【砂漠の巨塔】炎の魔術師



<オープニング>


●財宝を求めて
「依頼が届いています」
 エルフの霊査士・ラクウェルが冒険者の酒場に入ってくると、自然に冒険者が集まり始めていた。
 その、一人一人の顔を見渡しながら、彼女は依頼の趣旨を説明し始める。
「今回の依頼は、宝探し……いえ、正しくは、モンスターの討伐となります」
 宝探し。
 いかにも胡散臭い話であるが、ラクウェルは淡々と言葉を紡いでいく。
「砂漠の外れにある小さな町に、とある言い伝えがあるそうです」
 それは、砂漠の奥深くにそびえ立つという、巨大な塔の伝説である。そこには、莫大な財宝が眠っているという。
 そんな、どこにでもありそうな胡散臭い話だったが……なにぶん、砂漠にはモンスターが徘徊しているらしく、近付く者はいなかった。
 ……今までは。
「最近になって、砂漠の方角に塔のような物が見えるという噂が広がりました。今まで見えなかった物が見える……おかしいとは思いませんか?
 しかし、中には信じる者も居たらしく、彼等は砂漠に入ったまま、二度と戻ってくる事はありませんでした」
 おそらくは、モンスターにやられたのだろう。
「砂漠の巨塔……その真偽のほどは分かりません。おそらくは、単なる眉唾に過ぎないのでしょう……ですが、被害がある以上、放っておく訳にもいきません」
 そう言って、ラクウェルは一呼吸置くと、
「あなた方の手で、事件を解決に導いて下さい。皆様の健闘をお祈りしています」
 そう言葉を締め括り、彼女は依頼に赴く冒険者を送り出すのだった。

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参加者
求道者・ギー(a00041)
星刻の牙狩人・セイナ(a01373)
白妙の鉄祈兵・フィアラル(a07621)
竜戦士・バジリスク(a10588)
勝利の戦乙女・ビクトリー(a12688)
殲姫・アリシア(a13284)
紅炎の想術士・シェル(a16437)
真実の探求者・エコーズ(a18675)
奏でるは悠久の旋律・ククル(a22464)
桎梏の代替者・シグルド(a22520)
大重騎士・ガルガルガ(a24664)
ちりめん問屋の隠居ジジィ・ミト(a29811)


<リプレイ>

●炎の巨塔
 真夏の日差しが降り注ぐ灼熱の砂漠を、冒険者の一団が突き進んでいる。
 この炎天下、例え彼等が常人離れしている冒険者であろうとも、まともな対策無くしてはたちまちの内に干からびてしまうだろう。
 特に、あるかないかも分からない、砂漠にそびえ立つ財宝の眠る巨塔などと言う、おとぎ話にもならない代物を探し求めていれば、尚更である。
「ふむ、砂漠の塔に宝かね……全ては蜃気楼の如く夢幻やも知れぬがね」
 厚手のフードで直射日光を防ぎ、体内の水分を失わないようにしながら、求道者・ギー(a00041)は延々と続く砂の丘と谷の向こう、陽炎に揺らめく地平線の彼方を見詰めていた。
 その先、この砂漠の何処かに幻の巨塔は実在するのだろうか?
 疑問を振り払いながらも、彼等は砂の回廊を進む。
「砂漠の巨塔、か。興味深いな」
「砂漠に幻の塔……話題性は充分だな」
 傍らでは、魔法剣士・エコーズ(a18675)の興味深げな言葉に、漆黒の揺蕩・シグルド(a22520)が応じていた。
 確かに、常に危険と隣り合わせの冒険者にとって、財宝は決して夢物語でもないだろう。
 ……それでも。
「財宝か……そのために命を落としたら本末転倒だろうに」
 まあ、俺にとっては立ちはだかる敵が強い分には、一向に構わないのだがな……と、破壊竜・バジリスク(a10588)は誰にともなく呟いている。
 彼は愛用の巨大剣を肩に担いでいるが、マントの中に隠せるはずもなく、直射日光を延々と浴び続けた鉄塊は目玉焼きでも焼けそうな熱を蓄えていた。
 いずれにせよ、砂漠に現れるというモンスターを排除するのが、彼等の役目である。
 その上で、砂漠の巨塔が幻の存在である事を示せれば、無駄な被害も出さずにすむのだろうが……それはまあ、別の仕事として。
「……ん?」
 携帯遠眼鏡で周囲を警戒しながら、白妙の鉄祈兵・フィアラル(a07621)が声を上げていた。
「どうしたのかのう?」
 ちりめん問屋の隠居ジジィ・ミト(a29811)が尋ねると、彼女は砂漠の一点を指さし、
「あそこに、塔のような物が見えたと思ったのですが……」
 そう言って指し示す先には、陽炎に揺れる地平線が……いや、時折蜃気楼のように、黒い塔のような物が見え隠れしている。
 暫し、彼等はお互いの顔を見合わせ、
「……行ってみましょう!」
 意を決し、彼等は砂漠の中を歩き出していた。

