楓の雨やどり 〜秘密のお茶会



<オープニング>


●雨
 ふわりと薄紗の雲を広げた空からは、淡く朧な光が降り注いでいた。
 仰ぎ見れば薄らと銀を帯びた雲を透かした陽がほんのり光る。
 傍らで太陽が真珠みたいだと呟かれ、陽が真珠にたとえられることもあるのかと新鮮な驚きに目を瞬かせたその時に、柔らかな白光を抱く薄紗の空から透きとおる雨が降ってきた。
 真珠の光に空から滴る雫が光る。
 家に入ってしまうのが何だかもったいなくて、木陰に入って雨の眺めと音を楽しんで。
 細かな細かな水が大気に満ちて、淡く風景を霞ませる。けれど空から滴る生まれたばかりの水を受け止めた草木は瑞々しい輝きに満ちていき。耳に届くのはせせらぎのような雨音と、雨滴が軽やかなリズムで頭上の木の葉を叩く音。移ろいゆく空の美しさを知り、世界の広がりを愛しむことを覚えたばかりだったけど、この時に世界を切り取り閉じ込めることの甘やかさを知った。
 透きとおり、そして薄ら霞む雨のベールに閉じ込めた、木陰の世界。
 時折木の葉の間から落ちてくる水滴も楽しかったけれど、どこかに雨を通さぬ程に葉を茂らせる楓があるのだと聴かされた。――楓の名は、何と言っただろうか。

●楓の雨やどり
 窓から空を見上げれば、銀を帯びた薄い雨雲が流れてくるのが見えた。湖畔のマダム・アデイラ(a90274)が傍らを見遣れば、どこか憂いを含んだ瞳で藍深き霊査士・テフィン(a90155)も窓の外を眺めていたので、きっと雨で外に出られないのが憂鬱なのだろうと思い声をかけてみる。
「テフィンちゃん……雨降りそうやから、外でお茶会しよう?」
 だが説明が足りなかった。
 それは無理だと思いますの……! と驚いたような声を上げる霊査士にアデイラは慌てて言葉を重ねる。以前皆で訪れた森のコテージの傍に大きなイタヤカエデがあったから、その樹下にテーブルを並べてお茶会をしたいのだ、と。
「その楓は葉が幾重にも重なり合って茂るから、雨が降っても木陰に水滴が落ちて来ないらしいんよ。それがまるで板葺きの屋根みたいやから『イタヤカエデ』って言うんやって」
 大雨なら流石に難しいかもしれないが、小雨程度なら、木陰でお茶とお菓子を摘みながらゆっくりと雨の風景を眺めるのも楽しいのではないかとアデイラは言う。
「ゆっくり雨が降ってると……何かこう、不思議な気持ちになってこおへん……? 声を落とせば雨音に消えるから……普段話されへん秘密の話をしたくなったりするんよ〜」
 たとえば、とアデイラは霊査士を手招き、彼女の耳元で声を落として囁いてみる。
「テフィンちゃんて実は……………………やんね?」
 途端に「何故わかりましたの……!?」と悲鳴じみた声を上げた真っ赤な頬の霊査士を微笑みで落ち着かせ、アデイラはさり気なく話を戻した。
「あは、まぁこんな感じ……ううん、別に普通の話でもええんやけど、とにかく皆で雨を眺めながらお茶したいなぁって」
 火照った頬を何故かひたひたと両手で叩きながら、「お茶会はとても素敵だと思いますの」と霊査士も同意する。雨でも外で遊べることが嬉しくあり、結局のところ……秘密の話も嫌いではないらしい。

 優しい雨のベールに柔らかな時間を閉じ込めて、囁きかわす――秘密の言葉。

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参加者
NPC:湖畔のマダム・アデイラ(a90274)



