西方国境警戒令〜トリオ・ザ・モンスター



<オープニング>


「なんなんだよ、こいつら!」
 グウェンが怒鳴りながら、轟音と共に飛んできた斧をかわした。
「ただのモンスター集団じゃなさそうだね」
「モンスターにただもへったくれもあるかよ!」
 街道沿いにぽつんと建つ、一軒の大きな廃屋。
 仮の宿のつもりで、屋敷に入ろうとしたグウェンたちが鉢合わせしたのは、3体のモンスターだった。
「来た!」
 モンスターの一体が、力任せに巨大な斧を振り下ろした。すんでのところで攻撃をかわすグウェン。だが、派手な炸裂音と共に、近くにあった屋敷の壁の残骸を吹き飛ばした。
「ちょこまかと動きやがって!」
 ガラッドの攻撃は、俊敏なモンスターによってあっさりとかわされてしまった。まるで女を思わせるかのように、長い髪を風になびかせた次の瞬間、ガラッド目掛けてモンスターの両手サーベルが一閃した。
「ぐわっ!」
 ダメージを食らって下がるガラッド。俊敏なモンスターの背後で、錫杖のような杖を構えたモンスターの頭上に巨大な光が浮かぶ。
「いけません! 下がってください!」
 フューリーが叫ぶのと、光から無数の光の光線が放たれるのとほぼ同時だった。全員が光線を食らって、ダメージを食らった。
「攻撃が出来るモンスターに、動きのすばやいモンスター、でもってアビリティが使えるモンスターってわけか」
 口から滴る鮮血を強引にぬぐうサキト。
「モンスターのパーティとしては、バランスが取れてるのう」
「ダスト、のんきに言ってる場合かよ!」
 ダストに食って掛かるグウェン。
「彼らはただのモンスターではないようです」
 冷たくモンスターを見据えるフューリー。
「ですが彼らを倒さない限り、私達は逃げられそうにありません」
「やってやろうじゃねえか!」
 グウェンは噛み付くように言った。
「どっちが本物の冒険者か、思い知らせてやるぜ!」

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参加者
青空に浮かぶ龍・ルイ(a07927)
紅蓮の颶風ルーズリーフ・グウェン(a19529)
挑風・ダスト(a20053)
棘石竜子・ガラッド(a21891)
月星風歌姫・セレネ(a30868)
角殴の蒼き風・サードムーン(a33583)
深淵の水晶・フューリー(a36535)
戦闘執事・サキト(a38399)


<リプレイ>

「ふむ……今日もここで争いが起こっておるか」
 挑風・ダスト(a20053)はため息のような呟きをもらす。
「うわぁ、三位一体とか超燃えるシチュじゃねっ!? で、どれがボケでツッコミで合いの手役だ!?」
 一人わくわく状態で目をキラキラさせる、紅蓮の颶風ルーズリーフ・グウェン(a19529)に、こめかみを押さえるダスト。
「全くこの戦闘馬鹿は……」
「この場合は、斧の人が合いで、老人がボケで、女の人が突っ込みだと思います」
 にっこり笑って答える、奏風月歌姫・セレネ(a30868)。
「心を失ったというのに、冒険者みたいとはな」
 戦帥の蒼き風・サードムーン(a33583)が、背中の剣をゆっくりと抜いた。
「三位一体ねぇ……連携技に名前とかがありそうでいやなんだが」
「仲良き事は美しき哉。だがモンスター化してまで一緒ってのもな」
 棘石竜子・ガラッド(a21891)が身構える。
「3匹のモンスター達も手強そうだけれど、このメンバーだと負ける気がしないね!」
 青空に浮かぶ月・ルイ(a07927)の言葉に、ニヤリとするガラッドとグウェン。
「上等だ……ソルレオンの成れの果て!」
 黒夜叉・サキト(a38399)が、小烏造光月重拵の鍔を切った。
「かつての貴様達のように、俺達もこの先一歩も侵させはせん! サキト・キリュウが貴様達の相手を奉る!」
「くーっ、さっちゃんかっこいいーっ!」
 グウェンの言葉に、眉一つ動かさないサキトがじろりとグウェンを見た。
「戦闘中ゆえ、あえて何も言わんぞ」
 漆黒の瞳に光を宿した、無表情の深淵の水晶・フューリー(a36535)が、ゆっくりと鍵を模したアビスゲートをかざすと、呟いた。
「……ゲート・オープン……コード【サンクチュアリ】」
 巨大な紋章が地面に浮かび上がり、展開されるエンブレムフィールド。かくして、死へと続く戦いの門が開かれた。
 
