レナと踊らせる男



<オープニング>


●悪党と踊らせる男
『……男はヴァイオリンを弾くのを止めません、みんな音色に合わせて踊り続けています』
 何時もの酒場の何時もの席……今日もおひさま笑顔の翔剣士・レナは絵本を楽しそうに読んでいる。
『……その金はどうしたのか、答えたら弾くのを止めてやる』
『……盗んで来ました、私が盗んで貴方の所為にしました』
 絵本の世界に入り込んだのか、何時の間にかその唇は物語を紡ぎ出す……
「……そして男がヴァイオリンを弾くのを止めると、男に代わって悪党は捕まりました、ですか?」
 突然話しかけられ、視線を仰げばそこにはエルフの霊査士・ラクウェルの姿が。
 それだけではない、何時の間にかテーブルの周りには朗読会を微笑ましく? 見守る冒険者達の姿が。
 自分の失敗に気が付くと……途端に恥ずかしくなったのか、頬を通り越し耳まで真っ赤にしながら小さくなるレナの姿にラクウェルはクスリと笑みを漏らすと、こちらの踊らせる男はもっと容赦ないですよと囁いた。

 ある村に、一体のモンスターが現れた。
 腕からヴァイオリンの様な物を生やした奇妙な姿のモンスター、そしてそれが奏でる不思議な音色……それは、蜜を求める蝶の様に心地よい旋律に誘われ近づいた者の心を捕らえ、その音色に合わせて踊らせ続ける。
 おそらくフールダンス♪ と同様の効果を持っているのだろう……冒険者であればともかく、一度捕まれば普通の村人にその呪縛を解く事は難しい。
 そしてそれは、彼の音色に捕われた者達と共に踊り踊らせつつ、ゆっくりと村を縦断していると言う。
「踊らせる他には特筆する能力は無いと思われますが……一つだけ、面倒な事があります」
 状況を最低限の言葉で告げた彼女は、最後に一つだけと冒険者達に向かい口を開く。
 それは……そう、それは彼の周囲には今もまだ、まるで彼を護るかの様に幾人もの罪も無い村人達が踊らされているのだ。
 その者達を傷つける事無く、その呪縛より解放しなくてはならない……それは冒険者達の行動に制限が加わる、と言う事だ。

「私の話はここまで……さぁ、お行きなさい、助けを求める人々の為に」
「ボク、行くんだよ……絵本みたいに悪い人を踊らせるならともかく、罪の無い人を無理矢理踊らせるなんて、許せないんだよっ!!」
 ラクウェルの言葉に、そっとテーブルに絵本を置いたレナが立ち上がる……冒険者であれば、踊らされるのは防げるかも知れない。
 考えれば、囚われの村人達を無傷で救い出す事も出来るかも知れない。
 レナ1人じゃどうやって近づくんだ? ……力を貸すか、やれやれ……そう冒険者達は口々に呟くと、それぞれの獲物を手に立ち上がるのであった。

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参加者
六風の・ソルトムーン(a00180)
紅蓮と白銀の翔剣士・カイ(a03487)
銀閃の・ウルフェナイト(a04043)
紅き薔薇の姫君・トルデナード(a16664)
自由の翼・ヨウ(a30238)
静光・クリス(a37701)
無垢なる刃・ソニア(a44218)
紫の薔薇を纏いし踊り娘・チエリ(a49379)
NPC:おひさま笑顔な翔剣士・レナ(a90027)