<リプレイ>

●雫の音色
 空は水の気配に満ちた薄銀の雲を抱き、銀の雲を透かした真珠の光射し込む森は、微かな輝きを孕む瑞々しい若葉の色に溢れていた。空を彩る水の気配は水の香となって、清しい樹の香りと混じりあい森を包む大気の中にあまねく漂っている。
 嵐の予兆を感じ取った生き物は知らず意識を高揚させると言うが、それは恐らく気圧の変化を嗅ぎ取っているのだろう。空と森に満ちた小雨の予感だけでも密やかに心が弾む。期待と確信がゆるりと胸に広がりゆくのを感じつつ楓の木陰でお茶の準備を調えていると――いつしか薄銀の空から澄んだ水のかけらが滴りはじめていた。
 楓が受け止めた雨滴は枝を伝い木陰の外に滴って、雫が草を叩く音が清かな雨音に混じりリズミカルに響く。水の織り成す音色にエルは青い瞳を伏せ、まるで流れる水のように煌く水晶のフルートをそっと唇に寄せた。透きとおる軽やかな音色を雨音に溶かすように紡ぐが、気づけば湖畔のマダム・アデイラ(a90274)が口元に人差し指を当て微笑んでいて。
 とっても綺麗な音やけど、静かに雨音を聴きたい人が多いみたいやから……。
 言われてみれば木陰に集う人々は、小さな囁きを交わしつつ時折話を止めて雨音に聴き入っている。小雨に霞む森の景色と幽けき水音に瞳を和ませる様を見遣り、カルラも楽器の準備をしようとしていた手を止めた。雨のベールに閉じ込められた木陰は秘密の囁きに満ちている。この小さな世界に更なる音を加えるのは――些か躊躇われることだった。
 森は霧雨に霞み、雨に洗われた緑は瑞々しい鮮やかさを増す。どこか不思議なその風景を瞳に映しながら、リュキアは手製の桜桃ジャムを加えた紅茶を淹れ傍らのシェルトに手渡した。紅茶の温かな香りに目元を緩めたシェルトは、リュキアが柔らかに輝く銀の髪を纏めながら呟いた言葉に更に瞳を細め、慈しむように優しく彼女の頭を抱き寄せる。小さく、けれど限りなく真摯な声音で大切な言葉を囁けば、リュキアの頬にそれこそ桜桃のような淡い色が広がって。
「巡り合わせという物は本当に不思議だね。だからこそ……君に出会えた幸運に感謝するよ」
 雨のベールに包まれた木陰で、セルシオは恋人のたおやかな手に限りなく優しいキスを落とす。彼の微笑みとキスを受け取ったフェアはほんのりと頬を染めつつ微笑んで、彼のためにケーキを切り分けた。煌く水滴が軽やかに転がるような笑みの中に溶かすのは、近い日に掴む、確かで幸福な夢の話。
「違う場所で違う時間を生きてきた私達が、一緒に過ごせるようになる……。何だか不思議ね」
 幸福に満ちた囁きの中、物思いに耽っていたアルムもいつしか嬉しげに尾を揺らしていた。伝わる幸せの予兆に自分と通じる物を感じるのは……気のせいだろうか。刻一刻と近づいてくる至福の瞬間に緊張を覚え、アデイラに助言を求めようと伏せていた瞼を開けば――誓いを込めた指輪の煌きが目に入る。自分の力で。冬の暁にそう誓ったから、喉まで出かかった言葉を静かに呑み込んだ。
 アルムの視線の先で、アデイラはバームクーヘンに重大な悩みを打ち明けられていた。整いすぎたスタイルと顔立ちのせいで正義のバトルスーツが似合わないと悲嘆にくれる彼女を弟のミルフィーユが必死で慰める。自分のように可愛らしすぎてウサギちゃんが似合いすぎても周りに嫉妬されるだけ、と鍛え上げた肉体と口元の髭を震わせ熱弁を振るう彼とその姉を見遣り、皆色々な悩みがあるんやねとアデイラは神妙な顔つきで頷いた。
 切実なのですよぉ〜とアスティナもやるせない溜息をつき、紫陽花色のクリームで飾ったケーキをアデイラに差し出しながら乙女の悩み事を耳打ちする。うふふと笑みを洩らす彼女に抱きしめられて、大好きな人達をいっぱい胸に抱けばいいんよとこっそり秘訣を伝授された。その様子にほのかな郷愁の色を帯びる笑みを浮かべたマユリは、アップルパイを切るさくりという音に紛らせ吐息のような言葉を洩らしやはりアデイラに抱きしめられる。温もりの中で感じたのは、切ないほどの懐かしさ。
 薄らと霞む雨のベールをどこか寂しげな瞳で眺めながら、ミラは雨が怖いと泣き出しそうな顔で甘夏のタルトをつつくシュリアを撫でてやった。ありがとうと抱きつき甘えてくる彼にしょうがないなと息をつきつつも、彼に恋人が出来た以上自分の役割もそろそろ終わるのかなと、安堵と寂寥感が綯い交ぜになった想いを胸に抱き。
 淡い雨の向こうから水の香りに誘われ緑が際やかに匂いたつ。穏やかに降る細雨と瑞々しい空気に包まれて、タケマルは柚子が爽やかに香るレアチーズケーキにナイフを入れつつほうと息をついた。向かいからケーキにフォークを伸ばしていたカガリと目を合わせ、内緒話するような秘密がないと少しばかり困った顔で笑み交わす。互いのくすぐったい笑いが雨音に消えていく様に、初めて二人で出掛けたのも雨を楽しむ祭りだったと想いを馳せ、柔らかに瞳を細めたカガリが「内緒でも秘密でも無いけども、やっぱりまた今も一緒に居られるのが嬉しいんよ」と囁いて。ありがとさんなと続ける彼女に「変わらずこうして居られることを幸せに感じます」と囁き返し、タケマルも最後にはやはり感謝の言葉でそっと雨音を遮った。

