西方プーカ領を求めて 〜血塗れ道化は死を哂う〜



<オープニング>


 西方プーカ領へと至る道。
 その最中でパニエ(a28408)達冒険者は足を止めていた。
 空は曇り、昼間だというのに薄暗い。そんな中、眼前、道の中央に立ち塞がるのは一人の道化師。
 顔の右半分は赤い丸い目、赤い裂けた口が描かれた白面で覆われている。
 残りの左半分はボサボサになった黄土色の毛に隠れ見えない。
 何のつもりか、右手を胸に、左手を後ろに回し、うやうやしく礼をしてみせるソレの腕は、どす黒く汚れていた。

「……確か、隣村の様子を伺いに行った方が戻っていないと……言ってましたね」
 それは数刻前、立ち寄った漁村で得た情報。じっとしていては何も変わらないと、自ら志願し旅立った若者の話。
 彼はプーカ領の方角に向かったと聞いたが……。

 冒険者達の纏う空気が変わる。対し道化師は右腕を正面に差し出し、パチンと指を弾いて見せた。
 瞬間現われたのは一枚のカード。冒険者に見せ付けるように振られるカードの絵柄は血濡れの剣。
 と、次の瞬間、道化師は思いっきり姿勢を低くすると――前に飛んだ!
「――!?」
 一瞬、姿が消えたかのような錯覚。次の瞬間には真正面にまで迫っていた道化師は、鋭くカードを振う。
 それは流れる水が如く、まるで手練の武人のような一撃。
 バニエの腕に走る鋭い痛み。反応があと少し遅れていれば、首を持っていかれたかもしれない……!?
 他の冒険者が慌てて反応するが、道化師はその反応を嘲笑うように、後転とびを繰り返し再び元の位置へと戻る。
 冒険者達を挑発するように、新たなカードを出しては消してを繰り返してみせる道化師。
 そちらがその気ならば、いやどちらにしろ人に仇成す者であれば討たねばならない。
 冒険者達はこの道化師、いやモンスターを討つべく。暗雲立ち込める空の下、行動を開始した。

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参加者
夜駆刀・シュバルツ(a05107)
四神を司りし紅き魂の聖魔・レツヤ(a12580)
笑顔のヒロイン・リーナ(a13062)
白銀に瞬く星・アルジェント(a26075)
天空の青・パニエ(a28408)
いつか星の大海へ・ミレアム(a45171)
煌蒼の癒風・キララ(a45410)
怪獣王使い・ラウル(a47393)


<リプレイ>

●死闘開演
(「かつての姿を偲ばせる、仮面から覗いた黄土色の毛……」)
 半分を仮面で被った道化、もう半分から覗くボサボサの毛。風にカサカサと揺れるその様に、表裏縹色・パニエ(a28408) の胸中に過ぎがモノがあった。が、今は、
「亡国の英雄を、安らかな眠りへいざなうべく……戦いましょう」
 既に戦端は開かれた。召喚獣は戦闘状態へと移行し、それぞれの手には信に値する得物。
 パニエの竪琴が音を奏でる。途端、彼女の足元を中心に大地に広がる薄明かり。
「一刻も早くプーカ領へ……。そしていつか、レルヴァを取り戻す為にも……!」
 かつて行われたレルヴァ大遠征、その先遣救護部隊としてレルヴァに参じたいつか星の大海へ・ミレアム(a45171)は邪竜の力を身の内に宿し、思い出の護符を手に彼の地を思う。
 そう、この道はプーカ領のみに続くのではない。その先、様々な未来へ繋がる道なのだ。
「道化如きが流水撃とは笑止千万!」
「道化なら道化らしく人々を楽しませて居れば良いものを……!」
 思いを胸に、戦士たちは行動を起こす。先陣をきるのは四神を司りし紅き魂の聖魔・レツヤ(a12580)と夜駆刀・シュバルツ(a05107)。そして、白銀に瞬く星・アルジェント(a26075)の三人。
「ただの道化でならな。だがこいつは明らかにモンスター……」
「とにかく、倒すしかないよね……!」
 アルジェントの言葉を継ぐのは世界が嫉妬するほど美しい・リーナ(a13062)。誰よりも後方、モンスターの刃も届かぬその位置から、
「誰よりも早く! 誰よりも先へ! 誰よりも強く!」
 星明りの名を冠した弓に新たな力を宿し、先制の一撃を放つ!
 疾風の如く駆ける一矢。前衛の三人を追い抜き、狙い違わず突き進み、
「……」
 しかし道化は、滑るように横へ移動しかわした。
「凰呀よ。相手には不足は無い……その力、存分に発揮しろ!」
 主の声に答えるように、その刃に新たな力を宿すシュバルツの太刀。
 レツヤの双剣は片や神々しさを、片や禍々しさを宿し、アルジェントの双剣は深紅の刃を備える。
 対し道化師は、新たな一枚のカードを生み出した。絵は――血の滴る杯。
 頭上へと放られたカードは空中で静止。クルクルと回転し、周囲に赤い波動を放つ!
「むっ!?」
 異常を感じたのはアルジェント、それにシュバルツである。
 体の内にある力、それに封をされてしまったような違和感。が、シュバルツは叫ぶ。
「その程度で……俺と凰呀を止められると思うな!」
 止まらない、怯まない。既にウェポンオーバーロードは発動しているのだ、それにパニエが張った幸運の結界の加護がある以上、この異常も長くは続くまい。
「見た目はポップで、仕草は気取り屋。面白い姿はサーカスだけで十分よ!」
「ちっとも笑えないしな。これがモンスターって奴かよ!」
 煌蒼癒風・キララ(a45410)の静謐の祈り、三人の後ろに付くモンスターとは初戦闘と言う駆け抜ける疾風・ラウル(a47393)も己が役割を果すべく毒消しの風を呼びおこす。
 信に足る仲間がこれだけ後ろに居るのだ、止まる必要など、まして怯む理由など何処にも無い!

