天使の玩具



<オープニング>


「ある町に、玩具の店が軒を連ねる通りがあると聞きました。そこへ行ってみたいのですが……、どなたかご一緒していただけませんか?」
 走る救護士・イアソン(a90311)が、冒険者たちにそう声を掛けている。
「イアソンくん、玩具屋さんに行きたいのかい?」
 鍛錬の霊査士・ジオ(a90230)が訊ねるのに、はい、と神妙な顔つきで頷いた。
 大人になることがない種族・エンジェルだとはいえ、イアソンはエンジェルとしてはもう充分に歳をとり、青年の域に達している。玩具で遊ぶ、といった年齢ではないと思うが……、というジオの疑問を感じたのか、彼は言うのだった。
「ホワイトガーデンには、ピルグリムやギアの脅威にさらされて……、荒廃してしまった村や傷ついてしまったエンジェルの子どもたちがたくさんいます。そういった子どもたちに、贈り物ができないか、と思っているのです」
「なるほどね。それで玩具か」
「はい。ですが、その……。いったい、どういったものが喜ばれるのか……。自分はあまり、玩具で遊んだような覚えもないものですから……」
 そう言って、そのことを恥じるかのように、うつむくのだった。

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参加者
NPC:走る救護士・イアソン(a90311)



<リプレイ>

「ホワイトガーデンでギアやピルグリムがエンジェルを襲ってるなんて知らなかったなぁ〜ん。子どもたちに元気になってもらうために玩具探し手伝うなぁ〜ん!」
 チェリが、ぐっと決意をにじませて言った。
 イアソンの呼び掛けに集まってくれたのは、彼の顔見知りだけではない。
「その心意気、気に入った。わたしも手伝おう」
 と言うデイトのように、彼の考えに賛同してくれたものも多い。
「いいものがある。ちょっと待ってくれ、探してみよう」
 デイトがなにか考えがあるらしく、雑踏へと消える。イアソンは皆を振り返った。
「自分たちも行きましょう」
 通りにはいくつもの玩具屋が並ぶ。ここならいろいろなものが手に入るだろう。
「絶対に喜んでもらえる玩具、選んでみせます!」
 気合い充分なシルク。
「エンジェルの子どもたち、大変だったと聞いたの。……アリスが小さい頃は、そんなことなかった……です。アリス、男の子の欲しい物はわからないけど、女の子なら……」
 アリスが、とある店の前で足を止めた。
「お人形さんとか、ぬいぐるみをもらえると、きっと嬉しいと思うの」
「うん。小さい子は、ふわふわしたものとか、もこもこしたものが好きだよ」
 オルフェが、猫のパペットに手を入れて、ぱたぱたと動かして見せる。
「こ、こうでありますか」
 イアソンも、くまのパペットを動かしてみた。
「他には何があるかなぁ。とりあえず、ぬいぐるみから見てみようよ」
「アリス、うさぎが好きなの。一番かわいいの、探す……です」
「わぁ、可愛い♪」
 ルシルクが、抱えられるくらいの大きなくまを、ぎゅっと抱き締めて声をあげた。
「あ、あれも可愛い」
 と、手に乗るくらいの犬に目移りする。
 オルフェも、ちいさな虎のぬいぐるみを見つけて気に入った様子だ。
「アリスさん、これはどう?」
 リムが、うさぎのぬいぐるみが集まっている一画へ彼女を手招いた。
「あ」
 そして自身も、とあるうさぎに目を止める。
(「昔…、お義母さんにもらったのとそっくり……」)
 懐かしむような微笑が、リムの顔に浮かんだ。
 マサキとキラは連れ立って、自分たちの気に入りを探そうとしている。
「可愛いのがいっぱいあって迷うなぁ」
 と、手に取ったのは黒い犬のぬいぐるみ。ふかふかした手触りに思わず目を細めた。
「ねー、アオ、これなんかどうかな?」
 リアが、連れのアオを振り向く。彼女が選んだのは、銀色の毛並みの狐のぬいぐるみだった。寄り添うようにしている二匹がペアになっているようだ。
「お揃いだよ」
「リアが選んでくれたのならそれが一番じゃ。こうして二人で出掛けられただけでも楽しいんじゃから」
 笑い合うふたり。