●霞のベール
 温かなハニーミルクの湯気、そして雨のベールを透かして見る空は銀色に霞む。
 薄銀の空も美しいけれど、以前一緒に見た青空も綺麗だったから……メイフィルフィはまた機会があればよろしくお願いしますねと微笑んで、ボギーこそよろしくですとクマを肩に乗せた少年に笑顔を返された。二人のすぐ傍らでは楓のシロップが香るクッキーを広げたメリッサが、グロリアと額を寄せ合い秘密めいた囁きを交わす。彼女達の言葉にくすくすと笑みを洩らし、ウェンデルは小さく清楚な百合の花を飾ったケーキを切り分けた。自分達の分と、密やかな時間を分かち合う人々の分を。
 可愛いんよとアデイラが声を上げた花のケーキを共に摘みつつ、レーダはテーブルに低く身を乗り出し彼女を手招いた。同じように身を乗り出したアデイラの耳元にかすれるような囁きを落とせば、レーダちゃんやったら大丈夫と破顔され。ふと顔を上げれば誰かと目が合って、絶対内緒だぞと再度悪戯っぽい笑顔で囁いた。小さく笑いあう二人の様子と、彼らの菓子を狙って卓に飛び乗った四十雀に思わず口元を綻ばせたユージンは、次いで目が合ったアデイラに唇の動きだけで何かを問い「バレバレなんよ〜」と微笑み返された。
 なかなか話の接ぎ穂が掴めぬ様子で遠慮がちに菓子を摘んでいるシルクの杯に、気を遣ってかアキュティリスが淹れたばかりの紅茶を注いでやる。ぱっと顔を輝かせ笑顔で礼を述べる彼の様子に何故か懐かしい弟の面影を思い出し、アキュティリスはそっと椅子に腰を下ろしてシルクの控えめな話に耳を傾けた。静かに語らいながらもいつしか紅茶は空になる。タイミングよく通りかかったノリスが「水出しのお茶はどうだ」と萌黄に透きとおる冷たい茶を満たした硝子杯を二人の前に置いていった。
 同じ冷茶を受け取って、メルザーは木陰の外へと無言で目を移す。森の景色も硝子杯の表面も、細かな水の粒子で穏やかに霞んでいき。
 力を紡いだ煌く糸が掌から溢れ出す。フィネルは糸を掛けた手を楓の天蓋の外へと差し出して、細い糸を透明な雨滴が伝う様に頬を緩めた。この一粒が落ちる間にこの景色を覚えたいなと呟けば、向かいの二人連れの遣り取りが被さって、思わずくすりと笑みを零す。卓の向かいでは、頬にクリームをつけたまま「お菓子お菓子ー」と興奮気味な声を上げるヒソカに「ガキだな」とヒジリが悪態をつき、誰がガキだとの叫びとデコピンの応酬へと雪崩れ込んでいた。賑やかな卓の隣では、リィルアリアが傍らのガイヤの腕を心細げに掴み、漆黒の瞳に涙を湛え消え入りそうな声で思いつめた心を訴えている。ガイヤは真摯な瞳でそれを受け止め「お前以上の存在はいない。俺はそれを確信しようとしているだけだ」ときっぱり断言し、恋人の体をかき抱いた。雨のベールに包まれた恋人達の甘い抱擁。だがそこに刺すか刺されるかといった緊張感が漂っていたことは――本人達だけが知っている。
 緩やかな、けれど途切れることのない水の音と香りに包まれて、ファルクとリラは香草茶と菓子を挟み穏やかな笑みを交わす。大切な相手が傍にいれば、雨の中でも空気はこんなにも暖かだ。心地よい空気は雨に霞み、ベールのように優しく二人を包み込む。
 貴女との時間を護るためなら、どんな危険も恐れず頑張れる。
 貴方が笑ってくれれば頑張れるから、貴方の笑顔を護りたい。
 普段ははなかなか言えずにいる言葉を雨音に乗せ、二人は互いに目を瞬かせた。ファルクは常の優しげな笑みを更に深め、リラは雨の紗がかかる視界を知らず内にひときわ滲ませて。

