【星に願いを】竪琴姫の岸辺



<オープニング>


 お星様にお願い事をするならば、晴れた初夏の空がいいらしい。

 ライムの去った酒場に残ったベルフラウは、小さく息をつく。
 実は、白鳥王子の丘の近くにある、竪琴姫の岸辺と名づけられた海岸でも同じようなお祭りがあるのだ。

 竪琴姫の岸辺もまた星見の名所。
 美しい星空を背景に、静かなさざ波の音を聞ける場所。
 普段からカップル達のよく集まる場所にもなっているらしいが、その夜はまた特別なのだ。
「竪琴姫の岸辺では、小船を海の波に乗せて、お星様まで届けてもらおうというお祭りがあるそうなのですよ」
 丈夫な笹の葉を組んで作られた簡易な小船は、願い事を連ねた短冊をくるむように作るのだという。それを波打ち際から海に流し、沖に消えていくまで見守るという祭りなのだ。

「こちらにもまた……困ったモンスターが出現するのです。
 それは……白と黒のツートンカラーの熊さんみたいなのですが、この笹の葉が大好物なのですね。せっかくお祭りを主催された町の人が集めた笹を片っ端から食べようとする可能性があるんです」

 それはまあなんというか、ちょっとかわいい……?

「可愛くなんてありませんわ……。多少見た目は可愛いですけど。
 熊さんの腕で跳ね飛ばされてしまったら、一般の人では全身複雑骨折……いえ亡くなってしまう可能性のほうが高いでしょう。
 それに何故かその熊さんは後ろ足ツーステップで移動するようで、その移動力はとても早く、大勢の人で賑わう会場で暴れられては大きな被害が出てしまいますわ」

 真剣な表情でベルフラウは語るのだが、脳裏には浮かんでいるそのモンスターの姿がちょっと面白かったらしく、真面目な表情の目元には笑いをこらえるための涙が微かに浮かんでいたという……。

 ともかく被害が出る前になんとか食い止めなければならないだろう。

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参加者
真珠星・ベル(a00069)
月は魂鎮めの赫き赫き・クリスティナ(a00280)
想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)
ヒトノソリンの邪竜導士・ブランシェット(a32419)
衝撃の弾幕少女・ユーロ(a39593)
無垢なる翼・マリー(a40890)
図書館の幽霊・ルノア(a42211)
今日も明日も風任せ・ヴィトー(a47156)
獣の牙・マリス(a48940)
世離好・ハルキ(a49586)


<リプレイ>

 満天の星空。
 美しく輝く星の海を背景にして、さざ波の音が絶え間なく響いている。
 蒼海はいつか天に続くのだろうか。遠い海の向こうを見つめていると、どこかで星空と混ざっているのではないかという錯覚をしてしまいそう。

