≪赤茶けたテント村≫赤茶けたテントに感謝をこめて



<オープニング>


「倉庫テントの中から食材を出してきますかねぇ……マグロの煮付けと魚の干物と……」
「自分の旅団のお祝いに、マグロの煮付けとか魚の干物とか……ありえないですよ!」
 倉庫の中から取り出された料理達に、思わずエンジェルの少女が声を上げる。
 テーブルの上に載せられた料理たちは、確かにパーティ用には見えない。が、飲み会と捕らえるならば丁度良い料理かもしれない。
 声を上げながらも、くすくすと笑みを零していた少女は、持ち込んだケーキを机の上へそっと載せる。それだけで、赤茶けたテントの中がぱっと明るくなるような気がした。
「……なんだか料理が渋いですねぇ」
 ケーキが増えたとはいえ、酒の肴やパーティの料理には華やかなものが足りない。それも『らしさ』なのだろうかと笑みを零しながら、青年は自分の持ち寄った料理を魚達の横へと載せてみた。
 ――けれど、やはりどこか渋い感じがする。
「一周年とはおめでたい!めでたい席にはやはりこれがないとな!」
「パーティーといったらこれだよー!!」
 金髪の青年が握り飯の載った皿を持ち込む横で、少年のような少女はまるまると太った豚をこんがりと焼いたものを運び込む。
 その横には喉が焼けそうなほど辛い匂いを放つ麻婆豆腐が置かれて、辺りは一瞬言葉を失った。甘いモノ駄目ですし、という少年の言葉に引きつる笑みを浮かべつつ、誰がこの激辛料理に挑戦するのだろうかと互いに視線で仲間達は牽制し合っていた。
「ケーキ焼いてきたよー?」
 硬直状態に陥りそうだったテントに、歌うような声が響いた。強張った笑みのまま振り向いた彼らが目にしたものは――巨大なケーキが崩れる所。ケーキを運んでいたノソリンが、バランスを崩してこけたらしい。そのまま崩れたケーキの上部には――旅団長の顔らしきものがあった。
 上手かっただけに、ちょっとだけ勿体無い。
「よろしければ一緒に作りませんか?」
「はい、喜んで。では私はパンを切り分けますね」
 騒動を横目で観つつ、女性達はサンドウィッチ作りに取り掛かる。横ではスープも良い香りを放っていて、直ぐにでも食べたくなるほどだ。
 その横では男性陣が酒瓶と睨めっこしつつ、お酒の量を確かめる。
「飲めるのは何人いるんだったか……」
「酒が余るということは無いと思いますなぁ〜ん」
「差し入れです〜♪ 名物の「龍殺酒」♪ 飲んで倒れても知りませんので、覚悟の有る方だけどうぞ〜」
 ちょっと不穏な酒を受け取りながら、成年者用のお酒をいくつか持ち込んで行く。
 甘いリキュールに熱燗に――
「未成年用に果物のジュースを。俺も飲むが」
「なら成年用に赤と白のワインを……」
 お茶にジュースに、ワインなど。気が付けば沢山の飲み物が集められていた。
「よーし、俺はシシャモでも焼くぜ!」
「って、魚じゃねぇシシャモまで混じってる! 危ねぇから!」
 お魚の焼ける香ばしい匂いに、ちりちりと服がこげる匂いが混じって、慌てて静寂を破る刀剣・グラック(a90317)が止めに入った。
 けれど、こんな事はしょっちゅうあるようで、皆楽しげに笑うだけ。
「ルークスさんはやっぱりカラーじゃないといけませんよね♪」
「ルークス、水着になるか、どうでもいい服にすることオススメだよ♪」
「っと流石にそこまで悪戯はしちゃ駄目ですヨ?」
 悪戯さんも不発に終わり、パーティの準備は順調に進んでいるようだ。
「お祝い事で盛り上がろう! っという事でフォーチュンクッキー持ってきたよ〜♪」
 最後に積み上げられたのは、クッキーの中におみくじを入れた素敵な一品。これを食べれば、これからの赤テントが占える――かもしれない。

