アリスの誕生日〜初めての誕生会〜



<オープニング>


「2月28日は、霊査士のアリスの誕生日らしいんだな」
 護りの黒狼・ライナス(a90050)は言うと、考えるように「んー」と唸った。
「詳しい事は分からないんだけどな、どうも……アリスは、誕生日を『祝う』のも『祝ってもらう』ってのもあまりなかったらしくて。つい最近まで、護衛士の誕生日祝いも失念してたらしい」
 アイギスの霊査士・アリス(a90066)は、あまり過去の事を話したがらないようで、ライナスの話も『らしい』だらけだ。
「とにかく、だ。アリスは俺のとこの護衛士団長でもある訳だし、誕生日祝いぐらいやってあげたいと思う……んだけど……。何をすればいいもんかな? パーティ開くのは当たり前としても、何か、こう、イベントというか」
 とりあえず、分かる限りの『アリスの好み』を列挙していくライナス。
「とにかく1人になるのは嫌みたいだな。で、動物好き。猫も犬もノソリンも鳥も好きだけど、蛇とかは……やめといた方がいいだろうなぁ。趣味は竪琴を弾く事で……、子供は……好きって言うか、護ってやりたくて仕方ないみたいに見える。あとは、密かに料理が上手くなりたいらしいとか、『アイギスの外の森に出てみたい』とか言ってたって話もあったかなぁ?」
「『かなぁ?』じゃなくて!」
 と誰かからツッコミが入る。
「あ、いや、それは子供が言ってただけだから。ちょっとアヤフヤなんだよ」
 苦笑して取り繕うと、「まあ、料理教室とお散歩なら喜ぶかな?」と考える仕草をする。
「あ。森へ出るなら、アイギスの護衛士かドリアッドが同行してないと、迷子になるからな? 忘れてないだろうが、アリスがいるのはドリアッドの西森の砦・アイギス、なんだから。いいな?」
 思い出したように付け足して、悪戯っぽく笑った。
 きっと、そんな事になったら、飛燕連撃で頭の上のリンゴを割られてみたり、特産品の『緑汁』一気飲みを強要されるに違いない。せいぜい気をつける事だ。

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参加者
NPC:藍玉の霊査士・アリス(a90066)



<リプレイ>

 まだ、大工達も起き出していない夜明け前。ニオス(a04450)は欠伸をしながら、水桶を両手に抱えて歩いていた。
 砦の炊事は、グリモアの下という、御大層な所にある湧き水を汲んで来るところから始まる。水瓶を一杯にして、漸く料理を始められるのだ。
 が、実は……。『今日』の為に、料理の下ごしらえをしていたニオスは徹夜明け。夜中にウロウロしたり、水音が響いても何だろうからと、明け方まで、今日の分の水汲みは遠慮していたのだ。これから竈に火を入れ直し、今度はサンドイッチ用のパンやデザートのリンゴを準備しなければ。
「基本として、リンゴは『うささんリンゴ』か……?」
 激しく外見に似合わぬ呟きをして、吸い込んだ外気には春の気配が滲む。
 見上げた空は、うっすらと白み始めていた。


「(いっちばーんっ!)」
 アリスの寝室になっている2階奥の部屋の前まで来ると、シャラ(a01317)は小声で言ってガッツポーズ。そ〜っと扉を開けて覗き込むと、まだまだ熟睡しているアリスがいた。
「まだ眠っているのよね?」
「えっ」
 不意に現れたロクシタン(a04107)に声をかけられ、シャラはビクリとする。
「起こしに行く?」
 言うと、開いた扉をコツコツ叩き、彼女は中へ入ってしまった。
「(あっ)」
 1番に誕生日の御祝いを言いたかったのに。
「アリスさん、朝よ。今日は少し早めに起きない?」
「ん……。 ……っ! あ、な、何かあったの?!」
 いつもと違う朝の光景に、アリスは事件があったのかと慌てて半身を起こした。
「アリスお姉ちゃん、お誕生日だよ。おめでとうっ♪」
「……あ、……誕生日……?」
 シャラに言われ、気が抜けたようになったアリスは、また毛布の中に返ってしまった。
「ええっ?」
「あら?」
 ロクシタンとシャラは、揃って呆然とし、それから顔を見合わせた。
「もう少し……」
 くぅ〜と寝付く様子は、安心しきった子供のようだ。
「疲れてる……のかな?」
「朝が弱い方なのかもしれないわ」
 それからしばらく、2人はアリスを起こすのに苦労したのだった。


