モデルやらないか軟禁事件



<オープニング>


 化粧品、下着、その他数多のファッションアイテムを見ればわかるように、美に対する意識という点において、女性と男性とでは雲泥の差がある。単に人に見せるというだけでなく、内面をも磨くために美を追求する。女性にとって美とは精神そのものだ。
 そして、その女性たちの純粋を利用する犯罪は後を絶たない。

「絵のモデルをやらないか、と声をかけて女性たちを軟禁してしまうという事件が起こっています」
 ドリアッドの霊査士・シィル(a90170)が溜息をつきながら言った。
 西方の湖畔のほとりに建つ資産家の屋敷に、若く美しい女性が大勢集められているとのこと。趣味で絵を描くという屋敷の主人は『滞在中の衣食住はすべて提供し報酬も弾む』と巧みな言葉で女性を誘い――例外なくそのモデルに思い入れ、閉じ込めてしまうのだ。錯綜にもほどがある。屋敷にはボディーガードが多数雇われており、とても自力で逃げ出すことはかなわないという。
 今回の事件の発覚は、主人の所業を見るに見かねた若い使用人による告発であった。その使用人は現在、保身のために別の酒場に匿われているということである。
「じっとしてるだけで報酬があると言われたら、確かに付いていっちゃいますよね。綺麗な時の自分を永遠に絵に留めたいと思うでしょうし。私だってそうですよ。――さて、皆さんには犯人の屋敷に乗り込んでいただくわけですが、いきなり突っ込んで行っても、捕らわれの女性に危害が加えられる可能性が高いです。だから他に上手い作戦を考えてください。――あと今回はこの子も参加します」
 シィルがすぐ近くのテーブルに座るセイレーンの武人・ビフィーネ(a90295)の肩に手を置いた。
「必ず役に立てる、とシィルさんは言うのですが……未熟者の私にどこまでやれるか。ともかく、全力で取り組みますのでよろしくお願いします」
 ビフィーネは凛と表情を張り詰めた。

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参加者
爆乳揺れるもの・アヤメ(a02683)
快傑ズガット・マサカズ(a04969)
冷厳たる十三夜月・アキトキ(a06986)
香樹の楽士・ハインリッヒ(a25244)
天照月華・ルフィリア(a25334)
嵐を呼ぶ魔砲少女・ルリィ(a33615)
囁くのは優しい嘘・ドロレス(a35973)
久遠の旅路を歩む者・フェイ(a41383)
追憶の青薔薇・セシリア(a45253)
言いくるめのペ天使・ヨウリ(a45541)
夜空に舞う胡蝶・ラキア(a48486)
金剛を目指す・ヒイラギ(a49737)
NPC:セイレーンの武人・ビフィーネ(a90295)



<リプレイ>


 絵描きの資産家がよく訪れるという街までやってきた冒険者たちは、まずあらかじめ立てていた作戦の通りに班分け――囮と待機の班に二分した。ひとまず宿屋で準備。
 囮班は当然ながらすぐ冒険者とわからない格好をすることになる。セイレーンの武人・ビフィーネ(a90295)も武具は外し、仲間に預けてある。囮など初めてな彼女はとにかく不安でいっぱいだった。
「ボロを出してしまわないか心配ですが……」
「大丈夫、お姉さんに任せて」
 囁くのは優しい嘘・ドロレス(a35973)がビフィーネに化粧を施し、チョイスした衣装を手渡す。胸の谷間を強調するセクシーで華麗なドレスだ。
「ビフィーネさん、せっかく綺麗なんだから前向きにいくにょ♪」
 嵐を呼ぶ魔砲少女・ルリィ(a33615)がビフィーネに抱きつく。すりすりむにゅむにゅしながら、こんな魅力的な女性はいないよと言ってあげた。
「同盟に入って日が浅いセイレーンは珍しいから、目に留まる可能性も高い。プロポーションも抜群だしな」
 夜闇色の純想姫・アヤメ(a02683)も自信を持っていいと肩を叩いてやる。


 囮メンバーはこれも二班に分かれ、いよいよ大通りに繰り出した。
 A班はビフィーネ、ドロレス、追憶の青薔薇・セシリア(a45253)、そしてアヤメの4人。いかにも私たち暇人ですと、適当な足取りでしかし美を振りまくように闊歩する。通行人たちはその色香に男女問わず振り返り、ふわふわと魅了された。
 やがて、その男は現れた。
「もし、そこのお嬢さん方、絵のモデルをやってみる気はないか」
 キンキラな服を纏った、恰幅のいい中年の男である。セシリアが前に出て言った。
「実は我々は絵のモデルになりたくて来たのじゃ。この街はそういうのが盛んと聞いてのう」
「何と、それは都合がいい。……うむ、ひょっとしてセイレーンか? 一度描いてみたいと思っていた」
 男はニコニコと人懐っこい表情で4人を見る。そして滞在中の衣食住はすべて無償で提供する――事前に聞いていたのとまったく同じ説明をしてきた。この男が今回の敵に間違いはなかった。
 旅行客の振りをして歩いていたB班にも魔の手は忍び寄っていた。痩せ型で眼鏡をかけた男が、私の主人がモデルを探している云々と言葉巧みに語りかけてきたのである。
「光栄です。私たちでよろしければどうぞ」
 夜空に舞う胡蝶・ラキア(a48486)は快く答える。ルリィも金剛を目指す・ヒイラギ(a49737)も、何の疑いもない様子で首を縦に振った。