 テントの前には大きなメッセージボードが掲げられて、寄せ書きが出来るようにペンキと筆とが用意されている。
 赤茶けたテントの壁には「一周年おめでとう」の文字が色鮮やかに踊っており、質素だったテーブルやちゃぶ台とかも紫や黄色で彩られ、リボンの輪飾りが星空の如く天井に釣り下がっている。
 折り紙で作られた花があらゆる場所に咲き乱れ、机と椅子は丁寧に並べられて。端には簡易的なステージまで作り上げられていた。
「よーっし、こんなモンかね?」
「そうですねぇ……」
 既につまみ食いをしている人の姿も見え、仲間達も待ちきれない様子。サラダやこんがり焼かれたお肉の匂いが、ぺこぺこのお腹を刺激していた。
 それだけ皆、良く働いたということだろう。料理を準備したのも彼らであれば、会場を綺麗にしたのも彼らである。
 沢山のケーキに料理に、お酒に飲み物。
 赤茶けたテント村も、今日は華やかなお祝いの日。
 さあ、歌おう。踊ろう。飲んで、食べて――このテント達と暮らした日々を、これからの過ごす日々を思って。
「それじゃあ、行きますかねぇ」
 グラスを手に、掲げよう。
 祝宴が今、始まる。

マスターからのコメントを見る

参加者
業の刻印・ヴァイス(a06493)
紫龍摩天楼・セシム(a08673)
広告の品・シシャモ(a18361)
黒衣の天使・ナナ(a19038)
歌う世間はネタばっか・フィリス(a19654)
銅の彷徨人・レイクス(a24991)
角担ぎ・ギバ(a27654)
銀蒼の癒し手・セリア(a28813)
銀河に響く希望の歌声・ジーナス(a28981)
焔をはらむ風と共に・セルシオ(a29537)
墨色導士・コシロ(a31185)
無限のイブクロ・エル(a32875)
迷彩・ヴォイド(a41036)
鉄弓・ヨイチ(a42044)
眠揚羽・ミソラ(a43990)

NPC:静寂を破る刀剣・グラック(a90317)



<リプレイ>


「乾杯!」
 思い思いのグラスを手に、一同は斑色になったテント内で大きな声を響かせた。かつん、という音が祝福を彩り、華やかな声が上がる。
「赤テント村1歳おめでとうです〜っ♪」
 歌うような声は柘榴石の貴方の唄姫・ジーナス(a28981)のものだ。嬉しそうな声と共に、一本の蝋燭が巨大なケーキにぶすり。
「危うくメインとしてテーブルに並ぶとこでしたよ!」
 アフロを被り体中を煤塗れにした超時空戦闘用可変型巨大・シシャモ(a18361)がけらりと笑う。一発芸が始まるのかと期待する墨色導士・コシロ(a31185)の視線をかわし、彼はそれじゃ戻しますねとお着替えに。ちょっと残念。
「なぁ〜ん!」
「シシャモうめぇー!」
 その背中に向けて二つの声が放たれた。頂きますと頑張って手を合わせたノソリン状態の黒衣の天使・ナナ(a19038)が巨大シシャモを齧り、業の刻印・ヴァイス(a06493)もこれ見よがしに通常サイズのシシャモを齧る。彼に見せ付けるように、バリバリと。
「うっしゃ! 役者も揃ったし利き酒する奴手を上げろ!」
 キィ、と突っ込みに行きそうになったシシャモを止めたのは、紫龍摩天楼・セシム(a08673)の一言だった。酒瓶を両手に持って叫んだ彼に、注目が集まる。
「シシャモ行きます!」
「お前は利きジュースでもやってろ!」
 シシャモ、17歳、未成年。色んなところから総ツッコミに合い、撃沈。
「パパ、い〜っぱい食べてくださいねっ♪ でもお酒は駄目ですよっ♪」
「もー未成年はお酒飲んじゃダメとかレイクスさんは腹黒キャラとか好きとか嫌いとか、最初に言い出したのは誰ですか!?」
「何でそこでわたくしが出てくるんですカッ!」
「私のメモリアルも駆け抜けて行かんばかりに憤慨!」
 デザートも野菜もいらない、今日は肉食獣になる! とジーナスが慰めるように差したお皿からお肉を選んでいく彼。むしろ、言い訳の方が言いたかったようだ。
「おにくとは、こう食べるんだよ!」
 ちびちびと肉を齧る仲間の横で、朝日に笑う小さな薔薇・エル(a32875)は豪快な食べっぷりを披露。大振りの肉が綺麗にお腹の中へ消え、次のお肉を捜してきょろりと辺りを見渡した。
「グラックー、それボクのー!」
 端っこで肉を貪ってたグラックを見やって、奪い取るが如く彼女は駆け出す。
 どんっと体ごとぶつかろうとしたエルをルークスが優しく宥め、グラックは緑柱石を抱く交渉人・レイクス(a24991)と共に一時避難。
 その四人の間を縫ってヴァイスが疾風のように駆け抜けていった。真顔のまま消えた彼の悲鳴が、テントの外から響く。彼の去った後には、赤い豆腐が点々と落ちている。
 気づけばシシャモがケーキにめり込んでおり、迷彩・ヴォイド(a41036)はミミズを求めるような声を上げていた。その足元にもやはり、赤い豆腐。
「あーんデス!」
 その騒ぎを全く気にせず、徳利片手に赭色邪竜・ギバ(a27654)がコシロに焼きシシャモを差し出していた。コシロはギバの腰に手を廻し、体を密着させて甘えるように口を開ける。
「こっちもあーんデスよ!」
 シシャモを飲み込んだコシロの前で、ギバの目がキラキラと輝いた。
 差し出されたスプーンには真っ赤な液体に沈む豆腐。三人もの仲間を撃沈させた、激辛麻婆。
 微笑みを硬直させたコシロに、ギバのキラキラな目がずっと向けられる。男コシロ、愛する者の期待を、裏切る事なんて出来ない。
 差し出されたスプーンを口に含み、コシロはぐっと中身を飲み込んだ。
「美味しいデスか!?」
 キラキラな目に答えられず、コシロは無言でゆっくり倒れていった。頭はギバの膝に落ちたので、ある意味幸せではあろう。
 騒がしいテントの端っこで、眠揚羽・ミソラ(a43990) はコーヒーカップを両手で包み微笑んでいた。楽しげな様子の仲間達を見ているだけで、心がほわりと温かになる。嬉しくてふふっと笑うと、お砂糖たっぷりのカフェオレが揺れた。目の前には目を輝かせて取り分けた、大好きなデザート達。
「ミソラさん、楽しんでますか?」
 問いにふと顔を上げて、ミソラは満面の笑みを作って見せた。
「楽しいです。皆笑顔で、皆嬉しそうで」
 掌で包んでいたカップを少し上げれば、皆も一緒に持っていたグラスを上げて乾杯の仕草を真似てくれる。
 一段と大きな笑い声がテントに響き、ナナの嬉しそうな鳴き声が重なって、まだ続く宴を彩っていた。