「纏え、鳳凰が光翼!」
 サキトの言葉と共に、発動する鎧聖降臨。
「まずはお前からだ!」
 両手に剣を構えた女のモンスターを指差すグウェン。と、同時に女目掛けて突進した。それを見て取ったサードムーンがそれに続く。飛びずさるようにして老人のモンスターは後方へ下がると、女は剣を構えて同じように飛び出す。だが、グウェンたちの前に立ちふさがったのは、巨大な斧を構える男のモンスターだった。
「邪魔だぁーっ、どけどけーっ!」
 突っ込むグウェン目掛けて、男は斧を地面にたたきつけた。炸裂する地面と舞い上がる砂塵に危うく巻き込まれそうになるグウェン。一瞬砂塵で視界が遮られたその時、グウェンの頭上から巨大な斧が飛んできた。紙一重でかわすグウェン。だが、返す動きで戻ってきた斧のニ撃目をかわせなかった。
「ぐはっ!」
 まともに腹に食らった一撃に、崩れ落ちかけるグウェン。とどめとばかりに振り下ろされる斧の前に、影が飛び込んできた。
「悪いが、おまえの相手はこの俺だ」
 ニヤリとしたガラッドが男の斧を受け止めていた。が、その表情とは裏腹に、ガラッドは汗を滲ませていた。
「この野郎……なんて重い攻撃しやがる」
 やっとのことで立ち上がるグウェンに、サードムーンが怒鳴った。
「グウェン、上だッ!」
 はっと上を見たグウェンの視界に、空中から剣を突き立てて飛び込んでくる女の姿が映った。
「この愚か者が!」
 グウェンの前に飛び出すダスト。派手な火花が散り、女はダストの剣に弾き返されると、逆にそれを利用するかのようにして、再び空中に舞い上がると、ひらりと着地した。
「なんて奴だ」
 呟くサードムーンに、グウェンが言った。
「サードムーン、見取れてると火傷するぞ、多分」
「ふん、その女一人に苦戦してお前のようになるのか?」
 その言葉に、ルイが笑いをかみ殺す。
「来るぞい!」
 ダストが叫んだ。男が斧を再び大きく振りかぶる。それを待っていたかのように、男の懐目掛けて飛び込むルイ。
「先手必勝ーっ!」
 すれ違いざまに抜き打ちで放った青龍堰月刀が閃き、袈裟がけに男を斬った。
「決まったか?」
 振り返るルイ。男は一瞬よろめきかけたが、斧を強引にルイに振り下ろした。紙一重でかわすルイ。
「そんなに甘くないとは思ったけどね」
 ルイの頬に一筋の血筋が滴る。と、モンスターたちの最後列にいた老人のモンスターの錫杖の先が、大きく光り輝いた。青ざめるセレネ。フューリーが怒鳴った。
「攻撃、来ますっ!」
 錫杖の先から、無数に放たれる光の矢。
「くっ!」
 光の矢をまともに食らったサキトは、辛うじて踏みとどまる。
「サキト、前だ!」
「!」
 グウェンの言葉で我に返ると、サキトの眼前に迫る女。激しく繰り出される二刀流の攻撃を必死でさばく。
「何を!」
 渾身の力でつばぜり合いから抜け出すと、強引に剣を振り下ろした。
「砕け、鉄鎚!」
 サキトの頭上の天使と共に、ホーリースマッシュが決まった。女のものとは思えないような低い声で悲鳴をあげた女が、髪を振り乱したまま飛びずさった。が、その胸は紅に染まっていた。髪の向こうから、鬼のような形相でサキトを睨む女。
「お前ごときに、この俺が倒せると思うのか?」
 とはいえ、刀を構え直すサキトの息はあがっていた。
「皆さん、一旦下がってください。回復させます!」
 セレネの高らかな凱歌の歌声が響き渡る。
「やれやれ……やりにくい相手じゃな」
 呟くダスト。
「女の動きを止めたいところだが?」
 ルイは、ちらりとフューリーを見た。フューリーは全てを理解したのか、無言で頷いた。
「女を止めてくれるんなら、こっちは俺とルイに任せな」
 ガラッドがニヤリとした。
「こっちはいつでも」
 身構えるサードムーン。
「へっへっへ、そういうことかよ」
 グウェンが鼻をこすると、指を鳴らした。冒険者たちの動きを察知したのか、男が斧を構えると、再び大きく振り上げた。それに合わせて、素早く突進してくる女。
「来ます!」
 セレネの言葉に頷く一同。
「分かってる! サキト!」
「任せろ」
 ルイの言葉に、飛び出すサキト。
「うぉぉぉぉぉっ!」
 雄叫びと共に、ガラッドがそれに続く。サードムーンとグウェンが、同じようにスタートダッシュを切った。一斉に動き出した冒険者の動きに、一瞬戸惑いを見せるモンスターたち。その隙をフューリーは見逃さなかった。
「……ゲート・オープン……コード【レストレイント】」
 放たれた虹色の木の葉の群れが、一斉に女に襲い掛かった。予想もしていなかったのか、突進してきた女はまともに木の葉の中に突っ込んだ。振り払おうとしてもがいたが、すぐに動けなくなった。
「もらったぁぁぁ!」
 女の懐に、飛び込むグウェン。その拳がうなると、ワイルドラッシュの連撃が見事に決まった。悲鳴とともに、前にぐらりとよろめく。拘束が不意に解け、女が飛びずさろうとした。が、グウェンから受けたダメージのせいで、動きにキレがなかった。
「慌てないで一休みしていってたもれ」
 すれ違いざまにダストの姿が三つに分かれるや、ミラージュアタックの一撃が女に命中した。ついにその足を止めた女を守ろうと、男が割って入ろうとしたところへ、ガラッドが飛び込んだ。派手な金属音と共に、つばぜり合いをするガラッド。
「行かせると……思ってるのか?」