 それは、あまりにも無惨な光景であった。
 半ば砂に埋もれるように、真っ黒い何かが横たわっている。
「何があったんでしょう?」
 側にある黒こげになった布きれを拾い上げながら、星刻の牙狩人・セイナ(a01373)は呆然と周囲を見渡していた。
 布きれは、彼女の掌の上で形を失うと、ボロボロと崩れ去り、砂漠の風と同化していく。
「どうやら、モンスターに襲われた犠牲者のようだな……」
 倒れた黒い物体を見下ろしながら、四凶饕餮・ガルガルガ(a24664)は吐き捨てるように呟いていた。
 もはや、黒い炭の固まりと化しているが、確かに見てみれば人間の形にも見えなくもない。
「そんな? 人間がこんなになるなんて……」
 夢幻の殲姫・アリシア(a13284)が呆然と呟いている。
 一瞬にして、人間を炭の固まりに変えるほどの火力を持ったモンスターとは、どれほどのものか。
 それが、彼等の行く手に待ち構えているのだ。
「……行きましょう」
 まだ、遠くへは行っていないだろう。
 螺旋の騎士・ビクトリー(a12688)の言葉に促され、彼等はモンスターを追うために先を急ぐ。
 やがて、砂漠の中にポツンと赤く色付く何かが見えてきた。
「あれか……」
 それは、まさしく魔術師と言った容貌の、枯れ木のような老人の姿である。
 だが、身に纏うのは、まるで炎を縫い合わせたかのように紅蓮に色付くローブであり、フードに隠されたおそらくは顔があるであろう部分には、無明の闇と左目の位置にただただ真紅の光が灯るのみ。
 そして、手には古ぼけた樫の木の杖が一本、無造作に握られていた。
 それが砂漠を彷徨っているというモンスターだと確認し、即座に彼等は戦闘態勢を整える。
「……援護は任せる」
「了解」
 ギーの言葉に、地蔵星・シュハク(a01461)は即座に反応していた。鎧聖降臨の輝きが、奏でるは悠久の旋律・ククル(a22464)の鎧を包み込んでいく。同時に、ギーもまた、彼女に君を守ると誓うの守護を与えていた。
 彼等の中でも一番、狙われると危険そうな彼女を確実に守り、敵の攻撃に備える。
 フィアラルやシグルド、昏き理・ルニア(a18122)も加わり、鎧聖降臨による仲間への強化を分担して施していくが、そうする間にも、老魔術師の姿は陽炎のように冒険者に忍び寄っていく。
「来るよ!」
 前方を警戒しながら、牽制の矢を放つセイナだが、モンスターは肩に突き刺さった矢など目もくれず、冒険者を射程に捉えると杖の先端で小さな円を描いていた。
 次の瞬間、ウェポン・オーバーロードを発動し身構えるビクトリーの足元に、彼女一人分を取り囲むような、炎のサークルが描かれる。
「……しまっ!?」
 反応する間もなく、そこから膨大な量の火柱が吹き上がり、彼女の全身を容赦なく呑み込んでいた。