「お疲れ様です、飲んでますか〜?」
 麻婆騒動が一段落したテントの一角。成年組が集まった場所に顔を出したのは旅人は焔をはらむ風と共に・セルシオ(a29537)だ。
 サラダとサンドウィッチでお腹を満たした彼は、セルシオはお酌しますと酒瓶を開ける。
「一年お疲れ様でした」
 レイクスやグラックの持つ空の杯に酒を注ぎ、セルシオは労うように言った。有り難うと上げられる杯に会わせ、セルシオも自分の杯に少しだけ注いで持ち上げる。
「色々と御疲れさんだな。これからも宜しくだぜ」
「一周年おめでとうございます。これからも、よろしくお願いしますね♪」
 ケーキの後片付けに回っていたヨイチが、ミソラと共に近寄ってきた。軽く乾杯の仕草を繰り返し、おめでとうと笑いあう。
「とは言え、各地を転々としている訳で、実感はあまり湧かんけどな」
「一周年というにはあまりに遅れてしまった感もありますしねぇ」
 杯を傾けながら言ったヨイチとレイクスの言葉に、仲間達は確かに声を合わせて笑う。レイクスは優しげに目を細めて仲間達に告げた。
「今はまだ戦ばかりですが、今日はそれも忘れて楽しみましょう」
 先の戦ではお疲れさまでしたと軽く微笑みを浮かべて、レイクスはドライフルーツや保存に効きそうな煮物を摘み、杯を煽った。
 手作りのドライフルーツ。それを一つ摘んでヴァイスが感心するようにルークスの姿を探す。
「これってルークスお手製だよな。うん、なかなか良い出来だ。……レイクスも偶には作ってやれよ?」
 ヴァイスの言葉を気にせずに、レイクスは数個のドライフルーツと酒を口へと含み。
「わたくしは保存食が好きですしねぇ」
「偶には新鮮な物も食べろよ?」
 苦笑いを浮かべて言ったヴァイスは、彼らと長い付き合いを思い起こした。こういう場も偶には良いものだ、とヴァイスは自分で煎れたお茶を一口啜る。
「新鮮なもの、幾つかもってきましたよー」
 酒を囲むメンバーの前に、探求する銀蒼の癒し手・セリア(a28813)が幾つかの皿が並べて言った。彼女の動きを目で追いながら、ヨイチが思わず呟く。
(「やっぱ綺麗だよなぁ……」)
 思わず手を止めて見惚れていた彼に気づき、セリアはそっとその隣に腰をかけた。
「まあ、こういう席ですし」
 そう言って、セリアはゆっくりとヨイチの杯に酒を注いでいった。微笑が向けられて、遠慮すべきなのかと戸惑う。
 けれど、ヨイチは彼女の横にある麻婆に気づいてしまった。酒で少し顔を赤らめたセリアはにっこりと微笑み、何もしなければ食べさせませんから、と目で語る。
「さて、私もちょっとは飲まないといけないですね。折角ですから」
 丁度ヨイチに注いだ分で最後だったのか、セリアは新しい瓶を取り杯へ注いだ。くいっと飲み乾すと、セリアの視界はくるくると回って。
「ちょ、セリアさん!? 大丈夫か?」
 慌てたヨイチの声を聞きながら、セリアはヨイチの方へと体を倒していく。その手から滑り落ちた瓶には、アルコール度数の高い酒「龍殺酒」の名が記されていた。
 恋人一歩手前、なのか数歩も数十歩も手前なのか分からない二人を見て、セシムに髪を弄られているレイクスはふと自分の恋しい人を目で追う。
 彼女はお皿にケーキを盛って、楽しげに駆け寄ってきた。
「レイクスさんあーんしてくださいです〜っ♪」
 楽しそうで良かった、と心の中で言いながらそっと口を開――こうとして。思わず目を見開く。
「食べ物粗末にしちゃ駄目ですから、ちゃんと食べてくださいねっ♪」
 差し出されたのは、一口では食べられない顔面サイズのケーキ。止める間も無く直撃し、ジーナスは嬉しそうに去って行く。
「若いってのはいいなぁ。僕ぐらいになるとあんまり無理もきかなくてね」
 ヴォイドがレイクスの肩を叩きながら楽しげに言った。
「まあでも一応年長者だからね。相談とかにも乗ってあげない事もない。若者の悩みは、大抵仕事か恋愛だろう?」
 偏見タップリな言葉をさらりと言う彼の手には、セリアを撃沈させた龍殺酒の瓶が握られている。
「結構僕は世話焼きだよ。買っていた猫が家出する位にはね。大いに悩みたまえ、それにすら疲れる前にね……」
 どうやら、酔っ払っているようだ。