 突き飛ばしたガラッドの一撃が、男に命中すると、男の体が派手に炸裂した。数歩、後ろによろめいたが、目にもとまらぬ速さで、斧を叩きつけた。
「な、何っ?」
 かわそうとしたガラッドだが、デストロイブレードの副作用で体が動かない。かわせない、そう思ったとき、ガラッドの目の前を黒い影がよぎった。
「ルイ!」
「一人で美味しいとこどりは駄目だね」
 ニヤリとしたルイが怒鳴った。
「セレネ、凱歌を!」
「はい!」
 セレネが凱歌を歌い始める間に、ルイが男を突き飛ばした。が、男の一撃がルイに命中すると、今度はルイの体が炸裂の衝撃で大きくよろめいた。
「ぐっ!」
 二撃目をよけようとしたルイだが、ダメージを食らったせいで足がもつれた。目の前で、男が斧を真一文字に振るった。激しい衝撃波が、ルイとガラッドを襲った。すんでのところで踏みとどまる。
「回復します」
 ルイたちの負傷を見て取ったフューリーが、ヒーリングウェーブで全員の体力を回復させる。それを見た女が、突然ダッシュした。
「しまった!」
 サードムーンが舌打ちしたが遅かった。素早く進路をふさごうと飛び出したグウェンの一撃をいともあっさりかわすと、その目の前で頭上をはるかに飛び越える跳躍を見せた。それまで手ひどく怪我をしていたとは思えないようなその動きに、呆然となったグウェンが振り返った瞬間には、女はセレネたちへと迫ってきた。青くなるセレネ。フューリーだけは、顔色一つ変えることなくセレネの前に出た。
「セレネさんは下がって下さい」
 アビスゲートを構えたまま、突進してくる女を無言でみつめるフューリー。
「いかーん! フューリー、逃げるんじゃ!!」
 怒鳴るダスト。グウェンとサードムーンが走るが、間に合いそうになかった。が、フューリーの前に飛び出した者がいた。
「サキトさん?」
「貴様の相手はこの俺だ、なれの果て!」
 目を見開いたセレネの前で、サキトの目が光った。
「一気、刀閃!」
 すれ違いざまの一撃だった。剣を構えたままのサキトの背後で、女はそのまま崩れ落ちた。と同時に、わき腹を押さえて膝をつくサキト。
「さっちゃん、かっこいい!」
 グウェンが歓声をあげる。
「しっかりして下さい、サキトさん」
 フューリーとセレネに抱えられるサキト。
「心配するな。かすり傷だ」
「これのどこがかすり傷ですか! フューリーさん、お願いします」
「わかりました。傷は浅いようですね」
 フューリーが、サキトの傷を癒していく。
「あとはお前らだけだな」
 グウェンが、男と老人を見た。老人の錫杖に再び光が集まり始めたのを見て、セレネが叫んだ。
「次の攻撃が来ます!」
 次の瞬間、老人の錫杖から放たれる無数の光の矢を浴びる冒険者たち。
「くそっ! 卑怯だぞこんちくしょう!!」
 怒鳴るグウェンに、苦笑いするルイ。
「老人は俺に任せろ!」
 サードムーンが駆け出した。そうはさせまいと、斧を構えた男にダストとガラッドが攻撃を仕掛ける。男の斧の攻撃をイリュージョンステップでやすやすとかわすダスト。
「どっちが強いか、勝負だ!」
 ガラッドが雄叫びと共に、男に突っ込む。それを見た男が、ガラッドの正面に立ちふさがる。両者がほぼ同時に得物を振り下ろした。
「くっ……」
 頭を飾るとげが粉々に吹き飛んだが、ガラッドは紙一重で攻撃をかわした……正確には、急所を外したというのが正しかった。ほぼ互角のデストロイブレードの相打ちは、頭のとげの分だけ踏み込んだ大顎門の一撃が、男の胴体に命中していた。ぐらりと傾いた男は、それでもなお強引にガラッドを突き飛ばした。
「ここは、一気に叩く!」
 老人にみるみる迫るサードムーン。老人が、素早く錫杖を構えた。杖の先にみるみる集まる黒い光。
「いけない! サードムーンさんッ!」
 叫ぶフューリー。老人の杖が振り下ろされようとしたまさにその時。老人の体が大きくのけぞった。うめき声と共に、振り返った先にルイがいた。
「敵は前からとは限らないんだよ」
 攻撃の出鼻をくじかれた老人の眼前に、サードムーンが飛び込んだ。光の弧を描いた鋭い蹴りが、老人に命中した。なおも錫杖を振り上げようとする老人にルイの一撃が続けざまに命中した。
「貴様の未練、俺が断ち切ってやる」
 サードムーンの呟きと共に、再び放たれた斬鉄蹴の一撃は、老人の顎を吹き飛ばし、その体を宙に舞わせた。そのまま地面に叩きつけられた老人は、ゆっくりと立ち上がりかけたが、力なく崩れ落ちた。
「あとはお前だけだ」
 サキトの言葉に、じりりと後ずさる男。その斧を頭上に振り上げて、地面に叩きつけた。周囲に巻き起こる砂礫。
「同じ手を何度も食らうと思うかッ!」
 サキトが砂礫の中に飛び込んだ。半ば勘で振るった一撃は、確実に手ごたえがあった。振り回される斧の攻撃を巧みにかわすサキト。
「さぁ、きっちり片ぁ付けようぜっ!」
 男の斧をかわして懐に迫るグウェン。真一文字になぎ払おうとした斧をグウェンは受け止めていた。さっきのような勢いは、もう男には残っていなかった。
「これで、終わりだッ!」
 斬鉄蹴が決まった。グウェンの背後で、男はなおも斧を振り上げようとしたが、そのままの姿勢で、地面に倒れた。
「やったかの?」
 ダストの言葉に、息荒くグウェンが親指を立てた。
「勝負あったね」
 ルイが微笑むと、全員が安堵の表情を浮かべる。額の汗をぬぐったサードムーンは呟いた。
「二度と御免だな、こういう敵は」
 