 街から少し西に行き、森の古道を抜けた美しい湖畔のほとりに、その巨大な屋敷は建っていた。実に絵になりそうな風光明媚、趣味で絵を描くには最適な場所のだなと、訪れる者は誰もが思うだろう。
 しかし資産家たちに連れられた囮メンバーたちは、徐々に眉をひそめていく。気楽にモデルをしていればいいと信じた女性たちはやがて外に出られないという理不尽な現実を突きつけられるのだ。
 いかつい顔をした番兵の立つ門を抜け、一行は屋敷内に入る。
 まずはリビングに通され、冷たい飲み物を提供された。一瞬毒でも入っているのかと思ったがそんなことをする意味はないと考え直して、7人とも口をつけた。普通に甘く美味しく、喉が癒された。
 小休憩を終えると、主人はさっそく絵を描くからと言った。いきなりかと思いながら一行はアトリエまで付いていった。
 アトリエにはイーゼルがいくつも立ち並んでいて、ほぼ例外なく女性の絵がかけられていた。よほど婦人画が好きのようだ。
 主人は囮班に服を脱ぎバスタオル姿になるようにと告げた。使用人らしき男が人数分のバスタオルをすでに用意して立っている。聞けばタオル一枚の女性こそがもっとも美しいという。妙な持論である。
 本気でモデルをする気のない皆は内心で舌打ちしたが、まだ屋敷の構造を把握しているわけではない。ここは従うことにした。

 極端にみだらなポーズなどを強要されることはなく、きわめて絵画的な時間に終始した。7人の美女が見えそうで見えないポーズで寄り添っている図はとても誘惑的で華やかだと主人は満足げだった。

 絵描きタイムが終わると、簡単に屋敷内を見学させてもらえるよう頼んだ。目の前の女性たちが冒険者などとは露知らずの主人はあっさりOKした。
 他の女性は二階にひとりひとり部屋をあてがわれていると判明した。全員に部屋を与えているとは豪華である。
「ところで、ここにはいつまで滞在していればよいのでござるかな」
 ヒイラギが聞くと、主人はしれっと答えた。
「うん、ずっといてもらうのだ」
 からかっているのではないとすぐにわかる。主人の唇はどこか卑猥に歪んでいた。
 ――いよいよ敵は本性を表したのである。


 夜になると、囮班は主人のいやらしい顔を頭から追い出しつつ、手分けして軟禁されている女性たちの部屋へと足を運んだ。廊下にはボディーガードがいたが、閑談をしたいと言うと納得してくれた。
 女性たちは皆疲れた顔をしていたが、さらに部屋から連れ出そうとする何者かに混乱した。そうして女性たちは一階のホールに集められた。気になったのかボディーガードもついてくる。
「あの、あなたたちは?」
「冒険者よ。助けに来たの」
 ドロレスが簡潔に言った。ボディーガードは、あんぐり口を開けている。

 ――外。
 預かっていたアヤメ、ルリィ、ドロレスの得物が消えた。ウェポン・オーバーロードの発動! それが待機しているメンバーへの合図だ。
 待機班はその瞬間、門へと殺到した。
「え?」
 門番は人影を目にした瞬間に捕らわれていた。天照月華・ルフィリア(a25334)の粘り蜘蛛糸だった。
 あっという間に屋敷内に潜入する。ちょうどのんびり歩いていたボディーガードが雷に打たれたようにギョッとする。
「ズガット参上、ズガット解決、人よんでさすらいのスーパーヒーロー、快傑ズガットッ!」
 快傑ズガット・マサカズ(a04969)がギターを爪弾きつつ鎧聖降臨で変身し、決めポーズを取る。
 敵だ! ボディーガードが叫ぶと、間もなく方々から10人以上の強面の男たちが集ってきた。これほどの数の護衛をつけるとは、よほど主人は心配性らしい。
「そなたらと戯れている暇はない」
 狐眼にゆたう紅月・アキトキ(a06986)が慈悲の聖槍を放ち、ひとりを一発で昏倒させる。それを皮切りに乱戦が開始された。
「早く合流しないとね」
「ええ、早く片付けましょう」
「ご主人はどこかいのう」
 香樹の楽士・ハインリッヒ(a25244)が歌で眠らせれば、絶望と希望の狭間を彷徨う者・フェイ(a41383)はスーパースポットライトで麻痺させる。言いくるめのペ天使・ヨウリ(a45541)は土塊の下僕を作り、戦力を増やした。
「女性たちは……どこですか?」
 ルフィリアが尋ねながら蜘蛛糸攻撃を続け、マサカズは心攻撃で威嚇しながら、逃げ場も勝ち目もないと相手に突きつける。
「どうやら向こうの方だな。騒がしくなっている」
 ここは任せて行ってくれとマサカズ。アキトキとハインリッヒは頷き、すぐにホールへ向かった。
「……貴方の雇い主はどこでしょうか? 答えなければ、爆砕していただくことになりますが……? 私はどちらでも構いません。他の方に聞くだけですので」
 フェイは冷たい声で、心臓を抉るように質問する。こんな奴らに勝てるわけないと悟ったボディーガードは、リビングの方だとあっさり居場所を教えた。ヨウリは引き続きせっせと土塊の下僕を作る。