●避難勧告
 浜辺に集まり祭りを楽しみにする一般客達は、砂浜の奥で叫ぶ少年の声に気付くと、次々と振り返った。
「間もなく魔物が現れる!死にたくなければ竹林に近づくでないぞ!! 当然、退治はするが汝らの面倒までみきれぬからな!!」
 黒い小狼・ハルキ(a49586)の小柄な体から発せられた声だった。
 ホーリーライトを発動させている彼の体は、お月様の色に発光していて、とてもよく目立つ。しかし、何事が起こったのかと、お祭り気分で浮かれていた人々がきょとんとしていると、次に、彼らがよく知っている者の声がもう一度響いた。
「あーー……ワシじゃ。町長のデレモじゃ。冒険者様がやってこられて、この竹林にモンスターが出る為、その退治をしにいらしたらしいのじゃ。申し訳ないが、隣の浜辺の方まで移動するのはどうじゃろ。しかし、退治が終われば、こちらも使っていいそうじゃから」
 この言葉は説得力があった。
 人々は不安がりすぎることもなく、自主的に次々と移動していく。
「ありがとう……デレモ」
 黒の少女・ルノア(a42211)は、皆を見守る初老の町長に無表情のまま礼を言った。
「さすが町長さんね」
 想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)も感謝を伝える。町の偉い人を頼ろうというのはルノアの案であったが、これは効果的だったようだ。
「いやいや。それにしても昨今の冒険者というのは若いのだのう」
 町長は笑って言う。彼を見つめ返す冒険者達は20代のひとりを除いて全員10代。しかもその半分以上が10代前半となれば、頼り無いとは言わぬが少々驚くくらいは勘弁して貰いたいところ。
「あと、笹の葉を分けてもらえる?」
 彼の驚きは無視して、ルノアは赤い瞳で彼を見上げ、浜辺の中央に積んである笹の葉を指差した。
「ええ、好きに使ってください。助けて頂くのに協力を渋る訳にはいきませんわい」
「それじゃ町長さんも避難して貰うわよ」
 衝撃の弾幕少女・ユーロ(a39593)がルノアとラジスラヴァに呼びかける。
「じゃあ俺は笹を運ぼう」
 残った一般客がいないか浜辺を再確認するように見回しつつ、今日も明日も風任せ・ヴィトー(a47156)が言って、笹の方へと進んでいく。ラジスラヴァとユーロも町長を送った後、笹運びを手伝った。
 その間、ハルキとルノアは彼らの作業と、また竹林を監視している仲間の為にホーリーライトで周囲を照らし出している。いつ敵が飛び出してくるか解らないからだ。
 ルノアは発見した時だけ、ホーリーライトを発動する予定だったが、ハルキの策に合わせる方が得策と思い、竹林の左右で照明役を引き受けた。
「白黒の熊さん……珍しいお色ですね?」
「如何にしてこの様な姿に堕ちたものか……」
 真珠星・ベル(a00069)と月は魂鎮めの赫き赫き・クリスティナ(a00280)は、ホーリーライトの照明で照らされる竹林の方向を、新しく竹林前に作った笹山の側で見張っていた。
「やっぱり元は冒険者なのですよね」
「……そうであろう。が、それを知る術は最早無い」
「ちょっと可愛いのでしょうか……」
 霊査士がそんなことを言っていた。それを思い出すベル。
「……パンダさんなぁ〜ん?」
 二人の話を聞きながら、ぽつっと呟くヒトノソリンの邪竜導士・ブランシェット(a32419)。白黒の熊といえば、そうじゃないのか?
 と、呟いたのは思いつきだったのだが、彼女の視界の中に、何か蠢く生き物がいた。
 竹林の奥で、まだよく見えないが、あの動きは、後ろ向きのツーステップダンス。
「!!」
 ブランシェットの声で、モンスター発見を知り、ルノアとハルキのホーリーライトが同時に赤く発光した。その赤い色を見て、ラジスラヴァ、ユーロ、ヴィトーも駆け戻ってくる。
 ツーステップダンスで斜め45度の角度で竹林の隙間をくぐりぬけてくるモンスター。時折広い場所を見つけると気持ち良さそうにムーンウォークをはじめて見せたりして、なかなか冒険者をバカにしているようだ。
「……確かに愉快なモンスターのようだな」
 とボソリとヴィトーが呟く。
 そして、遂に待ち受ける冒険者の存在を気にも留めない様子のまま、モンスターは竹林から飛び出すと、笹の山目掛けておしりで突進した!
「残念ながら、通行止めなの!」
「お気の毒ですが……ごめんなさい、ね」
 ルノアとベルは飛び出した熊へ容赦なく緑の束縛を放った。双方向から木の葉が絡みつきモンスターの動きがぴたりと止まる。止まった敵に、ユーロは至近距離から両刀『Laevatein Suqare』を振るい、そこから放たれるライトニングアローを命中させた。

 うごっ!!

 さらにブランシェットのスキュラフレイムに合わせて、前衛に躍り出たラジスラヴァがブレードダンスを仕掛けた。艶かしいオトナの香りのするダンス。痛めつけられている筈の熊の頬がやや赤らんだ。
 と同時に。

「ふんふんふん〜。ふんふんふん〜」

 地面に崩れ落ちた熊は肩を躍らせて変なメロディを鼻歌に口ずさみ始めた。
「眠れっ、阿呆っ」
 ハルキは眠りの歌を咄嗟に放つが耐えてしまう。
 
 そして即座に立ち上がり、足で回転をつけて、ラジスラヴァにベアクローで切りかかる。だがその間に割って入ったヴィトーが電刃衝を宿らすロングソードを構えて待ち受けていた。
 熊は憤慨し、ツーステップダンスで後退する。無垢なる翼・マリー(a40890)のニードルスピア奥義はひらりとかわし、ルノアのエンブレムノヴァを防御した。
「!」
 再びのベルの緑の束縛。同じ手は食らうものかとこれも避ける。しかし、ヴィトーの放ったスーパースポットライト。これにはメロメロに近づいていく。
 力任せの体当たりでヴィトーが後ろに倒れた刹那、黒炎覚醒を伴ったクリスティナと、ハルキのWデモニックフレイムがその心臓を突き抜けたのだった。
「魂を喰らう悪魔の業火……」
 大きな音をたてて砂浜に沈んだ熊は、もう二度と鼻歌を歌うこともなかった。