<リプレイ>

●序曲〜始まりの歌〜
 不思議な音色を奏で、それを聴いた者を踊らせながら移動するモンスター、その魔曲に捕われた村人達を救い出す為に集った冒険者達。
 その進行方向で迎撃態勢を整え、これから起こる戦いに備えた最後の準備に余念がない。
「ヴァイオリンを奏でるモンスターか……元はレナの絵本に出て来るような素敵な吟遊詩人だったのかも知れないわね……… 無念でしょうね、すぐにその魂を解放してあげるわ」
 鬼神剣『Demonbane』の赤い刀身に刃こぼれ等が無いか確かめながら、誰に言うのでもなく呟く無垢なる刃・ソニア(a44218)。
「……無理矢理踊らされるのは苦痛でしかあるまいて、一刻も早く解放してやるが我等の努めであろう」
「そうだよ、ホント迷惑な話だよね! 早く村の人達を解放してあげないと!!」
 目を瞑り、これから起こる戦いに向け意識を集中させていた六風の・ソルトムーン(a00180)はそんなソニアに背を向けたままそう答えると紅き薔薇の姫君・トルデナード(a16664)も同意する。
「女性がのびのびと踊っている姿を見るのは好きだけど……それを強要するのは、よくないね」
 儚げな視線を浮かべながらそう口にする流柳静星・クリス(a37701)であったが……その視線の奥に視える瞳は真剣。
「村の皆様が今回の事で歌や踊りが嫌いにならなければよろしいのですが……わたくし、それが心配ですわ」
 歌と踊りの申し子とも言える吟遊詩人の紫の薔薇を纏いし踊り娘・チエリ(a49379)が少し悲しそうに呟く。
「歓談中悪いが……来たぞ!」
 ……屋根に登り周囲を伺っていた銀閃の・ウルフェナイト(a04043)が敵の姿を捉え声を上げると、その声にそれぞれの武器を手に立ち上がる冒険者達。
 ……先陣を切る自由の翼・ヨウ(a30238)の手にした武剣”ゲレーゲンハイト” が黒い外装を纏う、ウェポン・オーバーロードだ。
「それじゃ、行くとするか!!」
 サングラスを中指で押し上げた彼は、紅蓮と白銀の翔剣士・カイ(a03487)がおひさま笑顔な翔剣士・レナ(a90027)を従えて駆け出す。
「さてと、困っている人達の為にも今日も頑張りますかね……ねっ、レナさん?」
「そうだよっ! みんなの為に、ボクも頑張るんだよっ!!」
 これから起こる戦闘次第では村人達の心に二度と回復出来ない傷を残す事にもなりかねない……そうならない為にも、一刻も早く救い出さなくては。
 冒険者達の戦いが、始まった。

●戦闘楽章〜戦いの歌〜
「ソルトムーン推参! 見知り置け!!」
 愛用のハルバートを構えたソルトムーンがモンスターと村人達の前に仁王立ちし大見得を切る……その声は踊る村人達を身体を硬直させる、紅蓮の咆哮だ。
 アビリティによる咆哮でも止まらず、踊り続けようとする村人達の元に続いてチエリの優しげな歌声が響く。
「皆様……わたくしの歌で疲れた身体をゆっくりと休ませると良いのですわ」
 紅蓮の咆哮と眠りの歌……2人のアビリティにモンスターの前衛に立たされていた村人達は動きを止めた。
 効果範囲もあり、それは全体に取ってみればまさに僅か一部……だが、それでもモンスターまでの道は開けた事に違いない。
「援護する、皆行くんだ!!」
 射程ギリギリに立つ民家の屋根よりウルフの【ガントレットボウ】SILVER DESPAIRが魔氷と魔炎を乗せまさに火を噴く。
 ヴァイオリンを模したモンスターの腕を狙うその一撃は鋭いながらも的を外す……しかし、次々と降り注ぐその矢は彼の気を削ぐのには十二分に作用した。
 なぜなら……その応射に反応する為の僅かな隙に、仲間達が倒れ、硬直し、踊り続ける村人達の隙の抜いてその懐に飛び込むのに十分な時間を与えたのだから。
 そう、それはまさに僅かな時間、瞬きを数回すれば過ぎ去るような刹那の時。
 だがその瞬間に冒険者達は駆ける……まさに神速の矢の如く。
 限界まで引き絞られ、放たれた矢は獲物を捕らえるか……地に落ち、その一生を終えるまで休む事はない。
 冒険者達も同じ……一度動き出せば、決着を付けるまで動きを止める事はない。
 ……放たれた矢が空中で停止しないのと同じ様に。
「村人達を!!」
 両手を組んだカイが静謐の祈りを捧げながら仲間達へと叫ぶ……
「任せて! お願い下僕達!!」
 トルデナート号令が響き、隠れていた土塊の下僕達が一斉に飛び出す。
 だが下僕達は村人達へと近づくのと同時にモンスターの奏でる魔曲へと取り込まれ、新たな障害物となる。
「……なら! レナ、行くよ!!」
「任せてなんだよっ!!」
 2人の翔剣士は駆け出すと、頭上を飛来する矢の雨の中障害となる土塊の下僕をまさに文字通り斬り崩し、救出し……双子の風が戦場を駆け抜けた時、そこには仲間達が通れるだけの最低限の道があった。

