≪西森の砦アイギス≫竹薮の大熊猫



<オープニング>


 アイギスの南・フレイア村の漁師が、2度に渡って釣竿を折られるほどの大物に当たったという話が、守人の矛・ニオス(a04450)の聞いた噂で入った。その所為で、カザフに釣竿用の竹を仕入れて欲しいと注文を出す事になったとも。
 だが、当のカザフ村では、竹の仕入れに手間取っているという。
「釣竿には、矢竹という種類の竹を3年以上寝かせてから使うらしいのね。それを扱っているお爺さんがカザフにいたのだけれど、竹を取りに出た時に『事故』があったらしくて……」
 アイギスの霊査士・アリス(a90066)は詳しい説明を始める。
 竹薮が限られた場所にいくつかある為、月に1度くらいの割合で、お爺さんは弟子の少年を連れ、竹を取りに少し距離のある竹薮までを往復していたらしい。
 居合わせた戒剣刹夢・レイク(a00873)が聞いた、少年の話では、『変なもの』が2頭竹薮にいて、お爺さんは驚いた拍子に足を踏み外し、坂を転げ落ちてしまったという。
「熊みたいで、白と黒だったと言うから……パンダかしら」
「パンダさんですの……?」
 きらきらきら。瞳を輝かせたのは、説明を聞いていた護りの天使・メイリィ(a90026)。
「あ……でも、普通のパンダさんと違って、……凶暴よ? お爺さんとその男の子にも、襲い掛かったというもの」
「……っ!」
 あうあうっ と顔を歪めるメイリィの頭を、アリスはそっと撫でてやる。
「どうやら、そのパンダ達は最近になってどこかからか移り住んできたようなの。笹だけじゃなく、竹そのものも食べてしまうけれど、それしか食べないから、一見すると害はないの。けれど、竹を取りに入ると、『横取りされる』と思って襲ってくるし、何より、『移り住む』ようになるくらいだから……そこにいたら近いうちに全部食べつくしてしまうと思うのね」
 そしてまた他へ、となると、お爺さんが利用している数箇所の竹薮は、全て丸裸になってしまう。
「姿形だけは愛らしいパンダ達だけれど、凶暴だから気をつけてね? 竹もバリバリ噛み砕く牙を持っているし、危険は普通の熊以上だもの。……あ。それから、足に怪我をして動けないお爺さんも、助けてあげて。転げ落ちた時、お爺さんが気絶してしまった御陰で、パンダ達の気が逸れているのだけど。いつ、また見つかってしまうか分からないもの。……よろしくお願いするわね」
 途中までは少年が案内してくれるからと告げ、アリスは頭を下げるのだった。

マスターからのコメントを見る

参加者
燃える瞳の王子・メルメル(a00055)
猫の日広報活動中・ヨナタン(a00117)
アイギスの赤壁・バルモルト(a00290)
フレイハルトの護衛士ー紅神の・フーリィ(a00685)
緋の剣士・アルフリード(a00819)
在散漂夢・レイク(a00873)
櫻花嵐・アルファ(a04076)
緑のちび魔女・グリューネ(a04166)
NPC:護りの天使・メイリィ(a90026)



