を顰める。 「それでは始めましょう──お前達を狩りに来た!!」 出口から外へと身を乗り出したレイは、視界に映ったグドン達へと向かって叫び、下へと向かって斜面を滑り降りる。その後には、刀身に銀の焔が描かれたサーベルを構えたヴェロが続き、器用に斜面を滑り降りていく。 その後も、ルシエラ、タブリス、ニクスが続いて外へ出ると、最後にソウが、「…この滑り台大丈夫か?」などと呟きながら斜面を降りていった。 彼らが一気に斜面を滑り降りると、そこには5匹のグドンが居た。 グドンが突き出してきた槍を盾で受け流し、レイが放った目映い光にグドン達の注目が集まる。 「ヤッー!」 レイに目を向けて動きを止めたグドンに詰め寄り、ルシエラは裂帛の気合いと共に両手で構えた剣を薙ぐ。込められた稲妻の闘気により輝いた刃に胸を切り裂かれ、耳障りな断末魔を辺りにまき散らしてグドンが倒れる。 全身を黒炎に包まれたタブリスがグドン達へと笑みを向けた。その瞬間、彼の目の前から放たれた無数の黒い針がグドン達へと突き刺さり、身体中の傷から流れ出た血で染まったグドン達が次々と崩れ落ちる。 「汚名返上戦ってかー」 前回追い回された仕返しとばかりにソウはディバインチャージを発動させ、その力を受けたヴェロの剣が音も無く閃き、その鋭い一撃は易々とグドンを切り伏せる。 そんな中、最初はグドンを攻撃せずに劣勢を装うつもりでグドンの様子を窺っていたニクスは、こちらへと集まり始めていたグドン達が一転、逃げ出し始めたのを見て、 「グドンが逃げるわよ!」 と叫ぶと、グドン達を追って走り出した。
「危ないから下がってだよう」 そう言って他の者達を下がらせると、破魔鋼拳・トモ(a36435)は両手に填めた篭手の感触を確かめ構えを取る。やがて彼女が2度繰り出した拳は、わずかな隙間であった出口の左右の岩盤を見事に砕き、人が通れる出口を開いた。 「それじゃ行くよう」 すかさず穴の中から外へと躍り出てたトモが鎧聖降臨を発動させ、その後にエメルディアとミケーレが続き、最後にカリウスが出てくる頃には、彼らの周りに岩が砕ける音を聞きつけたグドン達が集まり始めていた。 「邪魔だ」 カリウスが手の中に生み出した紅色の矢を手早く番え、放たれた矢が大地へと突き刺さった瞬間、巻き起こった爆発が周囲のグドンを飲み込む。 爆煙が晴れた場所に倒れた仲間を見て、他のグドン達は何事かを喚きながら逃げを打つ。 「逃げるグドンは陽動の方々にお任せして、ピリグルリムグドンの所に急ぎましょう」 逃げていくグドンの姿を目で追っていたエメルディアは、別の場所で奮闘しているであろう仲間に思いを託し、自らの役目を果たすことを心に誓う。 「ヤツは一番大きな木の下だったな」 「そのはずだ」 既に走りだしたカリウスの言葉に、前回の調査でピルグリムグドンの姿を見ているミケーレが頷き、彼らは木々の向こうに見える巨木へと向かう。そんな彼らを避けるように、グドン達は南の方へと逃げていった。 しかし、彼らが目指す巨木へと辿り着く前に、その前に姿を現したピルグリムグドンは数匹のグドンを引き連れ谷の北へと伸びる狭い谷間へと逃げ込むところであった。 「逃がすものか」 逃げるピルグリムグドンへカリウスが放った矢がその背中を捉えると、グドンよりも一回り大きなピルグリムグドンの身体が炎と氷に包まれ、凍り付いたようにその場で足を止める。 「邪魔なんだよう」 「クソッ!」 トモとミケーレも動きを止めたピルグリムグドンへと駆け寄ろうとするが、グドンが邪魔になり思うようには進めず、苛立ちながらグドンを薙ぎ払う。 「…主はここで終わりじゃ。覚悟はできておろうな…?」 そう呟くエメルディアの前に紋章が描き出され、そこから溢れ出した力は彼女の頭上に七色の火球を作りだし、やがて放たれたそれはピルグリムグドンの身体を焼く。 しかし、カリウスとエメルディアの攻撃を耐え抜いたピルグリムグドンは、身体にまとわりついた氷炎を振り払い。そして、咆吼を上げながら振るった巨大な爪を谷間の壁へと突き立てた。 その一撃で崩れた場所を中心に壁が崩壊し、積み上がった瓦礫がピルグリムグドンの姿を隠す。 ──やがて、トモが瓦礫を粉砕して道を開いた時には、そこにピルグリムグドンの姿はなかった。