 怪我をしたヴィトーの手当ては、ヒトノソリンの医術士・マリス(a48940)がしてくれた。体を打ちつけたのも柔らかい砂浜なので、大きな怪我ではない。
 仕事を終えた冒険者達は、それぞれ安堵に包まれた表情を向け合い、漸く緊張から開放されていくのだった。

●笹船の祈り
 ラジスラヴァが竹林の中に熊の死骸を埋葬し、再び砂浜に姿を見せた頃、隣の浜に避難していた一般客達も皆戻り、沢山の人々が水辺で笹船を浮かべているのが見えた。
 他の冒険者達が安全になった事を伝えたこともあるが、やはりこの浜辺でなければ、願い事を流す気になれなかったらしい。
 彼女は砂浜をゆっくり歩く。
 沢山の人に混ざって、冒険者達の姿も見つけることができた。

「クリスさん、お船作れましたか?」
「ああ」
 砂浜で待つベルの側に、クリスティナは腰掛け、彼女の笹船の隣に自分の笹船を並べた。嬉しそうに目を細めるベル。クリスティナも優しく微笑み、それから笹船へと視線を送る。
「わたしの大好きな人たちが、みんな幸せでいてくれますようにーって、お星様にお願いするんです」
 ベルの声が響く。
「私もだ」
 クリスティナは友人の声を快く聞きながらゆっくり頷いた。
「去年までのわたしなら、きっと違うお願いごとしてました。唯一の人のずっと傍にいられますようにって……。でも、最近気付いたんです。わたしの周りにはたくさんの人が居てくれて、わたしと一緒に笑ってくれたり励ましてくれたりしてくれるんだなぁって」
「そう、か」
 クリスティナはまるで愛しい人を見つめるようにベルを見つめた。
 それは自分も同じ。そして、自分はきっと彼女より欲張りかもしれない。
 みんなが幸せで、みんなが笑顔でいて欲しい、そうしていてくれなければ、皆が居ることで存在できる私が私のままで居る事ができないかもしれない。
「ベルは何時も私の傍に居てくれたな」
「……クリスさんも」
 寂しい、悲しい、不安な時、お互いに、人には見せられない気持ちを打ち明けあえた友。クリスはゆっくりとした動作でベルを抱きしめた。
 これからも、ずっとずっと親友でいよう。
 クリスの腕の下から、そっと覗いた波の間に、二人の笹船が仲良く並びながら、広い海へと船出していた。

「『健康祈願』……これだな」
 ヴィトーは短冊にしっかりとした字でそう記し、満足げに何度も頷く。
 自分自身へではない。それくらいは自分で面倒を見れる。
「……俺の慕っている奴らが、病気や怪我に負けずに元気で健やかに長生きしますように……と」
 短冊に書き加え、笹船にそっと乗せる。
 それから、側にいた仲間達を振り返った。
「どうだ? 出来たかー?」
「まだなぁ〜ん」
 んしょんしょ、とさっきから大きな尻尾を振りつつ、頑張っているのはブランシェット。なかなか綺麗に作れないどころか、失敗作の笹葉が山をなしかけている。
「……できた」
 その隣で、ルノアはさっくり作り上げると、一人で水際に近づき、踝辺りまで波の中へ入ってゆくとそこに笹船を浮かべた。
 丈夫に組んだ笹船はゆっくりと波に引かれ、海に船出していく。
(「……信じさせて、もう一度」)
 左胸の傷跡に右手を添え、強くそう想った。願いではない、彼女の想いそのままに。
 瞬間、誰かの顔がよぎった気がした。
 ルノアは瞼を開くと、船を追った。波の間に揺られ、静かに遠くなっていく船。
 お星様の袂に届くまでどれくらいかかるかは解らない……けれど、きっと辿りつく。彼女は強く、そう信じた。
「……こうかなぁ〜ん」
 試行錯誤の末(ヴィトーにも色々アドバイスもらって)、漸く完成した笹船は、やっぱりどこか不恰好。
 どう見ても綺麗な出来ではないけれど、幾枚も消費して、奇跡的に出来上がった幸運の船。(もう一度作れといわれたら出来ないかもしれない……?)
「お願い事は?」
 ヴィトーが笑って尋ねたが、ブランシェットは、秘密、と言って笑った。
 波に浮かんだ独創的な笹船は、他の船より大きく左右に揺れながら、しかししっかりと沖合いを目指す。
(「大好きなお姉様と、もっともっと仲良くなれますように……」)
 そんな彼女の純粋な心を載せて。
 星の間に間に、届いてゆくのだろう。