●血塗れの道化師
 魔炎と魔氷、相反する二つを宿したレツヤ、シュバルツの双剣が閉じらる翼の如く道化に迫る。
 小細工は無い。ただ己が力を刃に込め振るう一撃は、巧みにかわそうとする道化に追い縋りその身を浅く切り裂いた。
 二人を隠れ蓑に、シュバルツは太刀に黒い闘気を宿らせ道化に左手に回り込む。
 空を切り裂き、滑る刃。が、道化の左手に何時の間にか持たれていた一枚のカードが、その刃を止めた。
 シュッという風斬り音が聞こえる。咄嗟にシュバルツは飛び退く。
 距離を開けて見る道化。その右手には、今自分を切り裂かんとした漆黒のカード。
「身軽さではこちらも負けはしない。貴様だけの専売特許だと思うな!」
 吼えるシュバルツを前に、道化は半分の口を歪める事で答えた。

 金色の炎、青き氷を宿したリーナの矢が道化の右腕を掠める。
 袖を駆け上る魔炎、侵食していく魔氷。一時、動きを止める道化。
 その隙を逃す冒険者ではない。
 本来、技に優れた者同士では決め手にかけるものだ。それを本来ならば吟遊詩人が得意とする筈のダンス、変幻自在の剣の舞を用いる事で敵の弱点を狙っていくシュバルツ。
 咄嗟に身を逸らし回避を試みるも、道化はその動きに対処しきれず幾度目かの傷をその身に刻まれる。もっとも、傷で済む間はまだ可愛い、側面に回りこんできたアルジェント、その渾身の一撃。まともに食らえば腕の一本くらいは失うだろう。
 巧みな足捌きで身を翻し直撃だけは回避する道化は、その動きを次の攻撃に繋げる。
 纏わりつく炎と氷を振り払い、右腕に生み出すは血濡れの剣のカード。
「! ……武人のプライドとか本当の流水撃とか、本当の所はどうでもいい」
 敵の動作に真っ先に反応したレツヤは表情に険しさを増し、その剣を水平に構える。
 ターンの勢いを生かし、カードを左から右へと滑らせる道化。
 ソレを迎え撃たんと、剣を右から左へと駆けさせるレツヤ。
 カードと剣がぶつかる、それは刹那の出来事。
 散る火花。カードは思いの外固く、しかし剣も引きはしない。
 結果、カードはやや下への進路変更を余儀なくされ、剣もまたやや上へと軌道を変える。
 双方の刃が、獲物を切り裂いた。
「……」
 道化は片方だけの虚ろな目を見開きレツヤを見る。
 レツヤは赤い瞳に鋭い眼光を宿し道化を射抜く。
「貴様みたいなふざけた奴が流水撃を使うな。反吐が出る」
 レツヤの腹には血の流れる赤い筋、道化の右腕は半分以上が裂かれていた。
「ヒャッ? ヒャヒャァアァヒャ!」
 これがこのモンスターの鳴き声か? 癪に障る、人を馬鹿にしたような哂い声が辺りに響く。
「哂うな! このくされ道化!」
 怒声を上げ、弾かれた様に飛び出すラウル。壮麗な銀の刃に纏われる、彼の怒りを具現したような紅蓮。
 擦れ違い様の一閃。
「チィ……」
 強力なアビリティの使用は体への負荷も大きい。膝を付き振り返るラウル。その前に、道化の右腕が落ちて来た。
 肘より先が失われた右腕。黒い液体を流しながら、道化は哂う!
「ヒャッ! ヒャヒャァァアァ!!」
 翻す左手、現われたのは四枚のカード、その絵柄は燃え盛る血の様に紅い太陽。
 血走った目が見つめるのは、仲間を癒す為ヒーリングウェーブを発動させたパニエである。
(「!? いけない!」)
 レツヤの出血、ラウルの麻痺を癒す為、静謐の祈りを捧げていたキララの動揺はミレアムへと伝わった。
「そのカード、燃やしてあげる!」
 身に邪竜の力宿す故の黒炎攻撃。ミレアムの振う錫杖より放たれた炎弾は道化の顔面へと炸裂した。