 ジーナスの一撃により、また騒がしくなり始めたテント内。満を持して歌う世間はネタばっか・フィリス(a19654) が簡易的な舞台へと上がる。
「おっまつりーだーよー、はしゃいでるよー」
 歌いだした彼女はカスタネットを叩き、濃密な空気に酔っ払ったかのように仲間達を煽って行く。
 舞台の近くに仲間が集まり始めたのを見て、ケーキを落としたレイクスがフォーチュンクッキーを配りだした。
「フフフ、はずれがなんだか分からないけど。ボク、食べるよ!!」
「運に自信はないんだけど」
 ドキドキしながらミソラは『大吉』を、コシロは『中吉』引き当てて嬉しそうに笑い、ヴァイスは『微妙』を引き当てて「確かに微妙だ」と肩を落とす。セルシオは『ずっと幸せ』という言葉を引いて、左薬指の指輪へと思わず目を向け、幸せそうに微笑んだ。
「あれ、何もはいってなかったよ?!」
「ニギャー! 本当に蜥蜴でてきたデスよ!」
 中には御神籤ごと食べた人や、ありえないものを引き当てた人も居たようだ。
 喧騒の中で、フィリスの楽しげな歌声は続いて行く。
「おかしあーるよたーくさーん、けーきにくっきーありゃ? こかしてがっしゃーん」
 素朴で温かいコンサーティナの音色が、ミソラの手によってリズム良く歌声に絡んでいく。伴奏を得た歌声は、さらに伸び伸びと響き渡り。
「おいわいだよーたのしいー」
「おめでとう〜です〜♪」
「はしゃーごおー」
 リズミカルなカスタネットでリズムを取りながら、ジーナスも歌声に加わって行く。舞台上は気が付けば華やかになり、嬉しそうにフィリスはくるりと一回転。
「みんなもーおーいで。うたう、ネタうたのー、フィリスさんだー♪」
 もう一曲ー! というフィリスの声を遮って、今度はセルシオの横笛が響き始めた。透明な音色に、また皆の歌声や伴奏が加わって。
 数人が眠気に負けて、目を閉じた。長く続いた宴もあと少し。あと少しで、おしまい。