 彼らから少し離れた場所で、ハルキも完成した笹船を流そうとしていた。
 短冊に載せた思い……それは。
 『いつか、妹と再会できますように』
 自らの字でそう綴った短冊を彼は暫く見つめる。
(「あやつは今もどこかで元気にやっておるだろうか。無事でいてくれたらよいのじゃが……」)
 今すぐでなくてもいい。
 また、どこかで、会えたら……。
 深い溜息を大きく吐き出し、ハルキは自分で驚いたように目を見開くと、急いで眼の縁をこすった。
「……ふん、ガラにもなく感傷的になったわ」
 そしてもう一度、大きく息をつくと、彼はその短冊を懐にしまった。
「流さないのか?」
 ヴィトーやブランシェット達が見守っていたらしい。声を投げかけてくれる。
 ハルキは首を振って、波打ち際から戻ってきた。
「他力本願など、……合わぬわ」
 それこそ妹に笑われてしまうかもしれない。ハルキは自分を嘲笑うように、小さな苦笑を浮かべ、懐にしまった短冊を、服の上から掌で軽く叩いた。
(「必ず余は見つけ出してみせるからな」)
 この短冊は御守り代わりに持って帰ろう。小さな胸にそう誓う彼であった。

 人気のない場所を見つけ出し、ユーロはひとりひっそりと沢山の笹船を作り上げていた。カップル達のと混ざってしまうのはなんだか切ないし。
 遠目に見える波打ち際の沢山の人々。波打ち際で語る人々の姿を見て、故郷の星凛祭を思い出し、少し懐かしくなった。
「これは姉様の分、これもそう、そしてこれは……」
 一緒にここへ来たかった大好きな人達の分の笹船を一緒に海に流す。
 静かな海にゆっくりと進み行く船。その真ん中の笹船が自分の分だ。
(「大好きな姉様や、仲良しな人と、今年も元気で一緒に過ごせますように……」)
 短冊に刻んだ思いを載せて、船出していくそれを、彼女は無言で見つめる。
 こんな願い事は普通?
 でも、それが、私にとっては大事なことだから。
 ユーロはいつまでも、その船団が海の彼方に見えなくなるまで、静かに見送っていたのだった。

 ラジスラヴァは、人ごみの中で、先ほどの町長を見つけると、彼に頼み一つの竪琴を貸してもらった。
「そういえば、竪琴姫ってどんな伝説なのかしら?」
 興味を持って尋ねると、町長は喜んで教えてくれる。
 遠い昔、丘の上に一つの真っ白なお城があった。
 その城の王子は、いつも遠くから聞こえてくる竪琴の音色に惹かれ、浜辺を訪れ、
 海の近くに住む屋敷の娘と知り合った。
 竪琴の名手である娘のその音色を聞く為に、王子は何度も浜辺を訪れ、二人を愛するようになったのだが、王子はある時、事故で命を失ってしまう。
 その時、浜辺で竪琴を奏でながら王子を想っていた娘の元に一羽の白鳥が降りてきて、懐かしそうにその音色を聞いていたのだという。後から王子の訃報を聞いた娘は、あの白鳥は王子の化身だと思い、嘆き悲しんだ。そしてその報を聞いた数ヵ月後に後を追うように病で亡くなったそうである。
「そう……そんな悲しいお話だったの」
 ラジスラヴァは切ない表情でそれを聞くと、竪琴を手にとった。
「二人が死んだ後、空の星が二つ綺麗に輝いたという話もあるんじゃよ。だから、白鳥王子と竪琴姫の伝説は星に願いを捧げるのじゃ」
 頷き、彼女は、即興で今聞いた物語に節をつけ、海岸にいる沢山の人々へと向けて歌い始めた。
 名も知らぬ人達、恋人達が振り返り、その歌に耳を傾ける。

 皆が幸せな恋をしますように
 その恋が長く続きますように
 
 皆が幸せでいつまでもいられますように

 ラジスラヴァの歌は優しく浜辺に広がってゆくのだった。

『おわり』


マスター:鈴隼人 紹介ページ
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参加者:10人
作成日:2006/07/06
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