●雨の抱擁
 温かな茶を杯に注げば白くあえかな湯気が立ち上る。淡い白はすぐさま薄れ雨の霞の中に消えていき、何故かフィードの胸に狂おしい程の痛みを齎した。
「俺は、――――――が、好き……」
 灼けつくような胸の叫びをかすれた声に閉じ込めて、降り止まぬ雨に紛れて土へと溶かす。
 言葉を聴き取ることなくフィードの脇を通り過ぎ、アーシャルはそっと木陰を抜け出した。柔らかな雨に心と身体を浸していると、霞の向こうに薄い蘇芳の髪が見えてくる。淡い色の髪から、全身から優しい空の雫を滴らせ、リャオタンは固く瞳を閉じつつ天を仰いでいた。雨が静かに衣の内へ入り込んでくるように、秘めた傷に優しく触れてくる暖かな何か。求めることも口にすることもできはしない。
 けれど、本当は――
 雨の雫が彼の頬を伝う様を見遣り、スイがぽつりと呟いた。ボクの中には雨すらないのか、と。
 ひとり菓子を摘むハクヤも、楓の幹に背をもたせて紅茶を口に運ぶアーバインもただ無言のままでいた。かけるべき言葉は――見つからない。
 全てを優しく霞ませる雨を瞳におさめ、カノルは緩やかに胸に広がりゆく切なさに僅かばかり肩を震わせた。今日この茶会へ自分を迎えてくれたゼロは、向かいの席でカノルの淹れた茶を幸せそうに飲んでいる。彼が焼いてくれたクッキーを齧ってみれば幸せな甘味が広がって……この優しい時間に終わりが来ると思えばたまらなく哀しかった。雨ではなく、消えない幸せが天から降ればいいのに。
 両手で包み込んだ杯の温もりに日頃気づかぬ肩の力が抜けるのを感じつつ、ファオは甘やかに森を潤す雨の音に耳を傾ける。濁りない澄んだ音が緩やかに響く中、抱え込んだ気持ちをほんの少しだけ吐露してみれば、霊査士の小さな声が耳に届き。ちっとも我侭ではありませんの……そんな声を紛らすように、こぽこぽと音を立ててファオの杯に茶が注がれた。
 水と緑入り混じる香りを充分に吸い込んで、ヨルはアデイラの隣に腰を下ろす。ちょっとだけ、と静かに語り、堰を切りそうになる涙を堪えて笑えば柔らかに抱きしめられて、変わるのが怖いんやねと囁かれた。焦らなくていい、けれどその変化はきっと震える程の喜びも齎すから。
 竹の容器から皿に移した水羊羹がふるふると震える様にほんのりと笑みを零したミストも、やはりアデイラに抱きしめられる。時々傍にいてもいいですかと訊けば、いつでも待ってるんよとの言葉に包まれて。何でも話すからねと声音は続く。
 木陰からぼんやりと雨を眺めているだけでも視界が滲む。どこか柔らかな場の空気に抱かれながらも沈んだ心は晴れぬまま。ついに溢れてきた涙を見られたくなくて、リヤは霧のような雨の中へ足を踏み出した。番傘をさし雨の中に佇んでいたレイジュは、霞の中に淡くけぶる少女の髪に懐かしい面影を見出して、静かに一言「おいで」と羽織を広げて少女を呼ぶ。リヤは涙に濡れて煌く瞳を瞬かせ、まっすぐに彼の羽織の中へと飛び込んだ。
 ――ただひとりのためだけに切り取られた、小さく暖かな空間へ。
 