 炊事場はそれほど大きくはないので、ヴァイント(a06046)とレスター(a00080)は、料理教室をするというルシール(a00620)やアコナイト(a03039)達の為に、外にサンドイッチ作り用のテーブルの用意などをしている。そこへ、用意された焼きたてパンやらハムやら、材料を運び込むのはバルト(a01466)。
「……アイギスの姫は寝坊でしょうか?」
 その様子をぼんやり見ていたムーンリーズ(a02581)は、言って簡易砦の方へ首を廻らせる。もう待てないと言いた気に、肩でソルが小さく鳴いた。
「来たようだよ」
 レスターが指し示す先から、ロクシタンに連れられたアリスが小走りにやって来る。その後ろに、ハルとミミの籠と、ルイを抱いて来るシャラがいた。
「……ではお出迎えを」
 微笑してムーンリーズはすっと手を差し伸べる。
「……お誕生日おめでとうございます、また1歩、レディへの階段を登るのですね。此れは臣下の証です」
「?」
 跪くのにビックリして、手を取られたアリスは目を瞬いた。
「……手の甲へ、口付けの栄誉を賜れますか」
「え? あ……っ」
 微笑まれ、真っ赤になるアリスの姿を、準備に立ち回っていた護衛士達や、キザイア(a01866)とセルヴェ(a04277)が連れ出して来ていたたんぽぽ園の子供達が見咎め、小さく笑い声をたて、キャッキャッと騒いでいた。
 今日の仕事は任せてくれて良いと、アリスに伝えに来たバルモルト(a00290)は、戸惑いながらもアリスが承諾する成り行きを見てムッと押し黙った。
「まったく」
 バルトは溜息をつくと、強引にムーンリーズを引っ張っていく。
「ちょっと付き合ってくれ」
「……はい?」
 アリスの事務代行手伝いへ回されたムーンリーズに、その後、『ナンパおじちゃん』だの『タラシ』だのと、新たなあだ名が付けられたのは言うまでもない。