 道化の仮面に走るヒビ。しかし、怯まない。僅かの残り火を押し退け、左足を一歩踏み出し、左腕を大きく振う!!
「チッ! ミレアム!!」
 術士ゆえ体力が低く、しかし黒炎の射程に捉える為近付きすぎたミレアム。彼女を庇うべく飛ぶ! だが、間に合わない!?
 四枚のカードが四方に突き立つ。間を置かず巻き起こる爆発、吹き荒れる爆風。地を抉り、冒険者を翻弄する紅の暴力。
「……ッ!?」
 悲鳴すらも爆風に掻き消される。
「グッ……ハッ!」
 血を吐き出し肩で息をするラウル。ミレアムは……動けない。
「……これ以上、好きにはさせん!!」
 怒りを胸に、仲間の回復も待たず、アルジェントは極限まで高めた闘気を、
「ウォオォォ!!」
 咆哮と共に叩き込む!!
 先の爆発に負けぬ爆音。死に近付き、より凝固された闘気が道化の右肩を吹き飛ばした!
「みんな頑張って! 私は、私の出来る事を……頑張るからっ! あの、野郎……!!」
 キララは仲間を傷つけられた怒りを感じながらも、自身の役目は忘れない。
 ミレアムを後方に下げながら、癒しの波動を前衛の仲間へと届ける。
 傷が癒えるのを感じながら、狂わされたリズムを直しシュバルツが、咆哮を上げるラウルが道化の体に刃を滑らせ、
「そこ!」
 パニエが喚び出した黒きスキュラが道化を喰らう。その炸裂と同時に道化を覆う魔炎、吹き出す黒い液、その身を駆ける猛毒。
 思わず天を見上げた道化の腹を、
「これで、ラクにしてあげる!」
 遠方より飛来したリーナのライトニングアローが穿つ。
「これが最後のチャンス!」
 チェインシュートに寄り道化へと間を詰めるレツヤ。視点の合わぬ道化の瞳を至近に、
「喰らえ、鎖流雷光刃!!」
 電光を宿す居合いが走る。
「ヒャッ!? ヒャ、ヒャ……ヒャ、ァ」
 最後まで人を馬鹿にした笑い声を残し、道化は静かに倒れた。

●その亡骸を
「全く……忍びに挑戦状を投げつけるようなモンスターであったな」
 動かなくなった道化を前に、シュバルツは深く息を付き腰を下ろした。
 忍びである自身が得意とするような、身軽な身のこなし、鋭利な攻撃。
 シャドウスラッシュが殆ど当たらなかったのは、相性の問題とは言え若干、悔しくもあった。
「悪の旗や、トロウルの姿は……見えませんね。……? ラウルさん、どうしました?」
 疲労し息を整える仲間達を気遣いながらも周囲の状況を確認していたリーナは、皆と同じく疲労しているであろうに動き回っているラウルを目に留め、声をかけた。
「ん。いや、村で聞いた若者さ、もしかしたら道化のせいで足止め食らってどこか隠れてんじゃないかなって、……思って、さ」
 答えながらも近くの岩陰の覗き込んだラウルの動きが、止まった。
「……間に合わなくてごめんな。仇は、取ったぜ」

「――さて、行きましょうか」
 道化の在り方は決して褒められたものではなかったが、それでもかつてソルレオン王国に在った冒険者に違いあるまい。道化の為の簡素な墓、その僅かな黙祷を終えパニエは皆に微笑みかけた。 
 楽な戦いではなかったし、重症を負った者も居る。だが悲しい顔をすれば物事が解決する訳ではない、だからパニエは微笑む。
「はい」
 キララに肩を借りながら、ミレアムも微笑んで返した。
「貴方も村へ、還りたいよね……?」
 アルジェントの抱える若者の亡骸。ミレアムは彼にもまた微笑み、眠っているようなその顔を撫でる。
 その肌は、氷のように冷たかった。


マスター:皇弾 紹介ページ
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