「待ちなさい!」 グドンを追って走るレイは、前方を走るグドンを憎々しげに見据える。 グドンを仕留めようと追いかけている彼女達は、逃げまどうグドンに苦戦を強いられていた。相手を捉えれば倒す事も難しくはない力を持つ冒険者達だが、その力も届かなければ意味がない。 「逃げるのだけは…早い…」 息を切らしながら走っていたニクスは、グドンの逃げる先を見遣り、そして言葉を失った。 ひょうたん谷の北側は閉じた空間というわけではなく、さらに北へと伸びる道と谷の南側へ繋がる道がある。そして、グドン達が逃げようとしている先は谷の南側へ繋がる道だった。
囮となったレンヤは、後を追ってきた5匹のグドンを、以前この谷を訪れた時に飛び込んだ断崖へと誘い込み仕留めていた。血の匂いが嗅ぎ付けられるのを避けるため死体を谷底の川へと落した彼は、残りのグドンの様子を窺うため谷の方へと戻ってきていた。 そんな彼が目にしたのは、ギャーギャーと騒ぎながら走っていくグドンと、その後を追って走り出すグドン達の姿だった。 そして次の瞬間、彼は迷わずグドンの後を追って走り出していた。
逃げたグドン達を追って谷の南側へと移動し、逃げ込んだグドンや南側に居たはずのグドンの探していた冒険者達が見つけたのは、グドンの屍の中に佇むレンヤだった。 「また随分やられてんな。今回復してやるよ」 「今すぐ死ぬような傷ではない。回復している暇があるなら屍骸の確認を手伝え」 「お断りだ。死にたいのか知らないが、今はそういう奴を意地でも殺したくない気分なんでな」 血まみれのレンヤに声を掛けたソウは、彼のすげない言葉を聞き入れず、ヒーリングウェーブを発動させる。しかし、その癒しの光を浴びてもレンヤの傷が癒される事はなかった。その力はそれを拒絶する者には効果がない。 「貴様は以前、私がグドンを欺くために受けた傷を回復しようた男か。そんな自分の行動を省みることもなく、私が死にたがっているなどとは聞いて呆れる。私は自分の限界を知った上で行動し、そして必要ないと言ったまでだ」 レンヤが鋭い眼差しでソウを見据え、剣呑な雰囲気を漂わせた二人の間に、互いの視界を遮るようにふらりと割って入る者がいた。 「喧嘩するなら止めませんけど。そんな事をしてる暇はないんじゃないですか?」 そう言って芝居がかった動作でタブリスが見上げた空は、今にも雨を落としそうなどんよりとした雲におおわれていた。
以前の霊査士の話によれば、この谷には90匹近いグドンが居たはずである。 しかし、この谷に残されたのは38体のグドンの死体だけであった。 ピルグリムグドンと多くのグドンを取り逃した冒険者達は、やがて激しく降り始めた雨に打たれながら、グドンの去った谷を後にするしかなかった。

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参加者:10人
作成日:2006/06/10
得票数:冒険活劇1
戦闘6
ダーク1
コメディ1
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冒険結果:失敗…
重傷者:闇より出づる影・レンヤ(a90132)(NPC)
死亡者:なし
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