「さあ、お弁当を作りましょう! あ、パンポルナからバナナを持参しましたよ」
 ふわりと笑って、ニューラ(a00126)が言う。
「まあ!」
 アイギスでは手に入らない果物を、アリスは珍しそうに見つめた。つんつん、とまだ青みの残る皮を突付いてみる。
「さ、アリスさん」
 ヒヅキ(a00023)はアリスを手招き、弁当の準備をする皆の方へと彼女を通してやった。
「アリスさん、お誕生日おめでとう」
 家事の得意なエレアノーラ(a01907)などが、言いながら彼女を作業台になるテーブルにつかせる。
 あまりアリスの周りが混んでしまってもと思うから、ヒヅキ自身は誕生日の御祝い用のプチケーキ作りにとりかかる事にした。
(「あまり贅沢は出来ないけれど、これぐらいなら……大丈夫ですよね」)
 小さなケーキに、想いだけは沢山詰め込んで。
「お姉ちゃまっ! これ使ってね☆」
 駆けて来たグリューネ(a04166)が差し出したのは、桜色のエプロン。
「お揃いのハンカチもあるよ♪」
「私に?」
「だって、お誕生日だもんっ 皆もいっぱいプレゼントくれると思うよ」
 目をパチクリさせたアリスに、グリューネは笑みを弾けさせる。
「俺からはお花なの。2月28日の誕生花の『みすみそう』……『雪割草』っても言うんだって。ちょうど今頃咲き始めるの。つぼみの一株、後でたんぽぽ園の近くに植えといていいかな?」
 バーミリオン(a00184)の申し出にアリスは笑む。
「ありがとう」
「私達からはお料理教室がプレゼントです」
 ニューラも再び笑んで、エレアノーラはエプロン着けを手伝ってやる。
「サンドイッチなら……包丁を持っている手を包丁で切るくらい器用でなければ、作れますよ」
 最後にはクスクスと笑いながらアコナイトが言う。さすがに、そこまではしないでしょう? とでも言うように。
「挟んで切って……は、お任せです」
 けれど、選ぶ具の組み合わせだけはしっかりチェック。アコナイトの作っていたバナナクリームサンドに、アリスがカリカリベーコンを足そうとしたのだけは止めたのだった。
 ちなみに、目撃してしまったティキ(a02763)はちょっと顔色悪くなっっていた。
 ……バナナは良く知らなかった、という事にしておこう。
「料理が下手なのは良くない事でしょうか? 確かに食材を無駄にするかもしれないですが、自分や相手に喜んでもらえれば、多少は出来が悪くてもいいのでは……?」
 キザイアがふと呟き、傍らでシュウ(a00014)は、
「料理の1番の上達のコツってのは、誰かに食べてもらう事なんだけどね」
 と返す。そこで、「あ!」と気付いた。
「護衛士達が周りにいて、食べてもらう機会が増えたから困ってるのか?」
 グリューネの期待に応えて、『うささんリンゴ』作りに挑戦しているアリスは、出来あがった『うささん』のいびつさに、「ほう」と溜息をつく。見本にしていたニオス作のものと比べると、隠してしまいたいような出来栄えだ。
「大丈夫です。沢山やってみて、失敗してしまったものはパンに使ってしまいましょう」
 救いの手はルシールから。
「そう言う私も上手くはないんです。リンゴは加工も保存しやすいですし、『告白焼き』にも出来ますから。いっぱい剥いてしまいましょう」
「そうね……」
 にこにこと言われて、アリスにも勇気が出てくる。そして、もう2つ3つトライし始めた。5つ6つ作る頃には、大分『マシ』なものが出来上がった。それからまた、3つ4つ……。
「見栄えくらいなら何とか……整えられるかな」
 テーブルの反対側上から、つい手を出したレイク(a00873)の指が、危うく、アリスの置いた包丁の餌食になりかけたのはご愛嬌(?)
「あっ ごめんなさい」
(「なぜここに包丁が降って来るのだろう?」)
 『うささん』を摘みながら、ドキドキドキ……。
 料理下手だと、卓上の器具の整理もままならないのが理由だ。迂闊に手を出すと刃やらボウルやらが降ってくる。
「『特別な人』の為に頑張るようになったら、もっと上達するかもしれないが……。そう言う人いるん?」
「えっ?」
 いつの間にやら、背後に移動したシュウに囁かれ、アリスはビクッと肩を竦める。
「特別……?」
「そうそう。毎日、料理作って、それを食べて喜んでくれたら嬉しいって相手」
「それは、ごえ……」
 即答しようとしたアリスに、シュウは「1人だよ」と畳み掛ける。
「1人、だけ……?」
 目を泳がせたアリスは、しばらくしてうっすらと頬を染めた。そして、ふるふると首を振る。
「?」
 シュウは微妙な間を感じたが、あまり『そっち』方面に長けている訳でもないので、アリスの真意までは分からなかった。というか、これ以上アリスを突付いていると、単なるオヤジのようだ……と自覚。シュエ(a03114)や礼節を心得たアニタ(a02614)あたりの視線も痛い気がする。
 ちくちく。
(「はいはい……」)
 心内で呟いて、シュウは退散。
「???」
 見ていたキアザイアは首を傾げる。「ま、いいか」と気を取り直して、彼は子供達を呼び寄せた。
「アリスの誕生祝いをするんです。皆も何か作ってお祝いしてあげませんか?」
 子供達はサンドイッチすらいびつにしか作れないだろう。けれど、それでもきっと、アリスにとっては『美味しいサンドイッチ』のはずだから。
「「「わぁい♪」」」
「糸巻きばあちゃんの木苺ジャム、美味しいから分けてもらって来よう♪」
 子供達は思い思いにテーブルや街へと散る。彼らなりのプレゼント用の『贅沢』を探しに。


 お弁当の準備が整ったら、森へお散歩♪
「良い天気になりそうね」
 出掛けに、ロクシタンは見上げた空へ満足そうに呟く。
「良かったね♪ ハープも弾けるし、踊りも踊れるね♪」
 ハツネ(a00196)は「アリスさんと共演だよ♪」とワクワクした様子で走り出た。
 ニオスと、とりあえず手伝ってみたヴァイント、退散したシュウとが作っていたおかずが揃い、当然のようにコテツ(a02120)とアンリ(a00482)が荷物運びを買って出る。アリスからひょいっと手荷物を取り上げたコテツは、
「今日はおぬしを労う日でござる。どうせ持つなら、兎でも犬猫でも、好きなものを抱いて行くと良い」
 コテツが示した先には、アリスのインコと兎を連れたシャラ、それに、ヨナタン(a00117)が飼い猫達を連れ出し、椿姫のアリス(a00424)は手籠にいっぱいのおつまみ菓子と犬2匹を連れていた。レイクの後ろには、なぜかぺんぎんまで……。
 視線を感じて、椿姫のアリスが笑む。
「わたしのヴァイオラ、連れて行ってみますか?」
 人懐っこいヴィオラと呼ばれた犬は、飼い主と同じ名前だからでもないだろうが――アリスにパタパタと尻尾を振る。アリスはその頭を何度となく撫でては笑った。
「可愛い……」
「じゃあ、トムとマリエさんは後でね。2人は僕の大切な家族なんですよ」
 2匹の猫を代わる代わるに紹介して、ヨナタンは「念の為にね」と先頭の方の警戒に出て行く。