「ラズー。これ見てくださいー」
 グリュイエールが満面の笑みで、義弟のラズリオ前に突き出したのは、でろん、と長い蛇の模型だった。
「ぬおおっ! ……って偽者か! 吃驚したぁ! ……ニイチャン、23にもなって、そんな子どもまるだしの悪戯……」
 ラズリオの心にふと魔が差した。見れば、傍の棚には大きな蜘蛛の模型。
「くそ、お返しだ!」
「……! ラズ、いくら私でもこんな玩具じゃ……」
「あれ、動いている!?」
 グリュイエールの悲鳴が響き渡った。たまたまそこにいた本物だったらしい。
「わわっ、兄者!」
 隣のゲーム用品の店を見ていたクレイファが、そのとき手にしていたのは丁半博打に使う賽と壷。とっさに壷を、兄の顔を這う蜘蛛の上にカポン!とかぶせた。
「半か丁か! さあ、はったはった!」
「……誰がうまいこと言えと言いましたかクレイファさん。っていうか、壷の下でカサコソ動いてるんですけど……」

 シアが、ゲームの店から出てきたサクヤに目を止めた。
「あ、ボードゲームを買ったのか」
「大勢で暇つぶしになるものがいいかと思って」
「俺は絵本がいいかなと思っていたんだ」
「絵本はもう充実していると思うけど…」
 ふたりはリディアの護衛士だ。今日は拠点に避難しているエンジェルたちのためのものを探しに来ていた。
「やっぱりエンジェルの子どもが一番喜ぶのは『りりかる』だろうね」
 絵本を売っている店の軒先では、コーガがイアソンに、リディアで流行っているという絵本の情報を吹聴中。
「???」
 今ひとつ理解した様子のないイアソンに、コーガの説明は続く。
「『りりかる』ってのは女装した男じゃないとダメなんだぞ。女装はランドアースの常識! 冒険者なら誰でも一度は……」
「もっともらしくデタラメを吹き込むんじゃない」
 シアが後ろから、ツッコミを入れる。
 ちょうどそのとき、
「イーアーソーンさーん」
 元気のよい声と足音が近付いてきた。

「はい、これ。これと、これと、こっちのもオススメなのですよぅ」
 ケイカだった。
 ぽいぽいと玩具がイアソンの手の中にたちまち山と積まれていく。
 同族の子どもたちのために玩具を選ぶと意気込んでいたケイカだったが、この様子を見るに誰より喜んでいるのは本人のようだった。
「あと、身体を動かして遊べるものがいいかなと思うのですぅ」
「なら、ノケットやウェンブリンの道具はどうかなぁ〜ん」
 とチェリの提案。
「凧などはどうかのお?」
 スルクは、愛鳥の大鷲・春風が飛び立つ様子に、それを思いついたようだった。
「雲の上なら良い風が吹いていそうじゃ」
「こんなのはどうかなっ!?」
 駆け込んできたのはグリューネだった。
 どこからか持ってきた赤いボールをイアソンの頭の上にぽんっと置く。
「あ、落としちゃダメだよー?」
「えっ!」
「そうそう、バランスをとるの」
「こ、こうでありますか!?」
 両手いっぱいの玩具をかかえ、そのうえ、頭にボールを乗せて直立不動のイアソンを見て、グリューネとケイカはくすくすと笑った。
「……イアソンちゃんは、かっこいいね」
 そんな様子をじっと眺めながら、エイヴィが呟いた。
「は、はい!?」
「うん。かっこいいよ」
(「こういうことに真剣になれるって」)
 微笑んだエイヴィの真意を理解したものがいたかどうか――。
「外で遊ぶのなら、シャボン玉はどうでしょうか?」
 ミリアが提案した。
「私も子どもの頃、大好きだったんです。イアソンさんも一緒に、子どもたちと遊んであげてください」
 と、そこへ――
「いいもの見つけましたよ! エンジェルの人形なんです。自分たちが、こんなにも美しい存在だということを、子どもたちにわかってほしくて」
 愛らしい天使の人形を手に、瞳を輝かせてシルクが語る。
 だが、その時、イアソンは、両手に玩具、頭にボール、そして口にはストローをくわえているところだった。
 それは素晴らしいでありますね、と真顔な表情だけで、彼は応えた。
 言葉のかわりに、ストローから吹き出す、無数のシャボン玉……。

