西方国境警戒令 〜the twilight war〜



<オープニング>


 昼と夜の狭間の時。
 空と大地の狭間に長く伸びた八つの影と、一つの影があった。
「あれは……」
 西方国境警戒の為、この地に足を運んだ八人の冒険者の一人、シスカ(a29761)が呟く。
 彼女等の前に現われたのは岩の様な巨躯のモンスター。
 岩の様な肌……もしくは鎧か? 何れにしろその頑強な見かけは伊達ではあるまい。
 手には赤黒い錆を浮かせたハルバード。一体どれだけの獲物を喰らって来たのか?

「……」
 正面に居並び、得物を構える冒険者達を意に介する事無く、モンスターは歩む。
 ズン、っと音が聞こえた気がした。まるで岩山が動いているような錯覚。だが、ここで止めねばあのハルバードが新たな獲物を喰らうだろう。
 草原に風が疾る。
 俯いていたモンスターの顔が上がり、紅い炯眼が冒険者を捉え、その巨躯に比べれば小さく、しかし人には巨大なハルバードが空を切る。
 黄昏時。慈悲なき巨岩を砕くべく、今、戦いの火蓋が切られる。

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参加者
疾風の・アイル(a01096)
思い出を紡ぐ者・ロスト(a18816)
愚者・アスタルテ(a28034)
暁紅の水月・シスカ(a29761)
武神装攻・ライミリア(a31615)
荒野を渡る口笛・キース(a37794)
不浄の巫女姫・マイ(a39067)
御手先・デン(a39408)


<リプレイ>

●黄昏――開戦
 昼と夜。その狭間の刻限、黄昏時。
 同盟諸国領と、旧ソルレオン領の狭間たる国境付近において、八人の冒険者とそのモンスターは相対していた。
 相手はヤル気満々の様子。双方の激突まで、あと僅か。
「これがあの戦いの結末……なのですね」
 抜剣し、その刀身にアビリティによる強化を施すロストナンバー・ロスト(a18816)。眼前の敵を見るその目は、悲しみを宿していた。
 ランドアースの守り人として戦ってきたソルレオン。それが今では守るべきものを傷つける存在となった悲しすぎる結末。
「けど、同情している場合じゃないよな」
 篭手より伸びた刃で空を斬り、自身に聖鎧降臨を施す荒野を渡る口笛・キース(a37794)は表情を硬くし事実を述べる。
「町や村にこのモンスターが辿り着けば……大きな被害が出ます」
「それにモンスターは倒した方が、こうなってしまった人の為にもなるだろうしね」
 身に黒炎を纏った失格者・アスタルテ(a28034)は放置した際の害を、軽快なステップを踏む疾風の・アイル(a01096)はコレを倒す利を口にする。
「どちらにしろ、放っておく訳にはいかないわね」
「まあ……もういい加減休んでも誰も文句は言うまいよ……」
 暁紅の水月・シスカ(a29761)に答えつつ、目明し・デン(a39408)は武神装攻・ライミリア(a31615)へ聖鎧降臨を施す。
 自分の鎧に宿る加護の力、若干の形状の変化を感じつつ、ライミリアは動き出した敵モンスターへと先陣を切る。
 腰に携えた長大な両手剣に、稲妻が如き闘気を宿し、闇に包まれつつある戦場を、閃光を引いて駆け抜ける。
 迫る敵。遠目に見ても巨大であった敵を、より明確に感じる。
「恐らくは名のある武人だったのだろうが……貴様の冒険はもう終わっているのだ……」
 振るわれる豪腕。振るわれる鉄塊の如きハルバード。
「一意専心!」
 周囲の大気を巻き込み振るわれるその一撃を、電刃の居合いが迎え撃つ!
 轟音と、閃光が周囲に放たれた。

(「私はかつて、此処を護っていた護衛士……」)
 不浄の巫女姫・マイ(a39067)は昔を思う。かつての任は解かれて久しいが、そんなもの無くとも、
(「あの時の思いは、今でも変わらない」)
 その思いを此度は仲間の守護に、聖鎧降臨をデンへと施す。
 言葉は無い。デンは僅かに振り返り、口元をニヤリとゆがめて見せた。
 前線でライミリアの攻撃と、モンスターの攻撃が交差し互いを打つのが見える。
 アイル、キース、デンの三人が、召喚獣ダークネスクロークを従え最前線へ。ライミリアの元へと駆ける。