 ヴァイント達は料理は得意でなかったが、ニオスがいたので、蓋を開けてビックリな弁当にはなっていないはず……。多分。
「……バルト? ピクニックですよ? お弁当ですよ? ……食べに行かないのですか?」
 出発間近の外の様子を窺って、涙目で言うムーンリーズの手元には、依頼の時の護衛士達の配置についてのまとめ……の書きかけ。
「配達はコテツ達がしてくれるようだな。じゃ、ゴミを持ち帰るよう指示だけして、仕事を続けるか」
「ええっ?!」
「おまえ、食い物の為なら俺が仕事も投げ出すと思っているな?」
「(……違うんですか?)」
 いぶかしむような小声に、バルトは「ふふん」と余裕の表情を向けた。彼には、『ルシールの手作りアップルリング』というキープ品があるのだ。……背後には気をつけておけ。(ぇ

 ミスティア(a04143)とグリューネが案内に立ち、アニタやレスターが住人達から聞き出した、小さな野原へ向かう。フレイアから少し外れた所にあるという場所だ。
 アニタの呼びかけで、住人達もお弁当片手にドリアッドが幾人か参加していたから、道でうっかり迷いそうになったのはヴァイントぐらい。
 野原には、太陽が降り注ぎ、春の兆しの暖かさで出迎えてくれた。
「用意しようか」
 バーミリオンを誘い、レスターが『食卓』用のシートを広げて回る。
「ほら、こっちにも花が咲いてるぞ」
 ぶっきらぼうに言うティキ。彼なりに気を回したのだが、一緒に着いて来たニューラは、もう少し態度を何とか出来ないのかと彼の脇を突付いた。

 特別な事は何もない。
 あるのは、森と、野原と、青い空と。誕生日を祝ってくれる人達。
 アリスは、アイギス内では見かけない鳥が飛んだと言えば足を止め、花が咲いていると言えば目を止めて。
 駆け回る椿姫のアリスの犬達を見ながら、膝にはヨナタンの猫達を乗せ。
「ん? リンゴを乗せてじっとしているのが罰でござるか?」
 ヴァイントには迷いかけたおしおき。ふざけたバーミリオンにライナス(a90050)の飛燕連撃の的にされかけたのを余興(何) にして。

 皆でサンドイッチを頬張り、アリスとハツネ、それにニューラを加えた3人のハープでヒヅキが歌い、アンリとアニタが舞う。ニューラとアンリはややぎこちなく、アニタは優雅に。ハツネ同様、まずは楽しければ良いのだと言いた気に……。
「いっぱい歌うのー♪ おめでとうの歌だよ♪」
 ハツネの声に、ヒヅキ達は笑いながら演奏を続ける。
 そう。
 特別、見かけの悪いサンドイッチも子供達が作ったもの。美味しい木苺ジャムと、木の実と、クリームが挟まっている。作る様子を想像すると微笑ましくて、誰もが口元に笑みを掃いた。
 幸せは、その笑みを見守るセルヴェ達のような存在や、沢山の贈り物の――その中身のこめられた『特別』な想いに宿るもの……。

 黄昏が迫る頃。
 やがて宴は終わり、皆は家路についた。本当に『家に帰る』ような気分で……アリスの心が温かかったのは、その表情を見れば分かった。
「……アリス殿もアイギスの皆も元気そうで何よりなのじゃ」
 夕刻は冷えるからと、上着を差し出したシュエの言葉に、アリスはただ微笑を返す。
 片づけを終えて砦に戻る頃には、陽は大分暮れて、街の明かりが皆を出迎えたのだった。
 部屋に戻るアリスを、1日、バルト達と事務仕事をしていたバルモルトが呼び止める。
「……?」
「えっとな、誕生日ってな、祝ってやりたい大切な相手にプレゼントあげるものなんだ……」
 不器用な言い様と、差し出された包みと。
 そこにある特別な意味を……、アリスは気付いただろうか。
 夜更けに、アリスの『寂しさ』を気遣ったリネン(a01958)が、温かいココアを片手に彼女の部屋を訪れるのを、宴の後の皆は気付かなかった。
 ただ、贈ったものがものだっただけに、『明日の朝』のアリスのいでたちが気になって、眠れなかったバルモルトは扉の音と、しばらく小さく話す声を聞いた気がしたのだった。


マスター:北原みなみ 紹介ページ
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参加者:29人
作成日:2004/03/12
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