「嗚呼、ガラッドさん。大変です!」
 戦いが終わった帰り道、セレネがガラッドを見て悲鳴をあげた。
「ガラッドさんの棘が折れちゃってます!」
「ああ、さっきの戦闘で持っていかれちまったか。まぁ、棘で済んだだけ……って?」
 何事も無かったかのように頭を撫でるガラッド。だが、セレネだけは、大慌てで裁縫箱を開くと、まち針を取り出した。
「貴方の折れた棘は、この金の棘ですか?それともこちらの銀の棘ですか?」
「はぁっ?」
 その様子に、顔を見合わせて笑いをかみ殺すサードムーンとルイ。
「ガラッドの棘、セレネの凱歌で復活しないわけ?」
「凱歌では回復できません」
 グウェンの問いに、一人冷静に答えるフューリー。
「今日は楽しかったですね」
「セレネ、モンスターと戦って、楽しかったとは言わぬぞフツー?」
「いいじゃねえかダスト。帰ったらみんなで一杯やろうぜ」
「ガラッドの奢りで?」
 賑やかに、戦いの場を後にする一同。
「ったく、あんな敵がうようよしているのでは……この辺りに平穏の訪れる日は遠そうだ」
「何か言ったか、サキト?」
 サードムーンの言葉に、首を振りつつサキトは一人呟いた。
「ゆっくり休むがいい、成れの果て」
 その視線の先には、小さな墓標が三つ。
「サキト、置いていくぞ」
 グウェンたちに促されるように、サキトは無言で身を翻した。 


マスター:氷魚中将 紹介ページ
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