 ホールでも混戦の模様を呈していた。
 ルリィは鎧聖降臨で魔砲少女まじかる・ルリリンに変身、ぱつぱつのセクシー衣装で人質の守護に徹している。先頭に立つドロレスは紅蓮の咆哮で迎え撃ち、アヤメとセシリアはサイドに立って、それぞれ眠りの歌で敵の突進を防いでいく。
「ラキア殿、行くでござるよ」
「了解ですヒイラギさん。……砕けなさいっ!」
 無生物相手に遠慮することはなく、大地斬と残鉄蹴が一気に壁を破壊した。人が十分通れるほどの穴が開き、その瞬間、女性たちは我先にと外へ殺到する。この瞬間、もはや目的の八割以上は達成された。
「くそ、まさかお前たちが冒険者だったとは」
 ボディーガードがビフィーネに突っかける。かわそうとするビフィーネだったが、慣れないヒラヒラの服のせいで上手く動けない。倒され、組み伏されてしまった。
「ふ、ふん、こうなりゃこっちのもの……ガッ!」
 白目を剥いて倒れこむボディーガード。
「何を破廉恥なことを……」
 駆けつけたアキトキが延髄に手刀を叩き込んだのである。ハインリッヒがビフィーネからボディーガードを引っぺがして、ロープで縛った。
「危なかったね。でもこれで敵も打ち止めのようだよ」
 ビフィーネは胸元を整えて立ち上がり、苦笑いした。

 そして首謀者もついに縄につこうとしていた。
 フェイが入口の扉を蹴破り主人を認めた瞬間、寸分の狂いなく足元に剣を投げつけた。それでピタリと主人の動きは封じられた。まさに一瞬の早業である。
「ひええ、何だお前たちは」
 情けない声を上げる主人。次いで侵入してきた土塊の下僕たちに、ひょいっと担ぎ上げられてしまった。
「そ、そうか。ぼ、冒険者か。先日逃げたあいつが……依頼したんだな」
 主人は観念したように声を落とした。


 一味は皆ロープで縛られ、アトリエに押し込まれた。後は自警団に処理を任せることになる。
「趣味に取り込むのもモデルに思い入れるのも、節度を守ってほどほどにするのでござるよ」
 ヒイラギが主人に言った。罪を償ったら、心を入れ替えて真面目になってほしい――そう願った。
「侘びの一言くらい、かけてやるべきではないのかな」
「あと……二度と……こんなことはしないように……」
 アキトキとルフィリアが詰め寄る。女性たちは自分たちを騙した男を黙って見下ろす。
 主人はうつむき……小さな声ですまんと口にした。悪事は必ず冒険者に暴かれると彼は思い知った。今後はもうバカな真似はしないだろうと一同安心した。
「それにしても、これらの絵は確かに上手いですが、何かが……足りないような気がします。私の気のせい、でしょうか……?」
 フェイが首を傾げると、ドロレスが続いた。
「いえ、間違っていないわ。本当の美は女の子の心からの笑顔……この絵にはそれがないわ」
 なるほど、改めて見れば、どの絵の女性も表情が固い。楽しんでモデルをやっていたわけではなかったことがわかる。
「さてお嬢さん方、今回は大変じゃったな。しかしな、うまい話には裏があるということを勉強できたじゃろうて」
 ヨウリが慰めと説教を半々に合わせた言葉をかけた。女性たちは心底反省している様子だった。
 今日は遅いので、この屋敷で一泊しようということになった。もちろん食事などは勝手にさせてもらう。そのくらいは構わないだろう。
「お疲れ様。どうだった、初の囮は」
 アヤメが複雑そうな面持ちのビフィーネに聞いた。
「上手くいくものですね。……女の武器、というやつでしょうか。不本意ですが」
「冒険者の中でも武人は、作戦や目的に応じて装備を換装できるのが強みだ。そして女性の胸は立派な武器にもなる。決して邪魔にはならないのだよ」

 囮作戦は冒険者にとって必須の技術といえる。特に美しく若い女性冒険者には。女性をたぶらかし、食い物にしようとする悪者は、決して後を絶たないのだから。


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