<リプレイ>

「パンダさんが住んでも大丈夫そうな場所って、ご存じないですか?」
「いっぱい竹があってパンダさんがすめるところ、ないのかな? アリスおねえちゃま」
 出発前の慌しさの中、猫大好き紋章術士・ヨナタン(a00117)と緑のちび魔女・グリューネ(a04166)が聞いてくるのに、アリスは困ったように首を傾げた。
「あのパンダを移動させられる場所……、っていう事かしら?」
「……やっぱり、ダメですか……?」
 2人は、あからさまに『ドキドキ』している様子でアリスの返事を待つ。
 やりとりに気付いた護りの天使・メイリィ(a90026)が、更にドキドキした様子でこっそり見ているのを、燃える瞳の少年・メルメル(a00055)が見咎め、やがて戒剣刹夢・レイク(a00873)達も聞き耳をたてた。
「ボクね、パンダさん、殺したくないんだ。2匹一緒なのは仲良しだからでしょ? お友達か兄弟か結婚してるのかわかんないけど、いなくなってしまったら、グリのパパとママがいなくなったみたいに、きっとだれかが悲しくなっちゃうと思う」
 グリューネの言い分に、アリスは尚更に困った表情になった。
 『2匹揃って』では、どこにも居場所は無いと同じ。すぐではないにしても、何ヶ所かある竹薮は食い尽くされていくだろう。だが、それを知らせるのは躊躇われる。相手が『ただのパンダ』でないのも問題だった。
「もしかして、そのパンダ達……モンスターの類いですか?」
 神龍遺伝・アルファ(a04076)の問いに、顔を上げるアリス。
「正確には違うけれど……普通の動物でもないわ。凶暴だから、説得はとても難しいの」
「パンダは、竹以外にも、わりとなんでも食べるとも聞いたのですが……?」
 重ねての言葉に、「あの子達は違う」と首を振る応えが返った。
「……せめて1頭ならアイギス周辺の竹薮で養えるかもしれないわ。人が近付いたら逃げてしまうようになるくらい……『怖い思い』をすれば、人との住み分けも何とかなるかも……」
 どうしてもと言うなら1頭だけ。自分のテリトリーに人が入ると、餌を奪われると思って襲ってしまう、今の習性を変えられなければいけない。――妥協案に、グリューネは沈み込み、ヨナタンは溜息をつく。
 そして、その反応が分かっていたから、アリスも何も言えずに送り出すだけだった。


 カザフ村へは、案内してくれる少年と、慣れた様子のレイクが先を行く。手を繋ぎながら後ろを歩く、メルメルとメイリィの気配を感じながら、彼もまた「うぅ〜ん」と唸る。メイリィの手前もあり、パンダを殺すのは少し気が退けているのだ。
「う〜む。……パンダ、倒していいんだよね……?」
 割り切れない様子で、緋の剣士・アルフリード(a00819)は仲間達に同意を求める。
「やっぱり熊料理でしょお。パンダって美味しいらしいしねぇ」
 のほほーんと言う薬神ユンケル様使徒どくたぁ〜・フーリィ(a00685)に、ヨナタンとアルフリードは年少組の気持ちを思ってアワアワし、当のグリューネとメイリィは「はうううっ」とショックを受けた。
「共生できるなら、元からそういう依頼だったはずだもの」
 フーリィの言は正論だ。実際、何とか助けたいという申し出に、アリスは困っているばかりだった。命を助けるには、ある意味――グリューネが言う『悲しくなる』、片割れを亡くすような酷い仕打ちをしなければならない。殺すのと、どちらがパンダ達にとって幸せとなるだろう?
 アイギスの赤壁・バルモルト(a00290)などは言いようが見つからず、ムスっと黙ったままだった。
「この先だよ」
 案内してくれていた少年が指し示す方から、笹の葉の葉擦れの音が微かに響く。
「爺ちゃん、助けてやってね?」
 どのあたりにお爺さんがいるのかなど、細かく確認していたメルメルに、少年は不安そうな面持ちで言った。
「うん、大丈夫。……だよね? メイリィちゃん」
「はい、ですの」
 大きく頷いて、2人は請け負う。
「とにかく急ごう」
 パンダの処遇については答えが出せないまま、アルフリードは言って歩みを速めた。
「この先はボクが案内するね☆」
 少年に代わって、グリューネが先頭を引き受ける。
「風下から回れるようにしてくれる?」
「……」
 そこへきたフーリィの要請に、少し彼女が二の足を踏んだのは、それがパンダを殺す為だろうと思ったから。
「……説得するのは待ってあげるわよ?」
 察してフーリィが言うと、グリューネはハッとして顔を上げる。
「フーリィさん……実はやさしいんだね」
 『実は』とか言われてコケそうになったフーリィに、グリューネははっしと抱きつくと、にこっと笑った。
 ……可愛いから許してあげよう。

