伝説の伝説な伝説っぽい伝説になるかもな誕生日



<オープニング>


 ここは酒場。どこかの喫茶店でもなければ井戸端会議の場でもない。だが、彼女らは二つのテーブルを占拠し、紅茶やらフルーツやらケーキやらに手を伸ばしながら話をしていた。
「その昔はかなり切れ者だったらしいわよ」
 ヒトの霊査士・リゼル(a90007)が切り出す。
「マリンキングボス様に、お手、させるとお聞きしました」
 森に花冠を捧ぐ霊査士・ベルフラウ(a90084)が少し首を傾げながら言う。
「わたし、お酒飲みまくっても酔う事がないって聞いた事があるわ」
 ついで義兄が心配な・マヒル(a90303)が少し体を乗り出しながらペンを片手に言った。
「ディアスポラの神槍の外壁をよじ登って先端まで到達された……と聞いてますの」
 藍深き霊査士・テフィン(a90155)の言葉にお姫台風・シャナン(a90275)は飲み掛けの紅茶を少し噴出す。
「マジ?」
「あは、それに姿が見えへん時は隠しボスとして闘神の楔で待機してはるって聞いたけど……ほんまやったらめっちゃ素敵なんよ〜♪」
 シャナンの隣に座り、彼女にハンカチ手渡しながら言った湖畔のマダム・アデイラ(a90274)にミニモニハンター・チェリー(a90020)がそうそうと声を出す。
「闘神の楔で出会ってしまったら、全員元気一杯でも一撃全滅って聞いたんだ〜」
 両手でフルーツ持ち、ニコニコ笑顔で言ったチェリー。
 静かに紅茶を飲みながら話を聞いていた荊棘の霊査士・ロザリー(a90151)はカップを置くと口を開いた。
「西方ソルレオン領で若き日の日輪王と戦って、拳で判り合ったって聞いた事があるわ……」
 小さく起こる嘆声。
「ねぇねぇ、なんのお話?」 
 酒場に来たものの、井戸端会議の不思議な話にきょとんと聞いていたストライダーの霊査士・ルラル(a90014)はその輪の中に入り、尋ねた。
「ブレントさんよ、ブレントさん。あの人の伝説について皆で話をしていたの」
「伝……説?」
 リゼルの言葉に益々きょとんとするルラルにシャナンは鼻で笑い言った。
「単なるしょーもない噂話の類よ。あのオッサンがんな訳ないって。あ、中にはそうでもないのもあるか」
「ふぅ〜ん……」
 何だか良く分からないが相槌を打ったルラルはあ、そうだと表情を明るくし皆の顔を見渡した。
「ねぇねぇ、じゃあこれは知ってる? ブレントちゃんはもうすぐ……」
「誕生日なんでしょ? そっか、もうこの日が来たのね」
 にやりと顎に指を当て言ったリゼルに、ルラルは口を尖らせる。
「誕生日、ねぇ……」
 呟き、紅茶を一口飲んだシャナンはふっと脳内にある考えが閃いた。カップを置き、こほんと咳払いひとつしシャナンは立ち上がる。
「皆様、これだけ数々の伝説があるのは怪しいとは思いませんか? 中には実しやかに囁かれている嘘も混じっていましょう。だけれど、その嘘を何も知らない方々が信じてしまったら? これは、霊査士の名を傷つける事になりませんか?」
 いけしゃーしゃーと弁舌を振るうシャナン。
「どうするの?」
 不安そうに言ったルラルにシャナンはハッキリかえした。
「確かめるのです。冒険者の皆様のお力を借りて! 彼の節目に」
 ざわざわと酒場に広がる波紋。
 その中できらりと六角形の眼鏡と青い瞳が怪しく光った。

マスターからのコメントを見る

参加者
NPC:昼行灯の霊査士・ブレント(a90086)