●水の囁き
 大地に優しく触れる空の雫は、疲れた心も潤してくれるだろうか。
 過ぎる想いを払おうと緩く頭を振れば、瑠璃の瞳が目に留まる。チサトは何の気はなしに瞳の主に静かな問いを語りかけた。
「目を瞑るだけなんよ……? 幸せも切なさもあたしの中で純化されて、いつも柔らかに光ってるから」
 彼方へ瞳を向けつつ答えるアデイラの傍の卓では、愛しさの滲む瞳をまっすぐに向けたネフィリムがヴィアドだけに聴こえるように願いの言葉を紡ぐ。微かに表情を緩め少女の言葉に聞き入っていたヴィアドは、最後に堪えられなくなったのかもたれるようにして彼女の肩に顔を埋め、小さく呟いた。
 居なくならんといてな――静かに頷いた少女はそっと彼の背に腕を回す。
 ネフィリムの腕の中にはヴィアド、アデイラの腕の中には一通の手紙。己の手渡した羊皮紙を肩を震わせかき抱くセイレーンを見遣り、ウォーナウトは届けば彼女は喜ぶと思うと瞳を細めて差出人の名を告げる。あたしの言葉を受け取って貰えたことが嬉しいんよとアデイラは静かに呟いた。
 可愛らしい桃を模った饅頭を食べつつボサツが話を切り出せば、手紙の涙がやまぬ風情のアデイラに濡れた瞳のまま抱きしめられる。疲れた時はあたしかあの子の所にいつでもおいでねとの囁きに、暫し間を置いてから目を閉じた。
 疲れも戸惑いも何もかも、霞む雨と穏やかな水音に薄れて溶けて行けばいいのにとフィーネは思う。
 シアは甘く香るブルーベリーパイを差し出しながら「ここだけの話」と真剣な眼差しでアデイラを見つめた。慌てて居住まいを正すアデイラに「シアは、アデイラさんのことが大大大好きなのです」と言って笑えばあたしも大好きと破顔され。いつの間にか彼女の涙が止まっていたのに安堵して、いつもの抱擁を受け止める。二人の様子に微かな笑みを零しつつ、オリエはボギーにたこ焼きを差し出した。食べさせてやるふりをしながらどこか寂しげな声音で彼の耳に囁きを落とす。ボギーはオリエの瞳をまっすぐ覗き込んで笑い、「笑顔でありがとうなのです。当たり前のことが一番難しくて、一番素晴らしいのです」と言い切った。

 降りしきる雨の中を彷徨う迷い子のような瞳で、静かに、けれど次第に声を震わせながらリューシャが長くて短い話をする。帰る家を失ったような心地で視線を揺らし、心細さと戸惑いが入り混じる胸が苦しくて俯けば、そのままアデイラに抱きとめられた。

 切なさは時に甘いけれど、甘さも過ぎれば苦しくなるんよ。
 そのままだってええけれど――楽になることを怖がらんといてね。
 貴女が幸せでいてくれること、それが貴女を大切に想ってくれてる人達の喜び。
 わかってるとは思うけど……忘れんといてね……?

 静かに紡がれる言の葉は、耳でなく胸へと届く。
 緩やかに連なる、水の囁きと共に――


マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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参加者:55人
作成日:2006/06/25
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冒険結果:成功!
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死亡者:なし
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