 サクサク、サワサワ。……パキリ。
 若竹を物色しては、パンダ達は笹の葉からムシャムシャと食べている。減ってくるまでは、とりあえずの贅沢らしい。
 グリューネに案内されて、風下になるパンダ達の左方向へ回り込んだフーリィは、道すがら、竹に縄を2本渡していく。それを使って、気を引く音と防御に役立てる為だ。
「お爺さんは……?」
 位置を確認するレイクに、メルメルが「あっちだって」と竹薮の斜め右奥あたりを指し示した。こちらからは見えないが、そこは、1メートル半ほどの段差の下が緩やかな坂になっており、竹もさほど混んでいない場所だと言う。声を上げてパンダ達に気付かれたら、丸見えに近いという事だ。
「メイリィちゃん、一緒に来て貰える?」
 メルメルがお爺さんの救出に回りたい訳は、可愛いパンダを叩くのは胸が痛むから。きっとそれはメイリィも同じはず。
 示し合わせて出て行く2人を、大丈夫だろうかと目で追っていたレイクに、バルモルトが軽く手を上げる。自分が彼らの補佐をするから――と。そして、嘆息しつつアルファが木立の影に沈んで、同じようにお爺さんの元へ。
 ほとんどの護衛士達が、気が進まないと言いた気に準備を始めていた。

 メルメル達に注意が足りなかったのと、同行したバルモルトの鎧の音とで、パンダ達がヒクリと耳を動かす。
「(拙い……)」
 小さくレイクが言うのと、フーリィの準備が整い、ガサガサと竹が揺れたのが同じ頃。何事か、と言わんばかりに顔を向けた2頭は、フーリィ達5人に反応して、クワッ! と唸り怒りを露にした。
「……パ、パンダさんが……怖いよぅ」
 怯んだグリューネより早く、ヨナタンが獣達の歌を使う。
『僕たちは敵じゃないよ〜♪ 話を聞いて〜おくれ♪』
『君たちを傷つけたく〜ないんだ♪ 前に住んでいた所へ帰〜えろ♪』
 難しいと言われた説得を、ヨナタンは必死に試みる。
「よそに行ってほしいだけだよ。痛いことしたくないんだもん」
 アビリティはないけれど、グリューネもそう言い挿す。だが、聞く耳を持たないパンダ達は、
『ボクらのご飯だもん』
『笹はボクらのだもんっ』
 とヨナタンに返してくる。そして、徐々に距離も詰めて。

 彼らの御陰で、寸でのところで気付かれる危機を逃れたメルメル達は、ハイドインシャドウを使っていたアルファから先に、お爺さんに近付いた。
「(しぃ〜っ! しぃ〜っ!! 黙ってて、お爺ちゃんっ)」
 距離を置いてアピールしていたメルメルの苦労も空しく、怖さのあまり、お爺さんは「ひぃっ」と悲鳴を上げかけた。
「大丈夫ですから」
 そっとフォローするアルファが、別の意味でお爺さんを驚かす事になったのは、アビリティの所為。
「……っ!」
 上げかけた悲鳴が、『突然、人が現れた』驚きで引っ込んでしまう。そのままポックリ逝かなかったのが幸い。
「あ……。ごめんなさい。……突然で驚きました?」
 口をパクパクさせて驚いているお爺さんの様子に、アルファはやっと原因に思い至る。手当てどころではなくなってしまった彼の代わりに、駆け寄ったメルメルがお爺さんを背負い、メイリィが回復をかける。
 彼らの一連の動きに、パンダの1頭が気付いてしまった。
「……早く行け」
 メルメル達を背面に護るように、武器を地面に突き立て、気を高めたバルモルトのスーツアーマーが大きく形を変えた。
 咄嗟に、ニードルスピアをかける用意をするアルファ。
 ヨナタンの説得は続いていたが、やはり効かないのだ。彼の方にも、パンダは迫っていた……。