<リプレイ>

●ある伝説な男かもしれない男の一日
 その日は朝からセッカが誕生会会場を押さえ、幾人かが準備を始めていた。
「……それじゃ……僕は……飲み物とケーキを買ってくるね」
「よろしくお願いしますね、アルムさん」
 台車を押し、買出しに出かけたアルムをセリアは笑顔で見送った。
「お酒は色んな種類を用意した方がブレントさん喜ぶかな?」
「そうですね。お酒とは多めに用意しましょうか」
 セッカの疑問の言葉に言ったセリアは酒飲み多いですし、と付け加え笑った。
「お料理とデザートも……多めの方がいいですよね……」
「そうだな。今ある材料じゃちょっと足りないかな」
 今から作る料理の数と種類を考え、ティーとマディンは材料に目をやり数をチェックする。
「んじゃ、足りない分の買出しよろしくな」
 マディンは足りない材料を書き出した紙をシリウスに渡す。
「わかった」
 紙を受取ったシリウスは少しの間誰かを探すかのように周囲を見渡していたが、会場内には準備をする為に集まった4人しかいない。諦めたようにシリウスは買出しへと出て行った。
「にしても……なんでブレントの誕生日はこんな事になってるんだろう」
 マディンの疑問の呟きにティーたちは腕を組み小さく唸った。

 そして、一方でも朝から動き出す者たちがいる。
「……おはよう……です。一手……お相手お願いします……」
 寝ていたブレントの布団を引っぺがし、ユンはまだ目も開けていないブレントを引き起こし、稽古着を押し付ける。
「あーなんだぁ?」
 寝ぼけ眼のブレントの前で軽く手を合わせ一礼したユンは静かな声で言う。
「……日輪王と拳で分かり合ったという伝説……検証、します……大丈夫……当てない。寸止めだから」
「は?」
 素っ頓狂な声を出し、眉を顰めたブレントにユンは真顔で早く稽古着を着る様に無言で促す。
「いやいや、言ってる意味が分からんのだが……」
「たのもー!」
 元気な声と共に勢い良く開けられた扉。活き活きした顔で入ってきたワンダはブレントの前で拳を握る。
「作り出した伝説の数々だったら負けないぜ! 勝負だブレント!」 
「……手合わせ、お願いします」
 自分の置かれている状況が理解出来ていないブレントだが、なんかただ事ではないと悟ったブレントは何か嫌なものを感じながら二人に言った。
「分かった。分かったから、着替えさせてくれ。ほれ、外に出た出た」
 追い出され、扉の前でワンダは腕を大きく振り、ユンは静かに腱伸ばしをして、しばし待つ事にした。
「……ひぃ、ふぅ……はぁ〜何だったんだ?」
 ユンとワンダを家の外へ追い出してすぐ、窓から逃げ出したブレントは漸く走っていた速度を緩め、足を止めた。
 汗を拭うブレントを見つめる影一つ。メモを片手に屋根の上から見下ろすアールグレイド
「おっと、失礼」
 昼寝する猫を跨ぎ、アールグレイドは追跡を開始した。
 これからどうしようかと考えながら歩いていたブレントの前に、ずざっと小さな砂煙を上げ、三つの影が立ち塞がる。
 黒服を着てサングラスをかけたチェリート、シュリ、ルナシアのチーム【雪月花】だ。
「ほぅ……ようやく此処まで辿り着いたか。くっくっく」
 悪人っぽく笑うルナシア。
「でもその悪運もこれまで。……ネタはすでに上がっているのよ!」
 ポカンと口を開けているブレントにびしっと指を突きつけ、高らかに悪の女幹部風に言い放ったシュリ。隣に立つチェリートは半歩ブレントへと踏み出す。
「そーですネタは上がってるんだです! えと……なんだっけ?」
 威勢良く言ったは良い物の肝心の口上を忘れたチェリートは二人を振り返る。
「あーもうしっかりしてくれって」
「ええと……何だっけ? 昨日徹夜で考えたじゃん一番面白いの。カンペは?」
「カンペはここに! じゃん!」
 おでこを付き合わせ小声で言い合う3人。シュリに言われ、チェリートは紙を取り出し読み上げる。
「ぶれんとさんの正体は!人参3本玉葱2つ……は。間違えてお買い物メモを!」
 がびんとお買い物メモを握り締めるチェリート。そこでシュリが気付く。
「はっ! ターゲットが居ないわ!」
 こちらも、がびん。
「あーあ。まぁいいか……」
 小さく溜息をつき、あっさり諦めたルナシアはチェリートにところで今日の夕飯は? と尋ね、ぽかぽかと叩かれたのだった。