●狭間――激突
 膝を付くライミリア。対し敵は続く二撃目を繰り出さんと振りかぶる。
「ハッ」
 そこに掛け声と共に飛び込んできたのはアイル。短刀が敵の岩肌、その隙間を滑るように走り、
「オオォ!」
 デンが気合一閃。手に生み出した闇色の矢を握り締め、正面から叩き込む!
 重厚な岩肌を貫通し、その内側へと至る矢。
「ウォォオォ――」
 声ではない。全身を振動させ、大気を震わすモンスター。
 それでも当初の方針を変える事無く、ライミリアへと振られた一撃をデンの大盾が火花を散らし受け止めた。
「ちょッ! それを片手でぶん回すのかよっ!?」
 間近で見るその迫力に、アイルへ聖外降臨を施しつつ僅か表情を引きつらせるキース。しかし直ぐに表情を緩めると、衝撃に顔を顰める相棒に言うのだ。
「ま、そこで相棒の出番って訳だな! 頑丈のトコ見せてくれよ!」
「……丈夫たってな、限度が――有らぁ!!」
 相棒の無茶な注文。されどそれに笑って答えてこそ相棒。デンは大盾を強引に押し返し、体勢を立て直す。
「今回復を」
 後方。四人の前衛をサポートする癒し手が一人、ロストが声を上げて剣を振るう。
 赫々たる刀身から暖かな光が溢れ、ライミリアとデンの傷を癒していく。が、ライミリアの傷は塞がりきらない。
「私も行くよ」
 長期戦が想定されるこの戦い、回復アビリティの節約は必然。
 ならば無駄使いはならないと、声を出し合っての協力を良しとするマイは、自らも当然の如く声を上げ回復の波動を放つ。
「なら私は……」
 これ以上の回復は不要とアスタルテは他の後衛より更に一歩を踏み出し敵を己の射程に捕らえる。
 手にした両手杖から放たれるは紅蓮と青、黒を宿した弾。
 三色の弾は敵の肩へと激突する。
 僅か揺らぐ敵。その隙を見逃す筈も無く、完治したライミリアが音も無く踏み込み、斬撃。
 響く甲高い金属音。舞う火花。浅く、されど確かに刻まれる傷。
 しかし、敵を止めるにはやはり浅い。
 一歩を踏み出す敵、揺れる大地。片手で振り回される巨大なハルバード、啼く大気。
 たった一薙ぎが嵐に似た暴風を巻き起こし、接近していた四人を巻き込み荒れ狂う!
「グッ……!?」
 誰の物かも分からぬ呻きが風に掻き回されながら響く。
 暴風が止めば、そこに立っていたのはモンスターのみ。前衛四人は皆体勢を崩していた。
 致命的な隙である。選り取り見取りの獲物、モンスターは眼前で止まるアイルを標的とし己が得物を振り上げる!
「間に合え……!」
 凶刃がアイルを捉えるより早く、氷雪を刃としたかのようなシスカの剣より放たれた癒しの波動が彼女を包んだ。
 癒えていく傷。アイルは迫るハルバードを正面から受けるような愚行はせず、短刀で僅かその軌道を逸らし、忍びらしき身こなしで凶刃を地面へと導く。
 跳ね上がる土塊。埋まるハルバードの先端。今度はモンスターに生まれる致命的な隙。
「今です、ね」
 アルタルテの癒しが前衛の背を押し、
「穿て……!」
 キースは逆さ棘の矢を、
「ッー、何て威力だ……見た目通りだな、おい!」
 デンとアイルは生み出した闇色の矢を敵の巨躯へと突き立てる。
 間をおかず打ち込まれるライミリアの雷刃の一撃!
「やはり……なんとも相性の悪い……っ!」
 思わず舌打つライミリアの一撃を、易々と受けとめる敵のハルバード。
 表情の見えないモンスターが、獰猛に笑ったように見えた。