 間合いが狭まり、いざ、という瞬間。バルモルト達の方へに向かった1頭へ、攻撃が降り注いだ。救出のタイミングを見ていたアルフリードだ。
 ライクアフェザーを万一の備えにして、サーベルのひと振りで生み出したリングスラッシャーが、衝撃波を撃つ。
「ごめんね」
 そう小さく呟くアルフリードの声が、ざわめく竹の音と、撃たれたパンダの何とも言えぬ鳴き声に消される。
 アルファが止めのニードルスピアを撃ちあぐねている間に、救出を横目で確認したバルモルトは前へ出る。生け捕りに出来るならそうしたかった。彼の技量からすれば、不得手な衝撃波を使ってみるぐらいが手だろう。
 攻撃を続けるリングスラッシャーが、どれだけパンダを傷つけてしまうかが、生死の分かれ目になるかもしれない。

『待って! 殺したくないんだよっ』
 眼前のもう1頭が、フウッ と鼻息を荒くして威嚇する様子で立ち上がるのを、ヨナタンは必死に止めた。
 リングスラッシャーに仲間が撃たれ興奮して動き回ろうとするのを、レイクが作り出しておいた下僕達が、その足元で邪魔して止めた。
 加勢のつもりで、グリューネは淡く光る蝶の群れを作り出す。相手を傷つけはしないアビリティだけれど……。蝶が引き起こした混乱は、四方とパンダ自身への攻撃。
 手当たり次第に振り回された爪が、1度はフーリィの用意した『竹網』に掛かり、2度目は鎧進化で備えていたレイクの胸元を掠った。
「もう待てないわね」
 加減しながらの為、護衛士達は少しずつ退いている状態だ。フーリィは見て取って、攻撃に切り替えるよう勧めた。
「フーリィさん? 待って、もう少し待って。グリがきっと説得するから。ね?」
「駄目だって、もう分かったでしょう?」
 言いながら、フーリィの姿は影に溶けていく。
「グリちゃん、下がって……」
 心配したヨナタンが駆け寄り、グリューネを退かせる。
(「グリちゃんには、見せたくないよね……」)
 そんな気持ちでレイクを見遣ると、薙いだソードから銀狼が翔け出でる瞬間だった。紋章術士の彼が使うソードだから……攻撃力はそう無いのだろう。
 銀狼に組み伏せられた1頭に、カラミティエッジを叩き込むのは、影から現れたフーリィ。
「医術流交殺法・手術、口伝絶命技−滅素!」
 完璧に決まれば敵の首を跳ね飛ばす必殺技にもなるそれで、命まで奪わずに済んだのは、それまでの手加減と、運。
 ドサリと崩れ落ちる音がした瞬間は、2頭に大差はなかった。
 ただ、一方は死に、一方は大きなダメージを受けながらも、気絶したに留まった事が違い。


 救出されたお爺さんには、アルフリードが、用意した簡単な食事と水をとらせてあげていた。
 そして竹林の中では。
『ごめんね』
『もう、人に近付いちゃいけないよ』
『そうしたら、怖い事は起こらないから』
 虫の息のパンダに、ヨンタンはそう言い聞かせる。応急手当を施すグリューネを手伝おうとして、メイリィはバルモルトに止められた。『人を見たら逃げる』ようにしなければならないから、と。
 アビリティで癒しをかけてしまったら、痛みは消えてしまうから……。

 大熊猫鍋……は、さすがにみな――いや、1人を除いて? ――食べられなくて。戦利品となった毛皮や肉は、使えるだろうからとアルファが話を通し、カザフ村に寄付された。
 ただ、こっそりと、フーリィだけは燻製の予約をして帰ったらしい。


マスター:北原みなみ 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:8人
作成日:2004/03/07
得票数:冒険活劇1  戦闘3  恋愛1  ダーク2  ほのぼの6 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。