 3人が揉めているうちに、すたこらさっさとその場を逃げ出したブレント。彼の頭の中に、もしかしてとある一つの嫌な予想が浮かんで来ていた。
「あ、ブレント様だ。ブレント様〜」
 そこへフィミアが大きく手を振り、駆け寄って来た。
「ブレント様、昔、日輪王って言う人と拳で語り合ったんだって? それって本当?」
「はぁ!?」
 そんな噂で持ちきりだよとノホホンと言ったフィミアにブレントは額を押さえた。
 なんか去年もこんな事がなかったかと自問自答していると、突如聞こえる高笑い。
「伝説を立証するなんて面倒な手順は踏まん。実際に伝説を試してみればいいんだ! ブレント・ウェスター、俺のマルソー王座を賭けて腕相撲で勝負しろ!」
 現れたクーラは不敵な笑みを浮かべ、ブレントに指を突きつけた。
「伝説の対決だね! すごいや」
 一人感激したような声をあげるフィミア。しかし、よっしゃ受けて立つぜ! という熱血さがおっさんにあるはずもなく物凄く嫌そうな顔で一言。
「嫌」
「はっはっは。この俺様に恐れをなしたのか、ブレント・ウェスター!」
「うん」
「…………伝説の男の名が泣くぞ!?」
「伝説なんざ知らんし」
 流れる沈黙。
「しょ、勝負してくれれば後でお酒の代金いくらか出費するから! お願いしますブレントさん!!」
 先ほどまでの態度とは掌を返したように、土下座し頼み倒すクーラに何事かと周囲の視線が集まる。
「何だありゃ……」
 呟いた町人Aに真面目な顔をしたアールグレイドが目をブレントに向けたまま言う。
「あれか。あの男は、大きな声では言えないが……暴れるとこの町が吹っ飛ぶ位な最終兵器らしい……おっ」
 どうやら酒場へ移動する事になったらしく動き出した3人を追い、驚きで目を見開いている町人Aを置いてアールグレイドも移動した。 

「まっことしやかに噂される、閉じられた団長室の真実を徹底調査を行なう……ってね」
 今は主の居ない菫青宮の団長室に足を踏み入れたライガは抜き足差し足室内を進む。
 団長室の秘密の裏を取るのが目的らしいが、秘密も裏もあるわけなく、あるとすれば書類にメモ書き、酒のボトルとグラスくらいだ。
 予想の範囲内のものしかなく、ライガは苦笑を浮べた。
「さて、パーティーの準備を手伝ってくるかな」
 そう呟き団長室を後にした。

「東コーナー……伝説に伝説を重ね、今ではランドアース一と名高い、ブゥレントォォォ!」
「対する西コーナー……元プロレスラー現冒険者として、主にネタ方面でちょこっと名を馳せる挑戦者! クゥゥラァァ!」
 素晴しい巻き舌で選手紹介をするレム。
「いいぞ、やれー」
「あーはっは、いやブレントのおっさん大人気。そして四十路おめでとー♪」
「年寄りの冷や水じゃねーのかー? まーアレだ。お前さんの勇姿は見ててやるからなー」
 声援というより野次を飛ばすゼイムにグラスを高く掲げるシュウ。そして酒片手に大笑いするオーソン。
 ぐーたらず結成。皆の(主にブレントの)様子を酒の肴に飲むのが今回の趣旨らしい。
「おまえらな……」
 げんなりした顔でぐーたらずを睨むブレントにティキは憐れな者を見るような目を向ける。
「……今年もコレってのは……愛されてるねぇ。あ、ちなみにハートクエイクアローで恋仲にして味方増やせるが……誰が良い?」
「……ぉい」
 睨まれたティキはにやりと笑う。
「さぁさぁ、ブレント様。レディー?」
 審判役のレムに促され、渋々とブレントはやる気満々のクーラと手を握った。
「れでぃーごぅ! 今、ここで熱き男達の戦いが始まる……!」
「変なナレーションいれんでくれ」
 とりあえず、適当に力入れつつ腕相撲をするブレントにクーラも同じ位の力で応じる。しばらく力の均衡が保たれ、そして……
「ぐっはー負けたー」
 棒読みで言い、大きなアクションと共にクーラが床に転がった。
「八百長だ!」
「あんたが言うな」
 勝った筈だが、罠に嵌められた獲物が非難するかのような声をあげたブレントにエッジが苦笑を浮かべ、何かを言いかけたがブレントの背後に動く影を見つけて目を移した。
「ふふふ。ブレント団長、覚悟ぉぉ!!」
 ブレントの背後から、ハナメの全力飛び蹴りが襲い掛かる。ブレントの背を狙った渾身の一撃。確実に、蹴りは当たると思った。
 しかし、ハナメの小柄な体は霊査士の横を掠るように飛び、着地した。
「さすがブレント団長! 伝説は本当だったん……だ、ね?」
 振り返ったハナメの目の前で少し姿勢を傾けハナメの蹴りを避けた姿勢のまま固まっていたブレントの体がゆっくり横に倒れていく。
「あ、気絶しています!」
 ハチェットの叫びにハナメは一目散に逃げ出した。