●紅蓮の魔術師
 それが、完全な状態であったなら、もはや彼女の意識はなかっただろう。
「何とか……間に合ったみたいね」
 紅炎の想術士・シェル(a16437)が、勝ち誇ったような笑顔を浮かべながら、モンスターの姿を見据えている。
 彼等の足元には、シェルを中心として巨大な紋章が描かれていた。
 砂漠という不安定な足場にありながらも、描かれた線は淡い光を放ち、確固とした力を示している。
 即ち、エンブレムフィールドによる、対術結界。
 紋章筆記の力で増幅されたそれは、確実に目の前のモンスターの力を削いでいた。
 だが、それだけで勝てるほど甘い相手ではない。
「回復、急げ!」
「はい!」
 フィアラルの言葉に応じるように、ルニアが癒しの聖女を呼び出していた。
 乙女のキスがビクトリーから傷を取り除いていくが、それだけで取り除けるほどの軽い傷ではない。
「任せろ」
 エコーズが、アリシアが、癒しの波動を放ち傷を完全に癒していく。
 前方では、バジリスクがスーパースポットライトを放ち、モンスターの攻撃を引き付けていた。
「貴様の炎がどれほどのものか、見せてもらおう」
 挑発するように、彼は人差し指を立ててクイクイと動かしてみせる。それに反応するように、モンスターの杖が空中で円を描いていた。
 同時に、バジリスクの足元に炎のサークルが描かれる。
「心頭滅却、火もまた涼し!」
 途端に、バジリスクは構えた巨大剣を足元に突き刺していた。そこに、本来発生するはずの火柱は生まれず、モンスターの足元から膨大な量の炎が溢れ出す。
 殲術の構えによって跳ね返された己自身の力を受け、モンスターは悶絶していた。
 その隙に、体勢を整えた冒険者の一斉攻撃が開始される。
「俺に続け!」
 敵の標的を散らすため、仲間の半数を連れてモンスターの左舷に回り込みながら、ガルガルガはホーリースマッシュを放っていた。聖なる一撃がモンスターの華奢な身体を捉え、大地に打ち付ける。
「……いざ、参る」
 フィアラルも、モンスターの側面から回り込み、聖なる一撃を叩き込んでいく。
 殆ど間を置かず、ビクトリーが先程のお返しとばかりに達人の一撃を放っていた。研ぎ澄まされた一撃が、モンスターの身体を捉え、ウェポン・オーバーロードに裏打ちされた力がモンスターの身体に深く傷を刻み込む。
「熱砂に炎とは暑苦しい奴だ……」
 反対側からは、シグルドがデストロイブレードを打ち込んでいく。放たれた破壊の一撃は、確かにモンスターの身体を捉え、その刃の餌食とする。
 だが、枯れ木のような枯れ木を打ち砕くまでには至らない。
「穿ち貫け!」
 後方からは、モンスターの射程外からセイナとギーの援護射撃が飛ぶ。セイナの放った鮫牙の矢がモンスターの身体に食らい付き、ギーの放ったホーミングアローがモンスターを死角から貫いていた。
 だが、詰め寄る冒険者を見渡したモンスターは、杖の先端で自らの足元に向かって円を描くと、二条の炎がモンスターの周囲に炎のサークルを描き、二本の線の内側から吹き上がった炎が冒険者の前に壁となって立ち塞がる。
 近接攻撃に対する強力な防壁を生み出したモンスターは、戸惑う冒険者を前に、次なる行動に移っていた。

「破れるか……?」
 モンスターの周囲に炎の壁が生み出されたのを確認したギーは、後方から狙いを定めると、引き絞った矢を解き放っていた。
 放たれた一矢は、炎の壁を突き破り、モンスターの身体に突き刺さる。
 続いて、セイナの放ったライトニングアローもモンスターに追い打ちを掛けるが、術者がダメージを受けたからといって、炎の壁が消える事はない。
「……ならば!」
 エコーズがミレナリィドールの力を受けて虹色に輝く緑の突風を撃ち出していた。
 解き放たれた一撃が、モンスターに襲い掛かっていく。だが、その身体に届くかと思われた寸前、対象を吹き飛ばす突風の一撃はモンスターに見切られかわされる。
 まあ、万一当たったとしても、術攻撃を得意とするモンスターに緑の突風が力を発揮する可能性は極めて低かっただろうし、運良く成功したとしても、モンスターの動きに合わせて連動する炎の壁を打ち破る事は出来なかっただろう。
 モンスターは、炎の壁に手をこまねいている冒険者を見渡すと、頭上に向かって振り上げた杖の先端で円を描いていた。
「……な!?」
 途端に、上空に巨大な炎のサークルが描かれ、まるで夜の星空を切り取ったかのような虚ろな円の内側から、無数の巨大な火球が降り注いでいく。
 時として、おとぎ話にも登場する、星の世界から飛来する劫火。
 その、ミニチュア版とも言える炎が、周囲の冒険者に容赦なく降り注ぎ、次々と炸裂していた。
 巻き起こる砂煙の向こうに、冒険者が次々と倒れていく。
「回復は柄じゃないのだけれど」
 シェルが、癒しの波動を放ちつつ仲間の傷を癒していた。
「完全に回復に回ると何か物足りないというか……」
 いずれにせよ、今は一人でも回復の手が欲しい。アリシアは必死にヒーリングウェーブを放ち、仲間の傷を癒していく。
「私も出来る事をやらせて貰うわね♪」
 ギーにダメージの半分を肩代わりされながら、それでもギリギリの状態で粘りつつ、ククルが高らかな凱歌を奏でて仲間の傷を癒し、鼓舞していた。
 だが、彼等に刻まれた傷は深い。
 特に、近接攻撃を得意とする前衛グループにとって天敵とも取れるモンスターの能力は、攻撃、防御共に隙が無く、彼等を存分に苦しめていた。もし、鎧聖降臨やエンブレムフィールドの加護がなければ、今の攻撃で一気に戦況は傾いていただろう。
 そんな中、辛うじて殲術の構えで弾き返したり、あるいは、ホーリースマッシュの生み出した護りの天使でダメージを軽減し、後方からの援護射撃を貰いながら、彼等は反撃のチャンスを伺っていた。