 気が付けば既に日は暮れて、星の瞬く夜空が広がっていた。
 テントの中からはセルシオとギバが片付けている音が聞こえてきた。
 あはは、うふふという笑い声の中。良いお嫁さんになれますよ〜、良いお婿さんになれマスよッ! と互いを褒めあう声も聞こえる。
 喧騒から離れるように一人外に出たヨイチは、草原に腰を下ろした。見上げれば満天の星空が見えて、ヨイチは持っていた杯を傾け星に乾杯を。
 杯の中に残る酒を喉に落とせば、じわりとアルコールが染みていく。
「もう大丈夫なのか?」
 視界の端にテントから出てくるセリアの姿を捉えて、ヨイチは彼女に問い掛けた。既に酔いは抜けているようで、大丈夫ですと彼女は微笑む。
「結構、あっと言う間に一年って過ぎるんだな」
「思えば、色々ありましたねぇ……たった一年の間に」
 たった一年、その間に起きた出来事を思いつつ、夜風が眠りを運んでくるまで、二人は静かに星を眺めた。
「また、来年もこうやっていれると嬉しいよ」
 ルークスと並んで草の上に座り、エルは頬を赤らめながら呟く。
 自分の思いは、ボードに記してきた。恥かしくなって、直ぐに逃げ出してしまったけれど。
 出来る事ならば、来年も再来年もずっと――
「ずっと一緒ですよ?」
 気持ちを察したように、ルークスは優しくエルの頭を撫でた。エルの頬がもっと赤くなっていく。
「赤テントで愛を育んでいって下さいなぁ〜ん」
 という声が、テントの直ぐ近くから聞こえてきた。視線を向ければコシロと片付けを終えたギバの二人の背中が目に入る。
 後ろから覗き込めば、二人の手元が良く見える。赤いペンキと青いペンキで描かれた傘印に、レイクスとジーナスの名前が記されて。ボードの端っこには、ついでに自分達の相合傘をも描いて――
「何をしてるんでしょうかねぇ」
 真後ろから聞こえた声に、二人は背をびくんと震わせて逃げ出した。首をきゅっとされては大変と、逃げ込んだのはナナのトランプ占いテントの中。
 二人を迎える黒ノソリンの声が、楽しげに響く。同じ絵柄のカードを引けば、二人は永遠に仲良し。でも違うカードを引いてしまっても、それはそれで青春の甘酸っぱい一ページが増えるだけ。
「レイクスさん、最後の一本開けませんか?」
 取って置きのが有るんです。とセルシオが酒瓶を一つ持って笑った。レイクスは少しだけ考えて、少しだけならと笑む。
「翌日の朝はしっかりと起きないとですね。いつ依頼が持ち込まれても対処できるように」
 酒が杯に注がれる音を聞きながら、レイクスは空を見上げ呟いた。
 呟きに呼応するように、ナナの鳴き声が響く。私に任せてというような声にも聞こえた。
 今日は一日楽しく過ごせても、明日はまた何が起こるかわからない。だから、明日は何事も無かったかのように起きなくては。
 自分達は、冒険者なのだから。
「赤茶けたテント村に祝福がありますようにっ♪」
「赤茶けたテント村、一周年おめでとうございますなぁ〜ん!」
「今此処で、この瞬間を祝える事に感謝して……乾杯だ」
「赤茶けたテント村一周年ほんとうにおめでとう♪  あなた達に出会えて、あたしはほんとうに幸せです」
 大きな声も、囁くような声も。赤茶けたテントと夜空に吸い込まれて行く。
「テント村、愛されてマスねえ」
 ギバの囁きと静かな風が、赤茶けた布を揺らす。
「皆が無事にこの一年過ごせた事に感謝を。そして来年も、一人も欠ける事無くまた集まりたいものだね」
 夜風に当たっていたヴォイドが短くなった煙草を消して、ボードに最後の模様を書き足す。
 何が起こっても、どれだけ戦が続いても、欠ける事が無いように。決意と願い、そしてこれからの日々を思って。
 星の振り出しそうなこの夜を、また来年も見られるように。
 
 かけがえのない今を楽しもう
 みんなだいすき!
 元まだら色のテント村お誕生日おめでとう! シシャモ団ペンキ女王参上っ!!
 一周年おめでとうございます! シシャモ団参上!
 ルークス、ずっとずっと大好きだよ
 お前等皆大好きだーっ!
 来年もまた、こんな日が迎えられますように
 これから先いろんな事があると思いますが、また皆で2周年を祝えるように頑張りましょうね。
 一周年おめでとう
 
 ミ☆


マスター:流星 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:15人
作成日:2006/07/05
得票数:ほのぼの15  コメディ2 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。