 リミエーナが、ビスクドールを置いている店の前で足を止める。
 そういえば、幼い頃持っていた人形は、なくしてしまったのだっけ。いや、違う。なくしたのではなくて……
 ふっ、と頬をゆるめる。
「荒れ果てた世界でも、美しいものを愛でる心を忘れてはいけませんわ。真に美しいものにふれたとき、人の心も洗われると思います」
「人形は可愛いだべなあ。……あ、イアソンさ、この人形、手のところがくっつくように出来てるんだべよ」
 ウィルカナが、見つけた人形の手と手を繋げてみせる。
「2人で繋ぎあってもいいし、みんなで輪になることもできるんだべなあ。これ、エンジェルの子たちさにあげて、『みんな独りじゃないんだべよ』って励ましてやったらどうだべ?」
 人形の店では、ロヴィリスとマーシャも連れ立って買い物を楽しんでいた。
「結構、いろいろあるもんだな……」
 ロヴィリスは、ふと、誰かにおもかげの似た人形を見つける。その顔に浮かぶ、一瞬の笑顔。だが、すぐに、さっと真顔に戻って……
「みてみて、ロヴィ。えへへ、ホラ、そっくりー♪」
 マーシャが持ってきたの人形は黒髪のエルフの男の子の人形で、どうやらロヴィリスに似たものを見立てたらしい。ぎゅっ、と人形を抱き締めてみせるマーシャ。
「あれ。どうしたの。もしかして……人形にやきもち焼いてる?」
 ロヴィリスがちょっと微妙な表情になったのは、マーシャ似の人形を探していた自分と、彼女も同じことを考えていたのだな、と思ったからだったのだけど。

「ところでイアソン殿はどんな幼少時代を過ごしたのかの」
 スルクが訊ねた。
「別にどうということはないのであります」
「厳しい家じゃったのかのぅ。玩具で遊んだことがないというのは。ワシも奉仕種族として働いておったゆえ、遊ばせてもらった記憶もないが……」
「俺も同じだ。玩具で遊んだことがないんだ……」
「私も思い出はあまりないですが、それでもなんだか懐かしい気がしますね」
 マサトとカルマがそう話すと、冒険者たちはそれぞれに、自分の子ども時代のことを思い返しているようだった。
「グリはいつも独りで遊んでたよー?」
「私は、孤児院にいたのですけど、そこの弟たちや妹たちのことを思い出します」
 と話すグリューネやリムに、ユーイェンは、
「大切に思う故郷があるのはいいものです」
 と言った。
「ボクが小さい頃は、父上が小さい弓や槍を作ってくれたなぁ〜ん」
 オリガの思い出はいかにもワイルドファイアらしい。
「男の子には、やわらかい素材でできた武器の玩具もいいかもしれませんね」
 とルシルク。
「英雄や戦士にちなんだ玩具はどうでしょう。不安な時代には、人はヒーローをもとめるものです」
 と、クーカが手にしたのは、黄金色の鎧が眩しい騎士の人形だった。

「僕は小さいとき、楽器が玩具でした。子どもでも演奏できるものはどうですか? 打楽器とか簡単な笛とか」
 そういうユーイェンに導かれて訪れた店では、ギバが、ころころと音の鳴る陶製の笛を吹いている。
「怪我して動けない子どもたちもいるでしょうし、屋内で楽しめるものを探そうと思ってたのデス。……ところでコシロさん見ませんでした? いつのまにかどこかに……」
 ギバははぐれたらしい連れの名をあげた。と、そこへその当人、コシロがほとんど等身大のノソリン人形を抱えてあらわれる。
「どこ行ってたんデスかー」
「すみません、これを探してましたなぁ〜ん」
 その黒ノソリンは、コシロがノソリン変身した姿を思わせる。
「これがあれば、私がいないときも寂しくないですなぁ〜ん?」

「ん。どうした、エルヴィア。あれか?」
 エルヴィアがふいに立ち止まった。その視線を追って、ヴァイスは彼女には手の届かない棚の上の人形を取ってやる。
 それは着せ替え人形だ。
「これが気に入った、なぁ〜ん?」
 ティエンが、じっと人形を見つめているエルヴィアに言った。
「じゃあ、買ってあげよう、なぁ〜ん。……ヴァイスさんが」
「俺が!?」
 いや、まあ、いいけどな。苦笑しつつ呟くヴァイスの傍を、等身大のノソリン人形をかついだノソリン(それはコシロの変身した姿なのだが)がのんびりと過ぎてゆく。