●新たなる道標
 スーパースポットライトの閃光がモンスターの攻撃をバジリスクに誘導していく。
 だが、殲術の構えと高い能力、膨大な体力を持ってしても囮という行動による負担は大きく、彼の体力を限界まで削り取っていた。
「おぬし、無理は禁物じゃ」
 後方から、ミトが注意を促し、シュハクやルニアの放つ癒しの聖女が彼の体力を支えているが、それが尽きれば現状の布陣は瓦解するだろう。
 だが、気を抜けばモンスターの炎の雨が降り注ぎ、仲間に多大な被害を与える。
 ギリギリの戦況の中、彼等は苦戦を強いられていた。
 モンスターの放った炎の網が、跳ね返す間もなくバジリスクに絡み付く。
「今、助けてやるからの」
 ミトが慌てて高らかな凱歌を奏で――なんとなくお年寄りが大好きな人生の苦楽を旅に見立てて綴った歌を歌っているような気がするが――バジリスクを呪縛から解き放とうとするが、上手くいかない。
 その隙を突いて、モンスターは再度上空に描いた炎のサークルから、古代の炎を呼び出していた。
 降り注ぐ炎に貫かれ、仲間達が一人二人と倒れていく。
 だが、モンスターも相当消耗しているらしく、反撃するなら今しかない。
「じいさん、あまり手間掛けさせるなよ!」
 モンスターの炎の壁が消えたのを見計らい、シグルドがキルドレッドブルーと同化した氷炎の一撃を放っていく。
 肉体的には脆弱なモンスターに、避ける術はない。
「これで、バッドラックシュートでもあれば完璧だったんだがな」
 炎と氷の呪縛に囚われるモンスターの姿を確認しながら、シグルドは思わず呟いていた。
 だが、無い物ねだりをしても仕方ない。
 生み出された僅かな隙を契機に、冒険者達は最後の力を振り絞って攻撃していく。
「振り下ろされる刃の重みは、命の重みと知りなさい」
 ビクトリーが達人の一撃を放ち、見事な太刀捌きでモンスターを圧倒していた。遅れて繰り出されたガルガルガの聖なる一撃は、重い衝撃となってモンスターの身体を打ち付ける。
 後方から放たれたセイナの雷光を纏う光の矢が、モンスターの空虚なフードの中に突き刺さっていた。
「征けッ!」
 砂塵を巻き上げながら、フィアラルがモンスターに迫る。
 確固たる意志を以て繰り出された一撃は、身動き出来ないモンスターを打ち付け、その身を戒める炎や氷もろとも打ち砕いていく。
 モンスターの枯れ木のような身体は崩れ去り、そして、彼等の戦いはようやく終焉を迎えていた。

「結局、こいつが塔を生み出していた犯人であろうかな?」
 朽ち果てた老魔術師の亡骸を見下ろしながら、ギーは何事か考え込んでいる。
 確かに、モンスターの作り出す炎の巨塔は、端から見れば伝説の塔に見えない事もないだろう。だが、それだけでは、説明の付かない事もある。
「あれ、何かな……?」
 アリシアの言葉に振り向くと、彼女の視線の先に蜃気楼のように浮かび上がるオアシスの姿と、その向こうにそびえ立つ黒い大きな……塔のようなものが見えた。
「まだ、この砂漠には謎が多いようだな……」
 エコーズが砂漠の奥に佇む塔らしき影を見据えている。まるで、今にも消えてしまいそうな、儚げな外観。
 あれは、本当にある物だろうか。
「行ってみる?」
「いや、止めておこう。この先も、何があるか分からない。ひとまず戻って、オアシスの調査から……その後、オアシスを足がかりに砂漠の巨塔の探索だな……」
 傍らでは、ギーが霊査用にとモンスターの杖とローブを回収していた。
 いずれにせよ、遠くない未来にここに舞い戻る事になるだろう。
 それが、新たな発見の手掛かりとなるのか……それとも、単なる徒労に終わるのか。様々な思いを秘めながら、冒険者は灼熱の砂漠を後にしていた――。


マスター:内海直人 紹介ページ
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