 開戦から数分。日は大地より僅かばかり顔を出し、戦いの終わりを待ち侘びているかのようだ。
 何度目かの攻撃を打ち込み、何度目かの攻撃を受け、傷は後衛の仲間の奮闘で無きに等しいが、激闘ゆえの疲労は癒しきれない。
「どうした、もう参ったか?」
「もう、いい歳なんでな。力押しは疲れんだよ」
 キースの皮肉にデクは苦笑で応える。
 お互い。いや、同じく前線で戦うアイルもライミリアも傷こそないが酷い有様だ。
 アビリティの残数も多くは無い。それに引き換え敵は、
「……またぁ!?」
 うんざりした声を上げるアイルの目の前で、ハルバードを地面へと突き立てる。
 途端、湧き上がる黒い光がモンスターの傷を癒すのだ。
 あと僅かという所まで幾度か追い詰めた、しかし止めには届かない。
 そんな進んでは戻る攻防の繰り返し。仕留め切るには後一歩、足りない。
「私はこれで最後よ」
 マイが最後のヒーリングウェーブを放つ。
 他の後衛陣も残す回復アビリティは僅かだ。無駄遣いは極力避けたが、敵がタフすぎた。
 貫き通す矢の攻撃は極めて有効だったが、モンスター元来の耐久力と、あの厄介な回復能力が封じきれない。
 キースの鮫牙の矢は尽き、アスタルテの伴うキルドレッドブルーの力は時折敵の動きを封じるも一時のもの。それでも、
「そこ、です」
 やらぬよりはマシ。何度目かの炎弾を打ち込む。
 胸を打ち、魔炎と魔氷を敵の全身へと這わせる炎弾。
 動きを止めた敵へ、前衛達の一斉攻撃がかかる。
「ウォォオォ――」
 声にならない声。全身を震わせ、大気を啼かすモンスターの咆哮。
 己を封ずる氷と炎を砕き、一歩を踏み出す敵。片手で振り回される巨大なハルバード、啼く大気。
「!? 来る……!」
 幾度目かの暴風の前兆。それを見取ったアスタルテが警告の声を上げる。
 前衛陣もそれに気付くが、かわすには近すぎる。
 吹き荒れる暴風。それが静まる前に中心より飛び出すモンスター。狙うは後衛の厄介な癒し手共!
「此処を……通すわけにはゆかぬ!」
 立ちはだかるはライミリア。力で暴風を耐え切り敵の動きを阻むが、一度目標を定めたこのモンスターを止めるのは至難。
 横薙ぎされる電刃の一撃を敵はハルバードで弾き、足を止める事は無い。
「仕方ないわね」
 退いては大きな隙を作る。ならば進むより他は無い。
 氷雪の刃を振るい、迎撃に出るシスカ。迫る敵に衝撃波を叩き込む! が、それだけで怯む敵ではない。
「ウォォオォ――」
 空気が震える。ハルバードが大気を切り裂き振り下ろされる。
 手甲を構えるシスカ。が、あの大威力凌げるか!?
「やらせない……!」
 マイが動く。思ったのだ、この地を守りたいと。願ったのだ、国を、仲間を護りたいと。
 回復の尽きた、彼女に残る奇跡は一つ。聖鎧降臨が、シスカに守りの加護を与える。
 咲く火花。腕が痺れ、衝撃がシスカの全身を揺らす。しかし、彼女は耐え抜いた。
「皆さん! あと少しです!」
 それまで仲間と付かず離れずで回復に徹していたロストが前に出てくる。
 己の役割を、果す為に。
 ロストが前に出た事で、前衛に癒しの波動が届く。
 シスカに全力攻撃を仕掛けた敵は、僅か動きを止めている!
 アイル、キース、デンの手の内に生まれた闇色の矢が敵の背を貫き、正面からはアスタルテの炎弾がモンスターの顎下を打つ。
 衝撃で天を仰ぐ形になるモンスター。その背を、確かな手応えと共にライミリアの剣が一閃する。
「我が斬魔刀に、断てぬもの無し!」
 モンスターは、何時の間にか空に散らばった星々をその虚ろな眼窩に映しながら、ゆっくりと倒れた。

●夜天――黙祷
 何時の間にか日は沈んでいた。
 長い戦いのようだったが、実際は十分も経っていない。
 昼と夜、その狭間だけの戦いだった。
 世界は闇に沈み、音は冒険者達の荒い息のみ。彼等の他に動くものも無い。
「コイツにもあったんだよな、護りたいもの……」
 ふと、キースが傍らにあったハルバードに視線を流し呟いた。
 ハルバードは主が討たれた後、自身もまたその役目を終えたとばかりに砕けてしまった。
 なんとも無しに、ハルバードに一握りの土を掛けるキース。
「だろうな。ただ、こんなんなってまで守る必要なんざ無ぇ」
 相棒の、妙にしんみりとした言動を笑う事も無く、デンは煙管口に、紫煙を燻らせる。
「彼等がこうなった一因は、間違いなく私達にあった……」
 闇ゆえに、その表情は伺えない仲間達の視線だけを感じながら、シスカは砕けたハルバードの一片を拾い上げる。
「だからこそ、私は、彼等の事を覚えていたいと思う。良く知る存在ではなかったけど、縁は、あったのだから」

 夜が更けてゆく。
 冒険者達は、かつての刹那の戦友に黙祷を、この地を守る誓いを胸に、帰路へと付いた。


マスター:皇弾 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2006/06/14
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