 その頃、ノリスはディアスポラの神槍の外壁を一人見上げていた。外壁に短剣を突き刺して登る事が出来るか外壁を観察していたのだが、どうやっても短剣を突き刺して登れそうにもなく、ノリスはただ神槍を見上げていた。

「伝説というものは確かめるものではありません。ブレントという人物が存在する限り、無限に生じるものなのです。ある意味、歩く伝説」
 指を振り振りイワンが言った。
「だが上には上がいるという事を是非知ってもらいたい。色々とあり得ないだろう! というような天性の才能と天然との融合たるワンダの伝説を!」
 負けじと強くショウは言う。ワンダの数々の伝説を。
「……ま、あれだね。伝説ってのは……他の皆が信じれば事実かどうかは全く関係ないわけで……」
 もごもごと何か口の中で呟いたロックは長椅子に寝かされたブレントを見た。
「あ、起きましたか。ブレントさん」
 ニューラに顔を覗きこまれていたブレントは体を起こし周りを見渡し頭を掻いた。
「あーあれ? 俺は……」
「ハナメの全力飛び蹴りで気絶したんだよ、アンタ」
 気絶しながらも綺麗に避けてたけどな、とミネルヴァは笑いながら言った。
「でも、もう大丈夫だよな? おかしいところはないか?」
「んーあぁ、何ともないな」
 少し肩を回し、確認したブレントの言葉にミネルヴァはそりゃ良かったな、と笑った。
「そうだ、ブレントさん。先にお渡ししておきますね」
 はい、とニューラから渡されたのは40本の真っ白なバラにブライアーローズを混ぜた花束。おっさんが貰うにはあまりにも滑稽な代物にブレントは目を丸くし、そして困ったような気恥ずかしそうな複雑な顔をしつつもありがとうと受取った。
「では、そろそろ始めようか。ブレント団長は今尚無敗を誇る、同盟最強の大酒飲みであるのか否か?! 団長、勝負だ!」
 大ジョッキを豪快にテーブルに置いたレイード。いや、レイードだけではない。ニューラにヨアフ、イワン。そしてブレントが気絶中にやって来たワンダがジョッキ片手に笑みを浮べていた。
「ザル伝説の検証だな。ブランデー1樽持って来てるから、量は気にしなくていいぞ」
 横に置いた樽を叩いたヨアフに小さく肩を竦めたブレントだが、笑いながら彼らのテーブルについた。
「ブレントさん、良かったらこれ使って下さい。私からのプレゼントです」 
 スザクから渡されたのは琥珀の装飾がついた杯だった。
「いいのか? ありがとう、スザク」
「酒飲みならこれも使ってくれ。キシュディムの強い酒さ」
 掲げて見せた酒瓶をテーブルの真ん中に置いたマージュにブレントだけでなく、レイードたちも礼を述べた。
「そんじゃ俺が酒注ぎと審判しますよ! いいっすかー皆さん」
 テルルは皆の杯に酒を入れていく。
「あ、いいなー酒飲みだったら俺たちも混ぜてもらおっかなー」
「そーだそーだ。混ぜろまぜろ!」
 ぐーたらずが、ガタガタと音をさせながら移動してきたので、テーブルを増やすとそこへセッカやティー、セリアが料理を運んで並べて行く。
 外でブレントを追っていた者たちも会場に現れ、椅子を引き寄せテーブルについていた。
「お酒だけじゃなくて……ジュースも、置いておくね……」
 買ってきた飲み物をアルムとユンがテーブルの端に置くともうテーブルの上は酒の量が多いだけの立派なパーティーテーブルになっていた。 
「大酒飲みの伝説検証の前に、皆で乾杯でもしましょう。ブレントさんの四十路を祝って、ね」
 微笑み、コップを掲げたクレイに倣い、皆グラスを手に取り席を立つ。
『誕生日おめでとう、ブレント!』
 祝福の言葉は笑いに変わり、そして喧騒に変わるのはもう暫く経ってからのお話。
 そして、酒飲みどもの中で誰かが伝説になったとかならなかったとか……


マスター:桧垣友 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:35人
作成日:2006/06/20
得票数:ミステリ1  ほのぼの5  コメディ24 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。