「やあ、いいものは見つかったか?」
 ノリスはなんと愛犬連れだった。
「こいつはモコモコっていうんだ。この先に注文を聞いてぬいぐるみをつくってくれる店があって、モコモコ似のを頼んできたところなんだ」
 そんな話を聞いて向かってみれば、スノーが軒先で、なにやら裁縫をしている最中。
「職人さんに作り方を教わったんです。……これ、お世話になっている方に贈りたいと思って」
 彼女が作っているのは、リザードマンのぬいぐるみのようだった。
 ユーイェンがフワリンのぬいぐるみを作ってもらってはどうかと提案する。フワリンを見たことがないだろう職人のために『どこでもフワリン』で見本を見せるが、意外にも、そんなぬいぐるみならこの先で売っているという。
 誰か、冒険者から話を聞いて作られたのだろう。
 いくつも吊り下げられたフワリンの前では、ロッカとセイルのふたりが立ち止まっていた。
「……エンジェルの子たちも……喜んでくれるよね……?」
「これだね? ロッカがいいと思ったのならこれにしよう。何色がいいかな」
 セイルに促され、ロッカが選んだのは、ピンクと白のお揃いのペア。ロッカが笑顔になるのを見て、セイルもやさしく微笑む。

 ルーシェンはふれると音の出るうさぎのぬいぐるみを見つけていた。これはもうすぐ産まれるであろう、彼女の子どものためのもの。
 セドナも、ダンナサマへのプレゼントを選びに来た。銀色の毛並みの狐のぬいぐるみに目をとめる。
 そんな中、フードで顔をかくした、あやしい長躯の男がひとり。
 場所柄、子どもの多い通りではひときわ目立つ、彼はリャオタン。友人にあげたいものがあって来たというが、子どもの群れに、正直、辟易とした様子。
(「玩具とガキのオンパレード……ここは俺様みてぇなハードボイルドなクールガイが来る場所じゃねぇ」)

「エンジェルの子たちはどんなのが好きやろ。エミリオはんはどんな玩具がええ?」
 ツバメは、エミリオに子ども代表としての意見をもとめたつもりだったが、片手でツバメの服の裾をぎゅっと握ったエミリオが、もう一方の手で指したのは、
「……それ、かわいい」
 骸骨の人形だった。他にも牙を剥く鰐の人形などに興味を示すエミリオ。
「ん〜。ちょっと刺激が強過ぎるんちゃうかな〜」
 と、ツバメが見つけた店は、楓華列島風の玩具や雑貨を扱う店。
「あ! こんなんどうやろ!」
 それは色とりどりの硝子玉だった。
「ちょっと不思議なものがいいかもしれませんね。好奇心をくすぐるんです」
 アキュティリスはその店で、イアソンに「あやとり」を伝授。
「これは不思議でありますね。毛糸が花の形に……?」
 さらには、器用にお手玉を宙に舞わせて見せる。
「やっと見つけたぞ!」
 デイトが、声をあげた。
「これは剣玉というのだ。これは集中力を養うのにいい。いいか、こうやって大皿から中皿へ、中皿から大皿へ……」
 デイトの技に目を見開くイアソン。
 冒険者は、なかなか芸達者なものが多い。
「これはどうかな。何か、難しそうなんだが……」
 マサトは立方体の面を組み換えるパズルの玩具に挑戦中。
「玩具と言っても、本当にいろいろなものがあるのですね。ずいぶん、たくさんのものが見つかりました。これだけあれば、たくさんの子どもたちが、気に入ってくれるものを見つけられるでしょう」
「クレヨンとかどうかなぁ〜ん。小さい子は絵を描くのも好きなぁ〜ん」
 オリガが言った。
「あの店に色鉛筆が売っていましたよ」
 オリガの発案に、カルマが応えた。
 店先に、イアソンは色鉛筆の一式を見つける。
「これは、空の名前がついているみたいですね。夕焼け、朝焼け、宵闇……」
「いいですね。ホワイトガーデンの子たちは、空を見るのも好きですから」

 よく晴れた日に。
 虹の下のエンジェルたちに、いっぱいの玩具を抱えて会いに行こう。
 それは想像するだけで、心浮き立つアイデアだった。


マスター:彼方星一 紹介ページ
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作成日:2006/07/10
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ガラスのかもめ・オリガ(a32015)  2009年11月17日 22時  通報
自然と、みんなの小さい頃の話になったなぁ〜んね。
ボクもまたホワイトガーデンに行くつもりだったから、何買うかすごく悩んだんだけど、結局、次行く前に、他の所の子にあげちゃったんだよなぁ〜ん。