●決着楽章〜誰かの為に〜
 蜘蛛の糸の様な細く今にも切れてしまいそうな儚い道……だが、その僅かな隙間を冒険者達が駆け抜ける。
「くっ……負けないのよっ!!」
 ヴァイオリンの誘惑を少し慌てつつも……カイが唱える祈りの祝福もあり気合いで跳ね返すクリス。
 甘美な誘惑のメロディを振り切った彼女の目の前には、村人達を苦しめる憎むべきモンスターの姿が……
「喰らうのよ!!」
 蜘蛛の糸のような細い道を抜け、その突き出した両手の手より放たれた幾筋もの白い糸……粘り蜘蛛糸だ。
 それはモンスターへと絡み付き、その動きを拘束する……だが次の瞬間、その糸は無情にも引き裂かれる。
 一瞬の拘束、その戒めから解かれた瞬間モンスターはアビリティを使ったクリスへと反撃へと転じようとする。
「村人も仲間も……私が貴方にこれ以上の罪を犯させないわ!!」
 助けてみせる……その魂の咆哮と共にソニアがモンスターに体当たりを仕掛ける。
 その捨て身の一撃は彼女の美しい肢体に醜い傷跡を幾つも刻み込むが、その程度で彼女の美しさは微塵も損なわれない。
 むしろ戦う彼女には相応しい……戦場に立つ女神の様な姿を神々しくまで飾り立てるのに相応しいドレスの様に美しく。
「……スマン、すぐに終らせる」
 そして……眠る村人を飛び越え、硬直する村人を最小限の動きで謝罪の声と共に弾き、倒し……気が付けばモンスターの懐へと飛び込んでいたヨウがその黒い刃を無造作に振り下ろす。
 その無造作でいて……狙い済まされた達人の一撃は、黒い軌跡を残しモンスターの腕を切り落とすと同時にビーン……と、弦の切れる音が戦場に鳴り響いた。
 それは、フィナーレを知らせる閉幕の合図……未だ踊らされていた村人達が崩れ落ちるのと同時に、冒険者達の渾身の力を込めたアビリティの一撃がモンスターのその胴体を捕らえ、炸裂し……村人達を踊らせ続けた魔曲の音色が奏でられる事は、二度と無かった。

●終曲〜雨のち晴ればれ〜
「……どうやらアンコールの拍手は鳴らないようだな、残念であった」
 アビリティの残り香か……矛先に雷を纏ったハルバートを鋭く振り抜き血糊を払うソルトムーン。
 鞘走りの代わりに使ったのだろうか? くっきりと一文字の跡を残した地面にコン、と軽く石突きを地面に突き立てたるのと同時に崩壊を始めるモンスターの躯……その崩れて行く姿にソニアが優しく語りかける。
「苦しかったでしょう……もういいの、安らかに眠りなさい………」
 丁寧にその遺体を埋葬し、黙祷を捧げた後……彼女は立ち上がると駆け出した。
 そこにはトルデナート達が暖かい料理を振る舞い、踊り疲れ消耗した村人達を癒していた。
「手伝います」
「ありがとう、じゃあ……レナ、それはこっちに!」
「わわっと、こっちだね」
 村中から運ばれた沢山のお椀を運ぶレナに声をかけるトルデナート……やがてそこは即興の宴会場となる。
「皆様、歌や踊りは本当は楽しい物なのです………今回の一件での辛い思い出が残らぬ様、心を込めて舞わせて頂きますの」
 村人達に辛い記憶しか残さぬ様……チエリは彼等の為心からの舞いを捧げる。
「そうそう、やっぱり心から楽しんで踊る姿を見るのが一番だよ……」
 村娘達がチエリの舞に合わせるように踊る姿を眺めながら、幸せそうな瞳で眺めるクリスの心に、満ち足りた暖かな感情が沸き上がる。
 チエリの舞う遠く遠く、本当に遠く離れた異国の地……風雅の舞と、恐らくは豊作を祝うのであろう……村娘達が舞う奉納の舞は奇妙に融合し、暖かい食事と共に村人達の心を癒すのであった。
「……上手く行ったのか?」
 村人達の輪から少し離れた場所で賑やかな光景を眺めるヨウ……飛び越えた村人達は彼の行為を笑って許してくれた。
 そして救ってくれた事に心からの謝辞を山の様に伝えられ、戦う為だけに生きて来た彼を狼狽させる。
 ……だが、それは何故か、とても気持ちが良い物であった。
「……得意のワニ踊りはしないのか? もしくは女給」
「………何の事でしょうかぁぁぁあ?」
 村人達に給仕をするカイにそう軽く声を掛け、引き攣った笑顔を向ける彼の姿に満足すると、ウルフは疲れた顔も見せず笑顔で走り回るレナの姿に幸せそうな視線を向けるとふとある事を思いつく。
「レナを主人公にした絵本……作ったら喜ぶかな?」
「………自分だって絵本になってるくせに…………」
 呟いたその言葉に、じとっとした視線で扱こぞとばかりに反撃するカイ……
 ………その後、突然始まった冒険者同士の戦いを村人達は面白い余興と楽しいそうな拍手と掛け声を送るのであった。


マスター:瀬和璃羽 紹介ページ
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